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73話 トレント

 トレントたちに会いに行く。

 メンバーは俺、コルノ、レヴィア。それにミーアだ。彼女もおっさんの眷属になってくれていた。リニアと一緒ならと言っていた彼女が、リニアがまだ眷属になっていないのに眷属になってくれているのには理由(ワケ)がある。

 あのラット・キングとの戦いでレベルアップしたミーアは進化ができるようになっていたんだけど、その進化先に不満があった。それで、おっさんの眷属になることにした。

 ダンジョンマスターの眷属になれば瘴気による進化を気にしなくて済むようになる。それに、うまくいけば別の進化先が現れるとの期待もあったらしい。

 その期待通りにミーアの進化先に新たな選択肢が出現し、彼女はそれを選んで進化した。


[【小雷獣】

 種族ランクSR(スーパーレア)

 【雷獣】の小型種

 鋭い爪を持ち、尻尾が二股に分かれている

 雷を操り、飛行能力を有する       ]


 ミーアは俺のおかげだって喜んでいたけど、初めて知った種族らしい。

 ケット・シーがなんで雷獣になっちゃうかな?

 見た目の違いは四肢が以前より長くなって、尻尾が二股になったぐらいだろうか。他は猫っぽい外見だ。まあ、ミーアは小獣人形態でいることが多いんで、その姿を見ることはほとんどないんだけどさ。


「ニャンシーとハルコちゃんには留守番をお願いする」


「わかったにゃ」


「がんばるだ」


 いくらネズミの脅威がなくなったとはいっても緊急時に対応できるようにしておかないといけない。

 アシュラとゴータローたちがいればなんとかなりそうな気もするけど、あいつとゴーレム、クロスケは喋れないからね。連絡要員は残しておきたい。


「リニアもなにかあったら頼む」


「ああ、まかせてくれ」


 転移でコアルームにニャンシーとハルコちゃんを送ってから俺たちは出発した。



 ◇ ◇ ◇



 黒ジソの繁殖地に転移し、そこからは歩きで森を目指す。また黒ジソを採取したいとこだけど、今は我慢だ。


「フーマとの遠出って初めてだね」


 コルノが上機嫌だ。

 俺がダンジョンから出かける時に誰かをつれていく時もコルノには留守番してもらうことが多かった。ゴーレムの改良と量産にがんばってもらってたからだけどさ。


 いつ常若の国(ティル・ナ・ノーグ)の邪神のダンジョンの封印が解けてもいいように、戦力を用意しておきたかった。

 ゴーレムだけじゃない。おっさんの方も未熟者のダンジョンで鍛えていたよ。……眷属も鍛えたいとこだけど、敵がいなくてね。


 ここ一ヶ月いろいろ試したけど、スキルはやはり戦闘時に上がりやすい。次いで実践。練習では感覚をつかむことはできてもレベルアップは全然しなかった。

 だから眷属や配下のゴーレムを強化するには戦闘させたいとこなんだけど、ダンジョンへの侵入者が少ない。

 ラット・キングとその手下のネズミは殲滅したし、やつらのせいでダンジョン周辺の生物が激減していてお客さんが少ないのだ。

 ダンジョンにやってくるのはニャンシーやノームが連れてくる避難民ばかり。これでは困る。


 ダンジョンレベルを上げて邪神のダンジョンに連れていけるようにした方がいいか迷うところだ。でも、無料復活の初心者救済キャンペーンは捨てがたいんだよ。

 掲示板等で集めた情報だとそれに拘らない方がよさそうなのはわかっているんだけど……。


「ごめんな。新婚旅行も行けなくて」


「いいよ、ダンジョンは今が大事な時なんだし」


「新婚旅行ね。それなら乙姫のところでも行きましょうか?」


 レヴィアがそんなことを言ってきた。

 彼女も一緒に出歩くことは珍しい。水の支配者(リヴァイアサン)の仕事が入ることが多いからで意外と忙しいのだ。

 夜はちゃんと帰ってくるんだけどね。


「乙姫って……竜宮城?」


「ええ。彼女のダンジョンよ。ダンジョンなんだけど、人魚たちがもてなす旅館のようなこともやっているわ」


「ダンジョンなのに?」


「そうよ」


 むう。前世の昔話の竜宮城に近いのだろうか。時間の流れが違ったりしないだろうな?


「面白そうだね」


「旅館ねえ」


「乙姫にもアナタを紹介したいわ」


 ダンジョンマスターなんだよな。人を殺して稼ぐダンジョンとは違ったダンジョンの。

 会ってみるのもいいかもしれない。実際にダンジョンを見たら参考になることもありそうだ。


「そうだな。一泊二日ぐらいならいいかもしれない」


「そう。ならむこうの都合を聞いておくわね」


「頼む」


 本当は一泊二日なんていわずにもっとゆっくり新婚旅行してみたいけど、ダンジョンが心配だ。あと、さっきの時間の流れの違いも怖いし。



 ◇ ◇



 森の中を歩く。今までの場所と違って多種多様な植物が生い茂っている。樹木も大きい。動物は……少ないな。感知にもほとんどかからない。

 先頭で二本の尻尾を揺らしながら歩いていたミーアが一本の一際大きな樹を指差した。梅の木っぽいけど、やたらにでかい。


「トレントの長老だ。久しぶり、元気かい?」


「……おお、その声……姿は変わっているが……ミィアじゃな?」


「そうだよ。さすが長老だ」


 辺りに響く重低音の声。よく見れば長老トレントの樹に顔が浮かんでいる。老人の顔だ。なんだか疲れた顔に見える。


「そちら……は? 初めて……いや……どこか……はるか昔に……」


「長老はすごいね。この方はリヴァイアサン。長老が懐かしく感じるのも当然だよ」


 長老トレントの言葉を遮ってレヴィアを紹介するミーア。

 レヴィアの正体はあまり知らせないという話は最近どこかにいっちゃっている。ノームたちもレヴィアを見るたびに拝むしさ、ダンジョンに新しく入ってきた避難民妖精もみんな知っていたりするんだよね。


 ミーアの言葉を聞いて、それまで顔以外は動かさなかった長老トレントがギギッとゆっくり動き出した。

 それだけではない。付近の大木たちまでもが音を立てて動き出した。なに、こいつらみんなトレントだったの? 木の種類が違うんですけど。


「リヴァイアサン……さま」


「よい。周りの者も(おもて)を上げよ。今の私はリヴァイアサンではない。この男の妻、レヴィアよ。」


「は……ははー……」


 レヴィアに言われてようやく、付近に平伏していた大木たちが再び直立を始めた。

 動きはとてもスローリーだ。事前にミーアから聞いていたけど、本当に遅い。


「こっちのリヴァイアサンの夫がフーマ、ダンジョンマスターで私の上司さ」


「フーマだ」


「……ミィアのことを……よろしく……お願い……します……ワシの……孫みたいな……ものですじゃ」


 再び大きく頭をさげる長老トレント。木の葉が揺れる。その時に大きな違和感がした。


「彼女はコルノ、やっぱりフーマの妻で私の同僚だよ」


「コルノだよ、よろしくね長老」


「……よろしく……お嬢さん」


 ゆっくりと動いてきた枝とコルノが握手する。おっさんの時はそんなのなかったのに。おっさんとは握手なんてしたくないのか? そう疑った俺の前に別の枝が伸びてきたのでそれと握手した。


「どうしたんだい、そんな泣きそうな顔をして?」


「……最後に……お前さんに……会えて……よかった」


「なに言ってるんだい。ネズミどもに大きな穴を開けられたって聞いたけど、たいしたことなさそうじゃないか」


 長老トレントは傷だらけだった。頭を下げた時に見えたんだけど、後ろ側に大きな穴が開いている。ネズミたちが虫を取り出した穴だろう。その時のものなのか、皮もいくつか剥かれていた。


「この……傷では……ない……ワシは……もう……長くは……ない」


「どういうことさ? ……まさか」


「……ワシは……長く……生きすぎた……瘴気が……たまって……もうすぐ……」


「モンスターになるっていうのかい?」


 長老トレントの言葉に泣きそうな表情になって問うミーア。彼の周囲をぐるりと回って確認していく。

 一緒に回る俺たち。それで、違和感に気づいた。

 よく見なければわからなかったが葉っぱがおかしいのだ。裏表が逆になっている葉が半数近くもある。


「この葉……が……全て表裏逆になった時……ワシは……モンスターに……なってしまう……その前に……ワシを……切って……くれ」


 なんだか面倒なことを頼まれてしまった。



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