57話 ジリリリン
感想、評価、ブックマーク登録、メッセージ、誤字報告、ありがとうございます
かぽーん。
うん。小人サイズ用のプラスチック桶がいい音出してる。
前世の銭湯とかによくあった薬品の広告がプリントされた洗面器だ。まさかDPで買えるアイテムの中にあるとはなあ。
「足がつくお風呂も悪くはないわね」
「足がつく?」
「乙姫のところのお風呂はこの姿では大きいわ」
ああ。竜宮城の浴場ならそりゃさぞかし立派な……竜宮城は水ん中じゃないのか。ダンジョン内には空気があるのかね?
「ふーん。海底のダンジョンかー。こっちのボク、いるかなー?」
「珊瑚はいなかったと思うけど。コルノは珍しいのではなくて?」
「そっかー」
前世でも業界初とかコルノはいわれてたらしいもんな。ギリシャ神話でも確かにメデューサの血から珊瑚が生まれているけど、どっちかっていうとアイテム枠だし。
グレートマキアはシリーズが進むにつれて擬人化キャラも数を増やしたっけ。アイギスやゼウスの雷霆もヒロイン化した時はさすがにネタがつきたと思ったよ。
雷霆かー。さっきのスプリガンの雷も凄かったな。もっと距離が近かったらエアーコートじゃ防げなかったかもしれない。
あれとは戦いたくないなあ。
「フーマも入ろうよ」
「……よく身体を洗わないとお湯が汚れるから。泥だらけだしさ」
いくら浴槽を大きくしたといっても3人がいっしょに入ったら密着しそうだ。そんなことになったら元気になっちゃう子がいるでしょ!
今だって必死に別のことを考えるようにして誤魔化しているのに!
「じゃ、ボクが背中洗ってあげるね」
ざばっと湯船から出たコルノが俺の背後に回る。
せめてタオルを巻いてくれ。
「なら私は前かしら」
レヴィアまで。おっさんの理性にダメージを与えるのはもう止めて下さい。タオルの下の寝た子を起こさんでってば。
◇◇◇
「気持ちよかったねー」
「ええ。またお願いできるかしら?」
「そ、そのうちね……」
疲れた。
もう、このままやっちゃっていいかな、なんて誘惑によく耐えたよ俺!
彼女たちの申し出は丁重にお断りさせてもらった。かわりに、なぜか俺が洗うことになってしまい、身体は我慢できそうになかったので髪を洗うことになったわけで。
「あのシャンプー、乙姫にも持って行きたいぐらいよ」
「美容院で使ってるやつだからね。複製できれば渡せるかな」
美容師だった前世の弟にもらったシャンプーはいくつかアイテムボックスにある。それほど香りが強くないのが俺の好みだったり。
なのに、湯上りのコルノとレヴィアからはなぜかいい香りがして。素人の俺が洗ったはずなのに髪の艶もアップしていて、魅力度アップしているよ絶対。
「こんなに綺麗になると切るのがちょっと勿体ない、かな?」
「コルノは長い髪も似合ってるよ」
「へへへ」
コルノの髪は切っても眼帯を外したら伸びちゃうんだよな。ショートカットのコルノが好きで、前世ではオプションの紅髪ヘッドは使わずにフィギュアを飾っていたけど、長い髪のコルノも可愛い。
「残念ながら私の癖毛は治らないようね」
「癖毛だったの、それ?」
レヴィアの髪を洗って、ツインドリルは崩れて緩くウェーブのかかった状態になってたんだけど、風魔法で髪を乾かしたら一瞬でツインドリルに戻ってしまった。ドリルじゃないレヴィアたんも可愛かっただけにちょっとだけ残念だ。
どうしよう。レヴィアを可愛いと思ってしまっている自分がいる。
この小さな外見だけじゃなくて、ライバルなはずのコルノと仲良くやってくれたり、俺を助けてくれる性格も含めて、だ。
まだ僅かな時間しか一緒に暮らしていないのに、もう結婚してもいいよね、な気持ちになってきている。
……というか我慢の限界。おっさんの理性はゼロ寸前よ。
今夜あたりプロポーズして、そのまま流れでいたす、ってことにしないとまた暴走しそうで怖い。
暴走してもやることは同じなんだけど、無理矢理よりは同意の上での方がいいわけで。
いや、リヴァイアサンには無理矢理なんてそれこそ無理なんだけども。
いかん。さっきからそのことばかり考えてしまっている。
他にも考えなきゃいけないことは多いのに。
ジリリリン! ジリリリン! ジリリリン! ジリリ……。
突然の音に思考がストップさせられる。
なんだこの音、どっか懐かしさを感じるけど。
発生源を探すとすぐに見つかった。音は大きな電話機が発している。
「黒電話かよ。いつの間に……」
コアルームのパソコンデスクの隣にダイヤル式の昔懐かしい黒電話が出現していた。運営が俺の質問メールに応えてくれたのだろう。
……ただし、普通の人間サイズだったが。でかいっての。
うるさいので、巨大な受話器を取って電話に出る。
「もしもし?」
「はい、こちらダンジョンマスターサポート部コールセンターです。本日はなんのご用件でしょうか?」
女性の声だ。ダンジョンマスターサポート部? コールセンターって運営さんいったいどんな勤務形態なんだよ。
でかくて使いづらい受話器を置いてマイク側に向かって話す。
「あの、電話が鳴ったんで取ったんですけど」
「あっ……そうでした。電話がないということで設置したのですが、ちゃんと使えているでしょうか?」
電話が使えているかって質問を電話でするのか?
ちゃんと使えていなかったら、質問に答えることすらできないでしょうに。
「電話回線はちゃんと繋がっているようですけど、電話機が大きすぎです。しかもなんで黒電話?」
「ダイヤル式は味があっていいじゃないですか。じーこじーこ回すのっていいですよねー」
「あんたの趣味ですか。#がないと不便です。あと大きいんだってば」
なんだろう、この人、コールセンターでちゃんとやってるのか不安なんですけど。
「大きくないですよ。電話にサイズなんてありませーん」
「だってオラは小人だから」
「え? あ……」
思わずネタで返してしまった。だが、電話先の反応も怪しい。
「もしかしてメール最後まで見てませんでした?」
「はい!」
「そんな元気に言われても」
本当に大丈夫なんだろうな、この人?
だけど運営相手に強気に出るわけにもいかない。小人バグを調べられたりするのは困るのだ。さっさと小人サイズの電話だけ用意してもらえるように頼もう。
「スクナのフーマさんでしたよねー」
「はい、そうです」
「普通のメールだったんで気づきませんでしたよー。なんでペットを使ってくれないんですかー」
ペット?
……もしかして前世で使ってたペットがメールを運んでくれるあのソフトか。
そりゃ前世の俺はずっとあのメールソフトを使ってたけどさあ。
「GODOSであのソフト、使えるんですか?」
「大丈夫ですよー。わたしも使ってます。最近あれを使ってメールしてくれる人少なくて、新人ダンジョンマスターさんが使い手だって聞いて楽しみにしてたんですよー」
「俺の個人情報ダダ漏れ……」
「ダンジョンマスターさんの情報がないとこのお仕事はできませんー」
それもそうか。その割には俺が小人だって情報は抜けてたみたいだけど、小人バグがばれにくいと思えばいいのかな。
「それじゃあ、新しい電話の設置のためにそちらにお邪魔させてもらいますねー」
「え?」
チン、と電話が切れてしまった。
お邪魔ってうちは小人用ダンジョンなのに……。
いつの間にか黒電話を出現させたみたいに、小人サイズの電話を出すってことはできないのだろうか?
◇
「お邪魔しますー」
台所から声が聞こえる。こののほほんとした声はさっきのコールセンターの人だろう。
でもなんで台所から?
「この声、まさか……」
「レヴィアちゃんの知り合い?」
「……まあ、そうなるわね」
レヴィアの知り合いか。ダンジョンマスターの眷属やってた頃の関係かな?
3人で台所に向かうと、そこには大きな女性がいた。大きなといっても、俺たちから見れば、だけど。
「ダンジョンマスターサポート部コールセンターのヘスティアです。電話機の交換にうかがいましたー」
ヘスティア、さん?
ってもしかして女神ヘスティア?
12柱じゃないんですか?




