164話 暴食の十二指腸調査隊
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お久しぶりです
遅れてしまって申し訳ありません
「こ、ここ、は?」
身体が動かない少年。
ガリガリに痩せこけたその身体。肌は黒く、細く長い尻尾も生えている。
周囲は暗闇に包まれていたが少年は元々、暗闇に生きる種族。それはなんの障害にもなっていない。
「ちさ、な、どーむ、なか?」
現在いるのは半球状の土壁の中だ。
少年が暮らしているのは邪神のダンジョン“暴食の十二指腸”。こんな場所はあっただろうかとさらに周囲を探る。すぐに自分以外の者を見つけた。
いたのはもう一人、同じ姿の少年と、少年たちよりも大きなイモムシ。
白く長いそのイモムシは微動だにしない。
イモムシだけではない。少年もまた、首から上がわずかに動くのみ。自分と同じ姿の少年の方を向くのにも数分をかけてがやっとという有様だった。
「き、ついた、か」
少年の動きに気づいたもう一人の少年から声がかけられた。彼もなんとか喋っているようで弱々しくかすれた声だ。
「いき、て、いる?」
「あ、ああ。まだ、な」
「そう、か」
まだ。二人の少年は理解していた。どのみち助からない、と。
なにが目的なのかはわからずとも、自分たちをここにおいた者たちはわかっている。そいつらがしたことならば、どうせろくなことではあるまい。
「ハエ、め」
「あい、つら、に、くわれ、たら、ハラ、こわ、して、やる」
「その、まえ、かじ、てや」
ハハ、ハと力なく笑う少年たち。だが目だけはギラついていて、その決意表明もあながち嘘ではないような雰囲気であった。弱々しい声ながら「ハエめ」の部分だけ僅かに力強く呪詛めいた怨嗟の声となっている。
「ど、すれ、ば、あい、つら、やつけ、られる?」
「進化、し、つよ、く……」
「ど、なれ、ば……」
言っても、考えても、無駄であることをわかっていながらも他に思うことができない。恐怖を怒りで上塗りしなければ、とっくにおかしくなっていそうだ。
自分たちを動けなくした者を、自分たち【黒小鬼】を捕まえもてあそび苦しめ続けた者たちを、退治、復讐する方法。
「あい、つら、くって、ハラ、こわ、さな、なる」
「ハエ、より、はや、飛べる」
進化した自分たちの能力を夢想する。だが、苦しめられ続け、敵の能力も思い知っているだけに、そう簡単には退治できないのがわかっているのが思考の方向性を微妙にずらしてくる。
「おい、しく、なくな、る」
「くわ、れ、とこ、なく、す」
攻撃から防御、つまり、食われない方法へとシフトしたのは当然かもしれない。彼らの仲間が何人も食われているのだから。
殺されてからならまだいい。生きたまま食われた者すらいた。
そこで少年たちは思い出す
「卵、うみ、つけ、られ、た?」
「お、おれ、中、ウジ、いる?」
誤魔化したはずの恐怖が戻ってくる。ギラついていた瞳も今は視線が定まらずに揺れ、涙でうるんでいた。
生きたまま食われた仲間、身体をウジ虫に食い荒らされていたやつは、取り出そうと必死にもがき何匹かは他の仲間が摘出した。それでも全部駆除することはできず、自分から炎の中に身を投じて死んだ。「これであいつらを道連れにできる」と笑いながら。
それが原因で何度目かの脱走を皆で行うことになった。
「ちく、しょ」
「うご、け、おれ、だって」
動ければ自分もハエを道連れに死ぬと言う。少年たちだって死ぬのは嫌だ。でも餌になってハエたちを増やすのはもっと嫌だった。
それを警戒してハエたちは身体を動けなくし、こんな所に閉じ込めたのだろう。
わかってもどうにもならない。悔しくて涙があふれるのが止められなかった。
しばらく泣き続け、このまま水分を失って乾いて死ぬのかな、新鮮な生き餌じゃなくなってザマミロ、なんて考えはじめた頃に異変に気づく二人。
「なに、か、きこ、ないか」
「う、うん」
目を閉じて聴覚に集中すると、たしかに聞こえる。土壁の外から、なにかの声が。それも複数だ。
「……える……える……」
「げ……げ……」
どんどん大きく、増えていく謎の声。
気味が悪いが動けないので耳も塞げず、怯えるだけしかできない。
「なに、か、ぎしき?」
「おれ、たち、イケ、ニエ?」
突然、ピタッと声が止むと今度は土壁から振動。ガリガリというさっきとは別の音も聞こえる。
「なに、くる?」
「ハエ?」
その音はしばらく続き、怯える少年たちが見つめる中、やがてボコッと土壁を削りながらそれは現れた。
まず見えたのは黒くて大きな左右に開閉する顎。大顎によって土壁が破壊されていき、姿がはっきりとわかるようになる。
「アリ?」
少年たちも知っているアリ、【レギオンアント】らしき姿。彼らよりも大きなアリだ。少年たちの仲間にはこのアリによく似た蜘蛛を相棒にしていた者がいたのでよく知っている。
体が動ければ逃げることもできるだろうが、この状態では不可能。少年たちは「ハエに食われるよりはマシ」と、「せめて苦しくないようにやってくれ」と思うのだった。
だが、その思いがかなうことはなかった。アリの後ろからまたなにかが現れたのだ。
少年たち【黒小鬼】とほぼ同じ大きさでありながら、ほぼ全裸の彼らとは違い、迷彩模様のメイド服を着てベレー帽を被った少女。彼女は壁の向こうに声をかける。
「抜けたでアリますな。む、誰か倒れているのでアリます!」
「だ、れ?」
「自分はアンコでアリます」
ビッと敬礼をして名乗る少女。少年たちはそれに見とれる。
「うつ、くし」
「かれ、ん」
「うぇ!? て、てれるでアリますな。少年たち、あまりお姉さんをからかうものではないのでアリますよ」
かぶっていたベレー帽を両手で握りしめるようにして下ろしながら顔を隠すアンコ。彼女は戦闘力を褒められることにはなれているが、こういうのには不慣れだ。周りに美女、美少女が多いため、自分よりもそっちが褒められるのが当然だとさえ思っていた。
「違うのだ」
「え?」
アンコの背後から別の声がかけられる。
声と同時に現れたのは彼女の同僚であるテリー。少年二人と同族の【黒小鬼】だ。
「残念だけど、うつくしーって言われたのはたぶん、服の方なのだ」
「へ?」
「テリーたち黒小鬼は服とか布に注目しちゃうのだ」
なぜならば【黒小鬼】は糸紡ぎに長けた種族。それ故にハエにさらわれ、過酷な環境で酷使されていた。
衣に関わることならば、それを追ってしまうのは本能に近い。
少年二人はその補足を肯定も否定もせず、テリーの姿を見て大きく目を見開く。
「てい?」
「ご、すと?」
「そうなのだテリーなのだ! ゴーストじゃないのだ、生きてるのだ!」
倒れている二人にかけよるテリー。同じ種族のはずなのに二人よりも血色がよく、着ている鎧にも負けない逞しさを感じるその身体。知っている姿と見違えるほどだったがそれでも二人はそれが自分たちの仲間のテリーだとわかった。
「お前たちこそゾンビみたいなのだ! テリーたちが助けにきたのだ。死んではダメなのだ!」
「たす、け?」
「テリーは今、他のダンジョンで働いているのだ。ここよりとってもいいとこなのだ。ちゃんとメシもくれるのだ。お前たちが気になったその服を作る子だっているのだ!」
少年たちに液体を振りかけるテリー。キラキラと光りながら二人に届くそれはフェアリーダスト入りの回復薬だ。投薬と同時に今にも息絶えそうな少年たちの生きる気力になれば、と必死に励ますテリー。
それはたしかに効果があった。
「めし!」
「ふく!」
明らかに二人の声に力が宿っている。
それでやっと少し安堵するテリー。今度は視線を微動だにしないイモムシに移す。すぐにアンコに向き直ると、アンコもうなずいた。
「いる、のでアリますな」
「やられているけど、まだ脳は大丈夫そうなのだ! こいつも仲間なのだ。助けるのだ」
「どのへんでアリますか?」
イモムシの長い身体の中間辺りをテリーが指差すと、アンコは腰の後ろからサバイバルナイフを引き抜き、その箇所目がけて切りつけた。ブシュッと虫の体液が飛び散るがそれほど多くはない。
「これぐらいでいいでアリますかな?」
「おっけーなのだ! ハリーくん、いくのだ!」
今度はテリーがイモムシに近づき右腕を向けると、彼の肘の辺りから手首まで巻かれていた紐が肘側からひとりでにスルスルッとほどけていく。その紐は長く、ほどけた先端が勝手に動き出してイモムシの中へと潜っていった。
少年二人は自分たちの知らない糸繰りの技に驚く。もしくはその素材に。
「てり、それ、なに?」
「いと?」
「ああ、これはテリーの新たな相棒、ハリーくんなのだ! あとで紹介するのだ」
ハリーくんと呼ばれたその紐はイモムシの中でモゾモゾと動いた後、再びテリーの腕へと巻かれていく。まるで釣りのリールのように回転しながら巻き取っていき、すぐになにかを絡め取った先端が姿を現した。
それはテリーの手よりも大きなウジ。
「フィーッシュ! なのだ!」
テリーの声に反応したかのように、にゅるんと長い塊がアンコたちが現れた土壁の穴から伸びてきてそのウジを掴む。テリーの紐は逆らわずにウジを渡した。
それは長い舌。ウジを持って縮んだ先は大きな口。ぱくんと閉じたその顔はカエルだ。アンコやテリーよりも大きなカエルは念入りに咀嚼をしてからごっくんと飲み込んだ。
「かえ?」
「はら、こわ、さな?」
予想外の展開に驚きを隠せない少年二人に肯きながらカエルが大きな口を開く。その中には立派な歯が並んでいた。咀嚼もこの歯あってのもの。
「うむ。カエルである。身共らが王はこのダンジョンの主、ハエの王の分体。黒バッタでさえ消化できるほどに鍛えた我らにとってハエの子など恐るるに足らず」
「こいつらもうちのダンジョンの仲間なのだ。昔、先祖がここにいたからって無理矢理ついてきたのだ」
「うむ。仲間であるはずの祖先を迫害し、王を売却したダンジョンなれど身共らが古巣である! ダンジョンよ、カエルは帰ってきた!」
その帰巣宣言に合わせて、先ほどの声がまた響いてきた。今度は土壁に開いた穴からハッキリと聞こえる。
「カエルがかえるー」
「カエルがかえるー」
「カエルがかえるー」
響く声は輪唱そのもの。複数のカエルの歌声が土ドームの中にまで響き渡っていく。
声だけではない。穴の向こうからは食欲を刺激するいい匂いが漂っていきていた。ろくに食事を与えられず痩せ細っていた少年二人はすぐに反応し、カエルの歌声にも負けないほどの大きさの腹の音を鳴らす。
「まずは栄養補給でアリますな」
「うむ。テリー殿と知り合ってからずっと待っていたこの機会、逃すワケにはいかぬ」
再びにゅるんと舌を伸ばす大カエル。今度は少年の一人に向かってだ。少年を捕らえるとゆっくりと縮んでいく。捕まった少年は食われるのかと思って両の瞼を強く閉じた。
だが、少年の行き先は大カエルの口の中ではない。その、大きな背中の上。
「完成! カエルライダー!」
「え?」
「滑るかもしれんので、しっかり捉まってなさい。いきますぞ」
大カエルは向きを変えるとまた舌をにゅるんと伸ばし、正面にきた土壁の穴付近に攻撃。穴を広げてから、背中の少年を落とさないよう、ジャンプなどはせずにゆっくりとのそのそと外へと出て行った。少年も薬が効いてきたのか多少は動けるようになっており落とされないように必死にしがみついている。
あっけにとられていたもう一人の少年も、入れ替わりに入ってきた別の大カエルの舌に捕まり、やはり背中に乗せられて外へと出て行く。テリーもそれを追っていった。
「こっちは我らで運ぶでアリますな」
ウジを取り出したイモムシの傷口に薬を振りかけながらパートナーのアントゴーレムに運ぶよう命じる。アリ型のゴーレムはイモムシを傷つけないように顎と前足二本で持ち上げて、そのまま残りの足四本で外へと歩き出した。
◇
土ドームの外には同じようなドームが幾つか並んでいた。少し離れた場所でたき火をしている女性。少年やアンコたちのような小人ではなく人間と同じ大きさながら、その背には一対の白い翼。そしてたき火と女性を囲むようにして大カエルが輪を作って歌っている。
少年二人の腹にセッションをさせた匂いはたき火にくべられた大きな鍋から漂っていた。
「アスカ殿、要救助者三名確保、でアリます!」
「ありがとう。この感じだとあれの中には捕まっている子が他にもいそうだね」
「でアリますな。まったく、ハエの分際でハチの真似なんてするなでアリますよ」
アスカに報告を済ませ、イモムシを平らな場所にゆっくりと下ろさせるとアンコとアントゴーレムは再び、土ドームの一群へと戻っていく。それに気づいたテリーが少年たちに一言二言声をかけてから追いかける。
「カエルたち、あの中にはテリーの仲間が捕まっているのだ! 助けるのを手伝ってほしいのだ!」
「カエルにまかせるー」
「カエルがおうじるー」
「カエルがたすけるー」
歌のリズムのまま返答してテリーについて行く十数匹の大カエル。その光景に目を丸くしている少年二人の前に小人サイズのトレーが差し出された。大カエルの舌の上に器用に載せられたその盆の上には椀と匙が二つずつ。
「腹が減ってるのだろう?」
「あ、あな、たは」
「あすた、さま」
声をかけてきた有翼の女性の顔を確認すると、椀も受け取らずに大カエルの上で平伏する少年二人。もっとも、落とされないようにしがみついていたせいで頭を下げるだけではあったが。
アスカの方も立ち上がって頭を下げる。
「テリーから事情は聞いている。ハエたちに騙されてお前たちの境遇に気づいてやれなくてすまなかった」
「い、いえ、あなた、が、あやまる、こと、ない」
「おれ、たち、よくして、くれた。わるい、の、ハエ!」
それを聞いてアスカはうるっときてしまい目元をハンカチで拭う。そしてニッコリと微笑んで、少年たちを促した。
「お前たちももう頭をあげてくれ。それはさっき仕留めたゴブリンのスープだ。カエルたちに肉をほとんどやったので具は少ないが、弱った身体にはその方がいいだろう」
「は、はい」
「たべ、ます」
こちらも潤んだ瞳で椀と匙を手にする二人。まだ力が入らないのか手が震えていてこぼしてしまうのではないかとアスカは心配になってしまう。
二人はアスカに見守られながらほぼ同時に匙を口へ。
直後、二人がこぼしたのはスープではなく、涙。枯れたように見える身体のどこにそんな水分があったのかと思うほど、ぶわっとあふれ出して流れていく。
「うま!」
「おいし!」
二人は泣きながらも高速で椀と口を匙が往復させる。アスカは微笑みながら座って鍋をかき回しはじめた。
「そうだろうそうだろう。新しい主の嫁に扱かれたのでな、味には自信がある」
「こんなの食べたの、はじめて!」
「もう、死んでもいい!」
椀を空にした二人はもう栄養が回ってきたのか、口調も途切れ途切れではなくなってきた。それどころか、チラチラと鍋の方を伺っている。
「ほら、椀をよこしなさい。おかわりをやろう。ふふ、この程度で死んだらテリーが泣くぞ。せっかく助かったのだからもっとがんばりなさい。我がダンジョンにはもっと美味しいものがあるのだから」
「これよりも!?」
「想像がつかない」
そう返事しながらもおかわりを用意するアスカから目を離さない二人。玩具のような小さな椀を手に取り、普通サイズのお玉で器用にこぼさずによそるアスカの腕は見事である。
「お前たちは小さいが、まだ他にもいるとなるともう少しほしいかもだな。カエルたち、さっきみたいにもう一匹ぐらい仕留めてきてくれ。強いやつが出て無理そうなら誘き寄せてくれれば我がやる」
「カエルがまたやるー」
「カエルがしとめるー」
「カエルがほふるー」
残っていた大カエルたちのほとんどが歌いながら離れていく。元気に大きく跳ねてすぐに見えなくなった。歌声がなくなって静かになりそうなものだが、今度は二人が乗っている大カエルたちが歌い出す。
「カエルがのせるー」
「カエルがかわるー」
大きく口を開けての歌だが、乗っている二人を落とさないように気を使って歌っている。二人も歌を気にせずにおかわりを受け取り、よそりたてで一杯目よりも熱いのにもかかわらずに椀に直接口をつけて飲み出す。
「カエルがかわるー」
「カエルがかわるー」
「そんなに騎乗ユニットになったのが嬉しいのか?」
二人の下の大カエルに問うアスカ。カエルたちは今回の調査に無理を言ってついてきた。目的は先祖の生まれたダンジョンへの里帰りともう一つ。
「カエルが嬉々たるー」
「カエルが心躍るー」
カエルたちのもう一つの目的は自分たちの乗り手を見つけること。これはダンジョンマスターのフーマの騎獣となりたがっている王への援護だけではなく、彼ら自身のためでもある。
「いくら妖精たちが肉食を好むといっても、お前たちなど口にしまい」
ため息の後に出たアスカの言葉に再び歌うように返すカエル。ただし今度は若干震えた声で。
「カエルが見られるー」
「うまそーって言われるー」
「ヨダレたれてるー」
アスカの主であるフーマのダンジョンに住む妖精たちはフェアリーやノーム等、小さいサイズの者がほとんどながら狩りを行い肉を好んでいた。しかもダンジョンのある妖精島はハエたちの王が放ったネズミの群れのせいで多くの生物が激減しており、妖精たちは肉を欲しがっていたのだ。手に入りやすい敵性ダンジョンから出てくるゴブリンの肉ではなく、自然の動物の肉を。
「フーマはお前たちを配下と認めたのだ。食わせたりはせん」
「わかってるー」
「だけど、それでも我らが有用だと妖精たちにも思い知らせたい」
ついに一匹の大カエルが歌を止めた。一番最初に少年を乗せたカエルだ。
フェアリーだって大カエルは捕食できる。なのに食われることを警戒しなければいけないなんて、おかしい。誇りが傷つけられて惨めな気持ちもあるがそれ以上に思うことがカエルたちにはあった。
「自分たちも妖精たちもお互いを食らうことはないでしょう。ダンジョンマスターがお怒りになる。ですがそんなことなど関係なく、そんな目で見ない関係になりたいのです、我らは」
「友だち、さらにパートナーになりたい。だけど、目をつけていたテリー殿には新たなパートナーができてしまった」
「ああ! 黒バッタについていた寄生虫を吐き出したばっかりに! ちゃんとよく噛んで消化してやればよかった!」
相棒であった蜘蛛、リオに恋人ができてしまいほぼフリーとなっていたテリーをパートナーとして狙っていたカエルたち。どのカエルがパートナーとなるかで揉めていたうちに、たまたま大カエルが寄生虫のモンスターを吐き出すのを目撃、それを気に入り「ハリーくん」と名付けて新たな相棒としたのだ。
「フェアリーは飛べるし、ノームたちも鳥の方がいいと断られ、他の妖精たちも微妙な反応」
「テリー殿が同族を救助すると知り、無理を言わせていただいたのです」
「だが、こいつらが嫌だと言ったら?」
「ゲコッ!?」
アスカにそう聞かれて、とび出した大きな目をじんわり潤ませながら背中の少年を見る大カエル二匹。少年たちはすぐにそれに反応する。
二人とも、ゆっくりと大カエルをなでたのだ。よしよしとやさしくなでるその姿は愛馬を労う騎手にすら見えた。
「かまわないよ。お前とならハエたちと戦える」
「同じく。一緒にハエたちを倒そう!」
数匹の大カエルでゴブリンを倒したと聞けば、自分たちよりも強いのはわかる。さっき見たジャンプ力だってスゴいとしかいえないのに、そんなカエルが自分たちを必要としている。それなら力を貸して、ハエと戦う力になってもらえばいい。そんな風に少年二人は考えた。
そしてそれは二人だけではない。
「ぼ、ぼく、らも」
「なる」
「カエルライダーになるー」
「カエルがかわるー」
追加で救助された【黒小鬼】たちがそこにいた。彼らも弱った身体でありながら口々にカエルの騎手となると宣言する。
後にこの暴食の十二指腸を仕切る勢力であるフライナイツとの戦いを繰り広げることになる、カエル騎士団の誕生の瞬間であった。
「やれやれ。フーマには調査だけと厳命されていたのだがな」
「あいつら。製糸で役に立つ方がボスも喜ぶと思うのだ」
「リオもな」
アスカとテリーが二人で顔を見合わせて大きなため息を見せる。
だが、二人ともわかっていた。ダンジョンマスターのフーマは不満は言うかもしれないが、救助した者たちをダンジョンに受け入れてくれることを。
もっとも、そのダンジョンは今、二人の予想だにしない状況になっていたのだが。




