43話 お守り
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昼食後、後片付けを済ませたらコルノの作業場となっている4層のボス部屋に移動して剣のことを相談する。
「剣を複製したのはいいんだけどさ、鞘がないんだよ」
ゴブリンキャプテンが鞘を持ってなかったせいか、宝箱から出た小人用のキャプテンソードも鞘がなかった。
これでは使いづらいだろう。
「鞘かー。だったらゴーレムの1部にしちゃう方が邪魔にならなくていいかもしれないね」
俺も使うけど、俺の場合はアイテムボックスがあるのでそこまで気にはならない。
やっと剣が手に入ったので剣スキルが有効活用できるようになったけど、ゴブリン相手じゃ使いにくいし、致命傷は与えにくいかな? レベルが上がって“技”ってのが使えるようになれば違うんだろうけど。
「他の武器も試してみようか」
DPで購入する時のウィンドウをコルノとレヴィアにも見えるように調整して、使えそうな物を探してみる。最初から小人用のを買うつもりだ。
「俺用の槍と弓矢も買うとして……スコップもいいかも。武器にもなるというし。それともツルハシ?」
どちらも柄まで全部鉄製のなら複製もしやすいし、戦闘にも耐えられるだろう。
キャプテンゴブリンの剣という比較的入手しやすい鉄素材がみつかったので、小人用サイズなら鉄製品には不足しにくくなったはずだ。
「ドリルはないみたいだね?」
「これは運営のとこのだからなあ。通販サイトを探してみればあるかもしれない。レッドを造る時にドリルと爪も複製しとけばよかったよ」
まあ、どうしてもドリルがほしくなったらレッドを複製すればいいか。
……む。ゴーレムを複製したら、ゴーレムになるのか、それともゴーレム素体になるのか、どっちだろう?
「フーマの防具はいらないのかしら?」
「俺の戦闘スタイルだと、あんまり音がしない方がありがたいんで金属鎧はいらないかな。それに小人用のだとそこまで防御効果もないだろうし」
あまりダメージ軽減もされそうにないなら、攻撃に当たらないようにした方がいい。
おっさんは小人とは思えないほどにHPもあるしね。
「ふむ。ならばせめてこれをお持ちなさい。盾がわりにはなるでしょう」
レヴィアが自分のアイテムボックスから巨大な板状の物を取り出した。
だいたい正方形に近い形だが、1辺が7~8メートルはある。ボス部屋に移動してなきゃ出せなかったかもしれない。
これはもしかして……。
「私の脱け殻の欠片よ。私の鱗よりは弱いけど、それでも硬さはあるわ。乙姫も武具に使うぐらいだから、役に立つはずよ」
リヴァイアサンって脱皮するのか。脱け殻ってことは、鱗が1枚1枚剥がれていって生え変わるわけじゃないのね。
床に置かれたそれをよく見てみる。
ヘビの脱け殻のように透き通っていてやや薄い。鱗の1枚が2メートルぐらいあるだろうか。それが規則的に繋がっている。
軽く叩いてみただけでも硬そうなのはわかった。
アイテムボックスから剣を出してレヴィアに聞いてみる。
「ちょっと試していいか?」
「ええ」
床に置いてあるのでちょっとやりにくいけど、思いっきり斬りつけてみた。
ギィィィィィィン! っと激しい金属音が上がったが、脱け殻には傷一つついていない。
手は痺れているのにさ。俺のSTR(力)でも駄目か。
「すっごい硬いねー」
「そう? 私は加工はできないけれど、斬ることならできるわよ」
ああ、あのフィンブレードなら切れるのね。
たしかにこれはいいかもしれない。軽くて透明で加工さえできれば使い道はいろいろあるだろう。
加工さえできればね!
「これを広げられる場所がダンジョンの外にあったら、その時に頼むよ。ダンジョン内であれは止めてね」
DPはゆっくりと貯めたいので、急上昇する可能性のあることは禁止させてもらう。
盾はほしいけどさ。
「そう。必要になったら言いなさい。これはあげるわ」
貰ってしまった。大きいけど軽いのでアイテムボックスはそんなに圧迫しない、か。
これを加工できる手段がほしいな。
鍛冶スキルだろうか?
やはり次のガラテアの時はドワーフの方がいいのかもしれない。
「自分の身体の一部をあげる……お守り、だね。いいなあ!」
コルノがそんなことを言い出した。
お守りっていうか、財布に入れるヘビの抜け殻のような。
「ボクもあげたいんだけど……生えて、ないし」
そりゃ珊瑚に鱗は生えないでしょ。
って、真っ赤な顔でなんでそんなとこを見て……生えてないって、あれか!
昔の兵隊さんじゃないんだから、そんな物はお守りにしませんってば。これも俺の転写基礎知識からなのか?
「そ、それなら、コルノの綺麗な髪の毛を少しくれればいい」
「そ、そう?」
くるくると指で自分の髪をいじるコルノ。フィギュアはショートカットだったんだけど、呪いを解放して石化を使ってばかりだから今の彼女は長髪のまま。
とても綺麗な髪なので、お守りにもなるだろう。後でお守り袋を縫って入れておきたい。
髪切り用のハサミも、鉄武具を買うついでにDPで購入してコルノに渡した。
買った武器やスコップは、ゴーレムにどう装備させるか考えるみたいだ。
内蔵式にすれば、ゴーレムの1部ということでMPで修復できて便利らしい。
「頼むね。剣も数本置いていくから」
複製剣を10本ほど出して置いていく。
小人用の槍や弓矢等はアイテムボックスにしまった。練習しないとね。
再びの未熟者のダンジョン1層。
もうゴブリンたちはリポップしているようだ。
壁を走って移動していると、さっそく通路で1匹見つける。さっきもここで会ったな。湧き場所がこの辺なのか。
さて、と。
ゴブリンから少し離れた場所で壁を蹴って床に着地する。
さっき武器を見ていて思いついたことがあるんだよね。
隠形スキルをオフにして、と。
「おーい!」
俺が呼んだことでゴブリンがこっちに気づいた。
叫び声を上げながら走ってくるゴブリン。慣れてきたとはいえ、巨体が俺を殺そうと近づいてくるのはやはり怖い。
その恐怖を押し殺しながら、俺はその場で横にジャンプを始める。
右に1回跳んだら、左に2回。そして右に2回、左に2回。左右に2回ずつのジャンプを繰り返す。
いわゆる反復横跳びに近い感じだ。
いやー、購入できる武器見てたら手裏剣があって、つい買っちゃったのよ。
それでせっかく壁歩きできるんだから、他の忍者っぽいこともしたくなってさ。
分身スキルを手に入れるために残像分身の練習をしてるわけだ。
この動きならきっと合ってるはず。
スキルは実戦の方が手に入るから、わざわざここでゴブリンの前でやっている。それにコルノたちにこれを見られるのはちょっと恥ずかしいからさ。
『反復横跳びスキルを習得しました』
……そんなスキルあったのか? 限定的すぎるだろ!
目的とは違うスキルを入手しながらも、ゴブリンが接近しているにもかかわらず、そのまま反復横跳びを続ける。
こうなったらヤケだ。CPを使ってやる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
気合いを入れるための俺の雄叫びにちょっとビビったのか、ゴブリンも動きを止めたようだ。
フン、フン。フン、フン。フン、フン。フン、フン。
『反復横跳びスキルがLV2になりました』
ハッ、ハッ。ハッ、ハッ。ハッ、ハッ。ハッ、ハッ。
『反復横跳びスキルがLV3になりました』
……おっさんなにやってるんだろうと自分でも思いつつ、止め時を失ってしまった。
ゴブリンがじっとこっちを見ている。まだ攻撃が届く距離ではないが止めた途端にまた動き出し始めそうなので、隙を見せるわけにはいかない。
この行動が隙以外のなんだとツッコまれても同意しかできないが。
『反復横跳びスキルがLV4になりました』
生まれ変わった新しい俺の身体はチートスペックなので、疲れてはきたが、まだまだ余裕で続けられてしまう。頑丈スキルがいい仕事してるのかもしれない。
『反復横跳びスキルがLV5になりました』
少し動きを変えてみるか。
今まで横一直線に跳んでいたのを、V字になるようにしてみた。
難易度が上がったな。
『反復横跳びスキルがLV6になりました』
それをさらに難しく、今度はWの字になるように変えてみる。
これは難しい。
『反復横跳びスキルがLV7になりました』
再び横一直線に跳ぶ。ただし、同じ方向に飛ぶ回数を変えながらだ。
難しさは減ったが、速度は上がってきたな。
『反復横跳びスキルがLV8になりました』
次は転ばないように注意して、壁に移動しながらの反復横跳びだ。角度が変わるとこは厳しいなあ。
気合いを入れ直してチャレンジする。
「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
『反復横跳びスキルがLV9になりました』
ちょっと躓きながらも成功した。これで高いところまで移動できれば、ゴブリンは攻撃できまい。
……なぜ最初っからこの位置で始めなかったんだ、俺!
ゴブリンを見下ろしながら、天井と平行にジャンプを続ける。
もうこのまま反復横跳びが10になったらこれを止めてゴブリンを倒そう。
『壁歩スキルがLV5になりました』
『反復横跳びスキルがLV10になりました』
『機敏スキルがLV2になりました』
壁歩と機敏もレベルアップしたか。
そのせいで速度もさらに上がったのか、俺のジャンプに合わせて動いていたゴブリンの首も動きを止め、大きく傾げられていた。
あれ? これってもしかして。
『分身スキルを習得しました』
やった。
ついに俺は分身を手に入れた!
そのままストーンミサイルをゴブリンに発射する。
分身からの分なのか何本ものストーンミサイルが現れて、慌てて踵を返すゴブリン。だが無情にもストーンミサイルはゴブリンの首に突き刺さった。
ふむ。何本も刺さったように見えたけど、実際は1本だけなのか。
分身攻撃、面白いな。
ただ、さすがにちょっと疲れた。
それに1番レベルが高いスキルが反復横跳びって……。
今回上がったスキル
壁歩LV5(up)
機敏LV2(up)
反復横跳びLV10(new)
分身LV1(new)




