82話 黒ショタ
キャラクターデザインが公表されました
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ドゴォォォォ!
コルノの必殺キックは兵隊アリの一匹に命中、その胴体を完全に破壊するのみならず、周辺のアリをもまとめて吹き飛ばす威力を見せつけた。
さらにはその反動でコルノが高く舞い上がる。
「撃滅のォ、二番蹴りィ!」
おいおい、今のってコルノの最強必殺技、“ワイバーン三段蹴り”だったのか?
たしかにどっちも三段攻撃といえなくもないけどさ、全然違うでしょうが。
コルノが再度跳び蹴りを放ったが、しかしそれは当のコルノによって強引に起動修正されて、目標には命中しなかった。
……元ネタ的にはそれでいいのか?
着地しながらスケートのように回転し横滑りして勢いを殺すコルノ。そこまで真似しますか。
「フーマ! アリじゃない子がいるよ! 妖精が捕まっているのかもー!」
コルノの叫びに<感知>スキルの反応を調べる。
たしかにアリ以外の反応があった。そこを見るとたしかに小人がいる。
だから二発目をワザと外したワケね。
「妖精……?」
その小人はアリにまたがっていた。フェアリーともノームとも違う、長い尻尾を持った黒い小人だ。それもまだ子供なのか小さい。
「あんな妖精いたっけ?」
「わからないわ。毎日のように妖精が増えているもの」
レヴィアの言うとおりだった。避難民妖精は毎日とまではいかないが、かなりの頻度で増加している。ここにきたばかりで俺たちが知らない妖精がいてもおかしくはない。
一応、新入りさんはミーアとニャンシー、ハルコちゃんがチェックしているから、ダンジョンに敵対的なやつはいないはずなんだけどね。今までにいなかった種類の妖精がきた時もちゃんと報告はくれていたし。
この距離ならいけるはずと、<鑑定>を試す。
[【黒小鬼】
ランクN LV7
小人サイズの魔族
長い尻尾を持つ
糸紡ぎが得意
名前を知られることを嫌う ]
魔族? どうやら避難してきた妖精じゃなくて、邪神のダンジョンのモンスターらしいな。
よく見たら尻尾の先が矢印みたいになっている。たしかに妖精っていうよりは悪魔っぽい。
「そいつは妖精じゃない! できれば捕まえよう」
「わかったよー」
こいつならアリと違って話ができるかもしれないからな。邪神のダンジョンの情報を手に入れたい。
糸紡ぎが得意ってのが本当なら眷属にしても役に立ちそうだ。
……もしかしたらアリも喋れるのか? んー。アリも生き残りが捕獲できたら眷属化を考えよう。
避難してきた妖精と違って敵だから遠慮しないで強制的に眷属化しても心が痛まないだろうし。
そんなことを考えながら飛行と魔法攻撃を続ける。
「ライトニングボルト」
CPを込めない雷でも、働きアリたちは感電しバタバタと倒れていく。舟となっていたせいで濡れていたのが大きいのかもしれない。
やべっ、強すぎたか? いくらレベルが高くても働きアリはNランクだった。もうちょい手加減しないといけないか。
死んでたら眷属にできない。
ここは戦闘力を奪う方向で……って、兵隊アリの一番の武器はどう見てもあの大顎っぽいなあ。殺さないようにあれを破壊するのは難しいかもしれない。
まあ、悩む必要もないか。こんなに数が多いんだから少しは生き残りが出ると割り切って攻撃を続ける。
「また動きがよくなっているわねフーマ」
「そりゃ伊達に休みなしで未熟者のダンジョンを攻略し続けたわけではないって。嫁さんたちと一緒にいる大切な時間を犠牲にしたんだからちょっとは強くならないと」
レヴィアはコルノをサポートしながらもこっちもちゃんと見ているみたい。片手のみフィンブレードを発現させるという、周囲への瘴気拡散の少ない変身も使いこなすので<小人化>スキルのレベルがかなり高いのかもしれない。
まだテンションが上がったままなのか大技を連発するコルノ。まださっきのアルコールが残ってるんだろうか?
コルノが討ち漏らしたアリたちをフィンブレードで真っ二つ、たまに竜巻で打ち上げてと確実にしとめているレヴィア。
なかなかいいコンビである。
周辺の被害や瘴気の漏れを気にしなければ、レヴィアの津波で簡単に一掃できるのは気にしない方向でいよう。
◇ ◇
この周辺のアリたちはあらかた始末できた。
数は多かったが、さすがにランクが違いすぎる。1レベルの俺でさえ働きアリもザコでしかなかった。MPを適度に節約しながらボール系の魔法の爆発でドカンと排除しまくった。
「無駄な抵抗はやめなさーい」
残った黒小鬼を説得しようとするコルノ。
……妖精たちとの会話のために覚えた精霊語を使っているけど、魔族に通じるんだろうか?
「キミは完全にー包囲されているー」
この台詞って、インストールされた基礎知識からだろうか?
完全に包囲って、クロスケを入れてもこっちは四名しかいないんですけどね。まあ、逃げられるとは思えないけどさ。
「こんなことをしてー、キミのお母さんは泣いているぞー」
「テリーにお母さんなんていないのだっ!」
妖精語で怒鳴り返してきた。ちゃんと通じるみたいだな。
テリーってのが黒小鬼の名前なんだろうか?
「そ、それはゴメン」
黒小鬼の様子になんか言っちゃいけないことを言ってしまったと思ったのか素直に謝ってしまうコルノ。
うん。他人の家のことは下手に口出せないもんなあ。
「テリーでいいのか?」
「テリーはテリーなんて名前じゃないのだ!」
……それはネタなんだろうか?
妖精って名前を呼ばれるのが苦手であだ名で呼んでくれって種類もいる。悪魔も名前を知られたら使役されるってのがあった気がするから、この魔族もそうなのかもしれない。鑑定にも嫌うってあったし。
それで本当の名前じゃないのを一人称にしてるとか?
「そうか。まあ名前はどうでもいい。降伏しろ。そうすれば命まではとらない」
「だ、騙されないのだ! 助かるって安心したところを攻撃して、バーカってわらう気なのだ!」
実力差がはっきりとわかって逃げられないことを実感しているのか、怒鳴りながらも黒小鬼はガタガタと震えていた。
「そんな悪趣味なことしないっての」
「嘘なのだ。テリーの仲間はそうやって殺されたのだ!」
「邪神のダンジョンってそれが普通なのか?」
モンスター同士でも殺し合いってあるのかね。それもただの食事のためじゃなくて、なぶって殺すなんて性格悪いやつがいるんだな。
「やっとやつらから逃げ出したのに……」
「フーマ、泣かせちゃったら駄目だよ」
「えっ、俺が悪いの?」
無防備に黒小鬼に近づいていくコルノ。泣き出してしまった彼をなだめようというのだろう。
コルノを警戒して、黒小鬼が騎乗していたアリが前脚を上げて威嚇する。
ん? あれ、アリか? 頭が違うような。あの二本の触覚、よく見たらあれも脚じゃないか?
[【レギオンアントミミックスパイダー】
ランクR LV10
アリグモのモンスター
レギオンアントに擬態する
雑食
蜘蛛糸を使う ]
やはりアリグモか。アリに擬態する蜘蛛。前世にもいたよな、こんなにデカくはなかったけどさ。
その巨大アリグモが威嚇してるのにもかかわらずに、コルノは黒小鬼に接触。その頭をやさしくなでる。
「だいじょーぶだよ、フーマはやさしいから。やつらってのからもきっと守ってくれるよ」
もしアリグモがコルノを糸で捕獲したりなんかしたらやさしくなんてできませんが。
「ほ、本当なのだ?」
「うん。ボクの旦那さまだもん!」
「私の夫でもあるわ! あなた程度の命にこだわるような小物ではないのよ。安心なさい」
コルノに張り合うようにレヴィアも宣言。
いや、めっちゃ小物なんですが。コルノになでられてるショタに軽く嫉妬しています。いい加減に離れなさい!
「わ、わかったのだ。抵抗しないからテリーと相棒を助けてほしいのだ」
「相棒ってそのクモか」
「すごいのだ! なんでクモだってわかったのだ?」
そりゃ<鑑定>スキル持ってるし、ゲームのおかげで昆虫はそれなりに詳しいからな。
「コルノ、離れて。テリーはそこから動くなよ。俺の眷属になってもらう」
「眷属? なんかカッコいいのだ!」
わかってんのかな、こいつ?
まあいいや、さっさと契約して他の場所も回らないと。
◇
眷属契約はあっさりと終了した。テリーは魔法陣には驚いたが、コルノに「がんばって」とはげまされて逃げなかった。
「二体同時に契約ってのもできるんだな」
眷族リストのウィンドウに【黒小鬼】と【レギオンアントミミックスパイダー】の二つが追加されている。二枠使っちゃったか。レギオンアントミミックスパイダーライダーっていうので一枠で済まないかなってちょっと期待したんだけどなあ。
「テリーで実験したのだ?」
「成功したからいいだろ。詳しい話はあとで聞く。他のアリたちのとこへむかうぞ」
「あんまりアリは殺さないでほしいのだ。テリーと相棒はあいつらと暮らしていたのだ」
アリグモってアリに擬態してるけど、アリを餌にしてるんじゃなかったんだっけ? 種類によるのかな。
わずかに生き残っていたアリたちも眷族にしてヒールをかける。戦力にはなりそうにないので、アリの死体を集めておくように命令し、俺たちは他の戦場にむかうのだった。
コルノの技は書籍に合わせてちょっと変更しました。
【黒小鬼】はトム・ティト・トットやテリートップのイメージです。妖精枠なのか悪魔枠なのか微妙なやつですね。




