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79話 クワ

書籍化決定のお祝いのお言葉、ありがとうございます

「こんなに出るもんなのか」


「マスター、女の子から出た物質(もの)をそうまじまじと見るものじゃないよ」


「えっ? これってそんな恥ずかしいとかそういうものなの?」


 前世の鍋の底に溜まった妖精の粉を見ていた俺は、ミーアからの指摘に驚く。


「いや、冗談だよ」


「焦ったあ。性質(たち)の悪い冗談はやめてくれ。キミたちも嫌だったら、そう言ってくれていいからね」


 前世の大きな鍋の上で飛び、翅を震わせて粉を落としてくれているフェアリーの少女にそう声をかける。キラキラと光っている妖精の粉って、鱗粉みたいなものなのかね?


「これぐらいなら、ぜんぜんへーき」


「無理はしないように。……これぐらいでいいかな? 交代して」


 鍋の底から妖精の粉を集めて別の器に移し、次のフェアリーと交代してもらう。

 眷属トレントたちを開花させたブレンド温泉水は、複数のフェアリーの妖精の粉と、温泉が混ざってその効果を発揮したはず。

 だが、まずは単品の妖精の粉を確認して、それから調合を試した方がいいだろうと思い、その採取に協力してもらっている。


「はい、お疲れ様。これはお礼だ」


「フーマ様、ありがとー」


 献血ではないが、報酬代わりにミントタブレットを数粒渡す。ケチくさいというなかれ、これの複製には多量の植物が必要だったりするのだ。しかも、俺たちからすれば6倍サイズである。

 そのままでは大きいので口にするには砕く手間がかかるが、妖精たちにも好評なので不満はないだろう。

 それに、消え物ならレヴィアも嫉妬しないはずだ。


「いい、それは報酬。フーマからもらったからって他意はないのだから勘違いしては駄目よ」


 ……愛されているって喜んでいいのだろうか?

 これじゃまるでレヴィアがヒロインをいじめる悪役令嬢のようなんですが。ツインドリルを縦ロールって解釈すればそれっぽいかもしれないし……。

 まあ、悪役令嬢だったらもうちょい身長があって巨乳じゃないとイメージ的に合わないか。

 やはりレヴィアたんは悪役令嬢は無理だな、うん。

 そんなことを考えてたらレヴィアに睨まれる。胸を見ていたのがばれた?



 ◇ ◇



「さ、試してみるか」


 数種の妖精の粉を調合した試験水をいくつか用意した。おかげで<調合>のスキルもレベルアップしているから、きっとどれかは効果があるはずだ。


 フィールドダンジョンとなっている第2層で試験水を試す。

 アイテムボックスから小人サイズのクワを出した。このクワはDPで購入したものではなく、ノームの鍛冶師が作ってくれた物。刃の部分はプレーリーウルフの歯だったりする。


 この妖精島では鉄等の金属資源が不足気味で、モンスター素材を加工するのが一般的らしい。だから以前リニアに剣をあげた時にあんなに喜んでくれたのね。

 鉄なら、俺が未熟者のダンジョンで集めてきたゴブリンの剣があると渡そうとしても受け取ってくれず、農具にはもったいないと嘆かれる始末。

 なんでも、ノームたちは鉱物を収集する習性があるらしい。ハルコちゃんの名前もオリハルコンが由来だそうだ。鉱物が好物なのか。

 なので、ゴブリンの剣はお礼ということにしてネズミやモンスターの死体を素材に渡し農具や武器をいくつも作ってもらっている。

 トレント用にビッグラットの歯を使って作った大きなクワもあったり。


 ネズっ歯クワで軽く地面を耕し、種をまく。この種はレヴィアがおしかけて来た時の葡萄の種。

 育ったときのために大きく間隔を開けて一粒一粒をまいて軽く土をかぶせ、試験水をかけていく。


「トレントで……試す方が……」


「いや、お前たちに異常があったらまずいだろ」


「フーマ様……おやさしいですじゃ」


 だからなんですぐ拝み始めるの?

 変な宗教じゃないんだから……。

 バイカンたちに試してもらわない本当の理由は、開花したトレントたちみたいにトリップされるのがちょっと怖いからだったりする。

 バイカンの梅の花は見てみたい気もするけどさ。紅と白、どっちだろうね?


「すごい、もう芽が出てきたよ」


「マジ? 葡萄ってこんなに芽が出やすかったっけ?」


「……早すぎ……ですじゃ」


 だよなあ。どう考えてもおかしい。

 粉の比率を変えた試験水や、一種類だけ粉を使用したもの、温泉水だけや粉だけも試してみる。


「発芽したのはブレンド温泉水だけか」


「でも、それをかけた種はもうこんなに伸びているよ」


 コルノの指差したそれは、もう俺たちと同じほどの高さにまで伸びていた。明らかに異常な成長速度である。


「これ、飲んだのが眷属トレントだったからよかったけど、若木(こども)のトレントだったらやばかったかもしれない」


「マスター、あのトレントたちが間違えて飲んでしまったのは、どうやらフェアリーたちのイタズラが原因らしいよ」


 そうか。どうやって巨体のトレントが大浴場に潜りこんだか気になっていたけど、そういう理由だったのか。


「今回はまあ、有用そうな効果がわかったんで大目に見るけど、二度とやらかさないように大浴場の排水の処理は厳重な注意が必要だな」


「そうかい? 犯人たちには正座を半日命じておいたけど、取り消しておくかい?」


「いや、それぐらいならかまわない」


「それぐらいね。じっとしているのが苦手なフェアリーたちにはかなりの苦痛なんだよ。さらにマスターの知識で知った正座となればまさに拷問なのさ」


 そんなもんかね?

 たしかに半日は長いと思うけど。


「もしも人的、いや、妖精的被害が出たらこのダンジョンから追い出すことも考えなきゃいけないだろ。今回はその可能性があったんだ」


「わかったよ。妖精たちにもそう告げておく」


「できればDPの元は手放したくないんだけどね」


 だからといって、危険なイタズラは笑って許すことなどできない。

 要注意人物をダンジョン内に置いてなんておけるか。


「ま、それはそれとして、このブレンド温泉水は使える。研究してみよう」


「これでフーマが食べたがってたお米が、すぐに食べられるかもね」


 もしかして、玄米をオークションに出さなくても簡単に苗が手に入ったんだろうか?

 でも、お礼のメールですごい感謝してたしなあ。

 販売するつもりもあまりないんで、俺以外の生産者がいてくれた方がいいのはたしかだし、間違ってなかったよな、うん。


「この苗は失敗できないから普通に育てた方がいいような気がする。葡萄がうまく育って、他の植物でも異常がないようなら、それからお米だ」


 今は急成長してるけど、いきなり枯れたりするかもしれない。貴重な苗で試すわけにはいかないのだよ。


「そっか。早く食べられるといいね」


「そうだな。その時は美味いお米を食べさせてあげるからな」


「楽しみにしてるよ」


 そうだ、コルノには卵かけごはんを食べさせてあげたい。オムライスならDPで買える長米でもよさそうだけど、あの米も高かったりする。どちらにせよ、すぐには無理だろう。


「米料理なら私も作れるわ」


「さすがレヴィアだ。楽しみだな、コルノ」


「うん!」


 俺はいい嫁さんをもらったようだ。

 ちょっと嫉妬深いぐらいとこぐらい、可愛いと思わなくちゃバチが当たるよ。


 ふと見れば、眷族トレントや若木トレントたちがプレーリーウルフやビッグラットのクワで辺りを耕しまくっていた。

 葡萄の急成長でテンションが高まっているようだ。


 あんなに耕しちゃって……なにを植えればいいんだか。



現在のスキルレベル

<農業LV2>

<調合LV3>


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