61話 小人探検隊『恐怖! ストーンヘンジ地底深くに醜い狂暴妖精は実在した!!』
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俺とニャンシーは、ニャンシーの姉であるミーアに案内されてストーンヘンジの中央の入り口から地下へと入った。
「俺たちを連れて行っていいのか? さっき答えなかったけどスプリガンは仲間なんだろう?」
「かまわないんだね。むしろ、封印されているダンジョンと関係ないんなら、力を貸してほしいんだね」
「常若の国を狙ってないというのを信用するのかにゃ?」
「キミのような子を眷属にするやつが悪いダンジョンマスターなはずがないんだね」
それはどういう意味だろう。
もしかしてミーアって姉バカなんだろうか?
それと、スプリガンのことにまた答えてくれない。
会話しながら地下を進む俺たち。うちのダンジョンよりも大きめの通路は既に真っ暗だが、2人の姉妹は猫らしくちゃんと見えているようだ。
俺も暗視スキルのおかげでなんとなく見えているけど、ぼんやりとといった感じでしかない。前を歩くミーアのホットパンツから伸びた生足や尻尾もはっきりと見えない。
付け根がどうなってるか気になるんだけど。
『暗視スキルがLV2になりました』
……少しは見やすくなったかな。
ウィンドウ関係は暗闇でもはっきりと見えるのでマップは確認できる。今は真上から見たマップだけでなく横から見た図も表示しているけど、けっこう深くまで潜っているようだ。
「ミィアはなんでそんな姿なんかになっているのにゃ?」
「こっちの方が調査がしやすいからなんだね。小人化スキルはずっと覚えたかったんだね」
小人化スキルか。レヴィアが覚えたのと同じスキルだけど、持ってるやつってけっこう多いのだろうか?
だとしたらうちのダンジョンも危険かもしれない。勇者が覚えてないといいなあ。
◇◇◇
地下を歩くこと1時間くらいだろうか。暗視スキルもレベル4までアップしてしまった。かなり先まで見えるようになっている。ミーアの尻……後姿もよく見えるようになった。
「この先なんだね」
ミーアが道を塞いでいる大きな石を指差す。
石の手前には木が嵌められていたようだが、通り抜けられるぐらいの穴が開いていた。それを塞ぐために石を置いているのかもしれない。
「扉があったんだけどネズミに食い破られたんだね。ここはもう通れないから、こっちなんだね」
「ネズミたちはここまで来てるのか」
ここまでの通路は一本道ではなく、途中に分岐もあって迷いそうだった。案内がなければ俺たちもここまで来るのにはもっと時間がかかったはずだ。
「あいつらにとっちゃ巣に帰るみたいなもんなんだろうね」
「巣から出ないでくれりゃいいのに」
「全くなんだね。ゆっくり遺跡を調査したいんだね」
通路を塞いでいる石を迂回するように歩き続けて数十分。疲れはないけど、マップを見ていると遠回りしているのがわかって気が滅入る。さっきの石、動かしちゃえばよかったな。
「明るくなってきたにゃ」
「遺跡の光なんだね」
うちのダンジョンと繋がった巨大空間も真っ暗ではなかった。マップを見ると繋がった場所からは離れているけど、やはり同じ場所のようだな。
やがて、通路を抜けて大きな空間へと出た。天井も高い。あの巨大空間だ。
見回すと、湖とも呼べそうなほどの大きな水場があった。その表面が発光している。ここの明かりは、あれが発していたのか。
洞窟内の光る湖。とても幻想的な風景だったけど、俺が思い出したのはスペシャルな探検隊のテレビ番組だった。
「あの底にティル・ナ・ノーグとダンジョンがあるんだね」
「湖の底か。ダンジョン、封印されてなかったら水没してるんじゃね?」
排水口ががんばっているのかね。
あとさ、ダンジョンから出てラット・キングになったっていうネズミはこの湖を泳いだんだろうか?
「止まれ!」
突然、怒鳴られてしまった。ミーアでもニャンシーでもない。別の声だ。
その声の方を向けばいたのは、鉤爪片足包帯頭の小人。
「貴様、なんのつもりだ!」
「命の恩人くらい、ちゃんと名前で呼んでほしいんだね」
「答えろ!」
「ダンジョン関係者を連れてきたんだね」
ミーアが返したその言葉にスプリガンの雰囲気が変わった。
風もないのに、頭部を巻いている包帯の端が浮き上がる。そして、包帯の奥の鋭い眼光。俺の背筋に冷たいものが走る。これが殺気か。
「待つんだね。その身体で戦うのは無理なんだね」
「あたしはティル・ナ・ノーグの騎士、リニア! ティル・ナ・ノーグを護るのがあたしの使命だ!」
あたし……声でまさかとは思ったけど女だったのか。
包帯や鉤爪、片足のインパクトが強すぎて気づかなかったけど、よく見ればかなりの巨乳さんだった。小獣人なミーアの胸も大きいけど、それよりもはるかに大きい。小人でも爆乳っているんだね。
さらに大きいだけではなく、形も悪くなさそうだ。
っと。名乗られた以上、こちらも名乗らないといけないよな。
「俺はダンジョンマスターのフーマ。争うつもりはない。ティル・ナ・ノーグが封印したっていうダンジョンとは無関係だ」
「ダンジョン、マスター?」
「そうだ。敵対するつもりも、ティル・ナ・ノーグを狙うつもりもない」
声はけっこう可愛い。包帯に隠された顔はどんななんだろう?
……腕と脚の状態から考えると酷い怪我をしている可能性が高い、か。
「貴様、ディアナ様を狙っているのか!」
「ディアナ様って誰にゃ?」
「ティル・ナ・ノーグを治めていたディーナ・シーの女王なんだね」
ディーナ・シーのディアナか。ディアナ・シー?
その名前はちょっと引っかかるものがあるな。ヘスティアが去り際に言っていた「あの子」ってもしかして……。
「ダンジョンマスターは敵だ!」
「だから戦うつもりはないっての! ディアナなんて知らないし」
「なんだと! 貴様、ディアナ様を知らないと言うのか!」
あれ? 余計に怒らせちゃった?
このスプリガン、話が通じない系の騎士なのか。格好は騎士っぽくないけど。どちらかというと海賊だ。
ディーナ・シーなら姫騎士を期待できたのに。
「リニアはティル・ナ・ノーグの騎士なのにディーナ・シーじゃないのか?」
「姿形がたとえどうなろうとも、あたしはティル・ナ・ノーグを護る騎士だ!」
「リニアも元はディーナ・シーだったらしいんだね。進化して醜いスプリガンになってしまったんだね」
ミーア、本人の前で堂々とそんなことを言わないだげて。
女性にそんなことを言っちゃ駄目でしょうが。
ほら、包帯の奥の目が少し涙目になっているじゃないか。
「え、えっと、そんなに醜くはないと思うけど? その手足だってティル・ナ・ノーグを護ろうとしてそうなったんだろ? がんばり屋さんじゃないか」
「……ふ、ふん! 口ではどうとでも言える。この顔を見てもまだそう言えるか?」
いきなり包帯を外し始めてしまうリニア。見られたくなくて隠してたんじゃないの?
なんで見せるのさ。醜いって言われたいんだろうか。そう言った相手なら容赦なく殺せるから?
「どうだ?」
「うん。酷い怪我だ。ちゃんと治療してるのか?」
「は?」
包帯の下のリニアの素顔は酷かった。ただし造形ではなく、状態が。
顔の半分から頭頂部にかけて火傷だろうか、腫れて爛れて片目まで塞がっており、髪の毛もほとんどない。
だが、それだけだ。
別に鼻が豚のようになっているとか、耳まで口が裂けているとか、顔のパーツの位置が違う、さらに小さい顔が生えている等といったクリーチャー的な要素は感じられない。
「こ、この顔が怖くないのか?」
「その程度で怖がれるか」
ゾンビ映画に比べたら余裕すぎる。エージンとこのリアルゾンビも映画のより怖くなかったな。こんなんじゃ恐怖耐性スキルも手に入りませんがなにか。
あ、精神異常耐性スキルのおかげで怖くないのかな? でもレベルアップしてないからそんなに怖くないってことでいいんだろう。
美少女と会話する方がよっぽど緊張するっての。
「マスターはすごいのにゃ」
「これで信用しろとは言わないけど、とりあえず戦うつもりはないことはわかってくれないか?」
「あ、ああ」
包帯を巻き直すリニアの頬が赤いのは怒ってるからじゃないといいな。
まあ、ちょっと優しくされたぐらいで自分に気があるんじゃないかと思う前世の一時期の俺みたいなこともないだろうけどさ。
暗視LV4(up)
リニアの名前はパトリニア(女郎花)から。
なぜオミナエシなのかはお察しください。




