26話 ダンプ
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……ん。
「朝か」
隣に美少女が寝ていて緊張したにもかかわらず、いつのまにか寝ていたようだ。
気づくと朝だった。
んん? 微妙に違和感を感じるな。
なんだろうと思ったら俺の上にコルノが乗っていた。それも靴下寝袋に入ったままだ。
だけど人が乗ってるってほど重くはないな。コルノが小柄なのか、それとも俺のSTR(力)の値のせいか。
「寝相か? んなワケないよな。おーいコルノー、朝だぞー」
「……あさ?」
「うん。おはよう」
「……にゃむ……おはよう?」
俺の上でもぞもぞ動く巨大靴下。
「出れない。出してー」
「はいはい」
昨晩の経験を活かして、靴下をアイテムボックスにしまう。
俺もこの時まだ寝ぼけていたのかもしれない。コルノを乗せたまま、収納してしまった。
結果、寝袋から解放されて向き合って密着して寝ている俺たち、という構図になる。
「フーマ、あったかーい」
ばかな! さらに抱きついてきただと!
早く離れてください! 生理現象中の子もいるんですよ!
「コルノ、どいて」
「もうちょっとー」
これ以上は危険すぎるので、コルノを乗せたまま起き上がる俺。
生まれ変わった俺の筋肉すげえ。
「はい、ちゃんと立って」
俺に抱きついているコルノを降ろす。
ちょっと、いやかなり、もったいなかったけどね。
「もーちょっとサービスしてほしかったなー」
「俺だってトイレに行きたい」
逃げるようにトイレに入ってほっと一息。
あのままだと危険だった。
……昨夜はあのままシちゃえばよかったのかなー?
眷属だから命令すれば俺に攻撃できなくて危険もなかっただろうけど。
それができるんだったら前世の俺は魔法使いになんか、ならなかったっての。
なぜか懐いてくれてるような気もするけどあれって、異性じゃなくて甘えている子供って感じがする。
一番下の弟が小さい頃はあんな感じだったもんなあ。
すぐに育って生意気なガキになっちゃったけどさ。
そんな子に欲情しちゃったら、後ですごい自己嫌悪に陥るのは確実だ。
台所に置いておいた冷凍保存食は自然解凍できていたので、再びアイテムボックスに収納。これで料理が早くできるようになる。
俺の裁縫レベルが1なせいか、小人さんが皮で作ってくれたのはスリッパだった。
むう。スリッパかあ。
皮ジャンを作ってもらいたかったのにさ。
トイレ用のがなかったからちょうどいいけど。
あ、サイズがわからなかったのかもしれない。
朝食を済ませたらボス部屋に移動する。
「え? ここ、作業部屋じゃなかったの?」
「ボス部屋だよ、一応」
「ボスいないのに? ボクのための作業部屋かと思ってたよ」
……早くボスがほしい。
このままだとコルノの研究室にされかねない。
転移でゴーレムたちに会いに行くと、俺とコルノが寝てる間も彼らはがんばってくれてたようで、作業場にはかなりの土が運ばれていた。
あと虫の死体も。
「これならすぐにゴーレムが追加できそうだね」
「頼む」
ボスもそうだが人手もほしい。
ボス部屋の床で乾燥させていた石粉粘土板を確認する。
端っこを軽くつついてみたがちゃんと硬くなっているようだ。板の厚みは7、8ミリぐらいか?。
床にくっついてるとは思わないがちょっと不安だったので、手で持ち上げずにいったんアイテムボックスに収納した。
そしてすぐに出す。
「うん。できているようだな」
「ふーん」
こんこんとファンド板を叩くコルノ。感想がそれだけなのは、この板でなにができるかを考えているのかな。
「レプリケーション」
土を素材にファンド板を複製する。
「今度は赤くならないんだねー」
「乾燥したせい?」
できあがった複製ファンド板は、オリジナルと同じ白。
試しに、昨日の未乾燥のファンドの記録で複製すると、白い複製ファンドが現れる。
「あれ? 赤くならない」
「なんでだろうね?」
自分のスキルなのによくわからん。
この後、何度複製しても赤くはならなかった。
「まあいいか。赤くなきゃ困るわけでもないし。悩んでいる間にゴーレムの生産を急ごう」
「そうだね」
使う分以外の複製ファンドは乾燥を防ぐために、アイテムボックスへ収納する。
記録したのでオリジナルの方のファンド板に、コルノと2人で前世の定規と鉛筆を使って目的の大きさになるよう線を引く。
ファンドの乾燥時に、水分が抜けて発生する割れやへこみもあったけど、それを避けてもちゃんと目的のサイズがとれそうだ。
線に合わせて定規を置き、カッターで切断する。
大きなカッターナイフを定規に合うように立てて持つと、工作というよりは工事といった感じだ。
身体全体でカッターを使い、ファンド板に切れ目を入れていく。厚さがあったんで切るのには定規の横を何度も往復したよ。
切断できたら、切った板を何枚も複製しておく。
「これで荷台をつくるんだね」
「板同士の接着も乾いていない粘土を使えばできるから。次は車輪だ」
昨日空にした炭酸水のペットボトルを取り出す。そしてそれを前世のハサミで輪切りに切断。切り口が少し斜めになってしまったが、これから使う用途なら関係ない。
ファンド板よりは少し厚めにまた複製粘土を床に延ばして、ペットボトルの切断面を押し当て、両腕でぐりぐりと回しながら押し込んでいく。ドーナツをコップで生地から切り出す要領だ。
「なるほど。それで粘土を車輪にするんだね」
「最初はキャップの方を使おうと思ったんだけど、小さかった」
何個か円盤状に切り出した。あとは軽く成形して一番よくできたのを複製すればいい。
あ、外周面にタイヤみたいに溝を切っておいた方が滑らなくなるな。
前世の爪楊枝を出して溝を掘る。けっこう手間だな。多少は不規則でもいいか。
コルノは土を運んでボス部屋にきたゴータローに手伝ってもらって、複製ファンド板で荷台の箱を作っていた。
「あ、その箱は後ろの1面がこう、動くようにしといてね」
手首を使って開閉の動きを教える。
箱の下にも太いアームをつけて、箱が斜めに持ちあがるようにして、載せたものを降ろしやすいようにしてもらう。
「ゴーレムが運ぶ荷車じゃなくて、荷車なゴーレム?」
「あ、そうなっちゃうのか」
「いいね。でもそうなるとこれを運ぶゴーレム、いらなくなっちゃうね」
微妙な表情のコルノ。
箱を作っているだけじゃ楽しくないのかも。
「積荷を降ろすのは自分でできても、載せるのは別にゴーレムがいるでしょ」
「それもそうだね」
車輪はこんなもんでいいかな?
コルノにもどの車輪がよさそうか選んでもらって、それを複製。
だいたいの部品が完成したら、それを並べてゴーレムにする。車輪なんて横に置いているだけなんだけど、キッチリくっつけなくても構わないらしい。ゴータローやレッドの時の手足もそうだったもんな。
「ふむ。車輪もスムーズに回ってる。荷台の動きも問題ないようだね」
荷台の前面に目らしき穴が2つ開いたゴーレムの動作確認をしてから、コルノが封印解除して石化させる。これでちょっと不安だった荷台の強度も上がるだろう。
赤い粘土じゃなかったせいか、真っ白い石のゴーレムになった。
『プチホワイトストーンダンプゴーレム
小さなゴーレム
荷車型
石製 』
鑑定さん、荷車型なのにダンプってのはいったいどういうことなのさ。
ダンプゴーレムの荷台に乗り込むコルノ。
「乗り心地も試さないとねー」
「必要か?」
あれ?
ゴータローやレッドならここで返事が返ってくるんだけど。こいつは無口なのかな。
乗り心地は残念ながらイマイチだった。
サスペンションもないし、仕方ないんだろうけどさ。そのくせ速度は出せてるし。
全部の車輪が回ってるから4輪駆動だ。プチ4駆ってとこだろう。
ゴータローたちが並走しそうでちょっち不安だったり。
「おぉ! これならゴーレムにする前に複製しておいてもらってもよかったかもねー」
「この大きさだとうちの通路じゃすれ違えないから無駄になるよ」
「そっかー」
ゴーレムにする前にほぼ完成してる状態を複製すれば、量産できるのかな?




