27話 ネズミの巣穴
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「さ、ゴータローたちのとこに紹介しにいこうか」
転移で1層の作業場にダンプゴーレムを運び、ゴータローとレッドに紹介する。
掘った土を実際に運んでも問題はなさそうだった。
「でもなんかこいつ、無口というか、ノーリアクションというか」
「これが普通なんだよ。ゴータローやレッドみたいのが珍しいの!」
「ゴ」
「ドリ」
うんうんとゴーレム2人が頷くのにダンプゴーレムは無反応。
むう。こいつは眷属にしないでいいか。眷属もできる数に上限があるし。
契約できる眷属の最大数はダンジョンレベル×10だからまだ余裕はあるんだけどさ。
ゴータローたちの現場は、だいぶ広がっていた。
今は貰った石棍棒を使ったり、ゴータローがレッドを肩車したりして上も掘っているしい。天井も通路より少し高くなっている。
「ゴーレムが創意工夫するなんて!」
「珍しいのか?」
「とーってもね! 普通は命令されたことしかできないんだよ。じゃなきゃ暴走してるって思われるし」
「2人は暴走してるわけじゃないよな」
「もちろんだよ!」
ゴータローとレッドは優秀みたいだ。
レアゴーレムを造れるなんてコルノもすごいな。
ちょっと早いけど、昼食にすることにした。
その後は採取に外へ出るつもりだ。
「ボクもついて行きたいけど、今はゴーレムを増やすのが先だよね」
「頼むよ。俺も早く帰ってくるつもりだから」
昼食は解凍しておいた豚の角煮の複製。我ながら軟らかくできたと自慢の逸品だ。もちろんコルノの評価もよかった。
だけど、やや濃い目の味は酒がほしくなるよ。これには焼酎、いや、泡盛もいいな。
カラシをチョンとつけた角煮で泡盛をキュッと……飲みてぇ。
早く防御を固めて、複製用の素材を蓄えて、のんびりとだらけた生活したい。
温泉につかりながら飲酒したいぜ。そのための種族特性なんだからさ!
「ダンジョンコアは置いていく。なにかあったらチャットで知らせてくれ」
「うん。でも、新しい子もできたからダイジョーブだよ」
でもダンプゴーレムに戦闘力はないんじゃ……体当たりは強そうか。くらった相手が転生するかもしれん。
転移で前回草を刈った場所へと移動する。
心配だったが火事にはなってないようだ。
そのかわりなのか感知にいきなりの反応あり。
その方向に身構えると、でっかい虫がでっかい虫を捕食していた。
『カマキリの仲間
名前はまだない 』
『コロギスの仲間
名前はまだない 』
ちなみに食われている方がカマキリである。コロギスって殺ギスってこと?
どちらも俺よりでかい。40センチクラスだろう。
これでモンスターじゃないの?
こっちの世界やべえよ。
モンスターは通常の生物が瘴気を取り込みすぎて変異を起こして進化したものと、それが種として定着したものがいるらしい。
目の前のこいつらがモンスターになったらもっと大きく、強くなるんだろうかね。
まあ、そんなことはさせませんが。
「アイスニードルズ!」
コロギスを狙って魔法を発射する。
モンスターじゃなくたって、あれは危険でしょ。
よし。感知に大きな反応はなくなった。脅威になりそうにない小さな反応は無視して、場所を移動する。
巨大昆虫の死骸はちょっと迷ったあげくにアイテムボックスに収納。
なにかに使えるだろう。
前世でもキリギリスやコオロギの類は食用になった覚えがあるし、イナゴの佃煮も食べたこともあったからね。
こいつらをそのまま食うのはさすがに避けたいけどさ、いざとなったら食料複製の素材にすればいい。エビ、カニの素材にはなるでしょ。
見本はないけどさ。
エビ天食べたいなあ。
俺は尻尾の先まで食べる派なんだよね。
それにしても、転移は用心が必要だな。
いきなり襲われたり、戦闘に巻き込まれる可能性もある。
転移直後は感知に注意して、できれば安全な場所を探しておいてそこに転移したい。
マップと感知を確認しながらダンジョンから離れるように歩いていく。
草を掻き分けながら進む小人なので、あまり移動速度が出てないのが難点だ。せめて見通しがよければもっと早く移動できるのだが。
それとも移動用のモンスターを眷属にするか?
小人サイズの馬なんてのがいれば考えてもいいか。
もしくは犬か猫に乗るのも小人らしくていいかもしれない。
調べてみて安かったら買っちゃおうかな?
まあ、現実的なのはゴーレムだろうな。ダンプゴーレムではしんどかったからサスペンションをつけてさ。
防衛用のゴーレムがある程度揃ったら、採取用のゴーレムを造ってもらおう。
いや、でもそうするとこの自然の中に異物がいるって目立ってしまうかもしれない。
うーむ。採取するのはダンジョンから遠く離れたところがいいか。俺には転移スキルがあるし。
適当な場所で名無し草を採取する。もちろん警戒は怠らないが、短い時間でかなりの量を採取できてしまった。農業スキルのおかげだろうか?
『採取スキルを習得しました』
採取も覚えたか。ありがたいけど、なんで前回は入手できなかったんだか。
……前回はなんでもいいから名無し草を取っていて、今回は最初から名無し草を選んでいたから? それとも収穫量?
考えるだけ無駄かもしれないが、採取スキルのおかげか、考え事しながらでも採取できるようになっちゃってるんだよ。
ここもずいぶんと草を刈り込んだから、かなり見通しがよくなったな。
そのついでで、獣の巣穴もいくつか見つかった。
あそこにある穴は大きいな。うちのダンジョンの入り口よりもでかい。
鑑定してみよう。
『ネズミの巣穴』
ネズミか。
それにしちゃやけに入り口が大きいんだが。
ふむ。ここを転移先にできれば安全が確保できる?
あ、でもネズミは病原菌持ってそうだしなあ。
「感知スキルに感!」
悩んでいたら反応があったので思わず声に出してしまった。
急いで穴から離れ、草に潜り込み隠れて様子を見る。
穴からネズミが出てきた。
それもゾロゾロゾロゾロと。
尋常じゃない数だ。感知スキルでも数が把握できないほど。100や200じゃきかない。まだまだ出てくる。
ほとんどが普通の大きさのネズミっぽいけど、中には大きな個体が混じっている。鑑定するとやはりモンスターのようだ。
『ビッグラット
ネズミのモンスター 』
大口ではないのか。サメにそんなのいるから駄目なのかも?
どちらにせよ、そのまんまの名前だな。
そいつらがひくひくと鼻を動かしながら、俺が切り開いた場所を調べている。
やばいかな?
見つかる前にこっそりと俺は転移で逃げ出した。
「なにあいつら。どっかで笛でも吹いているやついんの?」
ビッグラットだけだったら、経験値かせぎに戦ってもよかったんだけど数が多すぎた。
俺が小人じゃなくて普通サイズだったとしても相手にしたくない。
ダンジョンの入り口に転移してきた俺は鑑定擬装スキルを使用して入り口を擬装する。
ネズミ相手に効果があるかはわからないけど。
やつらの鼻がそこまで利かないことを祈ろう。
『プレーリーウルフの巣穴』
ネズミよりはプレーリーウルフの方が強そうだったんでこの穴には近づかないでくれよ。
でもビッグラットの方がプレーリーウルフよりも大きかったしなあ……。
だいたい、ネズミは鑑定なんかしなさそうだ。
再度転移して、ボス部屋に戻る。
「おかえりなさい。ちょうどよかった、今連絡しようとしてたんだよ」
「え? あ、ただいま。なにかあったの?」
もしかして、もうネズミの群れがきちゃったんだろうか。
俺の匂いを辿ったとしても早過ぎない?
「あのね、お客さんがきちゃってね」
「お客さん? 敵か?」
「うーん、なんて言ったらいいんだろう? 絶対に勝てないから戦うのは止めた方がいいと思う」
いったいなにがきたのさ?
ダンジョン管理用のウィンドウを開いて確認する。
「なにこのDP?」
まず気づいたのは所有DP。
うちのダンジョンも大きくしたから、少しは吸収する瘴気が増えて変換されるDPも増量してるんだけどさ、この量はおかしい。異常すぎる。
俺が収穫に行っている間に500以上も増えている。
俺のダンジョンレベルはいつの間にか3になってしまっていた。
「も、もしかしてこれ、お客さんてやつから発生したDPか?」
ダンジョンは、ダンジョン内にダンジョン産以外の存在がいるだけでも、そいつから瘴気を吸収してDPを発生させる。
この世界の存在はほぼ全てが瘴気を持っていて、瘴気の量が多いほど強い。ついでに食べても美味しいらしい。
つまり、今このダンジョンにいる存在はかなり強いということになる。
「いったいなにがきたんだよ?」
ダンジョン内の画像を確認する。ダンジョンレベルが上がったことで、画像がちょっと綺麗になった気がする。まだモノクロで音もないけどさ。
いたのは、1層の最奥、階段と泉の部屋だった。




