47話 つついて崩す派
エアーミサイルを操り、ネズミの群れが来た方角へ飛んで行く。
ダンジョンとは方向が違ってよかったよ。
方角は……マップで確認するとダンジョンからは西になるな。
ダンジョンマスターとしてインストールされた知識によれば、こっちの世界でも太陽は西に沈む。
自転と公転のタイミングもほぼ同じだし、前世と似すぎだな。なにかテンプレートでもあるんだろうか?
ネズミたちが巨大芋虫を運んできた跡があるので迷いはしないだろう。
あいつらは獲物を密集した群れの背に載せて運ぶなんてネズミらしくないことをしてたから引きずった跡こそないけど、通った道は謎草が倒れているんだよね。
昨日までは草に遮られてわからなかったが、少し高い所を飛びながらだと西の方角に大きな山があるのが見える。
形はけっこう違うし高さもぜんぜん低そうだが、1つしかない山っぽいので富士山を思い出す。前世が日本人な俺らしく“妖精富士”とでも呼ぶことにしよう。
きっと別の名前があるだろうけど。
妖精富士の裾野には森が広がっている。ネズミ道もそっちに繋がっていた。あそこから巨大芋虫を取ってきたのだろうか?
……ん?
森の手前が黒い。
黒い植物が生い茂っている。
謎草と森の境界かのごとく、黒い植物が森を覆っているようだ。
感知スキルで一応の安全を確認しながら、その植物の付近に着地する。
高さは1メートルを超えているけど、たぶん木ではなさそうだ。茎までが黒い。
真っ黒というよりはすっごい濃い紫?
『ブラックバジリソ
バジリソの一種
妖精島の固有種
薬の材料になる
食用にもなり栄養価も高いが香りが強く好みが分かれる』
「バジリソって、この葉っぱの形は紫蘇だよな? ……バジルとシソでバジリソ? バジルもシソ科だったような」
エアーコートを解除すると、鑑定に強いといわれた香りがわかる。
うん、やっぱり紫蘇っぽい香りだ。
赤紫蘇の色が濃すぎるバージョン?
これで梅干しに色つけたら、黒になっちゃうんだろうか?
……梅干し食べたいなあ。
焼酎のお湯割りに入れるのも好きだ。俺はつついて梅干しを崩す派かな。
もちろんこの黒紫蘇もほしい。
アイテムボックスから複製スコップを取り出して根ごと採取していく。
葉っぱを採った後の茎や根も複製で役に立つだろうからね。
『採取スキルがLV2になりました』
ちょっとスピードアップしてきた気がする。レベルアップのおかげか。
農業スキルは上がらない。採集じゃ駄目なんだろうな。
「ふう。もういいか」
アイテムボックスには100本以上入れたはずだ。
分身に攻撃が発生するようになったら、この採集の時も分身がちゃんと採ってくれるかな。同じ動きをするだけだから、掘るところまでか。それでも助かるんだけどね。
さて、それじゃ森の探検に行きますかね。
黒紫蘇採取でだいぶ日も傾いてきたし、急がないと。
黒紫蘇をかき分けて森を目指していると突然、眷属チャットのウィンドウが開いた。
『
コルノ>フーマたいへんだよ!
フーマ>どうした?
コルノ>アシュラがダンジョンの外に出ちゃった!
』
はい?
あの気遣いのできるにゃんこが職場放棄?
そんな馬鹿な。
信じられない思いだったが、俺は転移でダンジョンへと戻る。
森の入り口もマップに記入されたので、次からはすぐに転移でこれるから探索はその時でいいしな。
コアルームに戻るとコルノが焦った表情で待っていた。
「なにがあった?」
「ボクが新しいゴーレム素体を造っていたら、レヴィアちゃんが慌ててやってきて、アシュラが出てっちゃったって、フーマを呼べってそう言って、レヴィアちゃんも1層の泉へ跳んじゃって……たぶんアシュラを追ったんだと思う」
「そうか」
そういえばさっき、アシュラがダンジョンの外の様子を気にしてるようだってレヴィアが言ってたな。なにを気にしていた?
チャットでもアシュラの言葉はわからないだろうし、直接行った方が早いか。
「コルノ、ダンジョンを頼む」
「う、うん」
「安心しろ、すぐに戻ってくるさ」
根拠のない気休めを言って、ダンジョンの入り口に転移した。
近くにいてくれればいいけど……レベルアップした感知スキルでアシュラを探す。
このでかい反応はレヴィアか。
ダンジョンの外だからか、大海魔龍小人モードになってるようだ。
マップ未記入の場所なので転移できず、エアーミサイル飛行でそっちに直行する。
「レヴィア!」
「きたわね」
「なー!」
レヴィアの隣にはアシュラもいて、その付近にはネズミたちの死体が転がっていた。
真っ二つになっているのが多いからレヴィアがやったのかな。アシュラの牙や爪で倒されたのもいるようだ。
そして、ネズミだけではなかった。
アシュラがじっと見つめる先に1頭の子猫が倒れている。全身傷だらけだ。左の後肢など、ほとんど千切れてしまっていた。
「にゃー」
心配そうにアシュラが鳴く。
「この子猫を助けるためにダンジョンをとび出したのか?」
「なぅ」
頷くダンジョン3層のボス。
ならば助けるか。
まあ、アシュラ関係なく子猫は助けるけどさ。
おっさん猫好きだからね。
「そうか。まだ生きてるな? ハイヒール」
絶叫魔法で気合を入れて効果を上げたいけど、子猫がビックリして暴れたりしても困るので静かにCPをこめながら回復魔法を何度か使う。
「ここじゃまた襲われるかもしれないから、ダンジョンに戻ろう。レヴィアは瘴気を抑えてくれ」
現場にあまり痕跡を残したくなかったのでネズミの死体もアイテムボックスに回収して、普通の小人モードに戻ったレヴィア、アシュラと子猫とともに3層ボス部屋へと転移した。
子猫の意識がなかったから、抵抗されないでちゃんと連れてくることができたよ。
子猫を複製小人用布団に寝かせて、コアルームに跳び、コルノと一緒に戻ってくる。
彼女に頼んで子猫にクリーンをかけてもらった。ネズミによる傷での感染症が心配だけど、他にできることは思いつかない。
「みんなにも、はい」
黒紫蘇の採集で土だらけだった俺、ネズミの返り血で汚れていたレヴィアとアシュラもコルノが魔法で綺麗にしてくれた。
「HPは回復したと思うけど、欠損した部位は俺の回復魔法じゃ再生まではできない」
「……レヴィアちゃんは?」
「私は回復魔法なんて必要としていなかったから……」
最強の生物を名乗るリヴァイアサン。HPが減ることもなかったのだろうか。
子猫の失われた足を気にする俺たちがわかったのだろう、ぺろぺろと子猫を舐めるアシュラ。
「……にぅ」
子猫が目を覚ました。
周りを見て全身の毛と尻尾を立てて驚き、跳び上がって、こけた。
失った左後肢のせいだ。
それを見てじわりと涙を見せる子猫。慰めるようにアシュラが子猫をぺろぺろ。
「にゃぁ」
「なー」
「にゃ?」
「なう」
2頭の猫が会話している。時々お互いを舐めあうのを見ていると、ほっとするな。
ひとしきり顔を舐めあった後、アシュラが大きく頷くと子猫がこちらに向き直った。
「おかげ様で助かりましたにゃ」
シャベッタアアア!
これ、精霊語だよな。
まさか、魔女かなにかが子猫に化けていたとでもいうのか?
「ケット・シーのノャンスィですにゃ」
おっさん猫好きだから知ってるけどケット・シーは猫の妖精。
喋ったり2足歩行したりする。
大きな猫の姿だと覚えていたけど、こっちの世界では違うのだろうか?
それとも子猫だから……まさか成猫?
「ニャンシー?」
「ノャンスィですにゃ」
ニャンシーの方がぴったりなのになあ。
採取LV2(up)




