53話 寝巻き
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時間経過や場面転換に◇を使ってみるテスト
「落ちつけ落ちつけ、まだ最後までやっちゃったかどうかはわからないんだから……」
隣に寝ているレヴィアを起こさないようにゆっくりと身体を起こす。
その時に気づいてしまった。
俺の左側には全裸のレヴィアが眠っていたが、右側にはコルノがいたのだ。
こっちは下着姿だった。
「ウゾダドンドコドーン!」
もしかしたら3人で……?
昨晩なにがあった。ナズェ思い出せない!
「……キュアポイズン」
記憶障害を起こしている原因かもしれないアルコールを体内から除去してみる。
キュア系も謎な呪文だよな。状態異常に対応しているのはわかるけど、どうやって治しているんだろう。キュアポイズンは毒を分解しているのかそれともいきなり消して……考えるだけ無駄か。
スッキリ! ……はしたけど、やはり思いだせん。
やるしかないか。
ふうぅ、と深呼吸して覚悟を決める。
メモ帳ウィンドウに画像記録の準備をして、と。
いざ最終確認を!
全裸のレヴィアは、ツインドリルではなく緩いウェーブのかかった髪になっていた。これはこれで可愛い。
コルノの下着は昨日買ったものだろう。まさか黒とは。着慣れてないせいなのかエロいというより、がんばってる感を受けてしまうのは俺がおっさんだからだろうか。
やはり胸もコルノの方が若干大きいようだな。こうして並ぶとよくわかる。下着の補正ではないはず。
レヴィアの胸は本当に小さいが綺麗だ。リヴァイアサンが卵生だとしたら母乳も使わなくて必要ないから、小人化しても胸が小さいのかもしれない。
まあ、どちらも貧乳ですんでしまう大きさなのだが。いいんだよ、ここは大草原の小さなダンジョンなわけだしさ。俺は貧乳もOKだ。
うん。自分でもなに言ってるかわからん。緊張してるのはわかるんだけどさ。
再度深呼吸して、視線をゆっくりと2人の腰の方へ……。
「んぅ……もう朝?」
くっ。肝心の確認の前にレヴィアが目を覚ましてしまった。
「お、おはよう」
「ふぁ……おはよう」
可愛らしく欠伸をしながら朝の挨拶を返してくれる。
レヴィアが完全に目を覚ますと同時に彼女の髪がシュっとツインテールになって、さらにくるくるっとツインドリルへと変化していく。勝手にセットされてるのか、それ。
「ふふ。昨日のフーマ、可愛かったわ」
ぐふっ。
どういう意味かね!
アレが可愛いとかそんな意味じゃないよな?
いくらおっさんが小人だといっても、そっちは無しでお願いします。
……ちっちゃく、ないよな? 他の小人のを見たことないから比べられないけどさ。
「あーそれ、わかる」
コルノも起きてきた。
まさかコルノにまでそう言われてしまうなんて。
そりゃポセイドンとかすごそうだけど!
でも父親のの使用状態なんて見たことないでしょうに。……ないよな?
「おはよー、フーマ、レヴィアちゃん!」
「おはよう」
爽やかに元気よく挨拶してくるコルノに返す気力もない。さっきまで元気すぎてた一部もショックで元気がなくなっている。
「フーマ?」
「……可愛くなんかない」
「えー、可愛かったよね、レヴィアちゃん」
「ええ。とても可愛かったわ。あなたの寝顔」
寝顔?
え、そっち?
「寝顔って、俺の寝顔?」
「そうだよ。レヴィアちゃんといっしょにずっと眺めていたんだよ」
それはそれで恥ずかしい。だが、アレが可愛いと言われるよりは何万倍もマシだ。
ほっとすると心配そうに顔を寄せてきているコルノとレヴィアが気になる。片方は裸で片方は下着姿。また血流がよくなって元気を取り戻しそう。
「ちょ、ちょっとトイレ!」
逃げるようにセーフルームから脱出する。もちろんメモ帳ウィンドウに画像の記憶は忘れずにしておいた。
トイレでチャックを下ろすのにもたつきながら、あることにやっと気づく。
「2人はあんなカッコだったけど、俺ちゃんと服着てんじゃん……」
もし酔った俺が暴走して2人に手を出したとしても着衣のままはない気がする。それなら俺が服を着てるはずがない。コルノかレヴィアが着せてくれたのなら、2人があんなカッコのわけはないだろう。
自分の下着を確認して、事後ではなそさそうなのでやっと一安心したのだった。
◇
「フーマが酔いつぶれちゃったから、レヴィアちゃんとベッドに運んだんだよ」
「そのまま2人であなたの寝顔を楽しんでいる内に私たちも寝てしまったようね」
女の子よりも先に酔いつぶれてしまうとは不覚っ。
……2人とも蛇属性に近いものがあるからウワバミなのかも。でも、物語だと、蛇や龍の方が酔わされて倒されていたような?
このままだと俺、酔って外泊証明にサインしちゃって外人部隊に売られないか心配になってくるなあ。
アルコール耐性を手に入れるために、あとで飲みながらゴブリンと戦うしかないか。酔拳とか覚えたりして。
「なんでコルノもレヴィアも寝巻き着てないのさ?」
「寝巻き? 寝る時はいつも裸なのだけど」
リヴァイアサンだから全裸じゃないと落ち着いて寝れないのかも。小人化したまま寝ることもなかったのかな。
レヴィアはとりあえずそれで納得するとして、コルノはなんでさ? 前は下着じゃなくて普段着で寝てたじゃないか。
「え? 寝巻きって下着のことだよね?」
そりゃおっさんの前世は寝る時いつも下着だったけどさ。まさか俺からの転写基礎知識のせいだったとは。
「寝巻きもあとで買っておいてくれ。ジャージでもいいから!」
本当はジャージで寝るのは汗の吸収性がよくないからおススメしちゃいけないんだけど、色気がない分、俺が安心できる。万が一にも暴走しないような寝巻きの方がありがたい。
「ふーん。そんなのがあるんだ」
コルノの世界には寝巻きなんてなかったのだろうか?
グレートマキアだと……操作するキャラやモブキャラがベッドに入る時は普段着のままだったっけ。寝巻き姿のグラフィックなんてなかったな、そういえば。
それどころか、パーティのメンバー全員が同じベッドに入るのが普通だった。別々のベッドに入っていくのはシリーズの5作目からで……コルノが出てるのは2作目だから、もしかしてコルノが一緒に寝たがるのってゲームの時の癖?
「それにしても、なにもなくてよかった。もし子供ができてたら責任を取らなくちゃいけないとこだった……いや、子供できてなくても手を出しちゃったら責任は取らなきゃ駄目でしょ!」
思わずセルフツッコミ。
それぐらいさっきと違って今の俺には余裕がある。
「子供はできないわよ」
「え? レヴィア、もしかして赤飯前?」
ふう。レヴィアたんに手を出してなくて本当によかった!
危なくお巡りさんを呼ばれるとこだったぜ。
「赤飯? 朝飯前という意味かしら?」
「レヴィアちゃん、あのね……」
赤い顔をしながらコルノがレヴィアにそっと耳打ち。よく知ってるなコルノ。って俺からの基礎知識か。
必要な知識かっていわれるとちょっと疑問だよな。俺が説明しなくて助かるけど。
内緒話を済ませて理解したらしいレヴィアたんも顔を真っ赤にする。
「私はもう大人よ!」
「あっはい」
「なにその気の無い返事は。いいかしら? ダンジョンマスターも、その眷属も子供は作れないのよ」
「マジ? そういえばそんな記憶も……」
おっさんには子作りなんて関係ないだろうって、インストールされた知識のチェックから漏れていたけど、記憶をようく辿ればそんな知識があるようだ。
ダンジョンマスターやその眷属は子供ができない。これはダンジョン経営や邪神ダンジョンの攻略が子育てで邪魔されるのを防ぐため。だからモンスターや眷属をDPで購入する時も、いきなり育った状態で購入できる。
自分の子供がほしければダンジョンレベルを上げる必要がある。ダンジョンレベルが高ければ子育てしながらでも問題ないということなので、あるレベルに達した時に子供ができるようになるのだ。
もちろんそれは10レベル以下なんて低いレベルではない。
「すっかり忘れてた」
「……とりあえず結婚さえしてくれればいいわ。子供のことは何百年か経ってから考えましょう」
「だから結婚はね」
「私の裸を見たのだから責任を取りなさい!」
ぐっ。まさか全裸で寝ていたのはこのため?
寝巻きの知識がないんじゃなくて最初からそのつもりだったのか。俺が暴走してたらどうするんだよ。
……その時はそれでさらに追い詰められていたか。
「裸を見たから責任取れって言われてもね」
アルテミスの沐浴を覗いてしまったアクタイオンよりはマシだけどさ。
鹿にされて飼ってた猟犬に殺されるってあんまりすぎる。
この世界のアルテミスはどうなったのかな。12柱だろうから、死んでるかどっかのダンジョンマスターの眷属にされてるかだろう。
処女神なんて狙うダンジョンマスターも多かっただろうから、眷属コースかな?
「はいかイエスで答えなさい」
「それ選択肢ないやん」
結婚を焦る気持ちはわからないでもない。むしろよくわかる。すごくわかる。
それに、俺もレヴィアに情が移ってきてしまったんでいつまで断り続けられるか自信はないけど。
でも、それはコルノと結婚してからだ。責任を取らなきゃいけないならコルノの方が先である。
「フーマ、なんか届いているみたいだよ」
「なんだろ? ……保険の案内か」
どうやらポイントサイトで資料請求したのが届いたらしい。
昨日、人間用サイズのアイテムをDP購入する際に届け先を4層のボス部屋に設定してそのままだったようだ。
「届け先の設定がそのままでよかったかもな」
大きな封筒に入ったそれは、人間用サイズのままだった。
申し込みの時にちゃんと種族を記入したのに……。
「大きいねえ」
それこそアノ時に言ってもらいたい台詞です。




