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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第1章 初めての学園生活

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第11話 模擬戦

(そうだった……)


 二時間目、三時間目の授業を終え、四時間目の授業へと差し掛かった途端、シークは奈落山の言葉の意味に気づいた。

四時間目は能力模擬戦闘。

能力を試合形式で鍛えるための訓練なのだ。当然、能力を使う。

そしてシークと奈落山はこの授業を一緒に受けるのだ。

つまり、その時に能力を見せるから今は言う必要がなかった、と言うことだろう。


「面倒くせー」


奈落山の後に気づいたシークはついそう呟く。

 三時間目の前にレインと分かれたシークは、防蔓を伴って四時間目の授業のために校庭に向かっていた。

二人の服装は既に更衣室で運動服に着替えていた。

防蔓は薄緑色のゆったりとした余裕のある服装。シークは黒色の忍者のような服装だ。

実戦を想定した模擬戦をするため、学校指定の運動服ではなく動き回ることを想定した私服である。

持っていない者は学校側から無償で支給されるため、それを着ることも可能だが、シーク達は自分の服を持ってきているのでそれを着用していた。


「そ、そう? 僕は結構楽しみなのだけれど……」


 隣を歩いていた防蔓が控えめに返事をする。


「え、戦闘訓練だぞ? 戦うんだぞ?」

「そ、そうですけど……。で、でも、えーと沢山の人の能力が見れますよね?」

「ん? ああ、そっちか」

「僕は家柄、その、周りの家族は生命系の人がとても多いので空間系や時間系の能力を含め、他の能力を目にする機会があまりないので……」


 おどおどしながら、上目使いでシークの機嫌を見る防蔓を見て頭を掻きながら謝る。


「あーそうか。なんか悪いな。お前がやる気を出している横で溜息とか吐いて」

「え、いい、いえいえ僕は全然! 寧ろ僕の方こそシーク君が落ち込んでいる時にすいません」

「はっはっは、俺が落ち込んでいるのはただ単純に面倒くさいからで同情されるような大層なもんじゃねぇよ! たくっ、お前は本当にいい奴だな!」


 そう言って、シークは防蔓の頭を撫でる。


「わわっ!」


 防蔓は頭を突然触られて驚きはするものの、嫌がっている様子はなかった。


「じゃあ、今から見たことのない能力のオンパレードだから、見逃さないようにしないとな」

「はい!」


 場所は訓練場。

そこはただ草が生えただけの更地にも見える。

既に多くの生徒達が集まっており、ストレッチを開始していた。

言われもしないのに真面目にストレッチなどをしているということは、彼らの多くはこういった訓練に手馴れているということ。


(どいつもなかなか強ぇな)


どの生徒もやる気に満ち溢れ、自信と誇りがその態度から見え隠れしている。しかも彼らは、その自信に見合うだけの努力を積んできたのだろう。ストレッチをする動きに無駄がなく、発展途上ながらも洗練された動きであった。


「あーやっぱりだるいなー」


自分がこんなガチ勢の集団に組み込まれるとは思っていなかった。


「シ、シーク君! さっき一緒に頑張ろうって言っ……てない!」


 それを横で聞いていた防蔓が、ショックを受けたような顔をしながら一人コントをしている。


「言ってないな。そこら辺は有耶無耶したから」

「うぅ……不覚です」

「あいつらを見てみろ。あのやる気に満ち溢れた面を。俺のやる気が削がれても仕方のないことだと思うぜ?」

「仕方がないわけないだろう?」


 背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには赤を基調とした和服のようなもの着た奈落山がいた。

太ももから下は露出しており、動きやすさを重視したその服装は所々に切れ目がある。

シークが履いているのは足袋だが、奈落山が履いているのはサンダルだ。

サンダルを足でしっかり固定させるために蔦の様な紐がふくらはぎまでしっかりと巻きつけられている。

 シークは見たことのない珍しい服に足元から、じっくりと眺める。

「ちょ、シーク、じろじろ見過ぎだって」

「ん、ああ悪い悪い。珍しい服装だったからついな」

「全く……それで、これを見た感想はあるかい?」


 奈落山が少しだけ前かがみになるポーズを取りながら質問をしてくる。

さっきみたいな褒め言葉を欲していると理解したシークは、もう一度上から下まで見て正直な感想を述べる。


「すげー似合ってると思うぞ。いつもとまた違った雰囲気だが俺はそっちのお前も好きだ」

「なっ! シーク、そう言うこと、誰にでも言うのは止めておいたほうがいいよ!」


 正直に感想を述べただけなのに、奈落山は前かがみのポーズのまま顔を真っ赤にする。

しかし、誰にでも褒め言葉を言うというのは心外だ。


「誰にでもいうわけじゃないぞ? 似合ってなければ似合ってないってはっきり言うぜ」

「で、でも、君、今、私のこと好きって……」

「言ったぞ? だからなんだ?」

「だからなんだって……ばか! 褒めても手加減なんて絶対しないからね! ふん!」


 ひとしきり叫ぶと、ツンと明後日の方を向いてしまう。


「褒めたのに何で怒られるんだよ……」

「あはは……」


 意味が分からないとシークはぼやくが、横で見ていた防蔓は何かに気付いたようで、苦笑いをしている。


「おお、皆、集まっておるな! 予鈴前からストレッチを始めているとは勤勉で結構!」


 そんな時、シーク達の背後から豪快に笑う男の声がした。


「げっ!」


 シークはついカエルが潰されるときのような声を出してしまった。

 白髪の混じった金髪を短く切り上げ、筋肉隆々とした肉体は、ある種の迫力がある。そして、豪快に笑いながらもどこか繊細さを感じさせる動きは、彼が戦う人間である事を如実に感じさせた。


「てめぇ!」


 ジンの護衛の一人、フラグマだった。数年前からシークに武術の心得を教えた人間であり、少なからず会話をした者同士である。


「君は……シーク・トト君かね? 私と君は初見のはずだが、知らない大人に突然てめぇは流石にいかんぞ! 私のことは先生と呼びなさい。はっはっは」

「……」

(お前もか!)


 フラグマはすっ呆けた顔で、シークの言葉を聞き流す。コスモスに続き、フラグマも学校では初めましてを通す気らしい。


「知り合いかい?」

 後ろから奈落山が聞いてくる。

「いや、他人の空似だったみたいだ」


 シークはそう言うしかない。

このことはまず間違いなくジンも知っているのであろう。

昨年、フラグマとコスモスはこの学校の教員ではなかった。それは、修行に付き合ってもらっていたシークが一番よく知っている。

しかし、突然今年からセントラルに赴任してきたということは、何かしらの目的があってのことだろう。お互いが知らない者同士という設定で来ているのであれば、シークから邪魔をする理由はない。


「へー、まあ世界には自分と同じ顔が三人はいるっていうからね」


 奈落山が励ましてくる。だが、シークは別の事が気になった。


「教員名簿にあったあの教師の名前は確かフラグマとかだったはずだが、お前、知っているか?」

「ん? フラグマかい? いや、知らないね。多分新任の人じゃないかな。何で?」

「……そうか。いや、なんでもない」


 シークは相槌を一つうつと、あとは黙って授業の始まりを待つ。

 それからすぐに四時間目始まりの予鈴が鳴る。


「では、皆、一度私の元へ集まってくれ」


ストレッチをしていた生徒達が、フラグマの下へと集まっていく。シーク達も集団の一番後ろに並ぶ。そこで初めてシャーリーがいることに気付いた。


「げっ、シャーリーもいんのかよ!」


 最前列の一番真ん中で、ピンと真っ直ぐに背筋を伸ばしている黄金の髪を持つ少女を見つけたシークは、小さく驚き、奈落山が相槌をうつ。

幸いにもシークの驚きの声はシャーリーには聞こえていなかったようで、その姿勢はピクリともしない。


「今日から君達の模擬訓練を担当するフラグマ・ホースだ。よろしく頼む」


 フラグマは生徒達に頭を下げることなく、数多くの視線に晒されても臆することなく堂々とした姿勢で自己紹介をする。


「では、時間も押していることだし早速授業に入りたいところである。だがその前に、一つだけ言わせてもらおう」


 そこまで話すと、突然声を張り上げ、オペラ歌手のように手を広げながら生徒達に向かって雷が落ちたのかと思うほどの激声を校庭に響かせる。


「ここにいる四十名の諸君はコキノス組一年の生徒達の中で事前に渡された資料から戦闘力を比較して、選りすぐりの四十名を集めている! すなわち! 諸君らはコキノス組一年の中で四十位以内には入る精鋭達である!」


 その言葉に対する生徒達の反応は三つと例外が一。防蔓のように自分が選ばれていることに驚く者。

奈落山のようにやはりそうか、と先に察してほとんど驚かない者。

シャーリーのように当然だと動じない者。

そして、例外として、(うわー、面倒くせぇ所にいれられたなぁ)と嘆く者が一人。

様々な生徒達の反応を見ていたフラグマは一つ頷くと、声質を変え、心臓に響くような重音を響かせる。


「しかし、そんなものには何の価値もない!」


 瞬時に雰囲気を変えたフラグマの周りには、肌がざわつくようなぴりぴりした空気が流れている。

突然のフラグマの変化に、生徒達は驚き戸惑う。

生徒によっては持ち前の反骨精神を発揮してフラグマを睨む者もいる。

そんな生徒達を見回しながら、フラグマは指を一本立てる。


「一分。ここにいるたった三名を除き、残りの三十七名を一斉に相手取り、私がそれを制圧するまでにかかる時間だ。殺す気であればその半分もかからん」


 フラグマの発する雰囲気が、その言葉は虚言や誇張ではないと言っていた。


「私から言わせれば、ここにいる者もいない者の実力もそうは変わらんということだ。強いことや元から持つ能力の強さに甘え努力を怠れば、来期からこの授業に君達の居場所はないと思いたまえ」


 フラグマなりの激励なのであろう。

 高圧的な態度ではあるが、それに見合うだけの雰囲気を兼ね備えているフラグマに、生徒達は気を引き締める。もともと真剣であったシャーリーですら拳を硬く握っていた。


「では、前置きが長くなったが最初の授業の内容を説明する。先輩などから教えてもらった者もおるであろうが、今日行うのは一対一の対人戦である。まだお互いの能力や系統が分からないうちに一度戦いというものを知ってもらうためである。これはどのクラスでも授業の初日に行われる、いわば伝統のようなものだ。初日だからと気を抜かず全力を出すように!」

「「「はい!」」

 説明を聞いていたシークは、それとなく防蔓の肩を抱き、周りを牽制する。授業の初っ端から強い相手と当たりたくないシークは防蔓を先に確保したのだ。

 ところが、この授業を考えた人間はそんなシークの浅はかな考えもお見通しだったらしい。


「君達が今日戦う相手はこちらで先に決めてある。二人ずつ名前を呼ぶので、呼ばれたら返事をして前に来て木刀を一本ずつ持っていきなさい」

「えっ!」


 驚きのあまりシークは声を上げる。


(うわっ、最悪だー……)


 シークの目論見は一瞬で砕け散るのであった。


それから数分後ーー。


「マーセナリー・ディアル、レイシア・トール」

「「はい!」」


 名前を呼ばれた二人が返事をして前に出る。既に半分以上の生徒が名前を呼ばれ、ペアを組んでいる。

それなのに、一向にシーク、奈落山、防蔓、そしてシャーリーの名前は呼ばれていなかった。


(何でよりによってこの二人が呼ばれてないんだよ!)


 あまりの焦らしプレイに、シークはとうとう爪先で地面をとんとんと叩き始める。ただ、防蔓も呼ばれていない。その僅かな可能性にかけて、シークはただただ待つ。


「癒雲木防蔓!」

「は、はい!」

(きた! 来い、俺の名前!)


防蔓の名前が呼ばれシークはつい前のめりになる。


「ピリー・ラノス!」

「はい!」


 しかし、フラグマが読んだ名前は違う人間の名前だった。


(終わった……)


 思わず膝をつきそうになるほど愕然としながらも何とか立ち続ける。


(……もう、ろくな奴が残ってねぇ)


 今現在、未だ名前を呼ばれていない生徒はシークを含めて六名。

先ほどのフラグマの脅しの最中、シークは生徒達を見回し、このクラスで比較的弱そうな生徒を頭の中に入れておいた。

しかしながら、彼らは最初の方で名前を呼ばれてしまい、早々にペアが確定してしまったのだ。

 今現在、まだ呼ばれていない者達はフラグマの睨みに少しも動じなかった者達ばかりだった。

 恐らく一年コキノス組において選りすぐりのこのクラスで、更に上位に位置する生徒達だ。

 各々がそのことになんとなく気付いているのだろう。残った五人を品定めするような視線を向けている。

シャーリーも例外ではなく、残った五人に威嚇するような視線を向けている。

 そこで初めてシークの存在に気付いたのであろう。何でお前がそこにいるんだ。そういわんばかりの表情で驚いていた。


(俺もそう思う)


 視線に気付いたシークも心の中で同意する。


「綺條院昇華、法條院珊瑚」

「「はい!」」


 名前を呼ばれた二人が前に出る。

しかしながら、今回はそれだけでは終わらなかった。生徒達が二人の名前を聞いてざわめき立っていた。


「綺條院? それに法條院とも言ったぞ?」

「でも、偽者ってことはあり得ないよな?」

「じゃあ、本物の五條院家? すげー、俺、初めて見たよ」


 生徒達のざわつきを無視して、フラグマが次の生徒達の名前を呼ぶ。


「シャーリー・ホロウ」

「はい」


 名前を呼ばれたシャーリーが一歩前に出る。


「牙條院舞華」

「はい」


 牙條院の名前を聞いて生徒達の興奮はマックスになる。

 牙條院と綺條院と法條院。

全てに付いている條院という漢字二文字があるのは単なる偶然ではない。

 ヘリオス国火の神憑、天條院。

そして、ここにいない士條院と合わせ、彼らは通称、五條院家と呼ばれる世界最大の名門の一族。

生きていくうえで知っておかなければならない名前は、と聞かれれば超能力者ならば口を揃えて五條院家の名を出す。

 なぜなら、五條院家は世界の物流を一手に任せられており、そこから得た利益とヘリオスの神憑の一人ということで得られる利益から、世界で最も金を持つ一族といわれているからである。

セントラルに寄付しているお金のほとんどは実際のところ五條院形から賄われているといっても過言ではないのだ。

 癒雲木や、シャーリー家も有名で彼らは知っているのであろうが、それでも五條院家の名前が与えた衝撃はそれらよりも遥かに上であった。


 そんな騒然とした場の中にあってただ一人、真っ直ぐに手を上げている人物がいた。


「ホース教員、質問がある!」


 シャーリーだ。


「うむ、何だ、シャーリー」

「彼が……」


 シャーリーは、指を真っ直ぐにシークに突きつけて言い放つ。


「彼が私よりも後で名前を呼ばれることに納得がいきません!」

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