70話 泣けるでぇ
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11/17 ハイエロファント→ポープ
生き残りの量産型ゴーレムに命じて破壊されたゴーレムの部品とネズミたちの死体を集めさせ、アイテムボックスに回収していく。
ラット・キングが死亡して元の大きさに戻ってよかった。材料としては大きい方がいいが、アイテムボックスを圧迫するし、やつの死体は危険な気がする。破片も残らずに回収しておくべきだろう。
「っと、こいつらを出しておくか」
アイテムボックスの容量にはまだ余裕があって邪魔になったわけではないがノームの石像を全部出しておいた。入れっぱなしで忘れるとまずいからね。
「ハルコにゃ!」
「知り合いか?」
「友達にゃ……こんな姿になって……」
石像の一つ、ノームの女の子を前に悲しそうなニャンシー。出すタイミングまずったかな。
けど、どのみちニャンシーには確認とったはずだから仕方ないか。
「ハルコの家族まで……こんなに多くのノームが日光に当たって石になってしまうなんて……ネズミに食われるよりは石になる方を選んだのかもしれないね」
姿は小獣人に戻ったが、未だに「だねだね」語尾に戻らないミーア。やはり知り合いがこんなことになってショックが大きいのかも。
「石になったノームは元に戻せないのか?」
「残念ながら、妖精教皇でも治したという話は聞かないよ」
「そうか」
せっかくうちのダンジョンの人口は増えると思ったのに。
どうにかして治せないものだろうか。
……おっさんのガラテアスキルならいけるか?
眷属に確実になってくれるんなら使ってもいいかもしれないけど、クールタイムが長すぎるんだよなあ。
「このノームたちの能力と性格は?」
「生産技術が高いよ。妖精の国で使っている物はたいていがノームが作っている。ここにいるノームは性格もみんな真面目だ」
「ハルコはとってもいい子なのにゃ。裁縫が得意にゃ」
むう。ますますほしいな。DP確保だけじゃなくて生産でも役に立ってくれそうだ。
石化を解除する薬をDPで購入しちゃおうかな。日光で石化したノームにも効くといいんだけど。
「む? そういえばたしか……もしかしたら元に戻せるかもしれない」
「本当かにゃ?」
「ああ。嫁さんなら治せる可能性がある。ちょっと行ってくる。ゴーレムたちに回収と警備を続けさせてくれ」
俺はボロボロのゴータローを連れてコアルームへと転移で戻った。
◇ ◇
「ゴータロー!」
半身を失ったゴータローにコルノが悲鳴を上げる。
「ラット・キングが予想以上に手強かった。量産型も何体かやられている」
「倒したのね?」
「ああ。ラット・キングはちゃんと始末したよ」
理由があってとどめはリニアに譲ったけどね。そろそろ目覚めたころかな。
「ゴータローもがんばったのかな。すごいレベルが上がってるみたいだよ。もうすぐ進化できそう」
「そうか。俺は……まだレベルアップしないか」
「フーマは私と同じでなかなかレベルは上がらないわよ」
まあ、ラット・キングとちょっと戦っただけだからな。やつにとどめをさしてたら、種族レベルは上がったのかな?
「レヴィアは石化の解除ってできるか?」
「いいえ。状態異常なんてかからないから、必要性を感じなくてそんなスキルは覚えてないわね」
「そうか。じゃあやっぱりコルノの協力が必要か」
「え? ボク?」
ゴータローの修復はちょっと待ってもらい、コルノとレヴィアとともに台所に移動。アイテムボックスからある野菜を出してコルノに渡した。
「玉葱?」
「それを切ってくれ」
「ボク、料理は……」
「切ってくれるだけでいい」
さすがに6倍サイズの玉葱は大きい。外側から数枚剥がしながら、コルノに包丁で切ってもらった。みじん切りだ。
すると当然、あることが起きるわけで。
「う、うう……」
コルノが泣いている。玉葱のなんとかっていう成分が気化して粘膜を刺激するからだったはずだ。小人の大きさではその影響をもろに受ける。俺まで泣けてきた。……レヴィアは状態異常にならないと豪語しただけあって、平然としているな。
「ちょっとごめんね」
コルノの涙をコップに受けていく。
これぐらいで足りるだろうか?
「も、もういい?」
「うん。つらかったろう。ありがとう」
コルノを抱きしめて頭をなでなで。目を充血させた2人が抱き合ってるのってはたから見ると勘違いされそうな光景だね。
「こんなことなら、昨日の涙も取っておけばよかったね」
昨日の? ……あれか? 初夜のか。結局泣かれちゃったもんなあ。けど、そんな時に涙なんて回収できないでしょうが!
「今夜は泣かないわよ」
赤い顔でレヴィアが告げる。昨夜の、奇麗な瞳にうるうると涙を蓄えたレヴィアたんも可愛かったなあ。
……いかん、思い出したらまた興奮してきた。泣き顔に欲情するなんて俺ってSっ気あったんだろうか。
「た、楽しみにしている。ちょっとむこうに行ってくるから」
これ以上この場にいたら、そのまま二人をセーフルームに連れ込みたいという気持ちが抑えきれなくなりそうなので、転移で逃げ出した。
ダンジョンの方が無事だったか確認しそこねたけど、なにも言ってなかったから大丈夫だよな、きっと。
石化ノームを並べたリニアのテント前に戻ってくる。
リニアも目が覚めたようだ。
「お待たせ。リニアは起きて大丈夫なのか?」
「あ、ああ。お前の魔法が効いて怪我も治ったし、いつまでも寝てらんないって」
「あんまり無理はするなよ」
さっきの戦いといい、この子はギリギリでずっとやってきた印象がある。もうちょっと休んでもいいだろうに。
「それで、ハルコたちを元に戻すのはどうなったのにゃ?」
「これで治るといいんだけど」
コルノから採取した彼女の涙をちょんと一滴、石像となったノームの女の子に垂らすと、石となっていたその身体が徐々に色を取り戻していく。
「な、治ったにゃ?」
「たぶん」
よかった。一滴で石化が解除できるらしい。さすがコルノだ。彼女はメデューサの娘。石化だけじゃなくて、その石化を解除するという涙の力も受け継いでいる。
……封印の眼帯を着けたままでも石化解除の力があるのはおかしいってゲームの時からもツッコまれていたけど、今はそれがありがたい。眼帯なしだったら玉葱も石化しちゃうから、泣いてもらうの大変だっただろうからね。
やがて、その少女はゆっくりと口を動かした。
「……え? こ、ここは?」
「ハルコ! 元に戻ったにゃ!」
ハルコと呼ぶその少女に近づき、よほど嬉しいのか頭でスリスリしたり、鼻キスしたりするニャンシー。
「ノやんスい?」
「そうにゃ! よかったにゃ!」
「オラ、石さなったん違うのけ?」
「マスターが治してくれたのにゃ!」
ニャンシーがそう俺を指したので、ハルコはこっちを向いて頭を下げる。
「オラ、ハルコだぁ。よぐわからんだば、お世話さなったみたいんでもっけだの」
「もっけ……?」
「ありがとうって意味のノーム訛りなのにゃ」
「そ、そうか。俺はフーマ。ちょっと待ってな、残りも治すから」
まさかの方言に驚く俺。ノーム訛りなんてあるのか。エルフが関西弁使ったりするんだろうか。
一滴で石化を治せるので、全ての石化ノームを元に戻せた。またコルノを泣かすことにならずにほっとする俺。
ノームたちからは「もっけだ」「もっけだ」と感謝される。なんか両手を合わせて拝まれているが、きっと気のせいだろう。
「せ、石化が治った?」
「うん。ノームの石化にも効いてよかったよ」
まさか治ると思っていなかったのか、リニアの様子がおかしい。
折れたままの義足で這い蹲るように俺に近づいてきて、そのまま頭を下げる。土下座である。
「頼む! お願いします!」
「ちょ、ちょっと?」
いきなりの土下座に俺は慌てることしかできない。前世でだって土下座なんてされたことなかったもんなあ。
ましてや、猫やノームたちの前だ。非常に居心地が悪い。
「なにとぞ! なにとぞ!」
「だ、だから、なにを頼むんだよ?」
「ディアナ様たちも元に戻してください! お願いします!」
頭を地面に擦りつけたままリニアが懇願する。
そういえば、ディアナたちディーナ・シーは邪神のダンジョンを封印する要石になったって言ってたな。要石ってのも石化なのか?
「そのためなら……あたしを好きにしてくれてかまわない!」
いきなりなにを言い出すのかな、この娘は?




