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168話 不良少女と委員長と先生と

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 初神者講習に向かう前におっさんは知り合いのダンジョンを訪れていた。

 同行者を連れて。


「おお、ここが忘れられし聖域ですか。なるほど、妖精島の遺跡とはスケールが違いますな」


 しきりにメモを取っている小人状態のミーア。


「聖域ってのは伊達じゃありませんね。名前負けしないほどに聖気に満ちてます」


 ふむとうなずく乙姫。


「ここも凄いですけれど、こんな大物と知り合いなんてさすがコーチです!」


 ダンジョンよりも乙姫が一緒のことに動揺しているコトリ。女性ダンマスの中でもトップの一人の前だからか、妙に緊張しているようだ。

 このダンジョンのマスターであるアキラは、目を細めるようにして来客を観察している。鑑定しているのだろう。事前に情報を渡して、ダンジョンに招待はしてもらってるんだけど、用心は必要だもんな。


「オレがここのダンジョンマスター、アキラだ。よろしくな」


「私は竜宮城の乙姫。フーマさんの奥さんの友人よ。フーマさんとも仲良くさせてもらっているわ」


「あんた、強えな。今のオレじゃかないそうにねえ」


 妙に嬉しそうなアキラ。こいつ、バトルジャンキーの()があるからちょっと心配だ。いきなりケンカを売るような感じではなさそうだが。


「当たり前です! 乙姫様は女性ダンジョンマスターのトップに君臨するお方! もっと敬意をですね」


「お(めえ)は底辺ダンジョンのやつだったな。舎弟が世話になってる」


「はい、私は育成ギルド、ヨウセイの穴所属のダンジョンマスター、コトリです。舎弟ってああ、エージンさんですか。その節はどうもご迷惑をおかけして」


 アキラがエージンの言う「姐さん」であることを思い出して納得するコトリ。エージンの策でアキラが聖剣を奪われて苦労したことを謝る。自分は一切関わっていないのに同じ組織のメンバーの不始末を。


「いいって。お(めえ)は知らなかったんだろ? ヤツ自身にオトシマエはつけさせた。それにおかげフーマとも知り合えたしな」


「は、はい」


「コトリさんのギルドも最近がんばっているようですが、なるほどフーマさんのテコ入れがありましたか」


「はい。コーチのおかげで私たちは生まれ変わったんです!」


 うん。なんか不良少女と委員長とお嬢様先生みたいな組み合わせだな。乙姫は若いけど学生というにはちょっと……貫禄がある? まあ、深く考えないことにしよう。


「んで、そのちっちぇのが噂の嫁さんか?」


「小生が? いや違うよ。奥方は別さ。小生はミーア。考古学者でね。遺跡型の見事なダンジョンと聞いては逃すワケにはいくまい、無理を言って同行させてもらってる。いや本当にこの聖域は見事。感動しているよ」


 メモを取るのを止めて返事をしたミーア。キラキラした瞳がまぶしいね。ここんちの子になるとか言い出しそうで不安になるぐらいだ。連れてくるんじゃなかったかな?



「ミーアはおっさんの眷属だよ。嫁さんはダンジョンの防衛のために留守番してる。最近、海辺が物騒でね」


 このダンジョンは山脈奥地の秘境。クラーケンの手下も現れず、アキラはクラーケンの攻勢を知らなかったらしく、そのことを話すと驚いた顔を見せる。


「なんだって! 海はそんなおもしれーコトになってのかよ!」


「知らなかったんですか? 最近は掲示板もその話題で持ちきりなのに」


「ここんとこアライとコボルデア鍛えててよ、掲示板見てなかったぜ。フーマが教えてくれなきゃ女子会なんてのも知らねえままだったぜ」


 まったくこの子ってば。まあ、自分だけじゃなくて眷属を鍛えているみたいなので少しは変わったのかも。

 あとアライってのはアキラの眷属の【鮮血鯉】の名前。アキラいわく鯉の洗いから頭が離れなかったのでこう名づけたとのこと。そのアライは水棲ダンジョンマスターが気になっているようだ。先ほどから物陰を飛びながらチラチラと乙姫の様子を窺っている。ビビってるのかな?


「こんな子なんだ、アキラって」


「かわいいのに武闘派なのね」


「イヌミミと尻尾はエージンさんの姉貴分っぽいですね」


「ヤツは犬っぽいけど、オレのはオオカミのだからな!」


 たしかにアキラの前だとエージンは飼い犬っぽい。しかもかまってほしいと尻尾振って甘えてくるタイプの。あいつはアキラによって配下の吸血鬼化してるから当然と言えば当然なんだけどさ。

 エージンはアキラと違ってまだ日光耐性のスキルがないから、野生モンスターと戦いながら特訓してるって言ってたっけ。


「本当にヴァンパイアエンプレスなんですか。UR種族って実在したんですね?」


「いるわよ。数は少ないけど。強いのばかりね」


「無くなったハイパさんといい、コーチの同期は凄いダンマスばかりですね」


「おっさんは凄くないんだけど」


 会ったことないけどベルフェゴールだったっぽいハイパも同期といえば同期なのかもしれない。もしかしたら、底辺ダンマスたちを魅了したというスキルはおっさんと同じくアフロディーテ由来のオンリースキルだったかもしれないもんなあ。


「女子会で騒がれそうね。有望な新人の登場って」


「面倒くせえなあ。やっぱ出ねえってのは」


「駄目です。他の女性ダンマスの顔ぐらい知っておいて下さい。……はあ、こんなに強い方でなければヨウセイの穴にお誘いしたんですけど。ゴブリナのことでもお世話になってますし」


 初めてプレーンなゴブリナに進化したメスゴブリンはアキラのとこのゴブリンだった。そのゴブリンも未熟者のダンジョンで特訓したんだ。

 コトリ自身は女性なせいかゴブリナを欲しがってはいないんだけど、ヨウセイの穴の連中が騒いでいるからおっさんが無理言って借りてきたと思っているのかもしれない。


「吸血鬼ギルドからもお誘いがくるわね、きっと」


「嫌だよそんなん。オレは好き勝手に戦いてえだけなんだっての」


「ならおっさんみたいに外部協力者ってことにしとけば?」


 おっさんはもうヨウセイの穴のメンバーだと思ってもいいんだけど、外部協力者っていう立場みたいだからな。ギルド運営のための会費も払っていない。まあ、底辺ギルドだったヨウセイの穴は会費なんて集められる状況ではなかったみたいなんだけどね。


「いいですねそうしましょう。ヨウセイの穴は最近、ゴブリナ目的のダンマスが多く味方につくようになっていますので、迂闊に手をだしてくる方はいません」


「は? オレが?」


「ゴブリナ関係の縁ですね。たまに顔を出してくれれば他に要求はないですよ。エージンさんも喜びます」


「まあ、そんぐれえなら」


 ふむ。女性ダンマスが増えるとなるとあいつらも喜ぶだろうな。ハルコちゃんにアキラの分もジャージを用意してもらおう。

 っと、そういえばそっち方面も気にすべきか。


「なあ、女子会のドレスコードってあるのか? 新人はあんまり目立たない方がいいか?」


「ええ。でもアキラちゃんはヴァンパイアエンプレスだからそれにそぐわない見窄らしいのもなめられてしまうわね」


 ああ、そういうのもあるのか。アキラは服装に無頓着だったからハルコちゃん作以外は増えてないみたいだし、用意させてもらおうかね。そんな条件知ったらハルコちゃんも喜ぶだろう。暴食の十二指腸の調査でリオ以外にも糸を出すモンスターも増えたから、彼女も張り切ってるんだよね。


「吸血姫の伝統衣装はしねーぞ」


「伝統衣装? ……って裸マント? 止めときなさい」


「だからしねーって」


 裸マントは伝統衣装。共通認識らしい。だからといってさすがにそんな姿で他のダンマスの前には出られないよね。痴女そのものだ。

 ヨウセイの穴の連中は大喜びしそうだけどね。


「アキラさん、武闘派なのにちゃんと身綺麗にしてるわね。戦いには関係ないって疎かにしててもおかしくないのに」


「ああ、そりゃフーマのおかげだ。温泉ひいてくれたからな」


「温泉!?」


「おっさんのスキルでな。おっさんは温泉妖精なのさ」


 適当なことを言ったけど信じていないだろうな。でも、GRって言っても信じてくれないかもだしさ。

 温泉のスキルに関しては秘密にする必要はないだろう。


「コトリも知ってるだろ? 魔王城跡地にもひいたし」


「ああ、ジュースのためのあの炭酸泉はそれによるものでしたか。しかし温泉とは羨ましいですね」


「ええ。私も興味あります」


 そりゃ乙姫のダンジョン“竜宮城”は高級旅館だから温泉と聞けば気にもなるか。


「それならあとで入っていけよ。んで、服だけどよ、あれならいいんじゃねーか? ハルコが作ってくれた冠婚葬祭にも使えるってやつ」


「そんなのあったんだ?」


「なに言ってんだ? フーマにも見せたじゃねーか。黒セーラーっての」


 あれかな? レヴィアの黒セーラーを気に入ったハルコちゃんが似たようなのをアキラにあげてた。きっとそれのことだろう。

 レヴィアの小人状態の服ってハルコちゃんが来る前は自前のでそれは乙姫が用意していたらしい。乙姫もそれに気づいたようでおっさんを見て意味ありげに微笑んだ。


「自分の妻と同じ衣装をプレゼントってどんな意味かしらね、フーマさん?」


「へ? あ、あれってフーマの嫁と同じ服なのか?」


「黒セーラーならそうよ。私が彼女にあげた物だもの。たしかにそれなら悪くないかもしれないわね。現物を確認しなければいけませんね」


 なんだろう、アキラが真っ赤になってチラチラこっち見てるんだけど。着替えた方がいいか聞きづらいのかな?


「アキラ、着てみせてやったら?」


「フ、フーマがそう言うなら」


 着替えるためにアキラが席を外すと、女性ダンマス二人がなんかニヤニヤとこっちを見ている。むう、とっても落ち着かないんですが。

 ここはおっさんじゃなくてハルコちゃんが勝手にやったことだってイイワケすべきなんだろうか? そう迷っていたらすぐにアキラが戻ってきた。


「あら、なかなかの出来じゃない。元のよりもいいかも……。黒も吸血鬼らしくてこれならいいんじゃないかしら?」


「いいなあ。私なんて初めての女子会の時は精一杯がんばったけど、背中の翼が邪魔で選択肢なんてほとんどなかったのに」


「それならばコトリさんには私から黒セーラーを贈りましょう。ふふふ」


 嬉しそうに微笑む乙姫。筋肉だけじゃなくて黒セーラーも好きなのかも。自分は着物のくせにね。いや、自分がセーラーが似合いそうな年齢の外見じゃないからこそ他の子に着せたいのかな。

 さっき変なこと言われたからおっさんからは言い出しにくいのでなにも言わずに傍観することにした。


「そ、そんな悪いですよ」


「いいのよ。黒セーラーが普及すれば私が嬉しい。マーメイドたちは泳ぐのに邪魔だからってあんまり着てくれないのよ。あとで送るからサイズ教えてね。ちゃんと翼のことも考慮させるから」


 考慮させるってことは乙姫が作るんじゃなくてお針子さんがいるのかな? それとも外注? 普及すればってダンマス女子の女学生化を企んでいたとは乙姫おそるべし。さっき考えた先生ポジションは間違いじゃなかったようである。


「コトリさんの脚の筋肉も映えるようにスカートは短めにしておくわね!」


「え? あ、あの!」


「女子会が楽しみね!」


 ミニスカートを押し切られて困った顔で助けを求めるようにこっちを見る委員鳥。まあ、女子会なら短くてもいいんじゃね? ギルドの連中の前だと大変だろうけど。


「あと気になっていたのは、初めて出る時はなにか持たせた方がいいか?」


「お前はオレの母ちゃんかよ」


 なぜかアキラにため息されちゃった。お節介すぎた?

 でもそういうの気にするのがいそうなイメージなんだよな。挨拶に渡すのの定番っていえば。


「名入りタオル……いや女子にタオルはないか。ハンカチ? ハルコに頼むか」


「リオハルコンのハンカチなんて騒ぎになるだけだから絶対に止めて」


「ハルコちゃんに女子会を見学させるのも駄目か? 女性ダンマスの衣装を気にしてたんだが」


「うーん、正体がバレたらスカウトされまくるわね」


 リオハルコンブランドの下着、そんなに人気なの? 出荷数少ないはずなのに。でも委員鳥もうんうんって肯いているからハルコちゃんはパスさせた方が無難か。


「ハルコには小生が報告するから任せてくれればいい」


「あら、あなたもくるの?」


「小生は猫要員としてなのだよ」


 雷獣姿に変身するミーア。ケットシーに出張の話をしてる時にどうしても深海のダンジョンも見たいと頭を下げられた。だからこの場に来るのも許していたりするのだ。


「か、かわいい!」


 鳥人のくせに猫に目を輝かせる委員鳥。って、ギルドにはウェアタイガーもいるから今さらか。


「これなら女子会も成功しそうですね。ケットシーさんたち、期待してますよ」


「ふふ、乙姫様の竜宮城も期待している」


 サービスなのか委員鳥の差し出した人差し指に鼻を寄せながらミーアは答える。ちゅるちゅるする餌とかもらってもヘッドハンティングされないでいてくれよ。


 アキラは挨拶に出せるのはゴブ茶ぐらいしかないということで、これを一杯ずつダンマスに渡すことに。味を確認した乙姫も大丈夫だと言ってくれた。


「ゴブ茶という響きがあれですのでゴブティーではどうでしょう?」


「それもどうかと」


 その他女子会絡みの打ち合わせを済ませ、温泉に入っていくという乙姫と委員鳥を残しておっさんたちは帰る。


「マスター、少しは役に立つ情報はあったかい?」


「うーん、とりあえず服装に関してはもうちょっと考えておこう。講習会だしな」


 おっさんが女子会のことを相談したのは実はアキラのためだけではない。

 初神者講習会に行くにあたってのなにかヒントになることがないかの情報収集のためだったりもしたり。



いいね受付はじめまてます

今年はもうちょっとペースを上げたい

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― 新着の感想 ―
[一言] セイロンティーみたいにゴブリンティー…はどう考えてもアウトだな(苦笑) 人魚にセーラーはちょっと来て欲しいな 下と上の裾丈を可能な限り短くして、上は下たちが見えるくらいで、なおかつ半袖にし…
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