6話 裸の小人
転移スキルは行ったことのある場所に瞬間移動できるスキル。
ダンジョン内で侵入者に使われたくないスキルの上位に入るだろう。
地図スキルを持ってると連動して使えるのでさらに便利だ。
ちょっとお高いスキルで必要DPは5,000だった。
高額だけど、100分の1でなくてもなんとか買えるスキルだろう。
持ってるダンジョンマスターも多いと思われる。
その転移でダンジョンに帰ってきた。汚れているので直接コアルームには転移せず、風呂場に転移。
「うわ、かなり汚れているな」
裸足のままだった足だけではなく、全身汚れていたので入浴することにする。
さっき考えたように浴槽を作るか。
アイテムボックスの中身をウィンドウに表示しながら、適した前世の品を探す。
これがいいか。
選んだのは土鍋だ。
「出でよ、温泉!」
風呂場の床に置いた土鍋に温泉作成スキルを使用する。土鍋の底から温泉が湧き出した。
土鍋を持ち上げると、その下の床には変化なし。土鍋の外側にも穴はない。
なのに土鍋からは温泉が湧く。
……考えても仕組みはわからないだろうから、さっさと入浴するか。
プラモデルの塗装の時に使う金属製の塗料皿をアイテムボックスから取り出して洗面器代わりにする。
前世ではプラモ制作も趣味だった。未完成の積みプラモも持ってきたから余裕ができたら作りたい。
椅子はちょうどいいのがなさそうだ。諦めるか。
塗料皿洗面器で土鍋から温泉をすくい、身体を洗う。
裸足で歩き回ったり、素手で草を除けたりしてたので汚れてはいるけど、肌に傷はできていない。頑丈スキルのおかげだろうか?
あれはレベルアップ時にVITの上昇値がアップするスキルだったはずなんだけど。
「ふぃー」
汚れが落ちたのでやっと湯船につかる。いい湯だ。温度もバッチリ。
浴槽が土鍋なんで、自分で出汁を取ってるような気分になるのも面白い。猫鍋ならぬ俺鍋か。
温まったら脱いだ一張羅の貫頭衣を洗わないと。
草の汁でかなり汚れて匂いもついていたが、きれいに落ちるかな。
入浴後、物干しを作る。
材料は針金ハンガー。適当に曲げていたらそれっぽくなったので、洗った貫頭衣を固く絞って干した。乾くまで全裸だが仕方がない。
誰に見られてるわけでもないし。
全裸でいると、前世で見た懸賞で生活するテレビ番組を思い出す。
ダンジョンマスターの館も懸賞ハガキでDPやアイテムをくれるクエストがあればいいのに。
あ、ガチャがそれに当たるのか。
「この部屋なら多少魔法を使っても大丈夫だろ」
転移でボス部屋ボス抜きに移動した。通路を使うとせっかく風呂に入ったのにまた足が汚れるからだ。
カッターナイフを素振りしてみたが、戦闘では使いづらいかもしれない。刃はあるけど、握りの部分が大きすぎて剣スキルが上手く効果を発揮していないようだ。
ならばと得物を変える。
今度はデザインナイフ。長いペン軸の先に交換できる刃がついているやつである。これならちょっと太いけど槍として使えると思う。
突く、斬るの練習をしてみる。うん、なんとか槍スキルは効いているっぽい。カッターの時よりも使いやすいな。武器はとりあえずはコレでいいか。
「突いて、突いて……」
致命的な問題があるとすれば、槍の使い方なんて全く知らないから練習内容が適当なこと。
「はらって、はらって……」
足払いは2足のやつじゃないと効果がないかもしれないな。
敵の接近を妨害するだけのつもりで大振りにならないようにした方がいいのかも。
「最後は斬る!」
斬れるかなあ。斬れたらいいなあ。
刃は交換できるし替え刃もあるけど、戦闘用じゃない。
代用品じゃなくてちゃんとした武器がほしいとこだ。
慣れてきたら動くたびに揺れる自分のが気になってくるようになった。
全裸だから仕方がないので、動かないですむ魔法訓練に切り替える。
ステータスウィンドウを呼び出して消費MPを見ながら魔法を使おう。
まずはさっきの魔法から。
「ファイヤーニードル」
壁を目がけて撃つ。さすがにダンジョンの壁だ。当たっても壊れることはなかった。焦げてすらいない。
消費MPは1。これなら連射できるな。火事になるから草原じゃ使えないけどさ。
「アイスニードル」
ファイヤーニードルの氷版。壁に当たって氷が砕けた。
これじゃ威力がわからない。まあ、針の名の通り尖ってるように見えるからささるかな。
氷の破片を拾ってみる。冷たい。ちゃんと氷だ。
この氷、どっからきたんだろう? 大気中の水分が凍ってってのだと連射できそうにないけど……。
消費MPは同じく1だった。
「アースニードル」
今度は土の針が飛んでいった。やはり壁は壊れない。ただ、土塗れになってしまった。
やはり土がどこからきたのか気になる。空気中ってのは無理があるだろ。
どこからか召喚されたのかもしれん。
消費MPはやはり1。
「エアーニードル」
見えないなにかが飛んでいって、壁に塗れた土を吹き飛ばした。
空気の針だから強そうではない。
消費MPは1。
次は無詠唱というか、名前を言わないで試してみる。
ちゃんと使えたけど、なんか物足りない上に地味だ。
ポーズだけでもつけてみるか?
でもそれだとモーションで相手にばれるかもしれないのか。
むう。難しいところである。
そして応用。さっきの巨大キリギリスは一撃で倒せなかった。
逃げてくれたからよかったが、あれでは困る。
「ファイヤーニードルズ」
3本の炎の針が壁に飛んでいった。複数同時もちゃんとできるようだ。
何度か試してみたが、数の調整も可能。これなら戦えるな。
消費MPは1本につき1で、余計に消費MPが増えてることもないのが嬉しい。
「アイスニードルズ」
こっちも同じ。
火災を避けたい草原ではこれをメインに使うことになるだろう。
アースニードルズは試すと壁が汚れるんだよなと、使うか迷っている時に大きく腹が鳴った。
考えてみれば転生してから水しか飲んでいない。もう1日ぐらい経ってる気がするから、空腹になるのも当然か。
ウィンドウが自動的に開いて『DPを栄養に変えますか?』と出てきた。
もちろん『いいえ』だ。
どれぐらい消費されるかは気になるが、残りDPが僅かな現状で試すことはできない。
試すのはこれからの食料調達の方法だ!
「おして、おして……」は槍にはあわなそうなので、使用せず