23話 ウルフ?
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俺とコルノが到着すると、戦闘はもう始まっていた。
ゴータローとレッドが穴の壁を駆け下りてくる侵入者を迎え撃っている。
相手は7匹。どれもたぶん俺よりも大きい。急いで鑑定する。
『プレーリーウルフ
モンスター 』
ドッグじゃなくてウルフ?
プレーリードッグのドッグってたしか鳴き声からだったんですけど。やつらげっ歯類なんですけど。
戦ってるこいつらは顔まで狼みたいじゃ……あ、犬歯じゃなくて門歯が大きい。そこはゆずれないのね。
その大きな門歯でもストーンゴーレムは削れないらしく、ゴータローもレッドも無事だった。
ウルフの名前の由来か連携が上手い。レッドがドリルを突き立てようとすると、すかさず別のプレーリーウルフが体当たり。傷を負わせるもトドメまでは至っていない。
群れでの戦いに慣れている。ゴブリンよりも賢いのか?
「アイスニードルズ!」
ゴーレムたちの頭上を飛び越えて背後に回ろうとしたやつに魔法攻撃。数十本の氷針が1匹のプレーリーウルフに命中する。
さらにそいつに隠れるようにして跳んできたプレーリーウルフにコルノが飛び蹴りを合わせる。
どう見てもコルノの方が小さいのに、吹っ飛んだのは相手の方だった。
「本当にボク、弱くなっちゃってるなー」
あれでか。蹴られたあいつ、生きているけどまともに立つこともできてないじゃないか。
どうやらコルノは一撃で仕留められなかったのが不満らしい。さすがゴーレムよりも強い“ゴーレムマイスター(笑)”だ。
俺たちの援護に勢いづいたのか、ゴーレム2体の反撃が始まる。
「ゴゴゴゴゴゴゴー!」
「ドリドリドリドリドリドリドリ!」
パンチとドリルの激しいラッシュに2匹のプレーリーウルフが沈んだ。
ゴータローとレッドの隙間から魔法攻撃を続ける俺。残りも一気に殲滅した。
何本かゴーレム2人にも当てちゃったが。
……スマン。
「まだ息があるのがいるよ」
「え?」
感知スキルにも反応があるな。
コルノに蹴られて動けなくなっていた1匹だけが生きていた。
「どうする? 眷属にするなら今だと思うけど」
動けない今のうちなら眷族化の儀式も逃げられないだろう。死にそうだが回復魔法で治療すればいいはず。だけど。
「いや、いいよ。こいつらで牧場ってのはちょっと大変そう。DPも少ないから、もしやるとしたら1層がかなり大きくなってからでないと」
今は牧場よりもセキュリティ向上が先だ。
もっと大きな群れを率いている強いボスなら考えたけどさ。
「経験値とDPになってもらおう。アイスニードル」
生き残ったプレーリーウルフの眉間を狙って発射した氷針は狙い通りに深く突き刺さり、モンスターは絶命した。
ゴブリンの時は眷族化するから助けたし、今回も助けられた相手だったけど、それほど忌避感がわかない。
自分のダンジョンの安全を護るため? それともダンジョンマスターになったせいだろうか。
前世の俺だったらもうちょっと悩んだと思うんだけどなー。
「周りが血だらけだねー」
「ちょっとだけアイスニードル多かったかな?」
この戦闘で入手したDPは7。消費した俺のMPは300ちょい。MP使いすぎたかもしれん。
いいんだよ、安全第一だし!
「血の匂いでまたモンスターくるかもしれないな。ダンジョンが死体や血を自動吸収してくれればいいんだけど」
残念ながらうちのダンジョンにその機能はない。吸収するのは瘴気だけである。
「魔法で綺麗にする?」
「頼……ちょっと待って」
ゴータローとレッドにモンスターの死骸を通路に並べてもらう。
うん。確実にオーバーキルだ。まだとけていない氷の針に全身を貫かれたままの血塗れの死体たち。毛皮も傷だらけで使えそうにないな。
俺の方は昼食の味付け肉の複製に使った食塩の残りを皿ごとアイテムボックスから出す。
「多いかな?」
皿からとりあえず小人用の大さじ1ぐらいの量の塩を別の皿に出して、死体のそばに置く。
そして複製開始。
「レプリケーション!」
あっさりと白い粉が現れる。
血塗れの土の上に。……空の皿を置いとくんだったか。
『食塩
異世界の食塩の複製 』
鑑定レベルが上がったら塩化ナトリウムだとか出てくるのかもしれない。
「お塩?」
「そう。血液中には多く塩分を含むからさ。モンスターでもそれは同じみたいだ。塩分を素材にさせてもらった」
無駄にするのはもったいないかなって。
これで塩の目処もついたな。
最悪、自分の尿を素材に複製しなけばならないかと不安だったんだよね。
皿を出して何度か、とれるだけの塩を複製する。あまり量はできなかった。こいつらの餌になってる動物も塩分が少ないのか。
「塩場だっけ? 近くにそれがないのかな」
「塩場?」
「テレビでやってた。草食動物が塩を取るところ。塩分が多い土とかを舐めてた。そこがわかれば、動物やモンスターを素材にしないでも塩ができる」
動物番組はよく見てた。アパートでは飼えなかったから余計にさ。
まあ、塩場を探すよりも温泉作製スキルのレベルを上げて、成分調整できるようになった方が早いだろう。
む。俺が塩を作れるようになったら、それを土に混ぜて盛っておけば動物たちを誘き寄せられる?
そこに罠を張れば、大型の草食獣も楽に倒せるかも。生け捕りもできるかもしれん。
温泉スキルのレベル上げの優先度をアップしておこう。メモメモ。
モンスターの死体をアイテムボックスにしまい、ゴーレムたちと穴にクリーンをかけてもらったら、みんなで反省会。
「今回の戦闘について意見をのべてくれ。次回への改善点にする」
面倒だけど、これは必要だろう。
生き残るためには、問題点は早めに解決しなければいけない。会議するだけならDPもかからないし。
「ゴ!」
「はい、ゴータロー」
挙手したゴータローを指名する。
「ゴ、ゴゴ。ゴーゴゴゴ」
「あ、ごめん」
言ってる言葉はわからなかったが、俺のアイスニードルでできた自身の傷を指差したので咄嗟に謝ってしまった。
「違うよフーマ。ゴータローは、自分たちゴーレムはコアが無事ならいくらでも直せるから、気にしないでもっと攻撃してくれてよかったって言ってるの」
「ドリ」
レッドも頷いた。
あれだけでそんな長い台詞言ってたの?
「コアが無事ならか。ゴーレムもダンジョンみたいだな」
「そうだね。ふふっ。コアの付近は特別頑丈になるよう仕込んでいるから、簡単には壊れないんじゃないかな」
それを聞いて一安心。でもなあ。いくら壊れても大丈夫だからって、味方を巻き込むのはやっぱり避けたい。魔法も練習するとメモっておく。
「ゴーレムの傷は充填された魔力を使って直っていくから心配ないよ。あんまり酷いようならボクが直すし」
ふむ。自己再生能力もある、か。
レベルアップして自己進化もしてくれるといいな。
「今回の戦闘で誰もレベルアップはしてないんだよね」
「そりゃ、あの程度のやつらじゃね。ボクらは一応上級種族みたいだし、レベルアップに必要な経験値も多いんだよ」
ここにきてレア上位種族を選んだことが足かせになるとは。
金属色のスライム、この辺りに出現しないかな? コルノなら会心の一撃で倒してくれそうなんだが。
一応みんなのステータスを確認すると、コルノがゴーレム語を習得していた。
だからゴータローたちの言葉がわかるのだろう。
「ドリ」
「レッド?」
レッドは天に向かって腕のドリルを突き上げた。
え? どゆこと?
「ドリドドド、ドリ」
「うんうん。あいつらみたいに、この穴の壁を登りたいんだって」
マジでそう言ってるんですか。そうですか。
壁歩きか。プレーリーウルフもそのスキルを持ってるのか?
……俺も持ってたよな。試すの忘れてた。
「敵の動きを知ることも大事か。あいつら連携もしてたし」
「ゴ!」
「自分たちも連携を練習するって言ってる」
「そうだな。それに今度はこっちの数も増やしたい」
「どっちもゴーレムたち次第のとこあるよね。ゴータロー、レッド、キミたちががんばれば仲間も増えるよ」
「ゴー!」
「ドリ!」
ゴータローとレッドが、高く掲げた手とドリルを合わせて宣言。
俺たちにまかせろって言ってるのかな。
「あとはボクから。ゴータローに武器がいると思う。ゴータローはちょっと小さいからリーチを伸ばしたい」
「ついでに俺の武器も作るかな、複製粘土で。剣のスキルが活かせる武器がほしい」
前世のカッターナイフじゃうまく反応してないっぽいんだよね。
切れ味が悪くても形が武器なら剣として認識するか試してみたい。
「ゴータローにはゴーレム武器の基本、石の棍棒かな」
「ゴ?」
たしかに似合いそう。
ただ、粘土で形をつけてから石にするんなら、他にも試してもいいかもしれない。でっかい石斧もよさそう。
「こんなところかな? もうない?」
誰も意見はないらしい。
「それじゃ最後に。初のモンスターとの戦い、ご苦労様。これからもみんなでがんばっていこう」
「うん」
「ゴ!」
「ドリ!」
らしくないことを言って、密かに精神的に疲弊して解散した。




