35話 いったい何サンなんだ
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入浴中に出現した謎の小人は女性のようなので、さっきDPで買ったばかりの小人用のタオルを腰に巻く。
完全に姿を現した彼女はツインドリルの美少女。纏うのは黒いセーラー服。
お湯の中から出てきたというのに髪もセーラー服も濡れてはいない。
「ごきげんよう」
「え?」
日本語で喋ってくれたのはいいけど、あまり聞きなれない挨拶に戸惑ってしまう。
「あら、挨拶はこれだと聞いたのだけど」
この少女はいいとこのお嬢さんなんだろうか?
この瞳には見覚えがあるような気がするんだけどさ。
ツインドリルや黒セーラーってことはダンジョン関係者か?
……一番高い可能性は避けたいので考えたくない。
「フーマ、せ、背中を流しにきたよ!」
ガララッと勢いよく風呂場の扉を開けて、タオルを体に巻いたコルノが入ってきた。
なんで? 今回は風呂に入れなんて言わなかったのに。
おっさん我慢できなくなっちゃうでしょーが!
「フーマ? その子は……」
ぶわっとコルノの片目に涙が滲むのが見えた。
そして号泣。
「うわーん! フーマが女の子連れ込んだーっ!」
「なにそれ、人聞きの悪い。俺にそんなことができるわけがないでしょ! もっとよく状況を見てくれ」
ひっくと手で涙を拭いながら俺と少女を交互に見る。
少し考えてから彼女がつぶやく様に言った。
「お風呂でエッチしようと女の子を連れ込んだようにしか見えないよ……」
「よく見ろって、服着てるじゃないか!」
「コスプレエッチ、だよね。ボク知ってるもん!」
誰だよ、コルノにそんなことを教えたのは!
はい、俺の転写基礎知識ですね。
……それ、基礎じゃないよな、絶対。そんなことしたことないし! いや、憧れはあったけどさあ。
黙ってじっと見ていた少女が口を開く。
「私はレヴィア」
「なんだ、やっぱりリヴァイアサンか」
一番避けたかった答えが正解でした。
「あら、わかっていたのね。さすが私が認めた男」
「その美しい瞳は忘れられないよ。いや、写しよりも綺麗かな」
怪獣よりも美少女の目な時点で段違いだ。
レヴィアと名乗ったリヴァイアサンを驚いた顔で指差すコルノ。
「リヴァイアサン?」
「ええ。この姿の時はレヴィアと名乗ることにしているわ」
「なんで? 人化スキルは習得できなかったって言ってたよね!」
詰め寄るコルノにふふっと笑い、レヴィアが答える。
ドヤ顔だが、なんか可愛らしい。元の姿を知ってるだけにそうとは思いにくいが。
「ようくご覧なさい。私の姿は人間かしら? 違うでしょう。それに写しで会った時に言ったはずよ。似て非なるスキルを覚えた、と」
「あ……」
「私が習得したのは“小人化”のスキル。そう、今の私は小人よ」
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル7になりました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル8になりました』
『レヴィア
小人?(N?) LV? 女
STR ?
INT ?
AGI ?
DEX ?
VIT ?
MIN ?
HP ?/?
MP ?/?
CP ?/?
小人族と思われる少女 』
スキルのレベルが上がって鑑定はできるようになったけど、明らかに偽装してるね、これは。解説にも『思われる』っていわれてるし。
「よかったぁ。ボクが怖がるから、フーマが新しい子に乗り換えたのかと思っちゃったよ」
「俺を節操なしみたいに言わんでくれ」
会って2日目の少女に手を出して泣かれちゃったおっさんだけどさ。
しかもその少女はフィギュアだという、前世の親が知ったらそっちも泣きそうな件。
「うん。ボク信じてるから!」
いや、信じてなかったよね、たった今。
もちろんそんなことは言わない。
おっさんは空気を読もうと努力するのだ。
「でもよくわかったねー。雰囲気がぜんぜん違うよ」
「そうね。この姿では瘴気の流出もかなり抑えられるのだけど。これも愛の力かしら?」
「違うって。さっきも言ったように目が同じだろ。それに出てくる時にお湯が渦を巻いていた。リヴァイアサンの語源は“渦を巻いた”とか“ねじれた”だったはずだからな。髪型もドリ……くるくる、してるしさ」
むしろ“可愛い子”って言っていたコルノがわからなかった方が驚きなんだが。
瘴気の流出を抑えているってことで、それで判断できなかったのかもしなない。
……おや?
「リヴァイアサン」
「この姿の時はレヴィアとお呼びなさい」
その名前もリヴァイアサンとわかった理由の1つだ。
レヴィアタンとリヴァイアサンは読み方が違うだけ。リヴァイアサンの方が大怪獣で、レヴィアタンは大悪魔にされることが多いんだっけ?
「レヴィア、元はダンジョン産まれなんだよね? それなのに瘴気が出るのか?」
リヴァイアサンの写しが来た時にDPを大量ゲットできて助かっている。でも、瘴気を発生させるのはDPで購入したもの以外だったと思うんだけど。
「私がダンジョンマスターを失ってから何百年も経つのよ。DPに変換されなかった瘴気がこの身体に蓄積されているのは当然でしょう」
「なるほど。DP産の生物でも、条件が整えば瘴気が発生するのか」
使える知識かもしれないから忘れないようにメモっておこう。
瘴気の濃い邪神ダンジョン等にDP産モンスターを放して、後で回収すれば……普通に攻略した方がいいか。
「フーマ、よくそれだけでレヴィアちゃんがリヴァイアサンだってわかったね」
「レヴィア、ちゃん?」
ちゃん付けに納得いかず、片方の眉毛がぴくっと反応したレヴィア。
それはそうだろう。やはり「レヴィアたん」しかないと思うわけで。
「子供扱いはおやめなさい。私の方が年上よ」
「えっ? ボクの方が背が高いよ」
小人化リヴァイアサンはコルノよりも小さい。胸のサイズもお察しください、なのである。だからこそやはりレヴィアたんが相応しい。
ゲームでも小さいとからかわれることの多かったコルノが自分よりも小さな存在を見つけて、お姉さんぶりたくなったのだろう。
「くっ、小人化スキルが任意の姿になれるスキルだったら……」
とても悔しそうなレヴィア。言ってる通りならレヴィアは本当に小柄だということか。
「まあそれはともかく、そろそろ服を着たいんでコルノとレヴィアは先に出て待っていてくれないか」
なんで俺の癒しの時間が修羅場になっちゃうんだか。
もし殺されることになっても、さすがにこの格好は情けなさすぎる。
そう半ば諦めの境地の俺。
だってさ、どんなにダンジョンを強化しても、こんなところにまで勝手に入ってくるんじゃ防ぐ手段はないっつーの!
「お待たせ」
テーブルについて待っていてくれた2人にグラスを渡す。中身はよく冷えている複製炭酸水だ。温泉作製のレベルが上がれば、これもそっちで作れるようになる気がする。
「ありがと、フーマ」
「ありがとう」
本当は風呂上りにビールかハイボールをグイッといきたい。特に今はお酒に逃げたい気分なのにさ。
それができそうにないから余計に飲みたい。
「で、レヴィアはなんでうちに?」
「フーマに会いに来たに決まっているでしょう。一目で私の正体を見抜くのだもの、さらに気に入ったわ」
「フーマはすごいんだよ!」
直後に「けぷっ」と可愛らしくゲップをするコルノ。
炭酸水がアルコール入りだったら酔っ払いにしか見えない発言である。
「俺に会いに来たって、さっきも写しだけど会ったよね?」
「ええ。直にこの目であなたを見たくなったのよ。私のこの姿も見せたかったし。どうかしら?」
「どうと言われても……うん。可愛いんじゃないかな?」
他にどう答えればいいのかわからないから適当に答える。正解はなんだろう。
「かわ……!」
あ、赤くなっちゃった。
そう言われるのは慣れてないのかな? 普段はあの迫力のあるリヴァイアサンの姿なんだろうし。
配下がいるらしいけど、上司に「可愛い」なんて言うことはできないはずだ。
「な、ならば問題はないわね! 私の番にしてあげるわ!」
「それはもう終わった話じゃなかったのか?」
「そうだよ! フーマはボクの責任とってくれるんだから!」
立ち上がってコルノが抱きついてくる。
可愛らしい目を吊り上げてそれを睨むレヴィア。
「ふ、ふん。私の器はそんなに小さくないわ。他の嫁ぐらい認めてあげるから、我が伴侶となりなさい」
「……そこまで追い詰められているのか?」
他に嫁さんがいていい、って器の大きさ関係ないよね。
レヴィアたんは乙姫って人の結婚でかなり焦っているんだろう。
「俺は小人だから弱いよ。リヴァイアサンには相応しくないって」
「バカなことを気にするのね。私より弱いのは当然よ。私は最強の生物なのだから」
リヴァイアサンが“最強の生物”でベヒモスが“最高の生物”、だったっけ。
ベヒモスもいたりするんだろうか?
ヤブヘビになりそうだから聞かない方がいいな、きっと。
なんとかして断りたい。
「それでも絶対に文句は出てくるでしょ、配下さんたちからさ」
「ぬかりはないわ。この姿の私がリヴァイアサンだと知る者は少ない。レヴィアとして結婚すれば、あの者たちが口出しすることはない」
「さいですか」
どうやって断ればいいんだろう?
「フーマは……私のことが嫌いなの?」
ずりぃ。
そこでちょっと目をウルウルさせるなんて卑怯すぎる。
ついさっきまで魔法使いだったおっさんはどうやって抵抗すればいいんですか!
ストックがつきました……




