2話 大きすぎる俺の玉
ダンジョン作成を意識すると、俺の身体から大きな球体が出現した。
ぬるんっ、って感じで出てきたそれは空中に浮いている。
俺は自分の身体を確認するが、肌には穴や切れ目もなく服も破けていなかった。
「これがダンジョンコアか」
空中に浮かぶ真っ赤な球体を見る。
俺から出てきたと思えないぐらいでかい。直径が俺の身長と同じくらいなのだ。
小人用のサイズに調整してないのではなかろうか?
クレームなかったの?
どんだけ小人族不人気なんだよ。
ダンジョンコアはダンジョンマスターの本体だ。
これが無事な限り、ダンジョンマスターの身体が死亡しても何度でも甦る。逆にコアが破壊されてしまったら復活はできない。
ダンマスボディの復活にはDPがかかるけど、ダンジョンLV10までは復活が無料の初心者キャンペーン中らしい。
ソシャゲか!
ダンジョンコアの表面にそっと触れる。冷たくも温かくもない。
中心部が僅かに輝いて、俺の目の前にダンジョンメイキング用のウィンドウが開いた。
「まずは場所だよな」
ダンジョンの設置場所はDPを消費することで選べる。
DPを払わなければランダムだけど、そこで博打なんてできない。
望む場所は人里遠く離れた、でも強いモンスターもいない場所。
草原あたりかな。その方が森や山よりはモンスターが弱そうに思えるのはやりこんだRPGのせいかもしれない。
攻略してもうまみのないダンジョンを目指そう。それどころか、ダンジョンなんて認識されないような。
無双?
HAHAHAHA!
それはゲームだと思ったから考えたこと。
安全第一!
せこく目立たないように人里離れたところで雑魚モンスター相手にのんびり稼ぐ。
作戦は“命を大事に”しかないでしょ。
まかり間違っても勇者なんか入れないような小さな入り口にしよう。
復活が無料なうちに荒稼ぎ?
ないない。無料期間が切れた途端に苦労するのが目に見える。
むしろダンジョンレベルを上げないで無料復活期間を続けるべきだろう。
ダンジョンレベルは所有DPが一定値を超えると上昇するらしい。レベルアップする前に使ってしまおう。
新たに開いたウィンドウに候補地の映像を表示させながら探していく。 草原で雑魚いモンスターや動物が多い場所。
鼠や兎が手頃な巣穴を作っているところがいい。
DPも残り少ないし、後でその穴もダンジョンの一部に取り込みたい。カモフラージュ効果にも期待だ。そんな穴が多かったらダンジョンにも見えないだろう。
おっ、ここがいいな。
それっぽい穴がたくさんある。ちらりと見えるのはプレーリードッグ? たしか大きな巣穴を作るはず。
異世界だから似てるだけで違う生物かもしれないけど、付近に街や村もないようだし草原なら畑も作りやすいだろう。ここにしよう。
必要DPは100か。
チッ、これは100分の1じゃないのか。
場所は決まった。次はダンジョンの設計だ。
コアルームとルームガーダーのいる部屋、そして入り口と通路。無料なのはそこまでで、残りはDPを使って購入する。
俺の残りDPは29.いくつか。
小数点以下は表示されないけど切り捨てられてはいないようだ。
普通の通路は幅、高さともに2~3メートル。長さが1メートルで1DP。
小人族用の通路は幅、高さが40センチ~60センチ。長さが25メートルで1DP。
普通が3×3×1で9。小人族用が0.6×0.6×25で……9か。容積あたりのDP単価は同じか。これも100分の1じゃないんだな。
まあ1DPで25メートルできるのはありがたい。
入り口からの分岐もいくつか作って100メートルほど通路を延長する。
部屋は台所とトイレは必要だよな。あと風呂場も。
「IHもあるのか。でも高いな。とりあえず最低限のがあればいいから……七輪は面倒だよな。ガスコンロにするか」
ガスコンロはコンロが1つしかなく、魚焼き用のグリルもついていない。
ま、俺のサイズだとメダカみたいな小魚じゃないと丸焼きできないだろうからいいか。ガスはプロパンだ。なくなったら追加で購入する。
換気扇は外に面していない謎換気。トイレと風呂場にもつけよう。
資金ができたらダンジョン各所にも設置したい。煙で簡単に燻せるサイズのダンジョンだもんな。
シンクは蛇口がない。ただの流しだけ。
水道はいらない。契約すると月々DP取られるからね。水魔法でも飲める水が出せるみたいなので試してからでいいだろう。
「温水洗浄便座は諦めるか……洋式は譲れない」
最安の和式ボットンにしても、小人用にするとたいして必要DPが変わらない。温水洗浄機付きのだと跳ね上がるけどさ。
洋式トイレは水洗だけどどこに水が流れていくのかはやっぱり不明だ。
風呂場は扉と換気扇、排水口だけ設置した。
排水口も謎排水。設置すれば価格に応じた排水能力を発揮するらしい。
あとはスクナの種族固有スキルの温泉作成を使えば、なんとかなるはず。洗濯もこの部屋でやるつもりだ。
洗濯機もDP交換用のメニューにあるけどまだいらない。服はこれしかないし。
生活空間はこんなもんか?
台所、風呂場、トイレ用の小部屋とシンク、ガスコンロ、換気扇、便器、排水口を設置したら20DPもとられてしまった。
小人用でもこんなにするのか。
謎換気や謎排水が高いのかもしれない。
ダンマスや眷属は特に食事をしなくてもいい。
必要なエネルギーは自動的にDPから供給を受ける。食事をすればその分のDPは消費しないけど、排泄が必要になる種も多い。
だから台所やトイレは最低限必要なものには入らず、娯楽品扱いでちょっとお高いのだろう。
残りDPは9とちょっとか。
ルームガーダーは買えそうにない。しばらくは、ぼっちダンジョンだ。
……ガラテアスキルでフィギュアを本物にするか?
いやいやいや。
あの時は勢いでそんなことを考えちゃったけどさ、フィギュアを本物ってのがよくわかんないよね。
うまくいったとして、元になったアニメやゲームそのままの性格? それとも全くの別人?
俺の眷属や仲間になってくれるかも不明だ。
現地の人間の討伐対象なんて知られたら敵対されるかもしれない。
強い味方がほしいのに敵を作るんじゃ本末転倒だ。
それにさ、前世は魔法使いだったんだよ、俺。
さらにその上、ちょっとしたことで人付き合いがわずらわしくなって引き篭もり気味だったし。
美少女と緊張せずに会話なんてできるわけがない。
まだちょっと、ガラテアスキルを試す覚悟はできてないんよ。
生活環境もととのってないしさ。
せめて下着くらい履いてないと女の子と会話する覚悟もなにもあったんじゃないよね。
4DP使って、扉と落とし穴をいくつか設置して完了だ。
よし、こんなもんだろう。
もう1度見直してからウィンドウの『ダンジョン完成』をクリック。また『本当によろしいですか?』と聞いてきたのでさらにクリックした。
いきなり目の前が真っ暗になってしまった。ここが俺のダンジョン?
ああ、照明をセットしてなかったっけ。迂闊だった。
暗視スキルがあるからいいけど、LV1じゃそこまではっきりとは見えないようだ。
真っ暗い部屋で蛍光灯の常夜灯がついているぐらいな感じ。
このままではしっかり確認できそうにないので、光魔法を使ってみる。使い方はスキルのおかげでしっかりわかっている。
「ライト!」
天井に照明魔法を設置してみた。
おお、けっこう明るいな。
コアルームだろうこの部屋はそこそこ広い。ダンジョンコアはやはり空中に浮いている。
壁、床、天井は石造り。ヒビや継ぎ目のない綺麗な平面だ。ちょっとひんやりしている。
俺の装備は貫頭衣のみなので、もちろん裸足。スリッパがほしいな。
ダンジョンコアのそばにあるのは……パソコンデスク?
残りDP:5ちょい