50話 ノーム
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黒ジソの葉をむしりながら情報収集は続く。……似たような作業をしながら雑談してる、どっかの農家のおばちゃんたちみたいな気もしないでもない。
「ニャンシーの知り合いに多い妖精は?」
「友達に多いのはノームとフェアリーにゃ」
ノームって小人だったっけ? ドワーフぐらいの大きさだった印象があるんだけど……。
赤いとんがり帽子のおじいちゃん、だよな?
「そいつらが難民になる可能性はあるか?」
「たぶんもう逃げてるはずにゃ。フェアリーは飛べるし、ノームも鳥と仲がいいやつが多いから山越えはできるのにゃ」
「飛べるんならネズミには襲われないだろ?」
「ノームは日光に当たると石になっちゃうのにゃ。昼間は地面の下にいるのにゃ」
むう。日光で石化とは難儀な生き物だ。
しかしそれならかえって都合がいいかもしれない。
「ノームの大きさってどれくらいなんだ?」
「にゃ? んー」
俺たちを見回すニャンシー。その視線がレヴィアで止まる。
「レヴィア様よりちっちゃいにゃ」
「それは本当なの?」
飛行の応用だろうか、レヴィアたんが座ったままの姿勢で一瞬でニャンシーのすぐ前に移動する。そして、ずいっと顔を近づけて質問していた。
「ほ、本当にゃ。ええと、だいたい20センチ? ぐらいだと思うにゃ」
眷属になる時に俺から転写された基礎知識でメートル法を覚えたのか、具体的な数値を出してくるニャンシー。それともこっちでも元からメートル法が通用するのだろうか。
「この私よりも小さい……素晴らしいわね!」
「あれ? 小さいのを気にしていたの?」
「もっと大きければ、私だって結婚できたのよ」
コルノの不用意な質問に振り向いたレヴィアの綺麗な瞳には暗い炎が燃えているように見えた。
ちょっと怖いのでフォローいれとくか。
「たしかに、その姿のレヴィアが人間サイズだったらすぐにでも結婚できただろうな」
「乙姫にもそう慰められたわ。……その後にカエルや魚を婿にって紹介されたけど。しかもそいつらが私を見るなり失神して……」
げっ。なんかトラウマスイッチ入っちゃった?
カエルや魚って……本能でレヴィアがリヴァイアサンだって気づいてビビッちゃったんだろう。
「だ、だいじょうぶだよレヴィアちゃん。今はフーマがいるんだし!」
「……そうだったわね。これで乙姫を見返せる!」
コルノに売られた?
コルノはレヴィアが俺と結婚するって決めてるみたいだもんな。俺はコルノだけでいいのに。
いや、レヴィアたんもいいんだけどさ。可愛いし、料理もできるし、緊張しないですむし……。
あれ、そういえばすごい美少女なのにレヴィアには緊張しないですんでいる。
「ど、どうしたの? 急にそんなにじっと見つめられると恥ずかしいわ」
「いや、レヴィアは可愛いなって思って」
リヴァイアサンって正体を知ってるからそっちのイメージが先行してるせいで緊張しないんだろうか。
きっとリヴァイアサンの姿を見てなくていきなりレヴィアとして会っていたらガチガチに緊張したんだろうなあ。
「な、なにを言うのよ」
ボボッと効果音が聴こえてきそうなぐらい、レヴィアが真っ赤になってしまった。……もしかして俺、とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったんじゃなかろうか?
いきなり女の子に可愛いなんて……い、いかん、レヴィアの顔がまともに見れない。きっと俺まで赤くなってる。
「……レヴィア様とマスターじゃなきゃ爆発しろって言ってるとこにゃ」
「フーマって時々いいとこまでいくんだけどねー。あれで自分が照れないで、こうやさしく肩を抱いて耳元でささやいてくれればいいのに」
外野がうるさい。
コルノの理想の甘い雰囲気って、おっさんには難易度高すぎじゃ!
「そ、それで、ノームの性格は?」
「誤魔化したにゃ」
なにそのため息。なにを期待しているんだよ。
早く質問に答えなさい。
「ノームはおとなしいやつが多いにゃ。あと働き者にゃ。財宝を貯めるのが目的って言うけど、働くことの方が目的に思えるぐらいにゃ」
仕事中毒の妖精?
妖精ってもっと遊んでばっかりのイメージがあったんだけど。
「働くって、どんなことをしてるんだ?」
「いろいろやるにゃ。夜中に森で食料を探したり、昼間は地面の下にある家で裁縫や鍛冶とかしてるにゃ。妖精の国で使われるものの多くはノームが作っているにゃ」
「鍛冶ってなんかドワーフみたいだな」
「それは禁句にゃ。ドワーフみたい、小さいドワーフなんてのはノームにとって侮辱なのにゃ。あんなにアル中の種族といっしょにするなって怒られるのにゃ」
ノームは酒好きじゃないのかな?
しかし鍛冶か。ほしいな。性格もおとなしいなら、このダンジョンを攻略しようなんて考えないかもしれない。元々地下に住んでるのならすぐに慣れてくれるだろうし。
「ノームたちがダンジョンで暮らしてくれると思うか?」
「眷属にするのにゃ?」
「いや、暮らしてくれるだけでいい。ダンジョンがノームの住処だと偽装できればこっちとしても助かる」
にゃんこ牧場は頓挫したが、ノーム牧場でもかまわないだろう。
少しでもDPが貯まればいい。小人価格で十分にやっていけるはずだ。
ノームが住み着いているならダンジョンの周辺を畑にしても目立たないかも……って、日光が駄目だからノームは農民は無理なのか。だから農無か。
農業が得意な妖精っていないかな。
「私よりも小さい者が増えるのはいいわね。賛成するわ」
「ボクのゴーレム造り、手伝ってくれる人がいるかな?」
レヴィアもコルノも反対ではないようだ。
問題は、どうやってこのダンジョンに連れてくるかだけど。
「ニャンシーの足が治ったら、探しに行ってくれるか? ノームやその他の、ここで暮らせそうな妖精たちを連れてきてほしい」
「ダンジョンに連れてきちゃうのかにゃ? 知り合いを手にかけるのは気が引けるのにゃ」
「殺したりはしないから安心しろ。ただ、暮らしてくれればいいんだ。ダンジョンを攻略しようとさえしなければ、こちらからは手を出さない」
1層を拡張中だから、そこで暮らしてもらえればいいだろう。
ダンジョンって知られなければ、攻略も思いつかないかな。ダンジョンだってことは秘密にした方が無難か。
「ここのことはゴーレムを作る妖精が住んでいるとでもしといてくれ。ダンジョンだってのは秘密で」
「ボク、妖精?」
「似たようなもんじゃないのか?」
コルノを表に出しておけば、俺はノームたちと会わないですむはず。
……前世引きこもりだった俺としては、働き者と会うのは気後れするんだよね。
「うーん。そうなのかな?」
「妖精は精霊語を使えるみたいだから、コルノも覚えておいた方がいいな。レヴィア、教えてあげてくれ」
「そうね。私も仕事がないのは気が引けていたからちょうどいいわ」
「よろしくね!」
むしった葉をアイテムボックスに収納して、新たな黒ジソを出そうとした時、警報ウィンドウが立ち上がる。
「侵入者か。……カエル?」
ダンジョンレベルがアップしてカラーになっている監視映像のウィンドウにはカエルが映っていた。
……カエルと言っていいんだろうか?
「ミノタウロス・トードにゃ」
なるほど。名前が納得できるモンスターだ。
イボイボ全身タイツのマッチョマンがカエルの頭を被ってる、そんな見た目のやつである。かなりキモい。
「普段は水辺にいるはずにゃのに、こんなとこまでくるにゃんて」
「ネズミから逃げてきたのかもな。1層には大きな水場もあるし、それを匂いかなにかで探し出してきたのかも」
「フェアリーやノームを丸呑みする危険なやつにゃ。それだけじゃにゃくて、あいつらが繁殖すると大変にゃ。やかましくて寝れなくなるにゃ」
ウシガエルみたいなもんだろうか。食用……にするのはちょっと嫌な外見である。
大きさは俺と同じくらいだろうか。筋肉の分、あっちの方が重いだろう。
どうしよう? けっこうな数がやってきたんだけど、ナマで見たくない。
ゴーレムたちの戦いを見てからにするか。
監視映像を見てるとゴーレムたちは通路で迎え撃つようだった。
剣を両手に持ったゴータローを先頭に突っ込んでいく。それをジャンプで回避するミノタウロス・トード。
「……あ」
あの姿でもカエルらしい脚力があったようで、必要以上に跳びすぎてカエル頭から通路の天井にぶつかって、グチャっと……。
「頭は悪いみたいだにゃ」
「そうだな」
通路の狭さの有効性がわかったけど微妙な気分だ。
後続のカエル人間をゴータローが袈裟切りにしてるのを見て、俺が行かずにすむようだとちょっとほっとした。
俺もジャンプ力あるから、ああならないように注意しないとな。
ノームと妖精で検索かけたら、銀河の妖精がひっかかる
ああ、あの妖精ってノームって名前からきてたのかと今頃納得した




