28話 渦巻くもの
感想、評価、ブックマーク登録、ありがとうございます
我がダンジョンにお客さんが現れた。
招待した覚えは全くない。
そんなお客さんをダンジョン管理機能の画像で確認する。
「こいつか?」
温泉作製のおかげで十分に水が溜まり泉となったそこに、大きなやつがいた。
「でけえな、おい」
巨大だ。長さは20メートルは優に超えているだろう。
蛇の様な長い胴体に、大小様々な無数のヒレ、龍の様な頭部を持つ……モンスター?
「あれは本人じゃないよ。たぶん写しだと思う」
「写し?」
のんびりと泉でくつろいでいるようにも見えるが、いったいなにをしにこのダンジョンへ来たのだろう?
というか、この巨大さでどうやってうちのダンジョンに入ってきた?
入り口は壊れてなかったはずだぞ。
敵対してくる様子もないので、とりあえず会いに行くことにした。
怖いけど今なら無料で復活できるから、と自分に言い聞かせて。
このままダンジョンに居座られても困る。
転移ではなく、歩いて1層へと向かう。
ダンジョンを改装したので距離はあるが、その間に覚悟と考えをまとめたい。
コルノもついてきてくれた。
危険だと説得したけど駄目だった。
「あれがその気なら、このダンジョンくらいすぐに更地にできるってば。どこにいたって関係ないよ」
「そうは言ってもさ」
「フーマはボクが護る!」
「いや、俺なら復活できるから。やばかったら逃げてくれよ」
マジでやばそうだったらコルノを連れて転移で逃げよう。
それならそばにいた方が都合がいいか。
1層への階段を上りきる。
そいつは階段の島をぐるりと長い身体で囲むように水面に浮かんでいる。
俺たちを待ちかまえていた様ですぐに目が合ってしまった。
直に見るとマジででかい。俺とコルノなんて鼻息で吹き飛ばせそうだ。
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル2になりました』
げげげっ。
鑑定が失敗するって、レベル差がありすぎるってこと?
今まで全く上がらなかった鑑定スキルが、たった1回の失敗でレベルアップしちゃうってどんだけなのさ。
だけどレベルアップしたことだし、もう1回チャレンジだ。
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル3になりました』
またですか。
この際、いけるとこまでいってみるしかないのか?
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル4になりました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル5になりました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定スキルがレベル6になりました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
『鑑定に失敗しました』
この辺が限界か。
6まで上がって、それでもわからないのか。
コルノの言った通り、どうあがいても勝てそうにないね、こりゃ。
なんとかしてお帰りしてもらおう。
「ギュオオオオオオオォォォォォォォォォ!」
怪獣映画のような鳴き声。そのあまりの大きな音量にせっかくの覚悟が萎えそうになる。
引き返したい。
だけど目が合っちゃっているので、それもできない。
「ごめん、なにを言ってるかわからないよ」
「え、今なにかしゃべったのか?」
「たぶん……なんとなくそんな気がするんだよ」
むう。知能はあるのか。
ならば交渉できるかな?
そのためには会話が必要なんだけど……何語で話せばいいんだ、これ?
言語スキルをとろうとDPでスキルを購入するウィンドウを開いた。
問題は言語の種類。
ドラゴン語か、それとも別のか?
ドラゴン語を覚えるとモグラの言葉もわかったりして。土竜だから。
……とりあえず精霊語にしてみるかな。失敗しても無駄にはならないし。
必要DPは30000。高いな。
スキルのDP価格はほとんどが転生エディット時の100倍になる。基本ボーナススキルはさらに何倍かのようだ。
しかし、小人の必要DPが100分の1はまだ効いていて、無事に習得することができた。
小人すげえ。
「こ、こんにちは」
まずは挨拶からだ。
相手は動かずにこちらをじっと見ている。通じてるのか不安になる。
……次になにを言えばいい?
こんな時に無難なのは天気の話題なはずだが、ここはダンジョン内。天気なんて関係ない。
まずは名前を聞いて……いや、自分が先に名乗るのが正しいのか?
それとも……。
わからん。
混乱する俺を怪獣はじっと大きな目でみつめている。
ギラギラと強く輝く瞳だ。
「綺麗な目だ」
なに言うてる自分ーっ!
テンパりすぎて、つい、思ったことが口に出てしまった。
「お、お世辞はいいわ!」
あ、返事が返ってきた。精霊語で正解だったようだ。
鳴き声ではなく、ちゃんと言語として聴こえてくる。
「いや、本当に綺麗だ。宝石みたいで。……あ、俺はフーマ。このダンジョンの主だ」
「……リヴァイアサンよ」
マジですか。
リヴァイアサンっつったら、ゲームとかでも有名で巨大な超強力モンスターだよね。
それがなんで、こんなできたての弱小ダンジョンにくるのさ?
「本日はどのような御用件で我がダンジョンのような狭き場所に?」
「ここ数日、水脈が人為的に弄られている。先日など、弄られた水脈がさらにわけのわからない所へ繋げられてしまったわ。すぐに消滅したけれど」
もしかして俺の温泉作製スキルのせい?
モグラの穴で温泉湧かして、そのままダンジョンエディットしちゃってモグラの穴ごとどっかに消えちゃったから、どうなったか気にはなってたんだけど。
「水脈が弄られている現場に、かなり小さくはあるが使えそうな水場ができたようなので写し身を跳ばした。それがこの身体」
「なるほど」
かなり小さくって、俺としては大きい泉なんだけどね。
リヴァイアサンは超巨大だっていう話だもんな。本人が直接こないでよかったよ。
「たぶんそれは俺のせい。俺がスキルで温泉を創っている」
「お前のような小さき者が?」
「そうだ。でも、魔法で水を作ったりもできるんだから、そんなに珍しいことじゃないでしょ」
俺、そんなに悪いことをしてないよとアピール。
そもそも温泉作製でこんなのがくるなら、ちゃんとスキル解説に注意書きを入れておいてほしかった。
運営の不備である。クレームが行く案件だ。
「ふふっ。水魔法のことなら、あれは魔力を水に変換しているだけ。水脈をいじくる貴様とは大違いよ」
「魔力を変換? そっちの方がすごいような」
MPさえあれば水不足も関係ないってことだよね。なにが燃えているかわからなかった火魔法や、どこから土がくるか不明だった土魔法も魔力を変換してるのか。魔法すげえ!
「面白いわね、お前。見にきた甲斐があったようよ」
「その、見にきた理由がよくわからないんだけど」
「私は水を司る管理者。水脈を操る者がそれに相応しいか確認しにきただけよ」
さっきからリヴァイアサン、女言葉なんだよなあ。
やはり女性なのか。
「ねえ、ボクには全然わからないんだけど。2人の世界をつくらないでよ」
コルノが腕に抱きついてきた。寂しかったのかな?
「ちょっ、ちょっと待ってくれるか?」
精霊語でリヴァイアサンに問うと頷いてくれたので、日本語でコルノに解説する。
「この怪物はリヴァイアサン」
「リヴァイアサン?」
「うん。コルノの言ったとおり、やっぱり写しだって。俺が使う温泉作製が気になって会いに来てくれたみたいだ」
で、間違ってないよな?
水を司る管理者って言ってたから、それは自分の縄張りだってイチャモンをつけにきたのかもしれないけどさ。
「ふむ。お前たちは乙姫と同じ言葉で喋るのね」
リヴァイアサンが話にまざってきた。それも日本語で。
なんだよ、日本語喋れるのかよ。
スキルに使ったDP返してくれ。
……いるだけでDPが発生するから、もうその分貰っちゃってるか。
精霊語も役に立つだろうし、損はしてないどころか得してるな、うん。
「乙姫?」
「私の……友人よ」
乙姫もいるんですか、この世界。乙姫だから当然日本語を喋ると。
それがリヴァイアサンと友達?
「男を弄ぶことを生きがいとするような女。それでも、いえ、それだからこそ結婚なんてしないと、同志だと思っていたわ」
「同志?」
「……神によって我が種族は私1人に設定されてしまった。だから私はずっと独り身」
「ああ、なんかレア上位種族にはそんなのもいるんだっけ?」
URだのLRだのの、ソシャゲのようなランクの種族は1種1人しかいないんだったよな。
出現率というか排出量絞りすぎだろ運営。
転生エディット時にヴァンパイアカイザーを出そうとして粘ったのは全くの無駄だったじゃないか。
「永きにわたるそれも、海にはまだ乙姫もいるからと耐えられた。……だけどあの女、この前会った時に婿を取るとぬかしたのよ! あの裏切り者!」
綺麗だと思った瞳にメラメラと嫉妬の炎が燃えている。
……リヴァイアサンが悪魔とされる時のレヴィアタンって、司る七つの大罪は“嫉妬”だったっけ。
「配下の者が変に気を使うようになり、私が結婚式に呼ばれなくなって久しい。行き遅れ扱いされるのはもう飽いた」
今度は遠い目ですか。
ついでに大きなため息も追加。
それもうブレス攻撃だよ。
風で飛ばされないように踏ん張らないといけなかったよ。
コルノも離れないようにさらにしがみついてきて、超気持ちよかったよ!
「あ、その気持ちわかるかも」
そう言ったのは、ため息ブレスに耐えるためにさらに俺に強く抱きついているコルノだ。
「姪っ子が子供たくさん産んでさ、その子たちからはおばあちゃん扱いだったよ、ボク。結婚もしてないのにさ」
その子供たちって、ゲームの魔王軍じゃ幹部じゃなかった?
「俺の前世も似たようなもんか。弟たちが結婚しちゃって肩身が狭くて実家には寄りづらかった」
すぐ下の弟には子供もいたしさ。
「おお! ではお前たちが私の同志になってくれるのね!」
「それは……ごめんなさい。ボクはフーマのお嫁さんになるから」
ちゅっ、と頬に柔らかいなにかが触れる。
……もしかしてコルノの唇?
ホッペにチュー?
「な!」
再びリヴァイアサンの瞳に嫉妬の炎が燃え上がる。
げ、鼻から水蒸気が吹き上がり始めた。
これってやばいんじゃないだろうか?
俺達やつ当たりされなきゃいいけど。
リヴァイアサンが司るのは“海”ですが、この世界では“水”です
水の最上位精霊的なポジションになってます
そろそろストックが切れてきました……




