65話 プロポーズ小人作戦
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「俺がいない間にダンジョンに異常はなかったか?」
「侵入者は相変わらず多いけど、ちょっと減ってきたかな? 問題になるほど強いやつは、きてないよ」
「そうか」
なら、今のうちにプロポーズしておかないと。
侵入者が減っているというのも、ネズミたちに刺激されなくなったんじゃなくて、この近辺の生物の総数が減ってるのが理由な気がする。早急にラット・キングを始末する必要があるだろう。
「量産型ゴーレムたちを何体か、巨大空間の方に回す」
「常若の国を攻めるの?」
「アルテミスを倒すのね」
「逆だって。ラット・キングに邪神のダンジョンを解放されたくない」
うちのすぐ隣にそんな物騒なものが解放されたら危険すぎる。
瘴気の吸収という意味ではいいかもしれないけど、中からモンスターも出てくるようだから、強力なモンスターにダンジョンを攻略される危険がある。
全力で防ぐしかないでしょ。
「ダンジョンの守りも固めて、明日にでもラット・キングを倒さないと」
「明日? 今からじゃ駄目なの? ネズミ程度なら今でも守りきれると思うよ」
「い、いや、今日はまだやることあるし!」
プロポーズしたいんだってば!
あと初夜!
プロポーズ受けてもらったらすぐに結婚ですがなにか?
結婚式なんて招待客はこの世界にいないし、後回しにすると死亡フラグになりそうだってずっと気になっている。ゲームみたいなこの世界でそんなものを立てたままでいたくない。
無事に帰ったら結婚なんて約束は、今にも死にそう。フラグ回避するにはさっさと結婚してしまうのが一番だと思う。
新婚さんも死亡フラグたりえるけど、それは奥さんが妊娠している場合。
俺はダンジョンレベルが足りていないので子供が作れない。
初夜には全く問題ないのだ!
ぶっちゃけた話……モウガマンデキナイ!
ダンジョンの危機という命のピンチに、子孫を残すという本能が反応してるのかもしれないな。子供まだ作れないけどさ。
「やることってなに?」
そりゃもちろん初夜……ってその前にプロポーズして、受諾してもらわないといけないんだった。
前回のように欲望を満たすのだけが目的と思われて、また泣かれたくない。
「そ、その、な」
「……フーマ、なにか隠してない?」
「へ?」
「帰ってきてから、なんかおかしいよ。ボクたちの顔をまともに見てない」
そりゃプロポーズしようと決めてたから、二人の顔を直視なんてしたら緊張してしまうのがわかりきってる。そんなことできるわけがない。
挙動不審になるのも当然といえよう。
「フーマ」
「な!」
声をかけられて我に返ると突然、目の間にレヴィアの顔が迫っていた。彼女の飛行能力は音もなく動けるのがずるい。某鬼型宇宙人のように飛行音ぐらい出してくれ。
動揺してる間に、そのまま可愛い顔が俺に接触してしまう。
「ふむ。熱はないようね」
ぴとっと、おでこどうしを当てたまま判断するレヴィア。
ダンジョンマスターはそう簡単には病気になんかならないってば。
「お、俺は病気耐性スキル持ってるから大丈夫だって」
レヴィアから離れながら誤魔化す。
熱はないけど、俺の顔はきっと真っ赤になっている確信がある。
「ふ、二人ともちょっと待っててくれ、準備があるから!」
「準備?」
「すぐに戻る!」
転移でコアルームから脱出する。
移動したのは2層のボス部屋。誰もいないので、今のうちにここで落ち着いてプロポーズの方法を考えよう。
◇◇◇
指輪はどう考えても無理だよな。
DPで購入することはできるけどサイズもあるから、いきなり用意なんてできない。――後で確認したらサイズ調整できる魔法が付与されている物もあった――
レヴィアがリヴァイアサンに戻った時は装備品がどうなるのかもわからない。服は破けちゃうんだろうか?
装飾品はそれを聞いてからだな。
そうなってくるとプロポーズはどう切り出せばいいかわからない。
指輪ならそれがプロポーズの証だって、コルノも眷属になった時の基礎知識転写で知ってるだろうから渡すだけで済むかもしれないのに!
俺が全部口に出してプロポーズしなきゃいけないのか。……難題すぎる。
誰かにアドバイスを貰おうにもこっちにはそんな知り合いなんていないし……前世でもこんな相談できそうなやつはいなかったね。
アニメや漫画だと死亡フラグだったけど、ドラマや映画だとプロポーズってどうしてたっけ?
「……思い出せん」
恋愛映画やドラマなんて観てなかったよ、前世のおっさんは!
みそ汁作ってくれはコルノには通用しないようだし、直球勝負しかないよな。
「黙って俺の嫁になれ!」
違うな。おっさんのタイプじゃない。それにコルノは眷属だから命令口調だと逆らえないかもしれない。駄目だ。断ることはできるけど受け入れてくれた、って方が安心するし嬉しい。
レヴィアはよくあんな要求できるよな。もしかしたら恥ずかしいから命令口調なのかも。
断られても何度もプロポーズしてくるなんて、よっぽど追い詰められているのだろう。
おっさんなんて、一度でも断られたら立ち直れなくなりそうなのに。
……断られてつらくないはずもない。もっと真剣に応対してあげるんだったな。
いや、それはそれで逆につらいかもしれないか。プロポーズを断る理由を長々と言われたらおっさん死んでしまう。
どうしよう、今度レヴィアに求婚されたらなんて返せばいいのかわからなくなってきた。
その前にこっちからプロポーズするしかない。
先手必勝だ。
「結婚してください」
これが一番無難か。ヒネリのあるプロポーズなんておっさんには無理だ。
でも準備があるっていいわけで逃げてきちゃったから、手ぶらってわけにもいかない。
となると花だろうか。今から探しに行くしかないか。
花言葉がプロポーズになってる花なんてあればいいんだが。
あ、でも小人が通常サイズの花なんか貰っても邪魔なだけかもしれん。
そう気づいて方向転換。ないなら造ればいい。フィギュアのディスプレイ用に薔薇なら何度か造ったことがある。
アイテムボックスから赤粘土を取り出す。レッドに使った素材の残りだ。
赤粘土を小さく幾つかに切り分け、形を作りながら薄く延ばしていく。乾燥しないようにアイテムボックスに出し入れしながらだ。時間停止するアイテムボックスは本当に便利だ。
芯となるパーツにできた花弁パーツを巻きつけるようにくっつけ、それを重ねて……できた。
でも、なんか納得いかない。ちゃんと薔薇には見えるけど、あの美少女たちへのプロポーズに使うには相応しくない出来だ。
これはきっと彫塑スキルのレベルが低いからに違いない。こんな大事な時なのに作業中にレベルアップしなかったのが悔しい。
こうなったらレベルを上げるしかない!
◇ ◇ ◇
ふう。
未熟者のダンジョンでスキルレベルを上げてきたぜ。
ゴブリンと戦いながらの粘土細工はかなりきつかったが、おかげで彫塑スキルが5レベルにまでアップした。
ついでに技巧スキルという種族レベルアップ時にDEXの上昇値にボーナスがつく能力基礎値向上系スキルまでゲットできたよ。これで能力基礎値関係は全て習得した。いつ種族レベルアップしても大丈夫だ。
まだ全然上がりそうにないけどさ。
さっさと薔薇を造らないと。
おお、今度は思った通りに粘土が形作れる。こうしてこうして……!
うん。見事な出来栄えだ。花は真紅で茎は白粘土。10本ほど造って、時間がないので魔法で急速乾燥させる。
「そよ風」
軽いそよ風をしばらく当てて乾燥を促した。
……乾いたかな? 指で感触を確かめる。
よし、硬さはこんなもんだろう。ヒビが入ってしまったものは粘土で補修して再乾燥させて、今度こそ完成だ。
しかし本数が足りない。99本だか100本だかがプロポーズに必要な本数だっけ? いくらスキルレベルが上がってもそんなに造っている時間などない。
「レプリケーション!」
ならば複製するしかないわけで。
以前試した時は赤粘土は複製できなかったが、今回は赤粘土と白粘土を素材に複製する。
「できた!」
1本だけでテストしてみたが、問題なく複製できた。赤粘土を素材にすればちゃんと赤粘土を複製できるようだ。やはり、この赤粘土は特殊な素材になっていると考えるべきか。
って、考えている余裕などない。急がなければ!
「レプリぃケぇション!」
何度も複製して、なんとか100本の薔薇(造花)の花束を2つ用意できた。
これならばきっと成功するはずだ。
……成功するといいなあ。
念のためにもう少しプロポーズを練習しておくか。
◇ ◆ ◇
「結婚してください」
うむ。シミュレーションはばっちりだ。あとは本番、そろそろ行かねばなるまい。
……まだちょっと怖い。景気づけに一杯ひっかけていくか?
駄目だな。昨日はそれで失敗してる。素面でないと相手にも失礼だろう。
深呼吸して、もう一回深呼吸。
「行くか!」
「どこへ行くの?」
え?
声の方向、3層への階段がある部屋への扉が開いていて、そこにはコルノとレヴィア、それにアシュラがいた。
「夕食の用意ができたから呼びにきたのだけど」
「そ、そうなんだ……見てた?」
二人と一頭が無言で頷く。
うわあ、恥ずっ! エアプロポーズを観察されていたなんて……。
あまりの恥ずかしさに転げまわりたい!
「い、行くってまさかプロポーズに?」
「う、うん」
ここで変に誤魔化したらもうプロポーズなどできる気がしないので、恥ずかしいが正直に答える。
「……相手はどっち? まさか二人とも?」
今度は俺が無言で頷くしかできない。
あれ、先制するつもりだったのに、後手に回ってしまったような。
「そう……消そうかしら?」
「はい?」
ええっ、断られるだけじゃなくて、俺、殺されちゃうの?
いくらバッドエンドでもそれはあんまりすぎない?
「こ、コルノは?」
「ボクは……」
頼む。レヴィアに消される前に結婚だけでもしてくれ。……そうなるとコルノは未亡人か。犬に俺の名前をつけられちゃったりするんだろうか。
「結婚してください!」
せっかく造った薔薇の花束を無駄にしないようにコルノに渡す。
「えっ? ぼ、ボク? スプリガンやニャンシーのお姉ちゃんじゃなくて」
「へ? ……まさか俺がリニアとミーアにプロポーズするとでも思っていたのか?」
「違うの?」
「違う! 俺はコルノとレヴィアにプロポーズするつもりなの!」
どうやら誤解されていたらしい。さっき挙動不審を指摘されて逃げちゃったから、そう思われてしまったみたいだ。
すると、レヴィアの「消そう」ってリニアとミーアのこと? 嫉妬で殺すって相当な……さすがレヴィアタンってとこか。
ちゃんと誤解をとかないと二人が危険……レヴィア、動きが止まってない?
「レヴィア?」
「レヴィアちゃん、レヴィアちゃんってば!」
「なぁー」
「立ったまま気絶してる……」
◇◇ ◆
どうやらレヴィアは自分がプロポーズされるというのがあまりにも予想外すぎて、フリーズしてしまったらしい。
さらにその後、気絶から復活すると。
「夢を見たわ」
「……どんな夢?」
「あなたが私にプロポーズするという夢。正夢かしら?」
今度は夢扱い?
どんだけ自分が結婚できないと思ってるんだよ。
「夢じゃないよ、ボクもプロポーズされちゃった」
造花の花束を抱きしめて嬉しそうなコルノ。
彼女は俺の求婚を承諾してくれた。よかったよ。嬉しさのあまり思わず泣きそうになったけど、先にコルノに泣かれてしまって俺は泣けなかった。
「私、に、フーマ、が、プロポーズ?」
途切れ途切れになんとか言葉をつむぎ出して質問するレヴィアたんに俺はもう片方の花束を渡す。
「結婚してください」
返ってきた言葉は承諾でも拒否でもなかった。
「嘘や冗談では済まされないわよ!」
「本気だ」
「こんなことがあるわけが……」
信じてもらうのにちょっと時間がかかった。
結局、レヴィアが用意してた婚姻届に三人で記入してやっと信じてもらえたよ。
「これでボクは人妻だね!」
「正確には小人妻かな」
「クーリングオフはきかないわよ!」
「そんなことしないから!」
……信じてもらえたんだよな?
こんな調子で無事に今日中に初夜まで持っていけるのだろうか。
彫塑LV5(up)
技巧LV1(new)
ポロポーズの花、わかる人いるのだろうか。




