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74話 瘴気進化II

[【トレント】 

 種族ランク(レア)

 樹木の妖精。木のような外見。

 根を動かし歩くことや枝を動かして物を掴むことができる。

 動きは遅いが力は強い。

 性格は温厚なものが多い。               ]


 これがトレントの鑑定結果だ。

 妖精島の妖精にしては巨大なんだけど、リヴァイアサンが運んできた当初はまだ若木で小さかったらしい。


 トレントは瘴気で進化すると邪悪なモンスターになってしまう。

 多くは【首吊りの樹(ハンギングツリー)】というプロレス技のような名前のモンスターとなる。

 葉がなくなって代わりにちょうどいい長さと形をしたツタが生え、催眠で人間を首吊り自殺に追い込む凶悪な樹になってしまうそうだ。


「ずっと昔……若木(こども)だったころ……ハンギングツリー……見た」


 長老トレントはこの妖精島にくる前に瘴気進化した元トレントを見たらしい。

 震えているのか、半分裏返ってしまった葉をザワザワと揺らしながら続ける。


「首吊り死体……いくつもぶら下げて……自慢……恐ろしかった」


「そりゃ確かに怖いな」


「……もっと怖いの……そいつ……トレントだったころ……やさしくて……そんなことするやつじゃなかった……そう成木(おとな)のトレント……悲しんでいたこと……」


 どうやら瘴気進化では外見だけでなく、性格まで大きく変わってしまうらしい。

 心まで凶悪モンスターになりたくなくて、長老トレントはミーアに自分を殺してくれと頼んでいるのか。


「私が知ってるデータだと、長老の場合は症状から言ってハンギングツリーじゃなく、たぶん別の進化先になると思う」


 ミーアが言うには長老トレントの場合は、全ての葉が裏返った【リバーストレント】というモンスターになってしまう可能性が高いとのこと。


「人間や動物の皮を裏返しにしてしまうとしか文献にはなかったから、どうやって裏返すのかは不明。枝で皮を剥いて貼り直すか、それともそんなスキルを持っているか……どちらにせよ、凶悪モンスター」


 どっちも凶悪というよりはホラー系なモンスターだなあ。食べるために殺すモンスターよりよほど怖い気がする。他の瘴気進化もこんな感じなんだろうかね。


「……恐ろしい……」


「マスター、なんとかしてやることはできないだろうか?」


 泣きそうな顔でミーアが懇願する。

 彼女は当初の「だね」語尾はあまり使わなくなった。なんでも、あれは相手をイラッとさせるための話術のつもりだったそうだ。冷静な判断ができないように狙っていたらしい。

 効果のほどは微妙な気がするが。


「モンスターになりそうなのは長老だけなのか?」


「長老は他のトレントたちが瘴気の影響を受けないように、瘴気を溜め込んでいたんだ」


「そんなことできるのか?」


「トレントは吸い込んでしまった瘴気を葉に貯めて、その葉を落とすことで瘴気を身体から排出できる。ただ、落葉に瘴気が溜まっているために周囲には影響が出る」


 ふむ。塩分を葉に集めてその葉っぱを落葉させるマングローブみたいなもんか。

 瘴気を排出できるからランクRでも何百年生きても瘴気進化しにくいわけね。


「今まではその瘴気が溜まった葉だけを食べる【浄化蝶(クレンジングパピヨン)】の幼虫がいた」


「そんな虫がいるとは。そいつはモンスターにはならないのか?」


「葉を食べて育った幼虫はやがて蛹となり蝶となって、冬になる前にこの島を飛び立つ。春になって戻ってきて卵を産んで死ぬが、その死体には瘴気がない。冬の間にどこかで落としているんだろうね」


「それって、どっかのダンジョンの回し者なんじゃ……」


 瘴気を集めるシステムのように思えるんだけど。トレントはこの島以外にもいるだろうから、瘴気はかなり集まるはずだ。

 侵入者を撃退しなくても生物の習性を利用してDPを稼ぐ方法があるとはね。


「なるほど。たしかにマスターの言うとおりの可能性があるね。だけど、この島のクレンジングパピヨンの幼虫はネズミたちに食い尽くされてしまったみたいだ」


「ラット・キングやその配下が瘴気進化するために、瘴気を蓄えた幼虫が必要だったのかもな?」


「それもあるだろうけど、邪神のダンジョンは瘴気を放出しているから、それを回収しているクレンジングパピヨンは瘴気拡散の邪魔だったのかもしれないよ」


 邪神のダンジョンが瘴気をばらまいている理由はよくわからない。邪神好みの世界にしたい? ホラー系のグロテスクなクリーチャーがうろつく世界か……頻繁にSANチェックが発生しそうで怖いぜ。

 ダンジョンマスターの仕事もがんばらないといけないのかも。

 まあ、仕事抜きにしても長老トレントは助けたい。


「うちのダンジョンにきてくれれば瘴気をこれ以上溜め込むことはなくなるはずだ」


「……この……森を……離れる……わけには……」


「残ったって凶悪モンスターになるだけじゃないか。長老ともあろう者がそんなにみんなに迷惑をかけたいのかい? それとも私に殺されたい? そんな面倒なことをするのは嫌なんだけどね」


 ミーアは毒舌だ。いや、これはツンデレか?

 リニアのことも「醜い」なんてよく言うけど、仲はいいんだよね。


「トレントたちが気になるのはわかるけど、今は自分の身体を心配しないと」


「……木々の世話……できないの……つらい」


 トレントは樹木みたいなくせに森の木々の世話をしているらしい。トレントたちにとってこの森は牧場みたいなものなんだろうか?

 でもそれなら、なんとかなるかもしれない。


「長老がきてくれるなら、頼みたいことがあるんだが」


「頼み……?」


「育ててもらいたい植物がある」


 前世から持ってきた米や植物を育ててもらいたい。

 この森に愛着があって、ここの植物じゃないと駄目ってんなら無理かもしれないけど、そうじゃないなら提案に乗ってくれ。


「……どんな……植物?」


「これだ」


 アイテムボックスから苗を取り出すとトレント長老は興味深そうに見つめる。脈アリか?


「このお米はとても美味しい。これで作ったおにぎりが食べたい」


「おにぎり?」


「炊いたお米をこう握って、中に梅干しやシャケを入れるんだ」


 苗をしまって、両手でおにぎりをつくるゼスチャーをする俺。

 6倍の大きさの米でおにぎりを作るとどんな感じになるか気になる。


「梅……干し?」


「梅の実を塩漬けにして干したもの……」


 あ、長老って梅の木っぽかった!

 もしかして怒らせてしまったか?


「味……は?」


「え? 梅を食べるなって怒らないのか?」


「トレントの感覚は不思議でね、自分になった実を美味しく食べてもらえると喜ぶんだ」


 トレントは実をつけるけど、その種からは普通の植物しか生えてこない。トレント同士の交尾によってのみ、トレントとなる芽が生まれるらしい。だから実を食べられても怒ることはないとのこと。


「たしかに不思議な生態だな。……梅干しの味だっけ? 基本は酸っぱい。ものによってしょっぱかったり、甘かったりする」


「予想がつかないよ。美味しいの?」


 外人さんは苦手かもしれないって思ってたから、コルノには食べさせてなかったっけ。


「好みはわかれると思うけど、俺は好きだよ。お酒に入れるのもいい」


「お酒に梅を? 合うの?」


「あれ? こっちには梅酒ってないのか? ああ、ワインだから梅酒は作らないか。でも蒸留してブランデーにすれば梅酒はできるよな」


 ブランデー梅酒も美味いんだよなあ。

 ワインや蜂蜜梅を好む妖精たちも好きそうな気がする。


「……フーマ様……梅干し……作り方……教えて……くだされ」


「それってダンジョンに行く気になったってことだよね、長老」


「お世話に……なりますじゃ」


 梅干しか、前世では何度かチャレンジしたことがあったけど覚えてるかな?

 塩は<温泉作製>スキルのレベルアップで成分調整できるようになってるから粗塩も複製しやすくなっているんで大丈夫だけど、シソがなあ。黒ジソで作ったら真っ黒な梅干しになったりしないだろうか?


「よろしく。気が向いたら眷族になってくれ」


「次はダンジョンの改装だね」


「ああ。トレントがくるとなるとフィールドダンジョンが必要だろう」


 フィールドダンジョン階層は地下にあってもなぜか天井や外壁が存在せず、太陽が見える。その分お高い。


「それなら一気にダンジョンレベルを上げなさい。私が協力すればすぐでしょう?」


「レヴィア、無料復活キャンペーンのためだけじゃなくて、急にダンジョンレベルを上げすぎると目立って運営に俺の特典(バグ)が知られちゃうかもしれなから、少しずつ地道に稼ぐって説明したじゃないか」


「だって……」


 避難民の中にいた妖精の幼児を見てから、レヴィアが子供をほしがっているんだよね。

 そのためにはダンジョンレベルを上げないといけない。ダンジョンマスターとその眷属はダンジョンレベルが低いうちは子供ができないからだ。


「あなたの赤ちゃん、ほしいわ」


 ぐはっ。お腹をなでながらそんなことを言われたら、おっさんがんばるしかないわけで。

 今夜は寝かさないぞ!



 ……子供はできないけどさ。



現在のスキルレベル

<温泉作製LV6>

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