76話 ゴブリン堆肥
新たな第2層をフィールドダンジョンとして購入する。
フィールドダンジョンに必要な額は1,000,000DP。小人価格でも10,000DPになるわけで、予算を準備するだけでダンジョンレベルが6になる。
一ヶ月かけてダンジョンレベル6なら目立たないかな? まあ、ダンジョンマスターのランキングは月末集計で、その時点で所有するDPが前回の値よりいくら増えたかで順位を決めているみたいだから、俺が目立つことはあるまい。
DPがかなり心許なくなってしまったが、避難民妖精たちや常若の国に封印された邪神のダンジョンから漏れ出す瘴気で少ないながらも定期収入がある。フィールドダンジョンほどの大きな買い物はないはずだから、しばらくはのんびりできるはずだ。
「トレントがこんなにきてくれたのも嬉しい」
「皆……フーマ様の……御加護……求めてますじゃ」
「リヴァイアサン様……おそばで……お仕えしたい」
「……フーマ様……感謝します」
できたてのフィールドダンジョンには十本のトレントがいるのだが、その全てが枝を合わせて俺とレヴィアを拝みだす。
「まったく。拝むよりもちゃんと仕事、頼むよ」
「お任せ……ですじゃ」
眷属となり、瘴気を吸収されて葉も全て元通りになったバイカンとともに<転移>で森に戻り、トレントを勧誘したわけだが予想よりも集まってしまった。
それらと契約の儀式を行い、全て眷属になってもらう。ダンジョンマスターが眷属にできる最大数はダンジョンレベル×10。現在のダンジョンレベルは6なのでこれぐらいの数なら問題はない。もっと眷属がほしいぐらいである。
「よし、眷属化は無事におわった。なにか質問は? なければ二本ほど森へ行っててもらおうかな。むこうで情報と瘴気を収集してほしい」
「おお……」
「神よ……」
再び拝み始めるトレント。しかも今度は泣きながらである。
「すごいね、フーマ。もうホントに神様になっちゃえば?」
「勘弁してくれ、コルノ。そんな怪しいものになってどうするのさ」
ただでさえダンジョンマスターなんてやってるのに、これ以上変な肩書きを増やさないでほしい。
だいたい、なるって決めてなれるもんでもないでしょうに。
もしかして、父親であるポセイドンと同じ神様になってほしいとか?
んなわきゃないか。
「トレントたちがこうなるのも無理はないよ。若木のトレントは瘴気の影響を受けやすいからね。それを防げるんならこうもなるよ」
「そんなもんかね。だったらそのトレントたちもここに連れてくるか? 眷属にならないでいい。この階層はできたばっかりで殺風景すぎるから、いくらいてくれても有難いくらいだ」
フィールドダンジョンはたしかに、地下なのに空と太陽があるのだが、それだけだった。あとは地面だけで他の地形や植物等は有料だったのだ。
泉や川は<温泉作製>スキルでなんとかなるとしても、せっかくのフィールドダンジョンに樹木がないのは寂しすぎる。
「眷属にしないのかい?」
「眷属になると老化、つまり成長しなくなるからな。成木になれないと可哀想だろ」
ハルコちゃんも眷属になっているので、そういうことなのだが本人いわく「オラ、大人だ」だそうなので問題は無い。……たぶん。
「……お願いしますじゃ」
「神よ……」
◇ ◇ ◇
森の担当になった二本のトレントを送り、代わりに若木トレントたちを連れて戻ってきた。小さい頃はそれほど動きが遅くないみたいだな。
「フーマ様、ありがとう」
「いや、俺としても助かるから気にするな」
緑も増えるし瘴気も吸収できて一石二鳥だしな。
若木トレントは動きだけじゃなくて喋るのも普通なんで、会話しやすい。
「なにか必要なものはあるか。水は近場に冷たい温泉を用意したからそれを使ってくれ」
「とても……美味しい……水……でしたじゃ」
「日光はあるから、あとは肥料か? ゴブリンの死体なら有り余っているけど肥料になるか?」
邪神のダンジョンでDPを稼ぐ時に倒したゴブリンの死体。もったいないと貧乏性を発揮してしまい、全て回収してきたがいい加減、貯蔵庫を圧迫してきている。できるだけ<複製>で卵に変換して貯蔵スペースを開けているのだが、なんとか消費したいところなのだ。
「生物の死体……そのままだと……栄養になるの……時間がかかる」
「駄目か。やはり肉や卵に変換して消費するしかないか」
「それならミミズの餌にすればいい。ミミズはいい土を作るそうだよ」
ミーアの提案で残飯をミミズにやって堆肥を作るっての、前世でもあったのを思い出した。コンポストだっけ。
でもこっちのミミズってでかいんだよなあ。人じゃないけどゴブリンで肉の味を覚えたら襲ってきそうでちょっと心配だ。
あ、そうだよ。ミミズなんか使わないでも肥料を手に入れる方法があるじゃないか。
「栄養豊富な土のあるところを教えてくれ」
「ゴブリンを使うのはあきらめるのかい」
「いや、その土を見本にしてゴブリンを素材に<複製>する」
これで肥料もできて、のんびり農業に精を出せるぜ。
――後日、アキラからゴブリンの死体をオークションに出品すれば売れることがあると聞いて、俺はショックを受けるのだった。いいんだよ、肥料買う方がゴブリンの売値より高かったんだから!
◇
フィールドダンジョンはとりあえずトレントたちにまかせた。畑や田んぼを作るのに人手が必要ならゴーレムを使うつもりだが、今はまだいいだろう。
ノームたちには第2層には太陽があるので、昼間は近づかないようにと注意しておく。
「それと、夜でも第3層より下にはこないように。特にフェアリー! トラップはゲームじゃないからな。死んでも知らないぞ」
「はーい」
「りょーかーい!」
返事はいいんだよな。返事は。
だけどすでに侵入しようとしてアシュラに捕まったやつもいる。
まあ、戦争が嫌で逃げ出してきた連中だから死ぬのも嫌だろう。危険なことはしないと信じたい。
「俺に用がある時はトレントに頼んでくれ。俺に連絡がくるから」
「……連絡……する」
三本のトレントは見張りを兼ねて、避難民妖精たちが住む巨大空間に配置した。
常若の国の沈む湖のおかげで明るいけど、日光ほど栄養にならないようなら、交代制にするつもりだ。
いずれ、常若の国をダンジョンの領域化したら第2層に移動させる予定。ノームの住居はハルコちゃんと相談して決めよう。
「リニア、トレントたちとも仲良くやってくれ」
「ああ。邪神のダンジョンのモンスターが出てきたら守ってやるよ」
「頼む。ミーアの調査が済めば邪神のダンジョンの解放をするけど、その時には避難民たちは第2層に移ってもらうから」
「そうだな。危険になるもんな」
危険にはなるが、DPは稼げるようにもなる。眷属たちのレベルアップもできるはずだ。
……トレントって戦えるのかな? 戦闘方法を考えた方がいいかもしれん。




