48話 ニャンシーより緊急連絡
感想、評価、ブックマーク登録、メッセージ、誤字報告、ありがとうございます
ニャンシー「ノャンスィですにゃ」と名乗った猫を鑑定してみると成猫で種族は『ケット・シー・シンガプーラ』だった。
シンガプーラ?
その猫種はたしかに“小さな妖精”とも呼ばれている小型の猫だけどさ。
名前の由来はシンガポール生まれの種類だったはずだからだよね。
この世界にシンガポールがあるとでもいうの?
だいたい、妖精がらみの猫ならドウェルフがいるじゃないか。
ドワーフとエルフの名前を合わせたという……のに期待すると、スフィンクスの血も受け継いでいて、毛のない姿にちょっと引いちゃう猫がさ。
ニャンシーはアビシニアンの子猫かと思ってたからシンガプーラなら納得できるけど……ううむ。
「ケット・シー?」
「そうですにゃ」
「俺の知ってるケット・シーって犬ぐらいの大きさってのだったんだけど」
「妖精島のケット・シーはみんなこれぐらいの大きさですにゃ」
なんだっけ。島嶼効果、だっけ?
妖精島も島だから小型化しちゃったんだろうか。
「ケット・シーの中でもあまり力の強くない小型の種類は、争いが続く大陸を嫌い、他の小さな妖精たちと共にこの妖精島に移り住みましたにゃ。ご先祖様ですにゃ」
「なるほど。そんな話をレヴィアもしてた」
「ええ。精霊たちが仲のいい妖精たちを助けたいと言うから、この島に逃げるのを助けたわ。何百年前だったかしらね?」
「にゃっ? ……で、ではあなたは……」
「リヴァイアサンよ」
レヴィアの返答にニャンシーは両前肢を合わせて拝み始めた。
後肢が片足なんでうまく立てないけど、もしケット・シーらしく2足で立ってたら、そんな芸をする猫の動画を思い出したかもしれない。
「そ、その節は先祖がお世話になりましたにゃ。妖精たちは今もあなたに感謝しておりますにゃ!」
「よくあっさり信じるね」
こんな美少女がリヴァイアサンだなんてさ。
普通はもっと疑うもんじゃないの?
「このお方のお仲間がそんな嘘をつくとは思えないですにゃ」
「なう?」
視線をもらって首を傾げるアシュラ。
もう! 可愛いなあ。
「このような凛々しいお方に助けてもらえるなんて……」
「なに言ってるか全然わからないけど、もしかして一目惚れってやつ?」
アシュラは可愛いけどオスだからありえるのか。
精霊語で会話してるから通じてないはずのコルノにも、ニャンシーの気持ちはモロバレのようだ。
「でも種族が違うんじゃ?」
「人間って生き物もエルフやドワーフってのと子供を作るって聞いたにゃ。たいした問題ではないにゃ」
そういうもんかね?
ニャンシーの口ぶりだと人間やエルフ、ドワーフとは会ったことがなさそうだな。この島にはいないのだろうか。
別にすごく会いたいというわけではないが、生のエルフやドワーフはちょっと見たい気もする。
せっかく異世界に来たのにまだ見てないもんなあ。
俺がガラテア候補にしちゃってるのはそれもあるのかな?
「そいつはサーベルキャットのアシュラ。俺の眷属だ」
「にゃ? 眷属ですにゃ? あなたはいったい?」
「俺はダンジョンマスターのフーマ。こっちも俺の眷属のコルノ」
自己紹介のついでに精霊語の通じないコルノも紹介する。
「私はレヴィア。リヴァイアサンであるということは秘密よ」
なら教えなきゃいいのに。
猫が気に入ったみたいだから、つい教えちゃったんだろうなあ。
「だ、ダンジョン? ここはダンジョンですにゃ?」
焦った表情でキョロキョロとボス部屋を見回すニャンシー。
……このボス部屋には水飲み場とトイレの砂場しかないんで、ダンジョンっぽくないかもしれない。
「そうだ。小人のダンジョンへようこそ」
「小人のダンジョン? 聞いたことないですにゃ。……ティル・ナ・ノーグを滅ぼしたというダンジョンですにゃ?」
「違うはずだけど。散るな農具?」
「常若の国。ディーナ・シーたちが治めていたという妖精の国ですにゃ。何百年か前、その国にダンジョンが現れて消え去ったと聞いておりますにゃ」
そんなことがあったのか。
この島は穴場だと思っていたけど、すでにダンジョンを創っていたやつがいたというのか。
「そう言われても、数日前にダンジョン創ったばかりでこの辺には詳しくないんだ。他のダンジョンがあるなら俺が知りたい」
「聞いた話ですにゃ……」
ティル・ナ・ノーグを滅ぼしたダンジョンについては不明らしい。
なんでもある日隣国にティル・ナ・ノーグの騎士がやってくる。その騎士は国にダンジョンができたと報告だけしてすぐに国に戻ったという。
隣国の妖精が行ってみるとティル・ナ・ノーグは無くなっていた。ダンジョンは見つからず、戻った騎士にも会うことはなかったという。
「真相は謎のままですにゃ」
「隣国って、まだ他にも国があったのか?」
「この島には他に幻夢共和国と妖精教国がありますのにゃ」
ドリームランドを妖精大統領が、シャンバラは妖精教皇が治めている。2つの国はどちらもこの島の西、さっき見た山の向こう側にあるらしい。
「ニャンシーはどっちの出身なんだ?」
「ノャンスィですにゃ」
「なー」
「ニャンシーと呼んでほしいですにゃ」
わ、アシュラの一声であっさりと呼び方を了承しちゃったよ。
そんなに惚れちゃっているのかね。
「ニャンシーはドリームランドですにゃ。でも、戦いに巻き込まれるのは嫌なのにゃ。姉を探すついでにこっちに来たのにゃ」
「姉?」
「学者にゃ。ティル・ナ・ノーグを探しに旅に出たっきり帰ってこないのにゃ」
猫の学者か。
いろいろ知ってそうだし、眷属にほしかったな。
行方不明なのが残念だ。
「この辺がラット・キングのナワバリになってるとは思わなかったにゃ。姉はもう……」
「ネズミの王?」
「ネズミがあんなに組織だった行動をしてるってことはラット・キング以外には考えられないにゃ」
笛の音ってのはないのか。
やっぱり、あの巣穴が関係してるんだろうなあ。
「姉の友達の森のトレントに話を聞きに行ったら、ネズミたちが大きなトレントに穴を開けていたのにゃ。ニャンシーはそれを止めようとしたのにゃ」
トレントか。樹木のモンスターだよな。木の妖精なのかな。
それをネズミが?
巨大芋虫だけじゃなくて樹まで襲うのか。
……ん?
「なあ、トレントって虫がつくことあるか? 幹を食い荒らすような虫が」
「にゃ。姉もそんなことを言ってましたにゃ。大きな虫を取ってやったら感謝されて仲良くなったって。その虫は美味しかったとも」
カミキリムシか? あれの幼虫は芋虫で、前世でも食用にしていた国があったよな。俺も食ったことはなかったけど。
さっきの巨大芋虫はカミキリムシかそれに近い虫の幼虫かもしれないな。
あんなのが育つ樹ってどんだけでかいんだよ。
……緊急通信で戻ってきて入らなかったけど、たしかに森の木々は大きかったかも。
「ネズミたちはその虫を獲ろうとしてしたのかもしれない」
「でもトレントたちは嫌がっていましたにゃ」
むう。トレントのためにではなく、自分たちの食料確保のために手当たり次第にトレントに穴を開けて幼虫を探していた?
わからん。それこそ学者さんに聞きたい。
「あの森からここまで逃げてきたのか」
「ネズミどもはしつこすぎにゃ。これから多くの難民がこっちに逃げてくるはずにゃ。犠牲者がもっと出るにゃ」
難民か。妖精の国ってのも楽じゃなさそうだな。
そいつらをこのダンジョンで暮らさせることが出来れば、DPの定期的な収入になるけど。
……本当だろうか。
うちのダンジョンを調査、攻略にやってきたのかどうか、確認しないといけない。
だってさ、猫は好きだけど相手はケット・シー。
長靴をはいた猫に出てきたオーガのように騙されてしまってはいけない。
申し訳ありませんが多忙のため、明日の投稿はできないと思います
次の投稿は来週になるかもしれません




