75話 世界一の巨乳
トレント長老がダンジョンにくることになった。トレントは長老でも足が遅く、彼がこれ以上の瘴気の吸収することを防ぐために<転移>によってダンジョンに帰る。
といっても常若の国の沈む湖がある巨大空間の方だけどな。
ここなら天井も高いから、異常に大きな長老トレントでも問題はない。他の場所だと天井が低くてトレントなんて無理なんだよね、うちのダンジョンはさ。
この巨大空間はとても広い。ほぼ円形。半球というにはかなりつぶれたドーム状をしている。ミーアによれば円の中心が常若の国の城だそうだ。
あまりにも広いので手持ちのDPではダンジョンの領域化が一気にできず、段階的に領域化を進めている。
ダンジョン化部分が瘴気を吸収するので、ある程度領域化が進むと1日に発生するDPも増えるようになった。それでも、日数はかかったけどね。
実はまだ巨大空間全てをうちのダンジョンにすることはできていない。常若の国の沈む湖と、天井付近のほとんどがまだなのだ。
「DPを稼ぐためにダンジョンマスターの館のクエスト、けっこう進めたんだけどな」
「ほぼ毎日、邪神のダンジョンの攻略に行ってたよね」
「おかげでスキルレベルはいろいろ上がったよ。種族レベルはまだだけどさ」
いくらレア上位種族といってもさ、ここまで種族レベルが上がらないとはね。
まさか1レベルがカンストの種族じゃないだろうとは思いたい。
「ボクたちも邪神のダンジョンにいければいいんだけどね。そうすればゴータローも進化できるだろうし」
「ゴ!」
ゴータローのラット・キング戦で失った右半身もコルノがしっかり補修している。石粉粘土を使用したために新たに造った部分は真っ白。左右で色違いなんて、良心回路を持つ人造人間のようになってしまった。
もうすぐ進化できるはずなのだが、最近はダンジョンへの侵入者がいないので戦いが無く、進化に必要な種族レベルに達することができないでいる。
「進化したら大改修しようね、ゴータロー」
「ゴ! ゴ!」
ゴータローをなでるコルノだが彼女はこの一ヶ月、ずっとゴーレムの改良と量産を行っていた。
夜はちゃんと新婚さんしてたけどさ。
おかげでコルノの<ゴーレム>スキルのレベルも上がっている。ゴーレムたちの数も増えた。巨大空間内をダンプゴーレムに乗って移動する量産型ゴーレムの姿も当たり前になってしまった。
「この巨大空間が完全にダンジョンの領域になったら、常若の国の邪神のダンジョンの封印を少しずつ解いていくつもりだから、進化はすぐさ」
「封印を解く前に周りを領域化しておかないと、瘴気が島中に拡散してしまうからね」
「そんなことになったら、自らを要石としてまで瘴気を防ごうとしているディアナ様が悲しむ。よろしく頼む」
トレント長老と自己紹介をしあっていたリニアも話に混ざってきた。
俺としては妖精島への瘴気拡散を防ぐためというよりは、せっかくのDPの元を逃したくないからなんだけどね。
「少しずつ封印を解除するといっても、要石になっているディーナ・シーを一人ずつ元に戻すだけの予定だから、一気に封印が解けてしまうかもしれない。それは覚悟してくれ」
「そうならないように私が調査しているのだよ。それにしてもエアーコートを使うと、水中行動があんなに楽になるとはね。盲点だった」
ミーアは雷獣になっただけあって雷系の魔法を得意としているが、雷系も風魔法なのでエアーコートも使える。けれど、水中で息ができたり、水に濡れなくなるってことは知らなかったらしい。
「猫は水が嫌いだから、そんなことを試そうだなんてしなかったんだ。知ってればもっと早くに常若の国の調査ができていたよ」
「見えないけど酸素は呼吸で減っていくから、こまめにエアーコートをかけなおすように」
ミーアのホットパンツを見てると思い出すトレジャーハンターのゲームでは、泳いでる時に酸欠でよく死んじゃったからさ。
「失礼なマスターだ。そんなミスを私がするとでも?」
「ミーアは熱中するとまわりが見えなくなるとニャンシーが言ってたわね」
猫の集中力だな。前世の実家の猫もなにかを狙っている時は軽く触ったぐらいじゃ反応しなかったっけ。
「オラが潜水服ってのを作れればよかっただのに」
ホースで空気を水上から送るヘルメット潜水用の服ができないか、ハルコちゃんと相談したが肝心のホースが上手く作れなかった。ハルコちゃんは防水の布も作れるんだけど、材料もちょっと不足している。
「まあ、ミーアの水中活動中はエアーコートのかけなおしをするよう、定期的に連絡を入れるしかないか。ダンジョンも広くなったことだし、オペレータがもう少しほしいな」
「たしかに今は連絡要員がニャンシー一頭だけだもんねえ」
「邪神のダンジョン解放時は、しっかり監視しておかないとまずいから交代要員も必要だ」
やっぱりうちは人手不足。
ゴーレムはゴータローとレッドしか喋れない。
かといってノームはハルコちゃん以外、眷属になってくれないし、バーンニクは風呂にしか興味がない、フェアリーは不安だ。
ケット・シーがもう少し増えてくれるといいんだけど。
DPで眷属購入するしかないかな?
「……連絡だけ……いいなら……トレント……できますじゃ」
「ええと、連絡や、そもそもダンジョン機能を使っての監視のためには眷属になってもらわないといけないんだけど」
「瘴気……広げない……考えてくれている……手伝いたい」
「長老が仲間になってくれるのは助かるよ」
いつの間にか猫、いや雷獣の姿になって長老の枝の上で寛いでいるミーア。姿を変える時に服が破けるといったことはない。
効果音等のエフェクトはないが、ポンと一瞬で獣に変わってしまうのだ。で、小人に戻るとちゃんと服を着ている。獣時には服はどこに消えているのだろう?
「他のトレント……手伝ってくれる……思いますじゃ」
「それは助かる。眷属となったトレントなら、森に出張してもらって瘴気を吸収することもできるな」
「おお……フーマ様……神様ですじゃ」
トレント長老までが涙を流しながら枝を合わせて拝みだす。それでもミーアは枝から落ちないように丸まっている。さすがだ。
あとあの涙、樹液だろうからカブトムシが集まってきたりするのだろうか?
「また神様か。おっさんはダンジョンマスターなんだよ」
「それだけ妖精たちがフーマをありがたがっているんだよ。あたしも感謝している。あたしだって神様はディアナ様だけどさ」
なんだかなあ。
実際に神様がいるこの世界で、神様不在の妖精島では妖精たちは不安だったのかもしれないな。
あ、でもこの島にも妖精教国って宗教国家もあるんだっけ。この島にも神様はいるのかね。俺のことが邪魔になって攻めてきたり……その時はやっとダンジョンらしくなるか。
◇
長老を眷属化する。種族ランクが低いトレントだが、その巨体のおかげか予想以上に瘴気を溜め込んでいたらしく、そこそこDPが入った。
「たしかにほっといたらすぐに瘴気進化してたかもな」
「ありがとう……ございます……バイカンと申します……よろしく……ですじゃ」
「長老、そんな名前だったのかい」
バイカンか。梅の幹? ウメさんじゃなかったんだね。そうだったら寿司を作ってもらいたいとこだった。
「バイカンのおかげでDPが入った。これでフィールドダンジョンに手が届く」
「えっ? もうそんなに? 昨日はもう少しかかりそうだって言ってたのに。長老もずいぶん溜め込んでいたんだね」
いや、本当は昨夜、入浴中にコルノとレヴィアと楽しんだせいです。
もうだいぶ慣れてきたからと油断してついやっちゃったら、レヴィアが我慢できなかったようでちょっと漏らしてしまったんだよね。セーフルーム以外でのプレイはまだまだ先のようだ。
そっちはコルノと楽しんでとレヴィアは言うけど、たぶん嫉妬するだろうしコルノもレヴィアが一緒じゃないと嫌がる。
料理中の裸エプロンを後ろから、なんておっさんのロマンは遠いなぁ。
「フィールドダンジョンを新第2層に追加。今ある第2層から下は一つずつ下に変更」
「第1層じゃないのかい?」
「第1層は巨大空間と繋がっているからな。変更するのがちょっと面倒なんだ。フィールドダンジョンの気候設定はこの島と同じ……ないか」
設定可能な選択肢に妖精島の気候がなかった。
となると、どれを選べばいいんだろう?
「レヴィア、この島の気候ってどこが一番近いかな?」
「左手大陸の肘あたりかしら?」
「……あるな。この名称、なんとかならんかね?」
この世界、クラノガイアスには5つの大陸と無数の島がある。
右手大陸。左手大陸。お腹大陸。右足大陸。左足大陸。
変な名称だが実際に地図を見ると微妙にそう見えなくもない。
手大陸が北半球、足大陸が南半球、お腹大陸が両方に跨って存在する。まあ手足の大陸も赤道を越えている箇所もあるんだけどね。
「頭は北極か?」
「いや、北極は大陸じゃなくて氷だそうだからね、頭は行方不明なんだよ。月になったという説もあるんだ」
なにその死体遺棄事件。ミーアの解説にリニアが嫌そうな表情を見せる。
「失ったとはいえディアナ様は月の加護を持っておられた。そのお月様が生首だなんてはずがないだろう!」
ああ、ディアナことアルテミスは月と狩猟の女神だったな。
ん? とすると、このバラバラ死体はもしかして大地母神ガイア?
手大陸は腕部だけでなく、胸部も含まれていて片方に一つずつ世界最高峰の山があるけど、もしかしてこれがおっぱい?
ガイアさん巨乳すぎる。
大陸名にどんなルビをふるか悩み中




