29話 私にいい考えがある
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コルノの結婚発言でリヴァイアサンが怖い。
あの目はリア充爆発しろ、いや、物理的に爆発させてもいいよね、な視線だ。
「リヴァイアサンだって、きっといい人が見つかるよ!」
「ふん! 私と付き合う度胸のある男なんていないわ」
え? 別種族でもかまわないの?
「……お父さんがこっちの世界にいればなあ」
「お父さん?」
「うん。お父さんは女の子が大好きだから」
「小娘よ、お前はポセイドンの娘なの?」
斬り落とされたメドゥーサの首から滴った血が海に落ちて生まれたのが血赤珊瑚。
だから母親はメデューサ、父親はポセイドンらしい。
「こっちにもポセイドンがいるの? ボクはコルノ。……異世界のポセイドンの娘だよ」
「異世界の……しかし召喚された勇者ではないようだけど?」
「召喚された勇者? 違うよ。ボクはフーマのおかげでここにいるんだ」
勇者は異世界から召喚される。
俺たちダンジョンマスターが異世界転生者なら、勇者は異世界転移者だ。
できれば戦いたくはない。
勇者の戦闘力は無茶苦茶高いらしいし。
「ふむ。なるほどね。けれど、もし生きていたとしてもアレと結婚するのは嫌よ」
「アレって……」
ポセイドンってことは海神だろ。
ダンジョンマスターを創ったっていう神と関係があるのだろうか?
「神によってこの世界の管理のために創られた12柱。ポセイドンもその1柱よ。なのに、やつらは邪神のダンジョンを放置したわ。それに怒った神は新たにダンジョンマスターを創造した」
「へえ。俺たちの先輩なわけか」
「面白く思わなかった12柱はダンジョンマスターたちと争い、多くが滅した。その戦いで世界中が滅茶苦茶になってから何百年経ったかしら」
そこら辺はギリシャ神話じゃなくて、北欧神話のラグナロクっぽい?
自分たちがほっぽり出した仕事をやってくれる後輩がきたっていうのに喧嘩売るとか、なにやってるんだよ。しかも負けるなんてさ。
てことは、ダンジョンマスターの方が能力が高かったのかな?
「滅した……」
「ダンジョンマスターに眷属化されたのもいるけれど、ポセイドンは死んだわ。ダンジョンマスターの眷属として生まれた私がその戦いに参加し、あの男を倒したのだからそれは確かよ。小娘、父の仇討ちをしてみるかしら?」
「ううん。異世界のポセイドンだからいいよ。ボクも戦ってたし。こっちのお父さんもリヴァイアサンみたいな可愛い子に討たれたんなら本望なんじゃないかな」
……コルノを小娘はともかく、リヴァイアサンが可愛い子ね。
女性の会話はなんか怖く思えるのは気のせい?
深く考えないほうがよさそうだ。
ゲームではコルノは魔王軍四天王として神々と戦っていた。
ポセイドンはコルノを味方にできると急に父親面してくるからうっとーしいキャラだったな。
「リヴァイアサンはダンジョンマスターの眷属なのか?」
「それは昔の話。あの戦いで私の留守中にコアが破壊されマスターは殺されてしまったから。ただ、戦いで活躍しすぎた私はランクを改められ、たった1人の種族にされてしまった。その上、ポセイドンの仕事も押しつけられたわ。つまり、未だに私が未婚なのは、12柱のせいもあるのよ!」
リヴァイアサンが眷属ですか。何DPかかるんだろう?
稼いでいたマスターっていたんだなあ。
コアを破壊されちゃったみたいだけどさ。
「フリーになった私を眷属にしようと挑んでくるダンジョンマスターも多かった。悉く返り討ちにしたわ。でも、娶ろうという方向で私を求める男はいなかった」
ケモナーはいても、さすがにこんな蛇海竜の外見でもいいってツワモノはいなかったのか。
せめて上半身が人間だとかだったら違ったろうになあ。
……あ!
「それなら解決方法がある」
「なにかしら? またぬか喜びさせるだけではなくて? もし満足できない答えならお前に責任をとってもらうことになるわよ」
なんでそうなるかな?
まあ、俺の案には自信があるけどね。
おっさんにいい考えがある!
「人化スキルだ。これをマスターして人間型になれば、きっと求婚してくれるやつが出てくるさ」
この手の人化は強い方が美しくなるのは定番。リヴァイアサンなら絶世の美女になるはずだ。
それならハーレム願望のあるダンジョンマスターたちがほっておくまい。巨乳だったらエージンを紹介すれば飛びつくだろう。
「ふん。よりにもよって人化? そんなものは私の繁殖を恐れた神によって封じられているわ」
「なん、だと?」
残るは見合いか合コンか。
どっちも俺、未経験なんだよなあ。
どうやってセッティングすればいいんだ?
「ろくなことしないね、神様」
「まったくよ。それでも一縷の望みをかけて練習したけれど、覚えたのは似ているだけの役に立たないスキル」
「練習はしたんだ」
「……そんなことよりも、満足できない答えのようね。責任を取って、私の婿になりなさい」
げげっ。責任ってやっぱりそれですか?
しかたない、ここはエージンを生贄に差し出すしかない。
やつならラミアやハーピィのようなモンスターでもハーレムに入れてるからきっと大丈夫だ。
「フーマよ、水脈を操る貴様なら我が配下も文句は言うまい」
「無理です。絶対文句言われますから! 他の男を紹介しますから!」
「ほう。その男なら我が配下を納得させられると?」
……駄目じゃないかな?
配下さんがどんな怪物だかわからないけど、エージンじゃ満足してくれないかも。それで失敗したら今度こそ逃げ場がない気がする。
いや、ネットで募集すればきっとリヴァイアサンとでも結婚してもいいってダンジョンマスターが見つかってくれるはずだ。
今は少しでも時間を稼ごう。
「俺はダンジョンマスターで、あまりダンジョンから離れられない。リヴァイアサンと結婚なんてできないって」
「私がここで暮らせばいいだけのことでしょう?」
「いや、ほらうちのダンジョン小さいでしょ。さすがに小人のダンジョンで暮らすのは……」
物理的に無理。というか、ダンジョン壊れちゃう。
俺にはリヴァイアサンを養う甲斐性はありません。
「なんですって!」
リヴァイアサンが目を見開いた。
ぐわっと今まで以上に強い視線で俺を睨む。
「小さいとは思ったけど、あなた、小人だったの?」
「う、うん。見ての通りだけど」
「写し越しだし、人間の大きさの違いなんて気にしないから気づかなかったわ……そういうことはもっと早く言いなさい!」
そう大きく叫ぶと、リヴァイアサンの写しである目の前の怪獣が一瞬で形を失い、ただの水に変わってしまった。
バシャッとそれが階段の周りの泉にぶちまけられる。
リヴァイアサンは泉の水を使って写しを作っていたようだ。
「……助かった、のか?」
「もう気配が無くなっちゃった。そんなに小人が嫌なのかな? 失礼しちゃうよね」
そりゃダンジョンマスターの眷属だったら、弱いってことも知ってるだろう。
不人気種族、万歳!
「小人だろうとボクはフーマがいいからね」
「ありがとう。……さっき俺のお嫁さんになるって言ってたのは?」
「だって、責任取ってくれるんでしょ?」
また責任ですか。
いや、リヴァイアサンと違って、コルノのような美少女なら願ったり叶ったりなんですが!
「またおっさんをからかって」
「本気だもん! リヴァイアサンと話していたら、ボクもフーマを逃がすわけにはいかないって確信した。小人は結婚するの大変なんだよ!」
「そ、それってまさか……? も、もう冗談は」
通用しない、と言いかけた俺の口をコルノが塞いだ。
自らの可愛らしい唇によって。
「ボクの初ちゅーだよ。これで責任とってもらう理由が増えたよね」
生後4日の俺も当然ファーストキスなんですが。
前世? 聞かないでくれ。
「お、おおおおおお、俺と」
駄目だ、まともに喋れない。
コルノの顔を正面から見ることすらままならない。
「結婚してください、だね? 答えはもちろん、はい喜んで、だよ!」
いや、なんでキスしたのか聞きたかっただけなのにプロポーズしたことにされてしまった。
しかもOKされてしまった!
「ボク……いいお嫁さんになるからね!」
そんな目に涙まで浮かべられたら……。
いや待て。
おかしいだろ、これ。
こんなに都合がいいわけがない。
そんな夢みたいなことがあるわけが……。
そうか! ようやくわかった。
夢オチか!
流されるままに俺の身体はコルノを抱きしめ、その唇を貪る。
うん。俺がこんなに積極的に行動できるわけがない。
やはりこれは夢なんだ。
これきっと夢だから。
抱き合ったまま転移でコアルームに戻って。
リヴァイアサンのおかげで増えたDPでベッドを買って。
夢でもかまわない。
目が覚める前に魔法使いを卒業してみせる!




