59話 謎草の正体
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巨乳ムチムチOLなヘスティアが去った後、やっと使えるようになった電話を使い、保険屋に説明を受けた。
かなり緊張した。あっさり流されて契約しそうになってしまったが、小人用の契約がなかったのでそのギルドは見送った。
残念だ。保険には入るつもりだったのに。
PCを立ち上げて比較サイトで検証して結局、大手ギルドのとこで保険を申し込む。
ダンジョンレベルが10になる前に契約しておけば毎月のDPの支払いもそれほど大きくはない。
保険の契約を急いだのはそれだけが理由ではない。
「スプリガン?」
「ああ。ニャンシーはなにか知らないか?」
目覚めたニャンシーにさっきの妖精のことを聞いてみる。
なお、片手でニャンシーを片手でアシュラもモフモフしながら、だ。朝からいろいろと刺激され続けている性欲を誤魔化すために動物で癒されたい。
「知らないにゃ。ミィアはなんにも言ってなかったのにゃ」
「そうか」
モフモフモフモフモフモフ。癒されるぅ。
コルノとレヴィアの目が冷たい気もするが、気にしたらいけない。
「鑑定した感じ、遺跡の守護者らしいから遺跡、つまり常若の国がある可能性が高い」
「やっぱりあの地下空洞?」
「たぶん。ストーンヘンジの入り口から調査しないとはっきりとは言えないけど」
ぷにぷにぷにぷに。なんで肉球ってこんなにも素晴らしいんだろう。
しかも俺が小人な分、肉球は大きい。小人っていいなあ。
「もし敵対することになったら、かなりやっかいな相手だ」
巨人になるだけでもやっかいだが、元は小さいようなのでこのダンジョンにも侵入できるだろう。この時点でうちのアドバンテージが1つ潰されてしまっている。
ダンジョン内で嵐を呼べるかは不明だが、もし呼べるのだとしたら困る。豪雨の水攻めは排水口にがんばってもらうとしても、あの雷は凶悪だ。
もう一体のだと思うがあの移動速度も脅威である。地下に入ってからだから、ダンジョン内でも同じくらいの速度を出せるはずだ。うちの3層の迷う構造を突破するのって簡単ではないだろうが危険すぎる。
このダンジョンもどうなってしまうかわからないので保険の契約を急いだのだ。
「遺跡の守護者なら、遺跡に手を出さなければいいんじゃない?」
「その遺跡とダンジョンが繋がっちゃったっぽいんだよなあ」
「そうだったね」
一応、穴は埋めてはあるけどさ。
遺跡の敵とみなされて戦うことになるかもしれない。
「ネズミと戦っていたのよね?」
「ああ。ネズミたちが遺跡にもぐり込んだんじゃないか? 入り口はあるんだし。ビッグラットは入れる大きさじゃなかったけどさ」
ビッグラットってのも、この辺には向かないモンスターだよな。あの大きさじゃプレーリーウルフの巣穴にだって入れないだろう。
……あれ?
じゃあなんで、あんな数のビッグラットが来ていたんだ?
まるでスプリガンと戦うことが前提だったみたいじゃないか。
「もしかしてラットキングってティル・ナ・ノーグを狙ってる?」
「そうなのかにゃ?」
「情報が少なすぎて正解かはわからないけど、それもありえるかもしれない」
それなら、ネズミがあまりこのダンジョンに来てないのも説明できるかもしれない。目的地はティル・ナ・ノーグでストーンヘンジの入り口から入ってるとすれば……。
魔王軍と遺跡が繋がったと知られたら、あのネズミの集団もくるのか。ビッグラットは入れないだろうけど、あの数は嫌だな。
「スプリガンと早めに話をつけてくるべきか。……気が重い」
「戦うの?」
「いや、話し合いだ。ティル・ナ・ノーグは気にならないでもないけど、無理してまでほしいもんじゃないんで、ダンジョンは敵対関係にはならないと説明する」
遺跡ってのはちょっとロマンがあるけど、安全第一だ。
話が通じなそうだったら引越しも考えないとな。
「できれば協力してネズミと戦いたい。敵だと厄介だけど味方ならあの力は頼もしい」
「眷属にするのかにゃ?」
「なってくれればね。無理矢理はしない」
「ニャンシーの時と違うにゃ」
そりゃニャンシーの時は治療も兼ねてたからね。あとケット・シーは油断できない印象があるから、嘘をつけないようにしたかったのもあった。
「ニャンシーもきてくれ。同じ妖精の方が話を聞いてくれるだろう」
「マスターは妖精じゃないのかにゃ?」
「よくわからん」
俺の種族、スクナってなんなんだろうな?
精霊語を最初から覚えていれば温泉妖精って思ったんだけど。
レア上位種族ってことで珍しい種族なのは確かだ。でも詳しいことはよくわからない。
前世で調べておけばよかったか。でもあの時は時間がなくて焦ってたしなあ。
「とにかく、傷を治すぞ」
眷属関係のウィンドウを開いて、ニャンシーの項目を呼び出す。治療にかかるDPは……なんだ、思ったより安いな。これならもっと早く治してやるんだった。
治療を決定すると、ニャンシーの傷口が光り出す。
「にゃっ……!」
光がぐにゃっと足の形になって、それからフッと消える。光が消えたあとは、元通りになったニャンシーの足があった。
「さすがに早いな。どうだ、歩けるか?」
「試してみるにゃ」
はじめは4足でゆっくりと歩行を試していたニャンシー。立ち上がって2足歩行しだして調子に乗る。走ったりジャンプしたりして動きを確認すると、スキップやダンスステップらしき動きまで……トラ縞の猫じゃないけど、ムーンウォークでも教えてみようか?
「治ったにゃ。魅惑の脚線美の復活にゃ!」
「脚線美って……そうなのか?」
「な」
アシュラに聞いてみたけど肯定か否定かわからん。まあ、わかったところでどうということもないが。
「それじゃ、さっそく行くぞ」
「もうかにゃ。猫使いの荒いマスターにゃ」
「この案件は後回しにできないんだよ。それじゃ、行ってくるから。もしもの時はダンジョンコアを持って逃げてくれ」
レヴィアの水跳躍も自分以外を運べるから、コルノとダンジョンコアも一緒に脱出できるはずだ。
「私が戦った方が早いわよ」
「瘴気が出すぎちゃうからそれは止めてくれ。俺が死んじゃうかもしれないからまだ復活は無料でいたい」
「そんな危険なとこに連れてかれるのかにゃ」
なんかニャンシーが嫌そうだ。寝かせて後ろを向いている耳からいって間違いないだろう。
「ケット・シーは口が上手いから大丈夫だ」
「根拠のない保証はいらないにゃ」
「フーマ、ニャンシー、気をつけてね」
「……行ってくる」
思わずコルノとレヴィアに「あとで大事な話がある」とか言いそうになったけどなんとか耐えた。だって死亡フラグになりそうだからね。
無事に戻ってきてプロポーズするつもりだけど、思わせぶりなことはしないぞ。
◇◇◇
「転移って便利なのにゃ」
「ああ、ニャンシーは意識ある時の転移は初めてだったか」
俺とニャンシーはちっちゃいストーンヘンジに転移した。
いきなり地下の巨大空間に行かないのはダンジョンが繋がったのを悟られないようにとの用心のため。
「この辺の草はもっと小さければいいのににゃ」
「謎草が小さく? ……ああ、猫草か」
たしかにもう少し小さければ猫草っぽい葉っぱかもしれない。
そういや鑑定スキルのレベルが上がってからは鑑定してなかったな。
『イネ科の雑草
名前はまだない
妖精粟の原種に近い
種子の部分を食用に使えないこともない 』
妖精粟?
え? 穀物だったの、これ?
でも粟ってどうやって食えばいいのかわからん。種子の部分っていわれてもそんなものも見当たらないし。まだ早いのかな。
「妖精粟って知ってるか?」
「昔は食べてたらしいにゃ」
昔は、か。せめて妖精栗だったらよかったのに。あー、天津甘栗食べたくなってきた。剥いてあるのじゃなくて、昔みたいに石焼きで焼いてるのが食いたいな。
「この島に小さき妖精たちが渡ってきた当初の貴重な食料となったのが妖精粟なんだね。たぶんこの付近の草をトレントたちが品種改良したのなんだね」
ストーンヘンジの中央、地下への入り口から声がしてきた。
スプリガンか?
「その声はミィア? 生きていたの……誰にゃ?」
声を聞いて駆け寄ったニャンシーだが、入り口から出てきた相手を見て途中で立ち止まる。
その相手は小人だったがスプリガンではないようだ。
「ネコミミ……だと?」
出てきたのは頭の上に猫の耳と、腰からはゆらゆらと揺れる長い尻尾を生やした小人の女性だった。




