60話 ミーア
俺とニャンシーの話に割り込んできたのは、ネコミミの小人だった。
尻尾もついている。瞳も猫のように縦に長い瞳孔だ。
獣人にも小人っているのかな。
声はニャンシーの姉に似ているらしい。
ん?
今、俺とニャンシーは日本語で話していたよな。
「おい。日本語がわかるのか?」
「ダンジョンマスターが使う言語だね。つまり、あなたはダンジョンマスターなんだね。その子は眷属。文献の通りならそうなるんだね」
古事記にもそう書かれているってやつか。
ダンジョンマスターってばれちゃったけど、どうしようかな。
こっちばかり正体を知られるのも悔しいので鑑定してみる。
『ミィア
ケット・シー・シンガプーラ
ランクR LV48 女性
・
・ 』
さっきのスプリガンは種族しか鑑定できなかったけど距離のせいだろうか、名前やレベルといったもっと詳しいことまで鑑定することができた。
種族レベルたっけー。もう少しで進化できるんじゃないのか?
進化はたしか、種族ランクがNからRになるには25レベル。RからSRになるには50レベル。SRからSSRになるには75レベルの種族レベルが必要。
種族によってはさらにアイテム等の条件が必要な場合もあったはずだ。
「ミーアってニャンシーの姉の? 生きていたのか」
「にゃ? これがミィア?」
「姉の顔を見忘れるなんて薄情な妹なんだね」
「小人化してるんだからわからないのも当然だと思うけど」
ミーアの状態は小人化中となっていた。リヴァイアサンと同じく小人化のスキルを持ち、それを使用しているみたいだ。
ネコミミや尻尾等、獣人みたいになっているのは小人化スキルのレベルが低いせいだろう。
「そんなことまで見破れるとは、ダンジョンマスターってのは凄いんだね」
「小人化?」
「ディーナ・シーは元々はもっと大きな種族だったらしいんだね。彼女たちは小人化のスキルを使ってこの島にやってきて、やがてディーナ・シーに進化したんだね。その古文書を見つけて、やっとここまで変化できるようになったんだね。スキルレベルが低いから、まだ完全には小人になれてないんだね」
やはりレベルが低いと獣人っぽくなるのか。エージンが狼化のスキルレベルが低いと耳と尻尾だけの狼化って言ってたけどその逆だな。
んで、ディーナ・シーの謎がまた増えたな。元は大きな種族?
どういうことなんだってばよ。
「生きてたならなんで戻ってこなかったにゃ? みんな心配してたにゃ!」
「やっと常若の国を見つけたんだね。でも、調査は全然進んでいないんだね。それに今、国に戻ったら戦いに巻き込まれるんだね。ずっと軍に誘われていたんだね。そんなのはごめんなんだね」
「軍?」
「ミィアはケット・シー最強なのにゃ」
なるほど。このレベルならそれも納得か。
種族レベルだけじゃない。スキルも豊富に持っている。風魔法スキルだけじゃなく雷魔法スキルもあるし。雷系の魔法は風魔法スキルで使えるのに、特化したスキルまで所持しているなんて……。
「さっきの雷はミーアがやったのか?」
「ミィアなんだね。やはりさっきのおかしな手応えは君だったんだね」
となると、感知に引っかかったもう1つの反応はミーアのものか。小人化を解いて元のケット・シーになってスプリガンを乗せて走ったのかな。それならあれだけの移動速度もわからないでもない。
「俺はダンジョンマスターのフーマだ。スプリガンはミーアの知り合いか? 俺はティル・ナ・ノーグに興味はないから敵対したくはないんだが」
さっきの強烈な雷がミーアのだとしても、スプリガンが強力なのには変わりがない。戦闘になるのは避けたい。
「それはおかしいんだね。ティル・ナ・ノーグはダンジョンに狙われているんだね」
「別口だ。俺のダンジョンは最近できたばかりで、ティル・ナ・ノーグの滅亡には関係していない……狙われている? 狙われていた、じゃないのか?」
「本当にティル・ナ・ノーグを狙ってないんだね? ネズミたちとは無関係なのかい?」
「本当に狙ってないにゃ。ネズミとも無関係にゃ。ニャンシーはネズミたちに襲われたにゃ。それをアシュラ様に助けてもらったにゃ」
アシュラ様ってどこぞのアイドルのおっかけか。
ネズミのことを聞いてきたってことはネズミがティル・ナ・ノーグを狙っているダンジョンに関係してる?
「アシュラ様って誰なんだね? それにニャンシー? 君はノャンスィなんだね」
「アシュラ様はマスターの眷属にゃ。とってもかっこいい猫にゃ! アシュラ様がニャンシーの方が可愛いって言ってくれたからニャンシーなのにゃ」
「やれやれ。恋のためにダンジョンマスターの眷属になるとは……君らしいんだね」
「いや、それには同意できるが、ニャンシーが眷属になったのは治療のためだ。ネズミに襲われて重傷だった」
部位欠損を治すまでの回復魔法はまだ使えないから、ニャンシーの足を治すには他に方法がなかった。……ということにしておこう。万能の霊薬をDPで購入したり、ゴーレムな義足を用意したり、といった手段もないわけじゃないんだよね。
「ミィアのことを聞きにトレントに会いに行ったらネズミたちに襲われたにゃ」
「トレントのところにまでネズミが現れたんだね?」
「トレントも襲われてたにゃ。ニャンシーはそれを止めようとしたにゃ」
「その後だと思うけど、俺はでっかい芋虫をネズミたちが巣に持ち帰るのを見た。トレントについてた虫が目当てだったんじゃないか?」
木材は運んでなかったから、トレントを食材や素材として襲っていたわけじゃないはずだ。
「トレントたちが……あいつらはノロマだけど気のいいやつらなんだね。心配なんだね」
「友達だと聞いた。見に行くなら近くまで運んでやるぞ。黒バジリソのとこまでだけど」
「……ありがとうなんだね。だけど、今は無理なんだね」
少し考えてから断るミーア。その顔はとても辛そうだ。
本当は行きたいのだけど、行けない理由があるのだろう。
「ネズミたちが栄養をつけて数を増やしてるのがわかった以上、ここを離れるわけにはいかないんだね」
「ラット・キングと戦っているのかにゃ?」
「ラット・キングはたぶんダンジョンから出てきたモンスターなんだね。ティル・ナ・ノーグを狙っているんだね」
ダンジョン産のモンスター? 他のダンジョンマスターの眷属なんだろうか。邪魔しちゃまずいかな?
でもたしか、ダンジョン同士で潰し合うことがあまりないように、ダンジョンの近くにダンジョンを創ることはできなくなっていたはずだ。つまり、この辺はうちのダンジョンのテリトリーでいいんだよな。
「なんでラット・キングがティル・ナ・ノーグを狙っているって考えるんだ? ラット・キングがそう言ったのか?」
「違うんだね。ラット・キングのダンジョンがティル・ナ・ノーグによって封印されているからなんだね」
「封印?」
「そうなんだね。ラット・キングはたぶん、封印の隙間から出てきたネズミがダンジョンから離れた場所で進化したものなんだね。力を蓄えてダンジョンを解放するために戻ってきたんだね」
ダンジョンを封印? そんなことができるってディーナ・シーってとんでもないな。元は違う種族っていったいなんだったんだよ。
でも封印には隙間があって、そこからモンスターが出てくることがあるのか。
……そんなのと、うちのダンジョンが繋がっちゃってるってマジか?




