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78話 チェシャ猫

詳しいことはまたいずれになりますが、まずは一報を


書籍化決定しました!

これも応援してくれた皆様のおかげです

ありがとうございます

 マフラーをしっかり巻いて巨大空間に移動する。

 妖精たち、特にリニアにキスマークを見られるのは恥ずかしいもんな。


「フーマ!」


「あれってまさか?」


「ああ。たぶん、あいつらだ」


 異常がないか、まずはこの巨大空間の見張りを頼んだ三本(さんにん)の眷属トレントたちに確認しに会いにいったら、異常事態の真っ最中だった。

 異常があったのは巨大空間や妖精たちではなく、それを知らせてくれるはずの眷属トレントたちにだったが。


「妖精たちも集まってるな」


「フーマ、すごいな、これ」


 眷属トレントたちを見上げる妖精たちの中にリニアもいた。

 俺たちも一緒になって見上げる。


「綺麗だねー」


「ええ。悪くないわね」


「昨日までは蕾もなかったはずなのに、いきなり満開ってのは眷属になったせいなんだろうか?」


 見事に花を咲き誇らせた桜、桃、杏の眷属トレントたちに感嘆の声をあげるコルノとレヴィアだが、俺は原因が気になってしまう。

 たしかにすごい綺麗だ。フィールドンジョンと違ってここには日光がなく、明かりは常若の国(ティル・ナ・ノーグ)の湖。下からのその光に照らされたトレントたちは幻想的な美しさをかもし出していた。


 だけどさ、身体にこんな異常が発生するんじゃトレントの眷属化は控えた方がいいんだろうか。それとも瘴気で異常が発生してて、眷属化でそれが解消された結果、こうなったのか?

 バイカンをはじめとするフィールドダンジョンのトレントたちはこんなことになっていなかったけど。

 森に行ってもらった二本(ふたり)はどうなっているだろうか? あとで連絡しないと。


「……フーマ様」


「おはよう……ございます」


「花……咲きました」


 俺に挨拶をしてくるトレントたち。

 両手の代わりに枝を合わせて俺を拝むので、花弁が舞って付近に集っていた妖精たちに降りそそぎ、大きな歓声が上がる。


「おはよう。ああ、拝むのはなしでいい。せっかくの花が散っちゃうだろ」


「はい……」


「昨日は開花するようには見えなかったんだけど、どうして咲いたか心当たりはないか?」


「たぶん……水のせい」


 水の精って水の精霊がなにかしたってこと?

 でもそれなら上司であるレヴィアがなにか言うだろうし……。


「ここの水……すごい」


「のどごしよく……まろやか」


「甘露……星みっつ」


 今にも口からビームを出しながら「うーまーいーぞー!」と叫びそうな三本のトレントにちょっと引く。

 こいつら用にも俺の<温泉作製>で水場を用意はしたけど、それは第2層に設置したものと同じ泉質だったはずだ。バイカンたちも味がいいって喜んではいたが、ここまでトリップするような感じじゃなかったよな。


「こいつらさ、間違えちゃったんだよ、飲む水」


常若の国(ティル・ナ・ノーグ)の湖か?」


 それにしてはリニアは怒っていない。彼女はあの湖の水も大事にしていたから、飲み水にしてなかったのに。だから避難民妖精たちが湖の水を使わないように、飲み水用の水場や排水設備も俺が設置していたぐらいだ。


「違いますじゃ」


 彼が大浴場以外の場所にいるのは珍しいな。いつもはあの場所から離れないのに。


「バーンニクってことはもしかして……」


「そう。こやつらが間違えて飲んだのは、あの温泉の水ですじゃ」


「昨日は女湯が休みの日だっただ」


 うちでコルノたちと風呂に入ることもあるハルコちゃんだが、普段は家族と大浴場を使うことが多い。だから使えないタイミングはしっかり覚えているようだ。


 ……ってことはなに、こいつら女湯の残り湯を甘露って喜んでいたのか?

 新たな眷属がこんな上級の紳士(へんたい)だったなんて……俺の眷属になったせいじゃないよな? 俺の影響じゃなくて最初っからこんな趣味だったんだよな?


「なるほど」


 ショックを受けてる俺の横でミーアがうんうんと納得している。

 まさか納得できるほど俺が変態だとでもいうのか!


「マスター、この三本がこうなったのは温泉の排水のせいと言って間違いないだろう」


「マジ?」


「ああ。妖精の粉が原因だ」


「妖精の粉? ヤバイ薬か?」


 人間、いや、妖精やめますかって事態なんだろうか?

 そんな危険なブツがここで出回ってしまうなんて!


「違う。フェアリーやピクシー等の一部の妖精が放出する不思議な粉のことだよ。その粉を浴びれば飛べるようになったり、見えないものが見えたりするようになるんだ」


「それだけ聞くと、危ない薬にしか思えないんだが」


 空を飛んだような気持ちになったり、幻覚を見たり、と。まあ、本当に飛んだり、不可視属性のやつが見れるようになるんだろうけどさ。


「そうかい? まあ、その効果は種族や個体によってマチマチなんだけど、植物を元気にするっていうのもあるんだ」


「それ、わたし!」


「アタシも!」


「でも、こんなに強い効果はないよね」



 話を聞いていたのだろう、避難民のフェアリーの少女たちが手を挙げながら飛んできて、そして「ねーっ!」と頷きあう。


「うん。たぶん彼女たちの妖精の粉が混ざり合い、さらにマスターの温泉もブレンドされたおかげでここまで強い効果が出たんじゃないかな」


「なんだ、こいつらが変態だったわけじゃなかったのか」


 よかった。

 これでゆっくりと花を観賞できる。

 綺麗だけど変態の花なんだよな、なんて複雑な思いを抱えないで純粋に楽しめる。


「マスターはこれを見越して大浴場を用意したのかい?」


「へ?」


「これを上手く使えば、植物の成長を早めることだってできるかもしれないじゃないか」


 あ!

 成長促進できれば収穫も早まるだろう。そうなったらまさに農業チートである。


「ただの偶然だ。妖精の粉なんて知らなかったしな。でも、研究してみる価値はありそうだ」


「それにはこの子たちの協力が必要だよ、フーマ」


「そうだった。お嬢さんがた、おっさんの眷属になってくれないか?」


 コルノのアドバイスに従って、フェアリーの少女たちを勧誘するも、ビクゥッ、と反応されて震えられてしまった。


「ふ、フーマ様の眷属なんて畏れ多いわ」


「そ、そうよね!」


「ご、ごめんなさいぃ!」


 ふられてしまった。しかも一人は半泣きである。

 なんなの? そんなにおっさんが怖いの?


「フーマは怖くなんてないのに。むしろ優しいよね、レヴィアちゃん!」


「そうね。もっとも夜は荒々しいのだけれど」


 いきなりなにを言ってるんだよ、レヴィア!

 ほら、フェアリー少女やリニアが真っ赤になっているじゃないか。

 さらには「熱いわね」なんてマフラーをゆるめて……キスマークが見えてるんですけど!


「マスター、迂闊に女性眷属を増やそうとしないでくれ」


 ミーアが近づいてきて俺に耳打ちする。


「どういうことだ」


「レヴィア様が怒る」


 もしかして、フェアリーたちが泣くほどびびってるのって、俺じゃなくてレヴィアに?

 ミーアは俺の疑問を察したのか、こくんと頷いた。


「レヴィア……浮気なんかじゃないってば」


「だってフーマはいい男よ。きっとみんな、貴方のことを好きになってしまうわ」


 真っ赤になりながら潤んだ瞳で俺を見つめるレヴィア。

 そうか。彼女の言動とキスマークを見せつけたのは牽制のためだったのか。

 だけどさ、俺みたいなおっさんがそうモテるわけもないでしょうに。

 コルノとレヴィアなんて超美少女と結婚できただけでも転生した以上の奇跡なんだから。


「フーマってカッコイイもんね」


「たしかにフーマは頼りがいがあるよな。何度も世話になってるよ」


 イジメかっ!

 コルノとリニアまでなに言ってんのさ!

 マジやめて下さい。俺が恥ずか死にます。おっさんは褒められ慣れてないんです。


「んだの。オラもフーマ様みたいな旦那様がほしい」


「モテモテだね、マスター」


 うわ、ニヤニヤ顔したミーアがムカつく。

 ハルコちゃんのは「みたいな」だから、別に俺じゃなくてもいいんでしょが。


「ここでハッキリさせておきましょう。フーマは私とコルノのものよ」


「ボクはもっといてもいいかな。ボクたちと仲良くできるなら歓迎するよ」


 コルノ、それって女の子の眷属のことだよね?

 嫁さんのことじゃないよね?


「コルノ……いいでしょう、ならばフーマをほしい者は私に挑みなさい。それぐらいでなければ認めないわ!」


 レヴィアもなに言ってんのさ。俺をほしがる女の子なんかいないから安心しなさい。


「リヴァイアサン様に挑むとか無理ゲーだよね。がんばれリニア。応援してるよ」


「ああ。どうやって戦えば……ってミーア、なんであたしが挑むことになるんだよ!」


「おやおや。まさか気づいてないとでも言うんじゃないだろうね?」


 またもあの顔でリニアをからかう猫娘。ミーアの種族は小雷獣じゃなくて、本当はチェシャ猫なんじゃないだろうかね。



リニアフラグ設置中

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