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62話 リニア

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 案内されたリニアの家は巨大空間、光る湖のそばにあった。この距離だと湖面じゃなくて、その下から光が届いてるのがわかるな。


「家というにはあまりにも粗末なものなんだけどね」


「お前が言うな」


 ミーアの言うとおり、それは毛皮でできたテントのような簡単なものだった。横には焚き火の跡もある。

 小猫人の姿のミーアはそこに木の枝をくべて、なにやら呟くと指先から電光(スパーク)が放たれて、ボッと燃え出した。


「リニアは休んでいるんだね。今は身体を癒す方が先なんだね」


「休んでいられるか! フーマたちが敵じゃなくったって、いつまたネズミどもがくるかわからないんだ」


「だからこそなんだね。無理をしていたら負けるんだね」


常若の国(ティル・ナ・ノーグ)を護るあたしは負けない!」


 そう言いつつもリニアはつらそうだった。頭の包帯は外したままだが、毛皮の服の下にも傷があるのかもしれない。

 鑑定するとHPは最大HPの10分の1もなかった。あまりにも痛々しかったのでつい、回復魔法を使ってしまう。


「ハイヒール」


 ハイヒールはヒールの上位魔法なんだけど1回じゃフル回復しないか。ディーナ・シーからスプリガンに進化したらしいし、かなり鍛えているんだろう。


「ハイヒール」


「あ、ありがとう」


 ほほを染めて礼を言うリニア。残念ながら頭部の火傷の跡は治らなかったが、ディーナ・シーのままだったらすごい美少女だっただろうな。


「俺の回復魔法じゃ欠損部位は再生しない。すまない」


「十分だって。これでまた戦えるよ」


「強いリニアがこんな傷つくまで戦い続けるなんて、たしかに無理してるだろ」


 鑑定した結果、今度は種族データだけでなくリニア個人のデータがわかった。前回の鑑定と違うのはやはり距離が関係するのだろうか?

 彼女のレベルはかなり高く、能力も高かった。それなのにHPがあそこまで減っていたというのは、どれだけの激戦を繰り返していたのか。

 それとは別に気になることもわかったけどさ。


『リニア

 スプリガン

 ランクSR(スーパーレア) LV71 女性

 ・

 ・

 (称号:ゼウスの娘)        』


 なに最後の称号。

 ゼウスってあのゼウスだよね。12柱のトップの。ギリシャ神話なら主神の。それの娘さんなの?

 12柱はダンジョンマスターと戦って敗れたって聞くから、それでリニアはダンジョンマスターは敵だと発言したのか。


「ネズミたちはリニアが傷つき疲れているのを知っているんだね。だからここ暫くは何度も襲ってきてるんだね。私がここを見つけなければ、リニアはとっくにくたばっていたんだね」


「だからって、ティル・ナ・ノーグを荒らすことは許さないからな」


「これなんだね」


 ミーアはリニアを貶す様に言っているけど、実は心配しているみたい。仲は悪くないようだ。


「フーマのおかげで怪我も治ったし、何度来たって蹴散らしてやるさ。ディアナ様には指一本触れさせない!」


「その、ディアナ様がダンジョンを封印しているのか? なんでそんなことをするんだ?」


「ダンジョンマスターなら知っているだろう、ダンジョンには二種類ある。ダンジョンマスターが造る瘴気を吸収するダンジョンと、それとは逆に瘴気を吐き出すダンジョン」


 そうだ、俺たちダンジョンマスターの使命は瘴気の吸収。そして、瘴気を生み出す“邪神のダンジョン”の攻略。


「確かに大きく分ければダンジョンは二種類だな。……まさか、封印されているダンジョンは」


「そうだ。瘴気を吐き出すダンジョンだ。瘴気は望まない進化を引き起こす。妖精たちは弱いからすぐに影響が出てしまう。それを防ぐためにディアナ様たちはダンジョンを封印したんだ。自らを封印の要石として」


 そんな理由で邪神のダンジョンが封印されたのか。ディーナ・シーが妖精を護る騎士ってのも間違いではないようだ。

 それにしても、うちのダンジョンのすぐそばに邪神のダンジョンがあったとはね。ダンジョンレベルが10を超えたら邪神のダンジョンに自分のダンジョンを接続できるようになるんだけど、その前に繋がっちゃったよ。

 これって運営に報告しなきゃまずいのかな?


「リニアはなんで、その要石になってないにゃ?」


「……あたしは当時、騎士団に入ったばかりの新米で、ダンジョンが出現したことを隣国に報告しにいくように命令されたんだ」


 ダンジョンの出現を知らせたというディーナ・シーはリニアだったのか。


「あたしが急いでティル・ナ・ノーグに戻った時にはもう、ディアナ様たちは封印の術式を完了させていたんだ。未熟だったあたしは封印の足手まといになるから、除け者にされたんだ」


 リニアは泣いていた。

 塞がっている片目からも涙が次々と溢れている。


「いや、言い伝えによればリニアはディーナ・シーで唯一、島で生まれた子なんだね。邪魔者どころか、とても大事にされていたと思うんだね」


「たしかにあたしは島生まれだよ。でも、あたしだってみんなと一緒にディアナ様のお役に立ちたかった……」


 リニアの涙は止まらない。ああもう、おっさんは女の子に泣かれると動揺するんだってば。

 こんな話を聞かされて、どうすればいいんだよ。


「その後、ずっとティル・ナ・ノーグを護り続けたんだろう。役に立っているじゃないか。誇っていいと思うけど」


「でも……あたしはディーナ・シーであることを捨てて、こんな姿になってしまった」


 レベルアップによる進化は選べるらしいから、スプリガン以外の選択肢もあったのかもしれない。それを気にしているのか。


「ティル・ナ・ノーグを護るために、スプリガンを選んだんだろう。美しさよりも強さを求めて」


「そうだけど! ……それでもラット・キングの誕生を防げなかった。あたしは何百年たっても未熟者なんだよ!」


 体育座りのひざの上に顔を伏せて泣き続けるリニア。何百年もずっと1人で戦い続けて、溜まってしまった思いを吐き出しているのかもしれない。


「こんなのは初めてなんだね」


 リニアの隣に座り、その背中をやさしくぽんぽんと叩きながらのミーア。ここは彼女に任せよう。


「すっきりするまで泣かせてあげた方がいい。ネズミがきたら俺たちがなんとかする」


「頼むんだね」


 感知はずっと使いっぱなしだけど、ネズミの反応はない。

 あとで量産型ゴーレムたちも警備に回そう。



 ◇◇



 傷は治っても疲労が残っていたんだろう、泣き疲れて寝てしまったリニアをテントに運んだミーアが戻ってくる。


「ミーア、リニアの親の名は言い伝えに残っているか?」


「ディーナ・シーで唯一人、母親となったその妖精の名は、カリストなんだね。とても美しい妖精だったと有名なんだね。でも、父親は不明なんだね」


 不明なのか。称号が括弧になってたのって隠されていたか知られてなかったってことなのかな?


「カリストか。……ディアナはやはりアルテミスなのかな?」


「よく知っているんだね。そういう説もあるんだね」


 だってディアナはローマ神話のアルテミスだろ。

 ダンジョンマスターと戦った12柱のアルテミスか。ディアナを狙うって疑われたのはそんな理由もあるんだろう。


 カリストはニンフでアルテミスの従者。アルテミスに化けたゼウスに騙されて妊娠してしまい、いろいろあっておおぐま座になっちゃうんだよな。

 となるとリニアはこぐま座になったアルカスか。ゼウスの子だし。……アルカスは男だったはずだよな?


 ギリシャ神話と完全には同じじゃないようだ。

 リニアはこの島で生まれたらしいし、ダンジョンマスターと12柱が戦っている辺りで、ゼウスがカリストに手を出したのかも。


 アルテミスが妖精になっているってのはよくわからん。ダンジョンマスターから逃げてきたのか?

 レヴィアかヘスティアに聞いた方が詳しいことがわかるかもしれないな。


 あ、ヘスティアが言っていたあの子って、アルテミスのことか!

 目覚めるって復活するってことだよな。

 そうなると邪神のダンジョンの封印がとけるのか……。

 やばいかもしれない。



 戦力強化のためにリニアが寝ている間に眷属契約しちゃおうか……?



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