25話 1人用
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テーブルに夕食を並べる。
「品数が少なくてごめんね」
「ううん、これもおいしそうだよ!」
コルノはええ子や。
もっと美味いもんを食べさせてあげるために、おっさんがんばるからな!
と、前世の俺では考えられないことを心の中で誓っていた。
「うわ! このタレ、すっごくおいしいねー!」
「マヨネーズっていうんだ」
「ボクすごい好き!」
そんないい笑顔で「好き」なんて言われたら、おっさんの好感度カウンターはカンストを超えて表示がバグってしまうぞ。
コルノはマヨラー。
おっさん覚えた。
「ほ、他に好きな食べ物ってあるか?」
「卵!」
「卵?」
「うん。ボクってお兄ちゃんにこの眼帯を貰うまでは、なんでも石化しちゃってたでしょ。石にならないのは空気と液体ぐらいだったんだ。それで口にできるものが少なくてね」
ひとりぼっちな上に食事もほとんどできなかったなんて。
やばい、おっさん泣きそう。「珊瑚だから海底にいたんじゃないの?」なんて、とても聞けやしない。
「ある時、ゴーレムが割れた卵を持ってきてくれてね、ボクにはそれがとっても美味しかったんだよ!」
生食ですか!
これはいずれ、卵かけ御飯を食べさせてあげねばなるまい!
こっち産のをそのまま生でいくのは危険だけど、卵ならアイテムボックスに前世の鶏卵がいくつかあるから、それを複製すれば食中毒なんか気にせずに生も問題なく食べられるだろう。
「でも殻が割れてないと中まで石になっちゃって、やっぱりなかなか食べられなかったんだ。ゴーレムが卵を上手に割れるようになるまで大変だったなあ」
「い、いっぱい卵、食べさせてあげるからねえ」
もう、だめだ。
おっさんの涙腺はだばっと決壊している。
生も、玉子焼きも、茶碗蒸しも! 絶対に食べさせてあげるから!
半熟ゆで卵なんて、温度調節できる俺の温泉なら楽勝だから!
「あ、ありがとう?」
泣き出してしまった俺にちょっと引いているコルノ。それを気にもせず、俺は皿をコルノの方へずいっと押す。
「これも、全部食べていいから」
「え、駄目だよ。ちゃんと食べないと」
コルノが豚肉とキャベツをまとめて刺したフォークを俺に向ける。
こ、これはもしや!
「はい、アーン」
言われるままに大きく開けた口にフォークを押し込まれる。
「どう? おいしいよね」
「う、うん」
ごめん。
自分で作った料理だけど、今の俺に味なんかわからない。
恥ずかしいのと嬉しいので、味の信号が脳まで届いてないぜ!
「いっぱいの卵、楽しみしてるよ。でもそのためにも元気でいなきゃいけないでしょ」
「う、うん」
どうしよう。慣れてきたと思ったのに、再びコルノの顔をまともに見れなくなってしまった。
おっさん意識しすぎである。
食後、コルノに入浴を勧めるも断られてしまう。
「クリーンがあるから必要ないよ」
「気持ちいいのに。髪も長いんだからちゃんと手入れしないと傷むよ」
「ハサミがあれば、自分で切るのにー」
「石鹸とシャンプーとリンスがあるから使って」
ちなみに、このシャンプーやリンス、それに整髪剤は美容師をしてる俺の弟が定期的に送ってくれてたもの。
やついわく「兄貴もちゃんとすればカッコイイんだから」らしいが、前世の俺がモテたことは一度もないので、お世辞か身内の贔屓目だと思われる。
そして、死ぬ直前には育毛成分入りのシャンプーを送ってきていた。新製品だからとのことだが前世の弟よ、深い意味はなかったよな?
「でもボクそんなの使い方わかんないよ」
「教えるから。簡単だよ」
「え? いっしょに入ってくれるの?」
「い、いや、実技はしないから! 洗うのは自分で、ね」
おっさんを殺す気ですか。
「じゃあ入らない」
つーんと横を向くコルノ。
「……わかった」
今回は諦めよう。
拗らせたおっさんをなめるな。一緒に入るなんて無理だ。
よく考えたら、湯上りで破壊力を増した美少女にも耐え切れる自信がない。
湯船にのんびりとつかる。もちろん1人でだ。
コルノはネットサーフィン中。
こっちのネットワークの管理って誰がしてるのかな。やっぱり神様?
温泉作製スキルのレベルアップで使えるようになった単純温泉ってのは含有成分量が少ない温泉。
つまりすごく薄い温泉。刺激が少なく、お年寄り向けらしい。
無味無臭で見た目は普通のお湯と変わらない。ちょっとさびしい。
早く濃い目の温泉に入りたい。
ここも改装して風呂場からお湯が溢れないようになってるから、源泉かけ流しもできるんだよなあ。
ゴーレムが量産できて土が余るようになったら、ライオンの頭でも作って壁にくっつけて石にしてもらって、そこから温泉が湧くようにするのもいいなあ。
解体の時に流しっぱなしだとやりにくいから、解体場をもう創っちゃうかね。
この風呂場の大きさだとゴブリンキャプテンの死体出すにはちょっと狭いし。
石鹸とシャンプーはまだ使わない。コルノにクリーンしてもらったし、おっさんにはお肌も髪の手入れも不要だ。
生まれ変わったこの体はまだ若いみたいだし。20歳前後? 生後3日だけどさ。
シャンプーを断念したのは小人サイズの手頃な容器がないから。
いくらワンプッシュで出るボトルとはいえ、普通サイズのは小人には使いにくい。出る量も多過ぎるよね。
石鹸は固形のを切り分ければいいけど、自分で使うのは複製できるようになってからでいいかな? 温泉のお湯でも汚れはしっかり落ちてるし。
台所での手洗い用も温泉がずっと出続ける蛇口みたいなのを作ればいいかな?
モンスターの襲来で慌てててすっかり忘れてたなあ。今度は忘れないようにメモしておこう。
まずはダンジョンの守りを固めて、次は食料、その次は……。
いろいろ考えていたら、長い時間風呂にいてしまった。
お湯が冷めたら温泉を追加すればいいし、空中に開けるウィンドウは濡れることもないので、メモ帳が便利だ。
「ふう。いいお湯だったよ」
湯上りに水分補給。コルノにも別のコップを渡す。
「ありがとう。わ、冷たい。それにシュワシュワしてる!」
「炭酸水だよ。これなら複製は水と空気でできるだろうし、温泉作製スキルのレベルが上がってもっと成分調整できるようになれば、出せるようになるからね」
アイテムボックスから前世の品を出して、500ミリのやつを開けた。空のペットボトルもほしかったしさ。前世では冷蔵庫に入れていたからよく冷えている。
前世のグラスで何杯か注いですぐにアイテムボックスにしまい、あまりを小人用のコップに注いだ。
「ふーん」
「それを飲んだら歯を磨いて寝ようね」
「もう?」
「もう遅い時間だよ。コルノもゴーレムを造ってMPが減ってるんだから回復させとこう」
前世の俺なら絶対に寝ない時間だろうけどね。
寝てくれないと小人さんが出てくれない。
「それじゃ、セーフルームはコルノが使ってくれ。あ、寝袋にしてる靴下はまだ使ってないもう片方のを置いておくよ。寝心地は悪くないと思う。入る時と出る時がちょっと大変だけど」
「フーマはどうするの?」
「また侵入者がくるかもしれないから、セーフルームで寝るわけにはいかない。そっちだと警報が届かないから」
というか、狭い密室で美少女と2人きりなんて無理すぎるから!
靴下寝袋があれば、ここでもぐっすり寝れるしさ。
レプラコーンの今夜の作業場として、DPで台所の横に部屋を創る。あとで解体場にする予定なので大きく、排水口付きだ。必要なものだしDPがあるうちに創っておいても問題ははないだろう。
さらに裁縫セットと皮用の針と糸もDPで購入。小人用のが安いんでこっちにしちゃったけど、大丈夫かな?
それと複製長財布を置いて準備完了。小人魔法を使用する。
おっと、台所に冷凍した保存食の袋を出して置かないといけないんだった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ネットサーフィンを続けたいコルノをなんとか宥めて就寝。
昼寝したはずなのに、またもすぐに眠りにつく。
MP回復のためにダンジョンマスターは寝つきがいいのかな……。
んん……。
なんか苦しくて目が覚める。
寝袋靴下に締め付けられているみたいだ。
そして、体の前面には柔らかな感触といい匂い。これは昼間も感じたことのある……。
「コルノ?」
「あ、起こしちゃった?」
コルノが俺と同じ靴下に潜り込んで密着していた。
「おはよー」
「まだ夜中でしょ。い、いったいなんでこんなことを……」
「人肌が恋しくて? 1人であの部屋にいたら、全然眠れなかったんだよ。それでこっちにきたらフーマが気持ちよさそうに寝てたから、つい」
「……とにかく、苦しいのでここから出ようね」
苦しいよりも気持ちいいのが先にきてつらい。
悪いなコルノ、この靴下は1人用なんだ。
「しょうがないなあ……おや?」
もぞもぞと動くコルノ。ぺたーんだけど柔らかなものが俺の身体にさらに密着。
「ごめん、なんか出られない」
「どうやって入ったんだ……」
「えへへへ。苦労したよー」
2人で悪戦苦闘するも出られない。そのうちにコルノの手が俺のデリケートゾーンに侵入する。
「ん? なにこれ?」
「そこはやめて!」
焦った俺は、アイテムボックスからカッターを出して靴下を切って脱出しようとするも、手が靴下から出なくてカッターが使えない。
「あれ? この靴下をアイテムボックスにしまえばいいんじゃないかな?」
「あ」
コルノの意見を採用したらあっさりと脱出できてしまった。今の苦労はいったい。
2人とも汗だくだった。
「面白かったねー」
「おっさんもうお婿にいけん……」
体育座りでイジケる俺。
ここはギャグで誤魔化すしかない。
まだ元気な誰かさんを隠すためでもあったりするのは秘密だ!
その後、コルノが1人で寝たくないという意見を覆せなかったのでコアルームに2人で靴下寝袋を並べて寝ることに。
「やっぱり靴下は左右両方並んでないとね!」
「そ-ですねー」
なんで別々の靴下に分かれたのに隣に寄ってきますか?
転がってやってきて、なんか楽しそうじゃないか。




