66話 知っているのか雷猫
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「やっぱりボクはレヴィアちゃんといっしょの方がいいかな、って」
「コルノ、あなたはそれでいいのかしら?」
「うん。まだちょっと怖いから」
初夜はまさかの三人で、ということになってしまった。
そういうのはもうちょっと慣れてからだと思ってたのに。
喜ぶ前におっさんも初心者なのでプレッシャーの方が大きいんですが。
「レヴィアもそれでいいのか?」
「かまわないわ。コルノのおかげで私が結婚できたようなものだもの。コルノだけにフーマがプロポーズしても、彼女は私に配慮して承諾しなかったのではないかしら。それを避けるためにあなたは私にもプロポーズしたのではなくて?」
その可能性もあったか。プロポーズ成功に浮かれていた気分が、頭から冷水をかけられたように消える。
なにやってんだよ、おっさん。自分がプロポーズすることばっかり考えていて相手の気持ちをほとんど考慮していなかった……。
きっと受け入れてくれるって信じてないとプロポーズなんてできなかったんだけど、それだけじゃ思慮不足だったな。
「……俺がレヴィアにプロポーズしたのは、コルノのオマケじゃないからな」
「本当に?」
「レヴィアもほしい。それだけだ」
リヴァイアサンの姿はちょっと怖いけど、あれはあれでカッコイイし小人の姿のレヴィアたんは可愛い。ちょっと嫉妬が怖いけど、これはずっと結婚できなかったからだろうから問題はないだろう。
家事もできるし、最高の嫁さんじゃないか。
「……嘘は言ってないようね。あれだけ拒絶していたのにどういう心境の変化かしら?」
拒絶されていた自覚はあったのね。それでも引かなかったんだからよほど追い詰められていたんだろう。俺以外の候補が見つかってたらすぐに乗り換えられていたかもしれない。
「こんなことで嘘なんかつけるほど器用だったら前世でも苦労してない。可愛いレヴィアの姿が広まればきっとすぐ求婚者が山ほど現れたさ。その時に悔しがるのが嫌になっただけだ」
「そうだよね。でももうレヴィアちゃんはフーマとボクのものだもんね!」
俺とコルノの言葉に真っ赤になる新妻。とても可愛い。これが他人のものにならなくて本当によかった。
……コルノの発言が微妙にひっかかるけどね。
「ち、違うわ! フーマとコルノが私のものなのよ!」
「そんなことで張り合わないでいいから」
可愛すぎる。思わずコルノとレヴィアたんの頭をなでなで。
二人とも俺のものなんで争う必要はないんだからね。言うと終わりそうにないんでおっさんは黙ってなでるだけだ。
「コルノ、初夜の準備をするわよ!」
「その前に食事だって。せっかくレヴィアが作ってくれたんだろ。食べないなんてもったいない」
「そ、そうね」
成り行きでプロポーズになだれ込んじゃったけど、そもそも食事の用意ができたって俺を呼びにきてくれたんでしょ。
ちゃんと食べて精をつけて初夜に備えますかね。
「っと、ニャンシーたちにも食事を持っていってやらないとな」
「ニャンシーの姉はいいとしてスプリガンにも?」
「ああ。最初に言っておくけど、浮気とかそういうのじゃないからな。彼女はどうもろくなものを食べてないっぽい。差し入れついでに量産型ゴーレムを置いてきていいか聞いてみる」
もしかしたらネズミがすごい美味くて好物なのかもしれないけど、そんなことはないと思う。怪我もしてたし、栄養をつけないと戦えないだろう。
「それなら私も行くわ」
「わかった、コルノは悪いけど留守番しててくれ。さすがにコアルームを空にはできない」
「わかったよ。夫の留守を守るのも妻の役目だもんね」
いってらっしゃい、と頬にキスしてくれる。
これだよ、これ! 新婚さんっぽい!
「あ、火打石の方がよかった?」
両手で握り拳を作って、擦るように打ち合わせる仕草をする新妻。
そんなものまで基礎知識で転写されちゃったの?
なんかそれだと「お前さん」って呼ばれそうで……それはそれでいいかもしれん。
◇ □ ◇
「彼女がリヴァイアサンなのかい?」
「あら? よくわかったわね」
リニアのテントそばに転移したら、ミーアがレヴィアの正体に気づいた。
「ニャンシー?」
「しゃ、喋ってないにゃ! レヴィア様は妖精たちが大恩あるお方だから粗相のないようにって言っただけにゃ」
「この島の妖精が恩を感じるといったらまずリヴァイアサンなのです。私たちにとっては神様のようなもの。本当にありがとうございました」
だねだね口調じゃないミーアが深々とレヴィアに頭を下げる。
つられる様にリニアもぺこりとお辞儀。
「よい。今の私はリヴァイアサンではなく、ただのレヴィア。いえ、フーマの妻のレヴィアよ。頭を下げる必要はないわ」
「にゃ? ついに結婚したのかにゃ? コルノ先輩はどうしたんにゃ?」
「コルノも俺の嫁だ」
「それはよかったのにゃ。これで気兼ねなくアシュラ様にアタックできるのにゃ」
え? 俺たちに気を使っていたの? あれで?
アシュラ、苦労しそうだなあ。
「悪いがしばらくはダンジョンとの連絡役としてニャンシーはここに出張だ」
「にゃっ?」
「ここが攻略されて、邪神のダンジョンが解放されると困るからな。なんかあったら連絡してくれ」
ここもうちのダンジョンの領域として拡張できれば監視機能が使えるから、そんな手間はいらないんだけどさ。
「あとできればゴーレムを数体、ネズミたちの監視と防衛用に置いていきたいんだけど駄目か?」
「ゴーレムって、あのゴーレムかい? 魔法で動く生命なき人造モンスターの」
「たぶんそのゴーレムだ。うちのダンジョン用に俺たちぐらいの大きさの小さいゴーレムだけどな」
ミーアは本当にいろいろと知ってるな。某書房の本まで読んでいたりして……そうか! だから雷電系の魔法を得意としてるのか。
「わかった」
「いいのか、リニア?」
「フーマは信用できる、と思う。それにリヴァイアサンがいるのなら、常若の国を手にしようと思えば簡単だろう。あたしがどんなにがんばったって勝ち目はない」
「信用してくれてありがとう」
俺への信用よりもリヴァイアサンの脅威の方が大きそうだけどね。
それでも信じてもらえたのは嬉しい。
「本当はこの周囲をうちのダンジョンにして、外部に瘴気が漏れないようにしたいとこだけど、それはラット・キングを倒してからでもいいだろう」
「ラット・キングと戦うつもりか?」
「そうだ。俺としてもラット・キングは敵みたいだからな。ネズミたちの巣穴は見つけている。そこにラット・キングがいるかはわからないが、明日にでも殲滅してくる予定だ」
これ以上草原の生態系を破壊されると困る。
リニアは少し沈黙してから切り出した。
「そうか。あたしも倒しに行きたいけど、ここを離れるわけにはいかない。よろしく頼む」
「まかせろ。こう見えてもおっさんは強いんだ」
ラット・キングがいくら強くても所詮はネズミ。そこまでは強くないはずだ。
油断するつもりもないが、コアをダンジョンに残していくので復活はできる。しかもまだ無料だ。死んだって大丈夫。死ぬつもりもないけどさ。
「これは差し入れだ。しっかり食べて元気になってくれ」
「いいのか」
「ニャンシーが世話になるからな。それじゃゴーレムつれてくるから」
アイテムボックスから用意していた食事を出して渡して、レヴィアを残してダンジョンに転移する。
「ゴータロー、しばらく巨大空間でネズミたちと戦ってくれないか?」
「ゴ!」
頷いたんだよな、今のは。
それならとツルハシとスコップを装備していない量産型ゴーレムを二十体ほど選んだ。
量産型ゴーレムはコルノのがんばりによってかなりの数が生産されているから、この程度減っても問題はない。問題があるとすればゴータローを連れて行くことの方だ。
「レッド、ゴータローがいない間はお前がゴーレムたちをまとめてくれ」
「ドリ」
レッドはかなりゴータローに懐いているからな。ちょっと心配だけど、寂しくなったら眷属チャットでの連絡で我慢してほしい。
「頼むぞ」
「ゴ!」
「ドリ!」
ゴータローとレッドが拳とドリルを軽く合わせて激励(?)しあってから量産型ゴーレム二十体とともにリニアのテントへと再び転移する。
「お待たせ。こいつがうちのゴーレムのトップ、ゴータローだ」
「ゴ!」
「よ、よろしく」
一礼したゴータローに驚くリニアとミーア。それとも量産型の数の方に驚いているのかな。一応配慮して控えめに連れてきたんだけど。
「ゴーレムが喋るなんて文献に載ってなかったんだね」
「ゴータローは特別だからな」
「ゴ! ゴ!」
「普通のゴーレムはそっちの無口な量産型の方だ。お前たち、リニアとミーアの言うことにも従うんだぞ」
量産型たちは無言で頷いた。それも一斉に同じタイミングでだ。ちょっと怖い。
リニアたちもびびって……違うな、リニアは睨むようにゴータローを見ている。
「見かけはゴツイけど、ゴータローはこれで悪いやつじゃないから」
「あ、いや、そういうんじゃなくて……剣を見ていただけだよ」
「剣?」
「あたしが使っている剣は折れたのをなんとか使っている状態だからさ、二本も持っているのが羨ましくて」
あの巨人時に使っていたのはナイフじゃなくて、折れた剣だったのか。……服だけじゃなくて剣も巨大化するのか。
何百年も戦っていて、替えの武器もないのかも。
「ならこれを使ってくれ。普通の剣だけど、折れてるよりはいいだろう」
アイテムボックスからキャプテンソードを出して渡す。名前だけの普通の剣、しかも複製品なので惜しくもない。
「そこまで世話になるわけには……」
そう拒みつつもやっぱり欲しいのだろう。リニアの目はしっかりとキャプテンソードに向いたままだ。
「貰ってくれ。騎士には剣がないと様にならないだろう?」
「うっ。……ありがとう」
恩を売っておけば、この辺をダンジョン化することに反対しにくくなるはず。それに、リニアの怪我が増えるのも防げるだろう。
一人でずっとティル・ナ・ノーグを護り続けたがんばり屋さんを応援したくなったおっさんだった。
■ ◆ ■ ◆
ニャンシーとゴーレムたちを残してダンジョンに帰ってきた俺とレヴィア。
食事を済ませるとコルノとレヴィアは入浴。さっきも入ったけど初夜の前に綺麗にしておきたいんだそうだ。ううっ、意識してしまう。
「平常心平常心……」
無理だ、なにかしていないと落ち着かん。
今のうちにできることは、ええと。
レプラコーンに作業をメモして小人魔法を使った。他にしなきゃいけないことは……。
「セェェェェえフゥ、ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥんム!」
『セーフルームスキルがLV4になりました』
気合を入れたおかげか、セーフルームがレベルアップした。部屋の大きさもCPを使用して強化したので小人用の畳で四畳半ぐらいはある。布団をつなげて敷いて枕を三つ並べた。
って、なんで余計に意識してしまうようなことをしてるんだ、俺は!
布団の上をゴロゴロと転がり続けていたら、コルノとレヴィアがセーフルームに入ってくる。
「なにやってるの?」
「ちゃ、ちゃんと敷けてるか確認を」
しまった。せーフルームの入り口を閉じておくんだった。
慌てて姿勢を正すおっさん。つい、布団の上に正座してしまった。
それに合わせるように新妻二人も俺の正面に正座してくる。
「ふ、ふつつかものですが!」
「こ、こちらこそ」
あれ? 俺も風呂に入っておきたかったんだけど、もう初夜の流れ?
臭いって嫌われなきゃいいけど。この新しい身体は加齢臭ないから大丈夫だよね?
いや、前世のおっさんだってそんなのものは臭わなかったはずだよ!
……いかん、またテンパってきた。落ち込んでる場合じゃない。自分で自分を鼓舞しないと駄目だ。
がんばれおっさん。負けるなおっさん。ファイトだおっさん!
セーフルームLV4(up)




