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閑話 おっさんを知ったギルドたち

クチコミで名前だけだった面子がやっと登場します


まとめは12:00に投稿予定

 ギルド“隠れ里”にて。


「クロ子ちゃんご機嫌だねぇ」


「それはそうよ。どうしたらいいか困っていた子の里親がやっと見つかったんだから」


「温泉カラスだっけ? 役に立てなくてごめんねぇ」


「フロ子ちゃん雪女だもん。しょうがないよ」


 クロ子と呼ばれた少女の背には漆黒の翼が生えており、フロ子と呼ばれた少女は氷のように透き通った髪をしていた。クロ子は【天狗】、フロ子は【雪女】であり、ともにダンジョンマスターでもある。


「温泉に入らないと弱っていくなんてねぇ。寒いところだったらいくらでも協力してあげたんだけど」


「まさかやっと卵から孵った雛があんな進化をするとは思わなかった」


「里親はどんな人なの?」


「スクナのコタローって人。最近ダンマスになったみたい」


 ギルドに設置しているPCで、里子に出したカラスの写真を見ながらのクロ子。里親からお礼のメールとともに送ってきたものだ。

 カラスは気持ちよさそうに温泉に浸かっていた。ご丁寧にも頭にカラスサイズの手拭いを乗せて。


「スクナ? ……それってもしかして」


「なんか小人なんだって。この子に乗って飛んでるってメールに書いてる」


「やっぱり! その人、“和物”よ。うちのギルドに招待しよっ!」


 彼女たちのギルド、隠れ里は妖怪な種族のダンジョンマスターによって構成されている。


「そうなの? メール持ってきた猫は付喪神だったけど」


「なにそれ、見たかった!」


「可愛かったよ」


 クロ子は小動物が大好きなダンジョンマスターだった。その友人であるフロ子もその影響を受けている。


「最近ダンジョンマスターになったばかりなのに付喪神を従えているなんて、これはもしかしたら里子に出したカラスちゃん、面白い進化をするかもしれませんね」


「温泉好きのカラス天狗?」


「それはそれで可愛い!」


 そう微笑みながらもフロ子はPCでスクナの情報を集め始めるのであった。



 ◇ ◇ ◇



 その日、ギルド“農狂”は名前の通りの狂わんばかりの熱気に包まれていた。


「こ、これは!」


「ついに、ついに手に入ったのか!」


 会議室の机に置かれた物を凝視するギルドメンバーたち。

 そこには皿の上に盛られた粒があった。


「ええ。ジャポニカ種、それもコシヒカリ系らしいです。残念ながら稲ではありませんが、高レベルの農業スキルを持つ私たちなら問題なく発芽、育成させられるはずです」


 ギルドマスターであるドリアードクィーンのモミジがその表情を緩ませながら告げた。次には真剣な顔に戻ったが。


「しかし残念ながら手に入ったのはこの一合だけ。失敗は許されません。ギルドメンバー全員で分けます。各自、見事に実らせて下さい」


「全員で分けるんじゃ、一人頭の量はほんと少ねえな」


「食うよりも増やす方が先になるから、美味い米が食えるのは数年後か」


 涎を垂らさんばかりに玄米を見つめるギルドメンバーたち。その目に映る玄米はまるで宝石のように輝いていた。


「“冥府”の妨害があるとは思えませんが、我慢できなくなった他のダンジョンマスターに奪われる心配があります。栽培は極秘で行いましょう」


「そうだな。俺たちだって我慢できるかどうか自信がない」


 ダンジョンマスターたちはDPで米を購入している。それは“冥府”ダンジョン産だったが長粒種であり、しかも精米された物しか出まわらなかったため、栽培や品種改良を行うことができずに農狂の面々は悔しい思いをしていた。


「モミジ、この玄米はいったいどこで?」


「オークションで購入しました。〔育てて流通に乗せられる方限定〕という、まるで私たちのためのような条件でしたので、それほど高くならずにすみました」


「なんと。そのような出品者がいるとは」


「コタローさんという方です。さらにコタローさんは育てた稲の苗を渡せば、交換でカイワレ大根も譲ってくださるとか」


 追加情報を受けて微妙な表情をした者が多い。


「カイワレかあ。普通の大根だったらよかったのに」


「んだんだ。デエコンならなあ」


「馬鹿、知らないのか? カイワレ大根も植え替えて上手く育てれば大根になるんだぞ」


「大根として食べる種類ではなく、カイワレ大根として美味しい種類だろうが、大根として育ちさえすれば俺たちのスキルでなんとかなる!」


 クラノガイアスには大根がない。品種改良によって似た植物を作ろうとしていた農狂メンバーはさらに沸き立った。


「大根までもたらしてくれるなんて……神か!」


「コタロー殿をギルドの名誉会員に推薦する!」


「いや、まずは米の栽培が先だろう。無事に生産せねば顔向けできまい」


「米と大根か。これは収穫できたら大根めしで祝杯だな!」


 その日、農狂は大いに盛り上がり、そして、配分される玄米の数たった一粒の違いで殺し合い寸前にまで発展するのであった。



 ◆ ◆ ◆



 ギルド“傑光(けっこう)”。


「いい加減ギルド名変えないか? 顔を隠して体を隠さず、って言われることがけっこうあってさ」


「忍者らしくていいじゃないか。アーマークラスも下がるし」


「そんな能力値はないっつの! 忍者を変質者にすんな」


 傑光は忍者ギルドであり、ギルドメンバーの全てが忍者を名乗る。


「ならばやはり忍者部隊を頭につけるしか」


「そっから離れろ」


 名乗るだけで、勘違いした“自称忍者”や“ニンジャ”そして“NINJA”も多かったが。

 ここにいる傑光メンバーの姿が忍んでいないことからもそれはいえるだろう。


「そんなことよりも拙者、面白そうなのを見つけたでゴザルよ」


「なんだトビィ、面白いものって?」


「これにゴザル」


 天井から逆さまにぶら下がってノートパソコンを操作していた一人がそれを皆に見せる。



〔〈分身〉スキルのクチコミ

・ダスケ (ハイヒューマン 男 29歳)

 コレジャナイ。

・PSY蔵 (尸解仙 男 19歳)

 残像拳。

・コタロー (スクナ 男 アラフォー歳)

 シューティングゲームのオプションのような感じ。〕



「ダスケのクチコミが使えないのは相変わらずだろう」


「駄スケだもんなあ」


「うっせ。あんなん分身じゃねえよ」


「駄スケ殿ではなく、見せたいのはこっちにゴザル」


 天井下がりが指差したのはコタローのクチコミ。書き込んだのはフーマ……が使う小人さん(レプラコーン)である。


「スクナ? 知らない種族だ」


「ああ。だがこのコードネームには我らに通じるものがある。年齢を暗号で記すのも侮りがたい」


「コードネームじゃなくてハンドルネームでしょ。アラフォーってのはアラウンドフォーティーの略で四十歳前後ってことよ」


 シャド子というアラクネの少女がそう教え、ギルドマスターの反蔵がふむと頷く。

 忍者ギルド傑光は十人にも満たない弱小ギルド。新たな人員の獲得のチャンスかとメンバーたちは目を光らせる。


「分身が使えるならば資格ありと見るでゴザルよ」


「だが、種族特性で分身が使えるだけかもしれん」


「テストしてみるべきか」


「え? このギルドに入るのに資格なんて必要だったのか? 俺、テストなんて受けてねーぞ」


 ダスケの言葉にギルドメンバーたちからは冷たい視線が集中する。

 あまりの居心地の悪さにダスケは顔を反らせて口笛。音が出ていないようで常人の可聴域外の音が出ている、まるで犬笛のような口笛という無駄に芸細な誤魔化しであった。


「ノリが悪いわね。そんなだからあなたは下忍止まりなのよ」


「いや、このギルドにそんな階級制なかったよね?」


「はっ! ここは中忍試験を開催するべきか?」


「他のギルドからも参加者を集める?」


 忍者ギルド傑光。忍者を目指すダンジョンマスターたちが集うギルドである。

 忍者であることが目的のため、どうすれば忍者らしいかを追及するのがギルドの活動であり、忍者となってなにかをする、したいという事がなかった。

 だからわりと暇で、忍者に相応しい行動指針を求めている。


「まずはこのコタローのスカウト及びテストについてだが」


「うむ。忍者らしいスカウトを考えねばいかんな」


「矢文か?」


「地味ではないか?」


 忍者のくせに地味なのは嫌なギルドメンバーであった。

 逆立ちで印を組む、座禅しながら空中に浮かぶ、居合いの構え、等々各自思い思いのポーズで頭を捻る。


「暗号で招待するのはどうだろう? 忍者は頭も使えねばいかん」


「それだ!」


「さすが弾蔵殿。これは反蔵殿の首領の座も危ういかもしれんでゴザルな」


 ギルドメンバーたちの拍手によってその案が採用されたようだ。

 その後、暗号文の内容で悩み、コタローことフーマの居場所がわからないことには矢文など送れないことに気づくのはもっともっと後のこととなる。

 頭を使わなければいけないのは傑光メンバーの方かもしれない。



今回は番外編の『フェアリーライダー・スクナ』とどっちにするか迷いました

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