40話 尻尾
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「ただいま」
「おかえりー」
「お帰りなさい」
ボス部屋の先の転移魔法陣で我が家に戻るとコルノとレヴィアが迎えてくれた。
いいなこういうの。なんか嬉しい。
「変わったことはなかった?」
「またプレーリーウルフがきたよ。今度は8匹。でも簡単に倒せたよー。問題なさそうだから連絡しなかったんだ」
「そうか」
まあ、プレーリーウルフ8匹程度なら量産されたうちのゴーレム部隊の敵じゃないか。
「ボクも戦いたかったんだけど、現地につく前に決着ついちゃってた」
「3層の構造がいやらしすぎるのよ!」
ああ、やはり迷っちゃったか。
あれは地図スキルなしじゃ駄目でしょ、きっと。運だけでも通れそうな気もするけどさ。
「アシュラが迎えに来てくれてよかったよ」
「ただ、通路が狭すぎるわ。あの子に乗って進めないじゃない」
うちの中ボスさんは気づかいのできる猫のようだ。迷子の送迎までしてくれるなんて。
この感じだとレヴィアたんもアシュラに乗ったことがあるみたいだな。羨ましい。
「大物が通れないようにわざと狭くしてるんだよ。うちは小人さん限定のダンジョンだからさ」
「もう。次からは写しを作った泉に跳んだ方がよさそうね」
ダンジョンレベルが上がればダンジョン関係者だけが使えるポータルを購入して設置ができるようになるんだけど、それにはまだレベルが足りない。
「他には?」
「その戦いでゴータローがレベルアップしたぐらいかな」
「それはよかった」
種族にはN、R、SR、SSR等、ソーシャルゲームみたいなランクがある。
後の方が上位種族で強くレベルアップが遅い。
前のランクの種族は弱くて上限も低いがレベルアップは早い。
ゴータローの種族ランクはNだから弱っちいけどレベルアップが早い。
造られたゴーレムがレベルアップってのはちょっと不思議な気もするけど、強くなる分には文句はない。レベル上限に達すれば、進化して次のランクへ行くこともあるみたいだし。
「俺はまだレベルアップできなかったよ」
前世の俺が何度も粘って出しただけあって、俺の種族“スクナ”はレア上位種族。基本レベルというか、種族レベルがアップするのは大変だ。
その分、スキルレベルの習得や上昇が早いんで気にするほどじゃないんだけどね。
「残念だったねー。はい」
近づいてきたコルノが俺にクリーンをかけてくれた。
このクリーンもCPを使ったらもっと綺麗になるのかな?
今でも十分に綺麗になるから必要はなさそう。
「ありがと。でもまだ汚れるから勿体無かったかな」
「なにを言ってるの? 私に魔力をくれるのに、そんな汚れていては駄目じゃない」
それがあったか。
忘れようとしてたのに。
「で、でもレヴィアはMP満タンなんだろ? 渡す必要ないんじゃないかな?」
「そうね。だから」
ふわりとレヴィアが浮いて、ずずいっと彼女の顔が急接近してきたので緊急回避する。
レヴィアたん飛べたのか。
俺も飛べるようになったよ。……飛べるっていうにはちょっと違うかな?
「どうしてかわすのよ?」
「かわさなきゃズキュウウウンされちゃったろうが!」
2度も唇を奪われてたまるか。
だが、今度は俺の頭を両手でがっちりとホールドされてしまった。
小さな手なのにすごい力で振りほどけない。くっ、さすがは最強の生物か。
「すぐに済ますから今度は逃げては駄目よ」
「レヴィアちゃん、漏れてるってば」
レヴィアの顔をよく見たら角が生えていた。
逃げたらマグロみたいに真っ二つにされちゃうんだろうか?
そうじゃないとしても、この大海魔龍小人化時のDPの入りは怖い。
転移でなら逃げられると思うけど、ここは瘴気を抑えてもらうために諦めて早く済ませてもらうしかないね……。
再び近づいてくる美少女の顔。
頬が赤いってことは彼女も恥ずかしいのだろうか?
小さくやわらかな唇が俺のそれを塞ぐ。
わずかに触れたその部分から凄まじいパワーが伝わってきた。
大きく力強いエネルギー。
流れ込んでくるイメージは回転する螺旋。
これはリヴァイアサンの魔力か。
「ふぅ……。私のファーストキスを奪ったんだから責任を取りなさい」
「いえ、どう考えても俺が奪われた方です。でも君が責任をとる必要はない。俺は初めてじゃないからね」
「レヴィアちゃん飛べるんだ。いいなぁ。フーマおっきいからボクもキスする時大変だったんだよ」
ああ、身長差のせいで届かないからレヴィアが飛んだのか。
前世のメジャーで計ってみたら俺は30センチだった。人間だったら180センチだよ、すごいね。
コルノは25センチで150センチ。小柄だね。
レヴィアたんは23センチちょいだから大まけで140センチってことにしてあげよう。
うむ。この身長差だと立ちキスは高い方が協力しなければ難しいもんな。
前世の姿のままだったら、おっさんが女学生に手を出してるって通報されてもおかしくなさそう。
「ともかく、これで私の魔力は減ったわ。譲渡なさい」
「その前に、急いで瘴気の放出抑えてね」
瞬く間に頭部の角と手首のヒレが消えるレヴィア。体内に収納したのか?
というか、尻尾はないのだろうか。スカートの中にあったのか気になる。
「これでいいわね」
「わかったよ」
大きくため息をつく俺。
そんな俺にレヴィアが抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと?」
「コルノはこうしていたわ」
そうだった。今日のコルノへのMP譲渡は最初の時と同じく彼女が俺に抱きついて行っていた。
俺との接触への恐怖感がだいぶ薄れてきたみたいなのは嬉しいかぎりなんだけどさ。
「その方が無駄がないんだよ」
「だそうよ」
ふうぅぅぅ。
再びのため息ではなく、これは深呼吸。
自分を落ち着かせるための行動だ。絶対に興奮してはいけない。
「それじゃ、いくよ」
レヴィアたん、頷くのはいいとして、なぜそこで目を瞑ります?
少し顎を上げて、まるでキスを待ってるみたいじゃないか。
こんな美少女にそんなことされたら、深呼吸で落ちついたはずの俺がまた動揺しちゃうでしょ!
急いで済ませようとMP譲渡を開始する。
『MP倍増スキルがLV3になりました』
『MP再生スキルがLV2になりました』
『魔力操作スキルがLV2になりました』
慌ててたせいか、かなりの量を送ってしまった。たぶんレヴィアからのMP供給でフル回復していた俺のMPのほとんど全てを。
「ぅ、うぁっ、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……」
大きな叫びを上げて、レヴィアから俺を抱きしめる力が抜ける。もはや俺にかかるのは彼女の体重だけだ。
「だ、だいじょうぶか?」
返事はない。
呼吸はしてるようなので、どうやら気絶しただけみたい。
「フーマやりすぎ! レヴィアちゃんまた瘴気漏れちゃってたよ」
「マジか?」
DPを確認してみると9千近くになってしまっている。
オイオイ、昨日けっこうDP減らしたよな?
今日のゴブリンとプレーリーウルフの稼ぎってほんの僅かだよな?
なんでこんなにあるんだよ!
今はもう放出してないようだが油断はできない。
どうする?
ダンジョンの外に……さすがそれはまずいか。
ならば。
「セェフゥゥウ、ルゥゥゥゥゥんム!」
『セーフルームスキルがLV3になりました』
セーフルームを呼び出して、そこにレヴィアを寝かせる。ここなら外とは隔離された空間。ダンジョン内扱いされないので、瘴気が吸収されDPが増えることもないだろう。
さらに念のためにCPを使用して強化したセーフルームだから心配あるまい。
呼び出した時にコルノがびっくりした顔をしてたけどね。やっぱりとっさの時は必殺技発音の方が失敗がなさそうだしさ。
強化したんでセーフルームも大きくなっていた。
複製布団にレヴィアを寝かせる。
気絶してるのに上気した顔がエロ可愛……いかん。俺にはコルノがいる。ここで昨日のように暴走するわけにはいかないのだ!
「ふぅ。これでたぶん安心だろ」
「レヴィアちゃんああいうの初めてなんだから手加減してあげないと駄目だよ」
「そうだったな」
「まったく、フーマはドSなんだから」
だからそれやめて。
称号にへんなの増えてヘコんでるんだからさ。
あの称号って、運営がつけてるのかな?
ずっと覗かれてるんだとしたら、怖すぎる。
目が覚めたレヴィアたんにも加減しろと怒られてしまった。
さらに下着も要求されたので、お詫びとしてDPで余計に購入し渡す羽目に。
やはり、あの時に尻尾が生えて破れてしまったんだろう。
……そう思うことにしておく。
おっさんの精神衛生上、それ以外の理由であってはならないのだ!
今回上がったスキル
セーフルームLV3(up)
魔力操作LV2(up)
MP再生LV2(up)
MP倍増LV3(up)
リヴァイアサンの漢字名がわからなかったので、適当に“大海魔龍”ってしてみました
後で変える可能性、大です




