83話 ナイツ
書籍版、10月25日発売です。
遅くなって申し訳ありません。
グロ注意かも?
<感知>に反応が多い地点に<転移>で移動すると、ゴーレムたちがアリと戦っていた。
辺りには無数のアリの首が落ちている。たまにゴーレムの手足も落ちているが、倒れているゴーレムはいない。
そのまま戦っているか、もしくは後方に運ばれたかしたのだろう。前回のラット・キング戦の反省を元にそういった支援目的の量産型ゴーレムもいくつか生産されているからね。
戦いを見ていると量産型ゴーレムは一対一では兵隊アリとほぼ互角のようだ。働きアリではゴーレムの石の身体を傷つけることができていない。ただ、アリの数が多く、働きアリが群がって動きが遅くなったゴーレムを兵隊アリが襲っているようだ。
「ゴーレムたちはまず兵隊アリを倒せ」
量産型ゴーレムはそれなりに自立行動がとれるけど、状況に応じた判断というのができない。ゴータローやレッドのような知能の高いゴーレムがもっとほしいとこだ。
「ヒドイのだ……」
新入りの眷属、テリーが嘆く。今まで一緒に暮らしていたというアリたちの屍骸に嘆いているのか。
と思ったら、いきなりテリーが相棒と呼ぶクモが落ちていたアリの頭部を拾い、切断部に牙を立てて中身を食べ始めた。あれ? このアリグモってアリを食べるのか?
テリーも落ちていた兵隊アリの大顎を拾って、アリの頭を刺し始める。
「今までの恨みなのだ!」
グサッと刺してはグリッと捻って、次の頭に移るテリー。よほど恨みが溜まっていたか。……ん? 落ちているアリの頭?
ふと気づいてアリの屍骸を<鑑定>する。
[【マイナーレギオンアント】の死体
ランクN LV25
軍隊アリのモンスター
千を超える群れで行動する
働きアリであるマイナーは他のレギオンアントの足場になる
死んでいる
寄生されている ]
また寄生か。ラット・キングといい、ここの邪神のダンジョンにはその系統のモンスターが多いのだろうか?
<感知>に反応が多かったのも、この寄生しているやつのものらしい。
アイテムボックスから剣を出し、落ちているアリの頭部を切断すると、中からは白い小さな蛹が出てきた。
[【ペイジフライ】の蛹
ランクR LV1
ハエのモンスター
アリのモンスターに寄生する
フライナイツの小姓 ]
「相棒はこいつらがアリたちにつかないようにボディガードをしていたのだ」
「なるほど。アリグモはハエトリグモの仲間だったな」
「けど、たくさんのハエに襲われて……卵や幼虫をなんとかアリから取り出してきたけど、脳を乗っ取られたアリたちに相棒とテリーは遠ざけられたのだ」
寄生された上に脳まで操るのか、このハエは。前世のゾンビバエみたいなやつなんだろう。
邪神のダンジョンから出てきたのもこの、脳を乗っ取ったハエの指示なのだろうか?
他にも気になるところがある。
「フライナイツ?」
「ダンジョンを仕切っているヤツらなのだ! テリーも相棒もこいつらに泣かされてきたのだ!」
怒鳴りながらテリーは俺が取り出した蛹にアリの顎を突き刺して息の根を止める。
蛹なら眷属にしやすいと思ったんだけど、テリーのこの様子じゃハエは諦めるか。
俺たちが寄生バエを調べている間にコルノとレヴィアも協力して、兵隊アリの数がかなり減っていた。
兵隊アリも寄生されている個体がいるらしく、戦闘中に頭がポロリと落ちて、そこから5、6センチのハエが飛び出してくることもあった。兵隊アリに寄生しているやつは蛹にならないのか?
レヴィアの竜巻によってハエはすぐに倒されて飛ばされてしまったので<鑑定>は間に合わなかったが。
『
ニャンシー>ニャンシーより緊急連絡。ピンチにゃ!
フーマ>どうした?
ニャンシー>現在第1層の泉の間にゃ。ハエたちに襲われているにゃ!
フーマ>今行く!
』
第1層最奥の階段への行く手を阻む泉。ゴーレムたちの移動のために橋となる大型ゴーレムがいくつか配備されているから妖精たちも避難できているはずだ。
だが、ハエたちなら泉を飛び越えて階段の先へ進むことができてしまう。緊急事態である。
「クロスケ、ここは任せる。ハエが出たら必ず仕留めてくれ」
「カァ!」
「コルノ、レヴィア、テリー、ニャンシーの応援に行くぞ!」
俺の呼びかけでコルノとレヴィアが戻ってきたら転移で泉の間に移動する。
そこには十数匹のハエが飛んでおり、ニャンシーと量産型ゴーレム、それに数人の妖精たちが戦っていた。
[【スクワイアフライ】
ランクSR LV1
ハエのモンスター
アリのモンスターに寄生する
フライナイツの見習い騎士 ]
蛹とは種類が違う。小姓じゃなくて見習い騎士だ。たぶん進化した上位種か。その分、蛹にならないか、蛹でいる時間が短いのか?
「遅いにゃ!」
「すまん。状況は?」
「ニャンシーの風魔法で階段の入り口を塞いでいるから、ハエを先には進めていないにゃ」
ニャンシーが風魔法の使い手で助かった。エアーウォールや突風等は飛行モンスターには厄介なようだ。
「妖精たちに犠牲者がいるにゃ。第2層に下ろしたから手当てしてほしいにゃ」
「わかった。コルノ、レヴィア、ちょっと頼む」
「うん。早く治してあげて」
「その間にハエたちは始末しておくわ」
頼もしい嫁さんたちにハエを任せて第2層に移動すると、階段のすぐそばに寝かされている妖精たちがいた。
まだ若い、というか幼い妖精ばかりだ。
「フーマさま……」
「ごめんなさい」
「……しくじっちゃいました」
しゅんとする青い顔の妖精たちを<回復魔法>で治療する。
中にはハエが武器として使っていたのか、アリの足が刺さったままのショタフェアリーもいた。
「逃げろと言ったろう」
「僕たちだって戦えます」
「みんなを守る!」
むう。もしかしてこいつらなら、俺の眷属になってくれるんじゃないだろうか?
腕を失ったショタもいる。治すためには眷属にしなきゃいけないし。
「そうか。まあいい、今は休め。この戦いが終わった後でもその意気がまだ残っているなら、俺の眷属にしてやる」
「フーマさま!」
だからなんで拝むかな?
万が一、妖精にハエの卵や幼虫が植えつけられていないかの確認のために連れてきたテリーとクモもつられて拝まないの。というか、拝むクモって意外と可愛いのな。
「ボスってすげえのだ」
ボスって俺のこと?
「妖精たちは寄生されてないよな?」
「そっちはダイジョーブなのだ」
俺の<鑑定>でも“寄生されている”って表示されなかったから一安心。泉の間に戻ると、宣言どおりにハエ騎士見習いは殲滅されていた。頼もしすぎる嫁だ。
◇
泉の間をニャンシーに任せ、残るアリとハエとの戦いに戻る。
残るはミーアとゴーレムたちのところだ。ゴータローとリニアたちもそこに合流していた。
「すまないマスター、ハエを通過させてしまった」
「そっちは始末してきた。反省は後だ。こっちの戦況は?」
「兵隊アリが多いんでちょっと苦戦している。女王アリには雷が効いてないみたいだ」
「アリ相手じゃ巨大化しても戦いにくいんだよ。あいつら、服の中にも入ってくるから……」
あの大きいのが女王アリか。兵隊アリのさらに四、五倍大きい。リニアは巨大化して女王アリと戦おうとしたが、働きアリに集られてそれどころではなかったようだ。肌に残る多数の虫刺されの跡が痛々しいので、ヒールで治療した。
「ゴ!」
ゴータローがんばってるなあ。ゴーレムたちに指示を出しながら、女王アリと戦っている。
お、ゴータローの剣が女王アリの脚にヒットした!
……いや、衝撃はあっただろうけどさ、なんでそこで女王アリの首が落ちちゃうかね? 女王アリの脚、傷一つつかなかったじゃないか。
「やっぱり女王もやられていたのだ……」
悔しそうなテリーの呟き。
落ちたばかりの女王の首から大きなハエが飛び出した。
[【ナイトフライ】
SSR LV2
ハエのモンスター
アリのモンスターに寄生する
フライナイツの騎士 ]
ついに騎士か。ハエのくせにSSRってのはすごいな。そしてでかい。クロスケより大きいんじゃないだろうか?
「……無駄な抵抗はヤメよ」
喋った。ハエのくせに<妖精語>を使うのか?
「わがフライナイツの前に貴様らは……」
「ハンドレッドォォォ! ミ! サァァァァイル!」
なんか喋ってるのって、羽化したばかりの身体が馴染むための時間稼ぎに思えたので、先制攻撃をさせてもらった。決してハエのくせに偉そうなのがムカついたわけではない。
「……ひ、卑怯な」
百本の魔法の矢に翅を落とされ、地面に縫いつけられて体液を撒き散らすハエ騎士。
「女王について、コッソリ操ってたヤツが言うななのだ。卑怯なのはそっちなのだ!」
「テリーの言うことももっともだな」
「……」
あれ? 死んじゃった?
手加減してサウザンドじゃなくてハンドレッドにしといたんだけど……。
俺の魔法スキルのレベルも上がってるから威力大きかったか。
もう少し情報収集したかったんだけどなあ。
それにしても“フライナイツ”か。
蠅の騎士団って、あれのこと?
「なにかしら?」
「いや、気のせいだよな」
前世の“蠅の騎士団”の団員ってハエってワケじゃなかったはずだ。“蠅の王”の騎士団だからそう名づけられただけで。
その騎士団にはレヴィアタンも入ってた記憶があるけど……まさか、ここの邪神のダンジョンに蠅の王がいたりなんて、しないよね?
活動報告のゴータローともう1名のキャラデザ、ご覧になられましたでしょうか?




