72話 ミルクを出さない牛
虫注意
「ハルコちゃんは眷属になったけど、やっぱりおっさんが怖いとかないのか?」
「兄ちゃんはオラのこと、太陽と友達にしてくれただ。怖くないよ」
俺の眷属になった時にハルコちゃんはマイナスレベルな日光耐性をDPでレベルアップさせて日光が平気になっている。
この時にはっきりと判明したのが、俺のDP100分の1は眷属にも効果があるってこと。眷属のステータス強化にも使えるのだ。
たけどアシュラや温泉カラスのクロスケは通常の額を要求された。どうやら眷属が小人種の時限定みたいなのでちょっと残念。
「他のノームもおっさんの眷属になれば日光で石化することがなくなるのに」
「石さなった時にとてもおっがね思ったんだと。あんなに綺麗だったのにな」
ノームたちは石化時に見た太陽がトラウマになっていて、ハルコちゃんだけが逆に太陽に魅入られてしまったらしい。
「姉ちゃんたちも優しいし、オラ、今の仕事好きだあ」
ハルコちゃんはいい子だなあ。眷属にはなってもらったけど、危険なことはさせたくないね。
戦闘に出さないで生産でがんばってもらいたい。
ノームたちの避難所はテントではあるが、生産系が得意なノームなだけあってなかなかに立派なものである。
彼らはリニアのテントも手直しして、次は木の家を建てると張り切っているが、肝心の材木が少ない。ネズミたちの脅威がなくなったとはいえ、ここから森までは遠いのだ。
俺が手伝ってもいいんだけど、自分たちでやるって夜になるとダンジョンを抜け出して少しずつ集めているようだ。
「食料は足りているのか? 草原はネズミに荒らされてたろう」
「木の実やキノコはけっこうあんだ」
どうやらラット・キング配下のネズミたちは肉食に偏っていたようで、虫や小動物の姿はかなり減ったが、食べられる植物はまだまだ残っているらしい。
生態系にダメージを与えられたのは確実なんだけどさ。
「動物性なのは……あれか」
ノームのテントのそばに置かれている大きな物体。それは大きなタイヤのようにも見える。
[妖精島マイマイの殻
妖精島にすむ大きなカタツムリの殻
大きくそれなりに頑丈
妖精たちの家具や工芸品の材料として使われることもある]
妖精島マイマイは大きなカタツムリで、殻は直径20センチぐらいある。中身もそれに見合った大きさだったが、ノームたちに食われてしまったようだ。
ノームたちはこのカタツムリを家畜として飼育することもあるらしい。
エスカルゴはもっと小さかったよな? 食ったことあったけど、どんな味だったかは思い出せない。
「カタツムリって寄生虫が怖くないか?」
「火を通せばだいじょうぶだよ」
そんなもんかね?
まあ、この島の妖精たちはずっと昔から食べているようだし問題ないのかな。
というか、カエル男といい、この世界の妖精ってわりと肉食なのかもしれん。
◇
テントから少し離れた場所に、囲いに覆われた一角がある。
そこを掃除している老人に声をかける。
「おはよう。朝から精が出るな」
「おはようございます、フーマ様」
この小人の爺さんはバーンニク。やはり妖精である。夜間外出していたノームたちが連れてきて紹介してくれた。
[【バーンニク】
風呂場の妖精
妖精や精霊を風呂に招待する
人間に入浴を邪魔されると皮を剥いだり、首を絞める
気に入った人間には未来予知をすることもある
小さな老人男性の姿をしていることが多いが稀に女性がいる ]
俺が小さいおっさんならバーンニクは小さい爺さん。銭湯で入浴マナーに煩い江戸っ子爺さんのハードすぎるバージョンだろうか。
ここは俺が妖精たちのために創った大浴場だ。
ちゃんと常若の国の湖に排水が流れないように気を使って作ってある。もちろん天然温泉100パーセント。
……温泉作製で作っても天然温泉って言うのかな?
ノームたちからこの温泉のことを聞き、やってきた彼はひとっ風呂浴びて一発でここが気に入り、ノームとは別の意味で俺を神と崇めるようになってしまった。
眷属にはなっていないが、この浴場の管理を任せている。
「ここは最高ですじゃ。これほどの泉質の温泉はこの妖精島のどこを探しても見つかりますまい」
「入浴客の様子はどうだ、問題はないか?」
「ないですじゃ。たまに女湯を覗こうとする不届きなフェアリーがおりましたが、ノームが囲いを強化したのでもう無理ですじゃ」
この浴場は男女別に分けているが、以前は覗こうと思えば簡単に覗けてしまった。ノームが対処したので現在はその心配はないようだ。
だけど爺さん、なんか残念そうに見えるのは気のせいか?
「クロスケは?」
「あの方の入り方はとてもいいですじゃ。フェアリーどもに見習わせたいほどですじゃ」
クロスケは温泉カラス。以前はクロという名前だったが改名した。いや、最後までロプローにするか迷ったんだけどね。
階層のボスにするつもりだったのにさ、バーンニクと同じくこの温泉を気に入ってしまったので、この巨大空間の出入り口を弄ってクロスケが出入りできるようにしてある。
今はここと地上の監視が任務だ。よくこの温泉に入浴しているよ。
「俺としては湯上りにドリンクを提供したいとこなんだけどな」
フルーツ牛乳を作ろうにも牛乳がない。牛がいないらしいんだよ、この島。DPで牛系のモンスターを入手するかどうか迷っているところだ。
カタツムリは蝸牛とも書くけど、ミルクは出さないもんなあ。
「酒だとクルラコーンがやってきそうですじゃの。悪いやつではないんじゃが、酒癖が悪くて面倒なんですじゃ」
酒か。妖精たちはワインや蜂蜜酒を好むらしい。
けど、湯上りにはビール、風呂で飲むなら日本酒のイメージがあるだろ?
日本酒は前世から持ってきたのは料理酒として使っていたのしかないので、こっちで造りたい。
そのための米の生産は〈農業〉スキルを持つダンジョンマスターに丸投げした。玄米をオークションで売っただけだけどね。
俺自身も〈農業〉スキルを持つから、うまくいけば田んぼくらい作れると思うけど、品種改良を考えたら一人でやるよりも多くを巻き込んだ方がいい。
米を売ってDPを稼ごうと考えてるなら独占した方が儲かるかもしれないけど、そんなつもりはない。酒だっていろんな種類飲みたいしさ。
他のダンジョンマスターからの購入時はDPが100分の1にはならなくても、一度でも入手しちゃえば複製できるはずだから、損にはならないはずだ。
まあ、こっちでもそのうち米は作る予定ではある。苗も貰ってるしさ。
この世界には大根がないと乙姫がよく嘆いている、とレヴィアから聞いていたのでカイワレ大根を餌に苗を要求したら、あっさりと送ってくれた。
そうだよな。米ができたらその時はおにぎりにして、沢庵もほしくなるもんな。がんばって育成に成功してほしい。
なお、レヴィアいわく乙姫が一番だとする大根料理は刺身のツマらしい。
……やべえ、気が合いそう。
ここ一ヶ月、フィールドダンジョンの階層を増やそうとDPを稼いでいるんだよね。
この後、ミーアの案内で妖精島での農業での先駆者であるっぽいトレントたちと会う予定だ。ダンジョンにきてくれるといいのだが。
「トレントにつくカミキリムシの幼虫は美味しいよ」
「そっちは食ったことないなあ」
いや、機会がなかっただけで、カミキリムシの幼虫やカブトムシの幼虫は食べてみたかったけどさ。俺はイナゴも平気なおっさんだからね。サソリやザザムシだって余裕。
あっ、Gは勘弁ね。白いギターとジーパンはいらないって。G食べてお腹で卵が孵って死んじゃったってのはデマだったらしいけど、当時の純真な俺は信じちゃってそれ以来Gは駄目なのよ。
イナゴはこの島じゃまだ見てない。以前見たキリギリスやコロギスみたいに巨大な可能性が高いけど、あんまり大きいと佃煮には向いてない気がする。唐揚げとかフライの方がいいかもしれないな。
虫食といえば蜂の子。ネズミに蜂が全滅されてなきゃいいけど。ミツバチがいないと受粉が大変だもんな。
一番虫っぽい妖精なフェアリーが代わりになってくれると助かるんだけど。
掲示板情報で知ってたけど、あいつらとんでもない連中でね、意思疎通が難しいのよ。好奇心旺盛ってのとも違う。なんていうの、芸人気質? しかもリアクション芸人系の。やるなよ、ってことをすんの。
自爆ボタンがあったらまず押すね。そんなタイプ。
フェアリーたちもノームがうちに連れてきてるけど、戦争を避けてっていう感じじゃない気がする。ってか、あいつら兵士にゃ向かないでしょ。
調べてみたら白いギターとジーンズがもらえるのは別のコーナーでしたが
主人公もうろ覚えだったということで




