166話 塩もいい
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うちのダンジョンがあるこの妖精島は海流と付近に棲息する狂暴なモンスターのおかげで人類種が近づくことはなかった。
だが、海勇者の持つ聖剣である三叉の矛は水流を操作する能力が有り、これによってどんなに荒れた海や凪の海でもかまわずに船を航行させることができる。
さらに、その勇者としての凶悪な戦闘力でモンスターを蹴散らせるので、妖精島に来ることが可能なのだ。
勇者なんて来てほしくはないが、補給や休息のために島に立ち寄る可能性があるらしい。
ダンジョンは入り口が小さいので入ってはこれないだろうが、勇者と共にいる海賊たちに島を荒らされるのもなんか嫌だ。
とにかく情報がほしいので乙姫と話をした。
「前にも説明したけど、海賊と言っても、商船や豪華客船を襲うことなんてしないわ。そもそもこの世界にはそんなものなんてないのだし」
「海は地上よりも危険でワリに合わない、か」
「そう。だから移動手段に船を使うだけで海に近い町や村を襲う賊がほとんどね。ダーリンの率いる連中みたいに海の安全を確保する代わりにみかじめ料を取ってるのも海賊って呼ばれているわね」
海のヤクザってとこなのね。この世界には海のモンスターのおかげで大航海時代はおとずれていない、と。
海の強いモンスターと戦えるぐらいの能力を持っていたら冒険者として普通稼げるだろうしなあ。
「海賊なんてやってるのはよほどのことをして地上にいられないお尋ね者か、ダーリンみたいに海大好き、なやつらね」
「海が好きって言われてもねえ。他に特徴は?」
「あまり言いたくはないけど、臭いわね」
少し困った顔で言う乙姫。臭いのが特徴って。
この世界にも風呂ってあったよな? 底辺ダンマスの連中だって風呂には入ってるし。においには気をつけてるよ。だって邪神のダンジョンとかで敵モンスターに見つかりやすくなるの嫌だもんな。
「風呂嫌いが多いってこと?」
「お風呂なんて贅沢品よ。温泉地や共同浴場がある街なら平民も使えるけど、そうでなければ一生暖かいお湯につかることもない人も多いわ」
いや、産湯ぐらいはあるんじゃない? そう思ったけどそれは聞かなかった。乙姫の方がこっちの世界に詳しいのは確かだし。
「水風呂か身体をふく程度ってことか?」
「そう。そして船上では水は貴重品。だいたいの海賊が洗濯すらほとんどしてないのよ」
うっ。それって船の中のにおいもすごそうだな。むさい男たちの体臭に満ちているなんて想像もしたくない。海賊たちは慣れているのかね?
「魔法で水を出せばいいんじゃない?」
「そんな有用な魔法を使えたら海賊になんてならないでしょう」
「そういうもんなんだ」
よく考えたら水魔法って生活に役立つもんなあ。農業だけじゃなくて飲み水にだってなる。そんな重要人物は大事にされるか。食いっぱぐれのなさそうな技能なんだな。
って、水を求めて妖精島に上陸する可能性が高いのか。植物がはえてるのを見たら水や食料があるんじゃないかって思うかもなあ。
海岸付近に水場を用意しておけばすぐに島から出ていってくれないかな?
「ダーリンのスメルはきっとフローラルよ」
「前世でも香水って体臭を誤魔化すために使われてたとこもあったんだっけ?」
ところどころで片思いの海賊船長であるダーリン自慢が入るなあと思ったら、これからが本番だった。
勇者たちのことを聞いたら肝心の勇者ではなく、海賊たちの情報を話しはじめたのだ。それも主に筋肉関係を。
「操舵手はさすがに手首が美しいわね。あの尺骨に流れるライン、素敵だわ!」
「は、はぁ」
「脚肉だって揺れる船の上で踏ん張るためになかなかの子が多いのよ!」
いや、筋肉のことばかり語られて困るのですが。ここはリアンファイブを呼ぶしかないか。彼女なら話が合って詳しく聞いてくれるに違いない。
すぐにメイドワゴンにお茶請けを乗せてやってくるリアンファイブ。頼りになるなぁ。彼女もそろそろ名前を考えてあげてもいいかもしれない。
「ありがとう。ここに来ると美味しい野菜を追加注文したくなってしまうわね」
「ふふ。今日のは私の自信作よ。乙姫にわかるかしら?」
「あら? レヴィアに料理を教えたのは誰だったのか、忘れたのかしらね?」
出された皿には小さな揚げ物が載っている。おっさんや妖精あたちから見れば大きいけど、プチトマトぐらいの大きさだろうか。アレね。おっさんが頼んで作ってもらったやつだ。
「なにかしら? 揚げ団子ではなさそうだけど」
そう言って、もはや乙姫専用となっている人間サイズ来客用の箸で揚げ物を摘まんでつゆも塩もつけずにパクリ。そのものの味を確認しようというのだろう、さすがである。
「ほっくりとしていて美味しいわね。これは里芋? ……ではないわね」
「ふふふ」
ドヤ顔のレヴィア。君も自分で作ったのに驚いていたよね。そのショックを乙姫にも教えたかったのだろう。だってこれ、お茶請けってよりはおつまみだよね。
お茶はゴブ茶である。合わないことないな。
「これね、らっきょうなんだよ」
小ぶりなのを選んでかじりついていたコルノがネタばらし。
「もう。もうちょっと引っ張るつもりだったのに」
「ごめーん」
軽く頬を膨らませて怒るレヴィアと、大きく頬を膨らませてらっきょうの揚げ物を頬張るコルノ。どっちも可愛いね。
お、天ぷらだけじゃなくてフライもあるのか。このタルタルソースは中身を惑わせるためね。しかもタルタルソースに甘酢らっきょうを使ってるのはニクイねぇ。
妖精たちとみんなでらっきょうを剥いた時のことを思い出す。
小人サイズに仕上げるのにらっきょうは他の野菜よりはしやすいかもしれない。楽とはいいにくいけど。小人でも食べやすいサイズに剥かなければいけないからね。大きな塊を芯の方まで剥いてちょうどいい大きさに切るんだよ。
スイカかららっきょうを取り出す感じ? 楽そうではないでしょ?
それで余った部分も勿体ないから食べる方法をと、前世で揚げ物や煮物があったのを思い出して頼んだんだ。
小さく小人サイズに仕上げたのは当然のように塩らっきょうにして、甘酢らっきょうにした。なかなかいい具合に漬かって妖精たちにも好評だよ。甘いピクルスだってさ。次はワインやハチミツを使う予定。
比較用に元サイズのらっきょうも漬けた。一口サイズにこれを切ったのと、小さく仕上げたのを食べ比べした。小さく切ったのも悪くはなかったけど頑張って剥いた方がよかったね。
むう、こんな時間なのに飲みたくなってくるよ。ああ、日本酒がほしい。
「これがらっきょう? 食感が全然違うのね。ほっくり、そしてねっとりとしていて美味しい」
「煮物も美味しいのよ。見た目でなにかわかりそうだったから今回はやらなかったけど」
「ここはらっきょうも美味しいのね。……もしかして島らっきょうもあったりする?」
「それはちょっとないなあ。それっぽいのができたりしたら嬉しいんだけど」
島らっきょうは小さめだし、おっさんたち小人向きだ。ちょっと辛みが強いけどそれもいい。品種改良でそれっぽいのを目指すのもいいかもしれない。
……泡盛もいいな。飲みたい。
「なんだか居酒屋みたいね」
「そのつもりで来る客もいるんだよ」
言ってるそばから囲炉裏テーブルの炎が揺らいだ。これは間違いなくあいつだろう。
「呼びましたー?」
やはりと言うべきか、一瞬炎が人型になったかと思うとそれがそのまま小人サイズの女神となる。炎に焼かれることもなく、のんきな声を上げるヘスティア。
「呼んでないから。ってかなに? 盗聴器でもつけてんの?」
「なに言ってるんですか? わたしはフーマさんの担当神じゃないですか。担当ダンジョンマスターさんのことを知るのは当然の義務です」
うげ。さすが神様。おっさんにプライバシーはないらしい。
いつも見守ってくれているんだと思い込むことにするしかないか。
「わお、今日は揚げ物ですか。いいですねー」
「まだ飲むには早い時間だろ? 仕事はいいのか?」
「本体さんはまだちゃーんと仕事中ですよー。わたしは分霊でーす。まったく、クラーケン調子に乗りすぎですよ。仕事増やさないでくださーい。わたしは炉の女神なのにー、なんで苦情対応させられるんですかー。飲まなきゃやってられませんー」
クラーケンがちょっかいをかけているのは妖精島だけじゃなくて世界各地。足というか触手の一本が自分の分身として活動できるチート多脚モンスターなのを活かして多面作戦を展開中のようだ。
まあ、モンスターだけじゃなくて神様も分身してるみたいだけどさ。
ヘスティアはぴょんと炎から飛び出して、皿のそばに着地、一番大きならっきょうフライを手にする。
「ふむふむ。いい揚がり具合ですねー。これはお酒がすすみそうですー」
「いや、見てたんならわかると思うけど、ダンジョン運営に関しての大事な情報交換の最中だからね」
もうちょい我慢してほしい。おっさんも飲みたくなってきてるけど!
なのにレヴィアは大きくため息。コルノは指で掬ったタルタルソースをペロペロしながら立ち上がる。
「今日はここまでのようね」
「ボクも手伝うねー」
もう諦めたのか。いや、二人ともお酒好きだもんなあ。おっさんよりも飲みたかったのかもしれん。
「ふふ。仕方ないわね。ヘスティアが気に入ってるここの晩酌、調査させてもらうとしましょう」
「乙姫さんの旅館も好きですよー。お刺身サイコーです。でも、こっちには猫ちゃんもいますし。猫ちゃんいいですよねー。コタツ仲間ですー」
「聖獣はロバだったんじゃ……」
呆れた顔のミコの呟き。彼女も呼ばれたか。さっきまではアスカと一緒にフツヌシの手入れをしていてくれたんだよね。
フツヌシは勇者の聖剣に対抗意識を燃やしたのか、自己鍛錬に夢中なんだよ。夜は妖精たちの宴会に参加して、ここ数日ブーム中のキュウリのヘタあわせに協力してるけどね。
炎の周りを踊るように飛び交うフェアリーたち。抱えている大きなキュウリ。数人でヘタあわせを行い、それを切り分けてみんなで食べ比べをしてるんだ。ヘタを持ってぐるぐる回す役が大人気だったりする。
……つい先日、それにハチミツかけが有りか無しかで派閥が生まれてしまった。変なこと教えるんじゃなかったよ。メロンを入手できれば沈静化するとは思っているけどね。……そうでもないかな?
ちなみにコルノはキュウリにもマヨネーズ派なんだけど、マヨネーズが妖精たちに普及していないのでそこは沈黙している。
マヨネーズに関してはまず卵が入手困難。おっさんのスキルで複製する前世の鶏卵にばかり頼ってはいられないと、妖精たちも遠慮している。かといって他の鳥も妖精島では減少中。ネズミどものせいだ。
妖精たちの食料は、野菜や果物の生産を手伝ってもらっているんでそれを渡しているけど、肉類は基本的に狩り。しかし妖精島の生物はネズミたちにだいぶやられてしまっているので、邪神ダンジョン産のモンスターの肉となることが多い。
食材にされるのも妖精種が多いんだけど、共食いではなく人間が同じ哺乳類である牛や豚を食べるのと同じぐらいの感覚のようだ。さすがに育成中のゴブリンたちやタマにゴブリン肉を食べさせはしないけど。
だからアスカたちが邪神のダンジョンで見つけてきた卵には期待している。一個だけだけど〈鑑定〉スキルでは鶏卵ってなってるし、受精卵でもある。卵を産んでくれるメスが孵ってくれればいいんだけどな。
ミコによればコカトリスを作ろうとしていたのではないか、とのこと。雄鶏が産んだ卵をヒキガエルが暖めるとコカトリスが孵るらしい。それを聞いてカエルたちが騒いだが、暖めるのは温泉カラスのクロスケに頼んでいる。まだ同じ鳥類の方がいいだろう。クロスケもそんなに嫌がってないようだし。
アスカたちは知り合いの救助とスカウトを優先したので、そうではないモンスターその他はあまり連れてきていない。それに、ほとんどがハエの餌になってしまったみたいだ。
だから自分が可愛がっていた牛系のモンスターも無惨な姿になっていたと嘆いていた。不幸中の幸いと言っていいのか、子牛はギリギリ無事だったので連れてくることに成功している。牝牛だけどまだ乳は出ない。進化次第で妊娠してなくてもミルクが採れるというのでちょっと楽しみ。
◇
結局、少し早めの晩酌が始まってしまった。まあ、あれ以上聞いていても筋肉の話ばかりだっただろうからかまわない、ってことにする。
「ケット・シーいいですね。何頭か、うちに来ませんか?」
「嫌なのにゃ。海の底なんて猫には無理なのにゃ」
「それなら、世界の中心の支店はどうでしょう?」
「支店て。というかそのニャンシーはおっさんの眷属だからね」
飲みながらなんでニャンシーをスカウトしてるんだよ乙姫。あとニャンシー、もうケット・シーから進化してるの忘れちゃってるのかな?
「うちのケット・シーの子はもっと小さいから、そんな危険な場所は無理じゃないかな?」
「いえいえコルノさん、うちの支店ダンジョンはマーメイド喫茶です。戦闘なんてありませんよ」
「マーメイド喫茶?」
メイド服の人魚たちが店員の喫茶店が頭に浮かぶ。そんなのがダンジョンにあるの? それも世界の中心ってダンジョンマスターの最終攻略目標である最難関の邪神のダンジョンだよね。
攻略のため、そっちにダンジョンを出張させろっておっさんも言われてるっけ。
邪神のダンジョンの領域を自分のダンジョンによって侵食して奪うのがダンジョンマスターによる攻略。そんな侵略ダンジョンが世界の中心には多数出張していたはずだ。
「真面目に攻略しているダンジョンマスターさんも多いけどー、乙姫さんのように他のダンジョンマスターさんのサポートのためにダンジョンを使う方もけっこういますよー」
「あそこは瘴気が特濃ですから置いてるだけでもDP貯まりますし、人魚たちも婚活できますから。彼女たちも可愛い子が多いですからたまにダンマスに見初められちゃうんですよ」
「なんと。それ知ったらあいつ、必死に世界の中心を目指しそうだな」
知り合いの半魚人ダンジョンマスターの顔が浮かぶ。人魚好きなのに「淡水は嫌」って断られていつもナンパに失敗するって愚痴っていたっけ。あ、あいつ今はゴブリナの水中種マーゴブリナを夢で見たとかで雌ゴブリンを育成中だった。
「でも、マーマンはイマイチ人気がなくて女性客が少ないんです。だからケット・シーで猫カフェも併設できたらな、と。今度の女性ダンマスの集会はうちでやることになりそうなので、その時だけでもいいですから」
「そんなのあるんだ?」
「女性ダンマスは少数ですし、変な男性ダンマスに言い寄られたり無茶な要求されたりすることもあったんですよ、過去に。だからなめられないように団結することもあります。連絡網は強固ですよ」
前世のセクハラよりももっと酷いダンマスもいたらしい。この世界じゃ一部を除けば男性の方が強いようだし、女性の立場の弱い国も多い。それに流されて調子に乗ったダンマスもいたとか。
女性ダンジョンマスターは美人が多いらしい。おっさんが知ってるのは数名だけだけど全員美女美少女だ。だから、お近づきになりたいのもわかる。けれど力づくで強制なんてのはちょっとなあ。
「最近は女性ダンマス同士のネットワークも知れ渡ったのであまり不逞の輩は出なくなりました。集会はほとんど女子会といった状態ですね。……だからこそ下手なもてなしをしたら、あとで影でなにを言われるかわかったものじゃないの」
「なにそれ、こっわ」
「それを怖れてるのかみんな幹事を嫌がって。でも今回はクラーケン対策も話したいからって、私の幹事が避けられそうにないわ」
ぐいっとワインを煽る乙姫。こっちも予想外のストレスたまってたのね。
ダンマスの女子会か。アキラやコトリもいくのかな? アキラはなんかそういうの慣れてなそうだから、委員鳥にいろいろ教えておいてもらった方がいいかもだな。余計なお世話かもしれないけどさ。
「まったくもう! 次に幹事やる時はダーリンとの結婚宣言の予定だったのに!」
「いつになるかしらね。ふふっ。私みたいに早く結婚できるといいわね」
まだ幼い姿ながら勝者の余裕を見せるレヴィア。乙姫が結婚すると聞かされて泣かされたって言ってたもんなあ。そのおかげでおっさんが結婚できたんで乙姫には感謝している。レヴィアの家族みたいな女性だしサポートしてあげたい気持ちもあるんだ。
「くやしい! いつまでもお幸せに! ……どうでしょう? ここのカワイコちゃんたちならみんなもきっと満足します」
レヴィアを祝福してすぐにニャンシーに向き直った乙姫は必死の形相でつめよった。でもちょっとにやけてる? 女子会のためだけじゃなくて、猫好きなんじゃないだろうか?
うちのケット・シーたちは小型種でさらに可愛いもんなあ。
「新鮮な魚を食べ放題ですよ」
「にゃんと!?」
「それならたしかに行きたがる猫も出るかもしれないか?」
妖精たちの夜毎の宴会。おっさんたちがたまに差し入れしてるんで魚の味を覚えた妖精も多い。けれどいつも出せるわけじゃないから釣りが趣味になってるやつもいるんだよ。
「お魚はずるいのにゃ。ボスがよければ一応、心当たりに打診してみるのにゃ。うまくいったら仲介料としてお魚ほしいのにゃ」
「やっぱりあいつか? とんがり帽子かぶって葉っぱ咥えていつも釣りしてる猫」
名前は知らないがおっさんの中で勝手にスニャフキンと呼んでいるケット・シーがいる。どうやらそいつのようで肯くニャンシー。川辺からあれがいなくなるのは寂しいが本猫が望むならしかたがないかな。
「釣りっていえば、やったことないけど前世ではらっきょうを餌にするイイダコ釣りってあったよな」
「クラーケンの本体が釣れちゃうかも知れませんねー。そしたらたこ焼きにしちゃいますよー」
「うわ、あんまり美味しくなさそう」
「前に足を食べたことあったけど、悪くなかったわ。ああ、毒はあったから耐性スキルは必須ね」
コルノの正直な感想に衝撃の告白をするレヴィア。昔、何度かクラーケンを懲らしめたって言ってたっけ。
この世界のモンスターはたいがい、強くなるほどに美味くなるらしいからクラーケンが美味な可能性は高い。レヴィアの言うことは本当なんだろう。もちろん最初から妻の言葉を疑うなんてしてないけどさ。
でも毒を持つタコって前世で有名なやつはマジで猛毒だったような。スキル何レベルあれば耐えられるのかな?
「だから見た目が気にならないたこ焼きですってばー」
「タコ足は唐揚げも捨てがたい。吸盤だけでもよさそうだ」
「それもいいですねー。食べごたえがありそうですー」
吸盤の唐揚げ、美味いよね。クラーケンのだとおっさんたちには大きすぎそうだけどさ。あ、イカの吸盤みたいに牙があるかもしれないのか。それだと処理が面倒そうだな。
映像で見たのはタコっぽかったけど……むう、あいつはタコとイカ、どっち寄りなのかね?
今度アンモナイトがきたら唐揚げにしてみるもいいかもしれない。またこないかな。
「駄目よ。こんなに美味しいものをタコなんかの餌にするなんてもったいないわ!」
ポリっと塩らっきょうをつまみながらの乙姫。塩らっきょうもいいよね。全部を甘酢漬けにしないでおいて、本当によかったよ。
「これも竜宮城でお出ししたいほどのもの。レヴィア、腕を上げましたね」
「素材がいいのもあるわ。妖精たちががんばって引き抜いて、皮を剥いて、漬けたものだもの」
「それは確かに高級らっきょうでしょうねー」
でかい方の塩らっきょうをボリボリ囓るヘスティア。コルノもよく食べるけど、こっちも相当である。親戚なのが肯ける。他の神様もそうなんだろうかね?
ポセイドンの転生を疑われている海勇者も大食漢なのだろうか? ますます妖精島で補給をしそうな理由が出てきて困るよ。
◇ ◇
晩酌がおわり、乙姫とヘスティアが帰っておっさんたちも眠りについていた深夜。
ダンジョン機能であるアラームで目覚める。
うう、二日酔いほどではないがけっこう酔っている頭にこの音はキツい。
「ふう。なにがあった?」
アイテムボックスから出した水を一杯飲んでから、当直のムリアンメイドに聞く。
「卵が孵りました」
「そうか。孵ったら教えてくれって頼んでたもんな。ありがとう。でもこんな深夜じゃなくて朝になってからでもよかったんだけど」
「いえ、それが……どうやら普通のヒヨコではないようです」
え? マジでコカトリスが生まれちゃったの?




