18話 プチゴーレム
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コルノがゴーレムを完成させた。
鑑定結果はこれ。
『プチクレイゴーレム
小さなゴーレム
土製 』
円柱だったはずの腕の先は太い3本指を備えた手に。胴体と一体化していた頭は、首がないながらも目らしき2つの丸い穴が開いていた。
いくつか命令して動作を確認しているが作成者は不満顔。
「イマイチだなあ。ボクのレベルが低いからかな?」
「そう? 俺にはよくわからないけどこんなのが動くだけでもすごいよ」
「こんなのじゃない! ボクの本当のゴーレムはもーっとすごいんだよ!」
怒らせてしまった。俺の言い方が気に食わなかったようだ。
「まったくもう! ……今はこれで我慢する。ボクの前に出ちゃ駄目だからね!」
コルノが眼帯に触れたので慌てて彼女から離れた。
彼女の眼帯は力を封印するというベタなアイテム。
封印されているその呪われた力は母親、メデューサに由来する。
眼帯を外し、呪いを解放した彼女の髪は蛇でこそないが、血赤珊瑚の名の通りの鮮やかな紅に変わり長さも伸びる。そして自在に動かせるようになったはず。
こちらからは見えないし、見るわけにもいかないが、やはり深紅に変色した瞳の視線は石化能力を持つ。
なお、眼帯は左側のみだけど別にオッドアイというわけではなく、両目とも色が変わる。
封印の眼帯はコルノの兄、魔王クリュサオルが黄金の剣でもう1人の兄ペガサスから切り取った皮を使って拵えたシロモノ。そのせいでゲーム中盤の治療イベントまでペガサスが出てこなかったりする。
「もういいよー」
その可愛い声に視線を移すと、彼女が見ていた側の穴の壁が石になり、ゴーレムがバージョンアップしていた。
『プチストーンゴーレム
小さなゴーレム
石製 』
呪コルノの視線はほとんどのものを石化させてしまう。
範囲は見たもの全て。
視線を合わせた、ではなく、視界に入った、なのでメデューサよりも凄い気がするが対象物を指定できない。
そのせいで彼女はずっとひとりぼっちだった。
寂しさを紛らわすために石になった動物で遊んでいるうちに独学でゴーレムマイスターになった、という設定だったと公式資料集で読んだ記憶がある。
コルノが眼帯を戻すと、彼女の呪いが再び封印される。
髪の色も戻った。長さはそのままだったが。
封印解除すると髪が伸びるのだが、眼帯を再装着して封印しなおしても髪は縮まないのだ。
フィギュアではロングヘアーモードは別パーツで再現可能だ。
「長い髪も綺麗だ……」
また緊張してきてしまった。
俺はショートカット派なのにとても美しく感じる。
おかしい。
魅了耐性スキルも精神異常耐性スキルも持っているのに彼女に魅了されっぱなしだ。
「そ、そうかな? でも動かせないのに長いのって邪魔なんだよね」
やだどうしよう?
伸びた髪を指でいじる仕草も可愛らしい。
おっさんのチョロすぎる萌えカウンターがカンストさせられそうです。
パワーアップしたゴーレム。
石になっただけなはずなのにデザインがいつのまにか変わっており、手の指は1本増えて4本指になっていた。
顔にも口だろう、横に長い溝が追加されている。
「それじゃキミがダンジョンを掘れるかテストしよう」
「ゴ!」
返事もできるようになったみたい。
「フーマが掘ったとこの隣を掘ってみて」
「ゴ!」
両腕を上げてポーズをとりながら返事をするゴーレム。
わざわざ無駄な動作をするなんて、もしかしたら感情っぽいものがあるのだろうか。
ゴーレムが石の手で土壁を削る。そのスピードは俺の時よりかなり遅い。
「フーマの方が腕力があるんだね」
「そりゃあ俺を創る時にDPがかかっているからね。約9800DPの男!」
「そのせいでダンジョン分のDPがなさすぎなんだよね。まったくもう。少しずつだけどダンジョンの壁が掘れるこのゴーレムだってすごいんだからね!」
「ゴ! ゴ!」
そうだとばかりに首もないのに何度も頷くゴーレム。やっぱり自我持ってません?
俺よりは弱いけど、暴れられると困るな。
あ、眷属登録すれば暴れられないか。
「そうだな。忘れてたけど、そのすごいゴーレムも眷属登録しとこう。しばらくそこから動くなよ」
「したがって」
「ゴ!」
足元に魔法陣が輝いても、コルノの命令を聞いてぴんとキヲツケをして微動だにしないゴーレム。魔法陣が消えてもそのままずっと止まっていた。
「あの、もういいよ?」
「ゴ?」
ゴーレムはもういいの? とばかりにキョロキョロしてる。
コミカルな動作になんか癒される。
眷属リストを確認してみた。
『アキラ(ヴァンパイアエンプレス)
コルノ(小人血赤珊瑚)
プチストーンゴーレム:1 』
うん。ちゃんと登録されているね。
「……ボクとゴーレムのラインが切れちゃった」
「え?」
「もうこの子はボクじゃなくてダンジョンの配下になっちゃったってことだよ」
「ゴ!」
はいはい。ポーズはいいから。
コルノじゃなくて俺の命令に従うようになったってことか。さっきの俺の「もういいよ」も聞いてくれたし。
「いい? これからはフーマに魔力をもらうんだよ」
「ゴ!」
「魔力ってMP?」
「ゴーレムがなにで動いていると思ってたの?」
そうか。無補給で動けるわけないもんな。エネルギーが必要なわけか。
……眷属になっちゃった以上、エネルギー不足になるとその補給にDPが使われる可能性があるのか。
これってうかつに眷属も増やせないんじゃ……。
「どうやればいい?」
「今日の分はまだ足りると思うけど……そうだね、練習しようか?」
コルノが俺のそばまでやってきた。
「いいかい? 今からボクがフーマに魔力を渡すから、その感覚を掴むんだよ」
「お、おう」
密着。美少女が俺に抱きついている?
ふぉぉぉぉぉぉお!
やぁらかい! いい匂いがする!
「集中してる?」
「う、うん」
そうだ、集中しないと。この感動を脳内メモリに刻んでおかねば。メモ帳ウィンドウに文字以外も記録できればいいのに! あ、INT値が100以上なら画像データも記録可能なんだ。でも俺がほしいのは匂いや感触の記録であって……。
「ボクが触れてるフーマの部分、そこにいつもと違う感じがしない?」
違いすぎてめっちゃ感動してます。いい匂いでやわらかくて……あれ? なんだろう? 真っ赤なイメージ? それが流れ込んでくる。
「コルノからなにかが……? よくわからないけど、赤い感じ?」
「それだよ。フーマはいいセンスしてるね。今度はボクにフーマのそれを渡して」
ええっ?
おっさんが美少女になにかを流し込んじゃうの?
ドクっと熱いパトスを放出なんてことをしちゃっていいの?
「ほら、ボクはいつでもいいから」
ぐぁっ、おねだりされてしまった!
顔がちょっと赤いのがポイント高い。瞳が潤んでいれば最高だったのに!
「い、いくぞ!」
「どうぞ」
もう止まっちゃったけどコルノから流れていたもの、たぶんMPだろう。それを意識しながら彼女に流れていくようにイメージする。
コルノに触れている部分を強く意識して……やばい、エロい方向にばかり意識がいきそうになってしまう。静まれ、静まれ……。
あ、なんか繋がってる感じがする。これがライン?
「ふぁあっ!」
「だ、大丈夫か?」
「う、うん。思ったよりもたくさん入ってきてびっくりしちゃった。……フーマの魔力、あったかい」
さっき以上に頬を染められてそんなことを言われたら、おっさんはもうどうにかなっちゃいそう!
ものすごい喪失感を味わっている。
MPを譲渡したからではなく、コルノが離れてしまったからだ。
「慣れたら接触しないでもできるようになるよ。次はゴーレムにあげてみて」
「……わかった」
ゴーレムの頭に軽く手をおくと、ひんやりとした石の感触。コルノとは大違いだな。カッチカチだし。
さっきと同じようにMPを送る。今度はステータスのウィンドウを開いて横目に見ながらなので、自分のMPが減っているのがわかる。あ、“魔力操作LV1”のスキルが増えていた。こんな簡単に増えちゃってていいの?
「はい、おわり」
「ゴ!」
ゴーレムが両手を俺に合わせている。なんで拝む?
「ごちそうさまだって」
「ああ、食事が済んだってことか。よくそんなの知ってるな」
「眷属契約の時にダンジョンマスターから必要な基礎知識が転写されるんだよ。そうじゃなきゃ、ダンジョンマスターの言うこともわからないでしょ」
そう言われてみれば、インストールされたダンマス知識にそんなのがあった気がする。
コルノが日本語スキルを持っていたのは原作ゲームで日本語を喋ってたからじゃなくて、眷属契約のおかげなのか。
「でも、ごちそうさまで手を合わせるってのは必要な基礎知識?」
「マナーがなってないと怒るマスターもいるんじゃない?」
「むう。食事のマナーなんて教えるほど詳しくはないんだけど……食事か、腹減ったな」
今日は朝飯抜きだった。
ちょっと早いけど食事にしますかね。
昨日も一昨日もキャベツだけだったから、そろそろ別の物を食いたいし。




