36話 狡兎死して走狗烹らる
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俺に結婚を迫るリヴァイアサンことレヴィア。
それに助け船を出したのは意外にもコルノだった。
「ねえ、レヴィアちゃんもフーマのお嫁さんにしてよ」
「え?」
「だって、可哀想だよ」
いや、あの涙に流されちゃ駄目だろ。
おっさんだって必死に耐えているのにさ。
「コルノはいいのか? その、俺が他の女の子と結婚しても」
そうだと言われると悲しい。コルノは俺のことをそんなに好きじゃないってことになる。
「本当はちょっと嫌だけど、ボクがフーマのお嫁さんでもいいって言ってくれたから」
「それだけか?」
「……ボクのお母さん、メデューサはお父さんの愛人だったんだけど、もしもちゃんとお父さんの奥さんになっていたら、あそこまで酷い呪いをかけられなかったんじゃないかな、ってずっと思ってたんだ」
どうだろう? アテナっていうか、ギリシャ神話の神様ってケツの穴のちっちゃいやつらが多い印象があるんだよね。
さすがにポセイドンの妻だったら呪いまではしなかったのかな?
「それにレヴィアちゃん可愛いし!」
コルノがレヴィアを抱きしめる。
ちょっと……かなり羨ましい。かわれ、どっちでもいいから俺とかわってくれ。
「たしかにレヴィアは可愛いけどさ」
レヴィアたんは可愛い。それは認める。
コルノよりも小さいけど、俺はロリもいける口だ。何百年も生きている合法ロリだから、そっちの問題はないし。
「ならばいいでしょう。私と結婚なさい!」
「いや、会ってその日に結婚ってのは無理があるでしょ。もっとお互いによく知ってから」
「そんな悠長なことを言っていてはせっかくのチャンスを逃すだけよ」
うわ、そのため息、実感が篭りすぎなんですけど。
彼女が言うと説得力がすごい。
「じゃあさ、しばらくうちに一緒に暮らしてみたらどうかな? お試し期間って感じで」
「そんなこと言ってもさ、レヴィアがいるとDPの上昇がすご過ぎるでしょ」
「DPが増えるならいいことではなくて?」
「いや、それがね」
初心者向けの無料復活のキャンペーンを説明する。
俺がそれを有効活用するために、あまりダンジョンレベルを上げたくないことも。
「ふむ。今はそんなことまでやってるのね。問題ないわ。私は瘴気の発生も抑えられる。この姿ならほとんどゼロにまで下げられるわ」
ウィンドウを確認すると、所有DPの上昇が止まった。本当に瘴気をゼロにできるようだ。
「これでどうかしら?」
「あ、ああ」
どうしよう、断る理由がまた1つ減ってしまった。
「ねえ、昔は無料復活ってなかったの?」
「私がダンジョンマスターの眷属だった頃はなかったわね。そんな甘いことをやっているからダンジョンマスターが育たず、何百年も経つのに未だに邪神ダンジョンを全て攻略することができないのではなくて?」
昔はなかったんだ。でも、アキラみたいにこのキャンペーンのおかげで生き残ってるダンジョンマスターもいるだろうから、俺は否定することはできない。俺も利用するつもりだしさ。
「それだけじゃないって。このキャンペーンが適用されないもっと上の方のダンジョンマスターだって、真剣に邪神ダンジョンの完全攻略を考えているやつらなんて、ほとんどいないと思うよ」
「そうなの?」
「だってさ、邪神ダンジョンがなくなったらDPの入手もできなくなるじゃないか。そうなったら俺たちダンジョンマスターは困ることになる」
「なるほど。狡兎死して走狗烹らるというわけね」
スキルやそれまでに買ったものは残るだろうけど、DPでの買い物はできなくなる。
俺だったら邪神ダンジョンの完全攻略なんて、たとえできてもするつもりなんかない。
「問題があるなら、きっと運営もなにか警告ぐらいしてくるさ」
運営も完全攻略させたい、というよりはただ瘴気を集めたい、のような気がするんだよな、今のところは。
まあ、生後4日のダンジョンマスターの感想だから外れているかもしれないけどね。
「だから乙姫も邪神ダンジョンの攻略をあまりしていなかったのね」
「乙姫ってダンジョンマスターだったの?」
「ええ。この服も彼女がくれたものよ」
それで黒セーラーか。いい趣味してらっしゃる。
面倒見がいいのか、レヴィアたんで遊んでいるのか、どっちだろうね?
俺としては黒セーラーも嫌いじゃないので乙姫ぐっじょぶなんだけどさ。
「そうね、大事なことを忘れていたわ。あなたがなにを喜ぶか、乙姫に聞いてきたのよ」
「え?」
「この私が手ぶらでくるわけがないでしょう。……ここでは狭いわね」
結納品のつもりなんだろうか?
大きな部屋に案内してくれというので、解体場に移動する。
「あなたたちはこれを喜ぶと聞いたわ」
アイテムボックスからかレヴィアが突然、大きな物体を取り出した。
それは大きな魚だった。
解体場を大き目に設定してなければ置くことはかなわなかっただろう。
全長は4メートルを、重さはたぶん400キログラムは余裕で超えている。
「マグロ?」
「ええ。血抜きは済ませてあるわ」
くっ。なんてこった。
結納品なら受け取るわけにはいかない。
だが欲しい。
ものすごく欲しい!
「レヴィアが獲ったのか?」
「ええ。私を妻にすればこれぐらい、いつでも獲ってきてあげるわ」
ぬう。正直迷う。
コルノと会ってなかったら即座に「結婚してください」って言ってたと思う。
でもなあ。レヴィアと結婚するとトラブルの予感がするし、彼女の瘴気にDP収入を頼っちゃう気がするんだよなあ。
それじゃいけない。
おっさんは引き篭もりはしたいけど、ヒモは嫌なんだ。
理想論だろうけど、夫婦は対等でいたい。嫁さんに頭が上がらないなんて考えたくもない。
「……お試し期間でしばらくいるのは構わない。瘴気はちゃんと抑えてくれよ」
誘惑に屈してしまった。
マグロには勝てなかったよ。
元日本人だもん、しょうがないよね。
「すぐにあなたからプロポーズさせてみせるわ」
「お手柔らかに頼むよ」
「よかったね、レヴィアちゃん!」
再びレヴィアを抱擁するコルノ。
彼女が喜んでいるならいいかな、と自分を慰めることにした。
「マグロの解体か。前世で1度やってみたかったとはいえ……」
今の小人な俺じゃ鯨の解体かそれ以上に難易度が高い。包丁だって前世の出刃でも小さいだろうし。たしか、日本刀みたいな包丁でやるんだったよな。
「まかせなさい。……少しだけ瘴気が出ることになるけど構わないでしょう?」
「少しなら」
許可すると、レヴィアの姿が変わった。
小人なのは同じだが、ツインドリルの付け根から龍のような角が生えて、両手首の辺りからは刃のような長いヒレらしき物が伸びている。なにフェノメノンなのさ?
その龍小人モード? な彼女がマグロの前に立って軽く腕を振るうと、ゴトッとマグロの頭が落ちた。
マジですか。その手首のヒレでやったの?
「魚のおろし方は乙姫に教えてもらったわ。どう?」
角が生えたままのレヴィアが振り向くと、マグロは3枚におろされていた。
リヴァイアサンって、硬い鱗や竜巻のイメージが強かったけど、物理攻撃力も高かったのか。
「すごいねー」
ぱちぱちと拍手をするコルノ。のん気だね、君は。
「うん。すごいけど、急いで瘴気を抑えてくれ。ちょっとじゃないよ、それ!」
瘴気が出るというのでウィンドウを確認していたけど、その姿になったせいか所有DPが急上昇して、ほんの数分で5,000を超えている。
ダンジョンレベルが5になってしまったんですけど!
ヒモにはなりたくはないんで、龍小人モード(仮)は封印してもらうしかあるまい。
マグロはもらうけどさ!




