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69話 ラット・キング

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 ラット・キングの巣穴を攻めに行ったら、あちらさんも総攻撃でほとんど留守だったようだ。

 ニャンシーからの緊急連絡でダンジョンに隣接している巨大空間に転移する。新たな眷属である温泉カラスのクロもいっしょだ。


 リニアのテント前に移動すると、巨大空間内で巨人となったリニアが戦っていた。


「あれがラット・キング? でかすぎだろ……」


「やってきた時はあんなに大きくなかったにゃ。リニアみたいに巨大化したのにゃ」


 ニャンシーはテントの影に隠れるようにして戦いを眺めていたようだ。

 まあ、あの戦いには参加できそうにはないのでしかたがない。


「巨大化? ……それにしてもグロいな」


「化け物にゃ」


 ラット・キングは巨人化したリニアとも互角以上に戦えるほどに巨大でグロテスクだ。くるみ割り人形のねずみの王は七つの頭を持つネズミだったから、ネズミ版のヒュドラを予想していたけど、そんな生易しいものではなかった。

 何匹もの、戦闘中なので数え難いがたぶん二十匹前後の巨大ネズミがそれぞれ尻尾によって絡まって繋がっている。

 しかも、そのネズミの中にはミイラや骨、ゾンビ化してると思わしきネズミも混じっていて気持ち悪い。アンデッドモンスターなのだろうか?


「戦況はどうなっている? みんな生きてるか?」


「連絡したようにゴータローがやられたにゃ。生きてはいるけど戦うのは無理そうにゃ。量産型ゴーレムもたくさんやられちゃったにゃ」


 すぐそばに右半身を失ったゴータローが転がっていた。小人(こびと)だったら間違いなく死んでいるだろう重傷だ。

 それでも左手を上げて生きていることを知らせてくれる。


「ゴ……」


 なんとか喋れるようだが弱々しい。量産型を多く失ったことに責任を感じているのかもしれない。

 とりあえずヒールをかけてHPを回復させるが、ここでは失った部位は再生しない。ダンジョンに戻せばその機能で眷属は再生できる。もっと早くならコルノに直してもらうしかないだろう。


「ミーアは?」


「ラット・キングには雷魔法が通用しないんで、雑魚ネズミたちを始末したから避難してきたよ」


 背後でミーアの声がする。疲れているのか、だねだね語尾を使う余裕もないようだ。

 振り向けば、さっき見た、映画でも有名な女性トレジャーハンターのようなホットパンツの美女ではなく、ニャンシーによく似た猫がいた。これが本当の姿か。ただし、模様は違うようでヒョウ柄の小猫だった。


「あのサイズじゃ雷も効かないのか。嵐もここじゃ呼べないみたいだな」


 なにしろ十メートル以上の巨体が戦っているわけで。俺たち小人からしてみれば怪獣大決戦もいいとこだ。

 お、リニアの剣が巨大ネズミの首の一つを切り落とした!


 これなら勝てるか? ラット・キング、たくさんくっ付きすぎて動きづらいようだし、首を失ったネズミは動けなくなったから足かせ(デッドウェイト)になって……げっ、首なしのネズミの身体を残りのネズミが喰いだした。

 その隙にまたリニアが攻撃するけど、ラット・キングは構わずに自身の身体であるはずのネズミをくらっていく。



「さっきはもっと多くのネズミが繋がっていたよ。君からもらった剣があるからまだ戦えているけど、彼女も疲れてきている。見たところ、ネズミの数が減る度にラット・キングは強くなっている」


「なんて性質(たち)の悪い……首が再生しないだけヒュドラよりマシか?」


 あれは逆に増えたんだっけ。ヘラクレスは切断面を焼いて再生しないようにしたんだよな。


「ラット・キングについての伝承とかないのか?」


「美しい妖精の姫を妻に要求するラット・キングが登場する物語があるよ。姫はいろんな種族に助けを求めるんだ。結局、姫を助けるのは妖精なんだけどね」


 ネズミの嫁入りかよ。嫁に行くのが要求する方に変わっちゃってるよ。

 で、どうやってラット・キングを倒すんだ?


「その妖精がラット・キングのネズミたちの中でどれが一番強いネズミかを訊くと、くっついたネズミたちが戦い出して、相打ちでラット・キングは死んでしまうんだ」


「戦いの参考にはなりそうにないにゃ」


 相打ちどころか、くっついたネズミが減ると強くなっているから、その戦法は使えないだろう。話が通じるかも不明だし。


「せめて弱点がわかれば」


 ラット・キングを鑑定してみる。


[【ラット・キング】

 ネズミのモンスター

 ネズミたちを統率する

 ・

 ・

 ・         ]


 あれ? 巨大化ってのが解説にないな。距離が遠いのか?

 近づくしかないようだな。


「クロ、俺を乗せてあれの付近まで飛べるか?」


 怪獣大決戦を指差すと、温泉ガラスは頷いてくれた。

 本当は小人さん(レプラコーン)にはネズミ特効を持つ白イタチを探してもらってたんだけど見つからなかったみたい。クロはその代わりに十分働いてくれそうだ。


 ラット・キングは今のところ、噛み付き攻撃のみなので、飛んでいれば攻撃はされない。

 例え弱点がわからなくても、ミサイル飛行よりはクロに乗っての飛行なら俺も魔法での攻撃に気合が入れやすいだろう。全てのネズミを同時に攻撃すれば喰うこともできまい。


 ◇


 リニアたちの頭上へと俺を乗せたクロが飛ぶ。至近距離でラット・キングを見ると凄まじい迫力だ。こんなのに俺の攻撃が通用するんだろうか?

 びびりながらも再び鑑定を試みると、やはり距離の問題だったのか、新たな鑑定結果が現れた。


「〈雷耐性〉スキル持ちかよ。ミーアの雷が効かないのはこのせいか」


 そしてやはり〈巨大化〉もあった。他にもかなりのスキルを持っている。キングの名は伊達じゃないようだ。

 中でもとりわけ凶悪なスキルが存在していた。


[〈血肉化〉

 吸収した物が持っている能力を手に入れる可能性がある

 対象は死体でもかまわない             ]


 これか!

 このスキルでリニアの巨大化を手に入れたのだろう。雷耐性も、ミーアの雷魔法でやられた時に耐性スキルを習得できたネズミの死体があったのかもしれない。

 なんというチートスキルだ。


 自分のネズミ(パーツ)を喰ったのも、これによって強化できたということか。自分自身を食っても強化できるなんて、スキルの設定をミスってるよ神様!


 ラット・キングのネズミたちの動きに統率されたものはないけど、強化かそれともリニアの疲れか、彼女の剣によるダメージが減っているみたいだ。

 これ以上強化されないように急がなければいけない。

 リニアと連携して……あれ、リニアの様子がおかしい。もう限界なのか?

 数体のネズミに同時に組み付かれ、噛み付かれて動きが取れなくなっている。

 待ってろ、今ヒールをかけてやるから。


「ガアアアアアアアアァァァァ!」


 突如、リニアが咆哮した。

 巨大ネズミの噛み付きが痛かったのだろうか?

 力任せに両腕のネズミを振りほどき、正面から噛み付いてきたネズミを逆に噛み付き返した。


「まさか、暴走?」


 まるでどこぞの決戦兵器みたいな変わり様にリニアを鑑定したら状態異常で狂暴化(バーサーク)状態になっていた。

 そのあまりの殺気にラット・キングも気圧されたのか、次々と巨大ネズミが始末されていく。

 またネズミ(パーツ)を喰らうネズミも気にせずに攻撃を続けるリニア。顔は既に血塗れでそれが返り血なのか、彼女自身の血なのかもわからない。


 だが、力と引き換えに理性を失ったのは大きな代償だったようだ。残り七匹となった時に、義足である棒が折れるほどに強くラット・キングを蹴りつけてしまい、転倒するリニア。

 四つん這いになっても戦い続けるが、それでは剣が上手く振れず、ネズミたちが動かなくなったネズミを喰らって強化されるのを止められ……。


「ヂュウウウゥゥゥゥゥゥゥヴ!」


 今度はラット・キングが雄叫びを上げた。

 なに、血肉化によって狂暴化も手に入れたってこと?


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!」


「ヂュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥヴ!」


 やばいな。巨体による戦いの振動はうちのダンジョンにも届いているだろう。1層がまた崩れてなきゃいいけど。

 ここでラット・キングをしとめておかないと、うちも危険すぎる。

 今こそ、とっておきの攻撃を出すべきか。


 意識を集中して、空中に魔法の矢をイメージする。氷の矢(アイスミサイル)炎の矢(フレイムミサイル)雷の矢(ライトニングミサイル)石の矢(ストーンミサイル)光の矢(ライトミサイル)影の矢(シャドウミサイル)

 雷は効かないとわかっていても関係ない、いくつもいくつもの魔法の矢が飛行中のクロの周囲、いや、ラット・キングの頭上に出現した。CPを込めたその矢の大きさは1メートルを超えている。辺りを埋め尽くすようなその数はざっと、千。


「奥義! サウザンドォォォォ! ミ! サァァァァァイル!」


 刀印をラット・キングに向かって振り下ろす。同時に千本の矢が巨大ネズミを襲った。


『<地魔法スキル>がLV6になりました』

『<水魔法スキル>がLV6になりました』

『<火魔法スキル>がLV6になりました』

『<風魔法スキル>がLV6になりました』

『<光魔法スキル>がLV3になりました』

『<闇魔法スキル>がLV2になりました』

『<気力操作スキル>がLV2になりました』


 全ての矢がラット・キングに命中し、巨大空間の地面にその巨体を縫い付けて動きを止めた。だが、やつはまだ生きている。

 否! 生かしておいたのだ。


「ガアアアアアアアァァァ!」


「落ち着けリニア」


「ァァァ……フー……マ?」


 リニアの顔のそばまでクロを飛ばし、彼女に声をかける。キョロキョロと辺りを見回して、やっと温泉カラスの上にいる俺に気づいたようだ。


「フーマが倒してくれたのか?」


「いや、まだだ。とどめは譲る。やつの本体は尻尾だ。あの塊を斬れ」


 さっき鑑定した時にわかったのだけど、あのからまった尻尾の中にラット・キングの本体がいる。それが、繋がったネズミを操作していた。骨やゾンビ、ミイラのネズミも混じっていたのは繋がるネズミは死体でもかまわなかったということだろう。


「……わかった」


 彼女は這いずる様に移動して尻尾の塊に近づき、折れた義足を地面に突き刺して剣を振るった。塊の中心が分断されると、ラット・キングが見る見る小さくなっていく。だが、地面に縫い付けられているので、ネズミたちはバラバラになって小さくなった。


「へへ……サンキュな」


 ラット・キングの死亡で安心したのか、リニアも小さくなっていき、そして倒れた。

 急いでクロを着地させてリニアにヒールをかける。ふう、なんとか生きてるみたいでほっとする。

 感知スキルで確認しても付近にモンスターの反応はない。キッチリと倒せたようだ。



 それにしても……奥義の名前、もう少しカッコイイのを考えたいところである。



地魔法LV6(up)

水魔法LV6(up)

火魔法LV6(up)

風魔法LV6(up)

光魔法LV3(up)

闇魔法LV2(up)

気力操作LV2(up)


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