番外編 クリスマス編
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今回は番外編です。
時系列がちょっとおかしいかもしれませんが、あまり気にしないでくれると嬉しいです。
「ゴ! ゴ!」
「ゴータローがサンタさん、やりたいんだって」
「サンタクロースを?」
「ゴゴ!」
力強く肯くゴータロー。
ううむ。てっきりゴータローはプレゼントを欲しがると思ったんだが。
つうか、この世界なら本物のサンタクロースがいたりしないのか?
「サンタやりたいって言われてもな」
「ゴ! ゴ!」
「プレゼントを用意してくれれば、自分が妖精たちに配りたいんだって」
ああ、そういうことね。
両腕をぶんぶん振ってアピールするゴータローを見ながら考えてみる。
空を飛ぶソリが欲しいとか言われたら困ったとこだが、それぐらいならいいか。
「でもゴータロー一人じゃ難しくないか?」
「ドリ!」
力強くドリルを高く掲げるレッド。しかもギュイインと回転中だ。
「レッドと、他のゴーレムたちも手伝うって」
「それならなんとかなるか。ダンジョン防衛に支障がおきない程度なら認めよう。わかった。プレゼントもこっちで用意する。ゴーレムたちの普段の働きにも応えたいしな」
「ゴゴゴ!」
「ドリリ!」
ゴータローとレッドが抱き合って喜んでいる。ドリルの回転を止めないもんだからゴータローと接触している部分が火花を立てているが、どちらもあまり気にしていない。ゴータローも進化して硬くなっているから問題はないか。
ゴーレム二人とコルノは礼を言って、準備があるからと去っていってしまった。
いや、あの、プレゼントはなにがいいか、相談したかったんだが。
妖精たちに配るとなると、かなりの数が必要だ。そうなるとあまり高価な物は無理。かといって喜ぶ物を贈りたいのは当然。コレジャナイは絶対に避けたい。
むう、何を用意すればいいんだよ?
◇
「サンタクロースのお手伝いをするのは妖精なんですよ」
「ああ、エルフだっけ?」
「エルフ・オン・ザ・シェルフ。直訳すると棚の上のエルフですね。こっちのエルフと違って、その名のとおり棚に乗るぐらいの小さなエルフです。もっとも、エルフというのは妖精の総称として使われることも多いので、こっちのエルフとは明らかに別種なのでしょう」
プレゼントの相談をしたら、いきなり雑学を披露してくれるミコちゃん。
ちっさいエルフか。こっちにもいるのかな。いたらそいつに相談したいとこだ。
「その小さいエルフたちはそうですね、三尸みたいな働きをします」
「さんし?」
「はい。道教由来の人間の体内にいる虫のようななにかです。庚申の日に人体から抜け出して、天帝に宿主の悪事を告げてその寿命を縮めさせます」
「なにそのセルフ閻魔帳。告げ口寄生虫ってそんなエルフがいんの?」
おっさんの中にはいないよな? 〈鑑定〉スキルなら寄生されている時はわかるから大丈夫なはず。うん、いないね。
もしいたら最近眷属にした【クダギツネ】に駆除してもらうとこだよ。
なんか心配になってきたからみんなも健康診断しておこうかな。
「はい。棚の上や物陰からその家の子供がよい子でいるかどうかを監視しています。あと、欲しいプレゼントも調査してくれるそうです」
「どこぞの家政婦なみのスパイ能力というワケか。望むプレゼントを知るために今こそ力を借りたいとこだけど、うちの妖精たちもちっこいから隠れてても簡単に見つかりそうだな」
「ですよねえ」
顔を見合わせてため息。
「まあ、数を用意しなきゃいけなさそうだから個別の欲しいプレゼントを知っても困る、か。全部同じ物か、せいぜい二、三種類しか用意できない」
「そもそも、スクナヒコナ神がクリスマスを祝っていいんですか?」
「いんじゃない? ゴーレムや妖精たちが喜ぶんなら。だいたい、こっちの世界じゃあの宗教、なさそうだし」
なのになぜかクリスマスがあるのはダンジョンマスターか召喚勇者が始めたってことなんだと思う。
それともやはり、本物のサンタクロースが存在している?
雪国のダンマスがサンタクロースとかはありえそう。ドワーフなら似合いそうだ。
「そんなものですか? あ、もしかして私に相談したのも大黒天の袋がサンタクロースのそれと似ているからでしょうか?」
「言われてみれば。空も飛べるし、ゴータローが立候補してなきゃフォーチュンブラックに頼んだかも」
「それは面倒ですね。トナカイのかわりにUMAが引くソリなら喜んでお引き受けするのですけど」
「空飛ぶトナカイなんて、もうそれUMAじゃん? とするとサンタもUMA? あでも、未確認飛行物体の方になるのか?」
フォーチュンブラックのコスチュームのベースは巫女服。真っ赤な袴がサンタカラーだから、オプション装備の袋を持てばサンタっぽく見えなくもない。アニメのクリスマス回でもサンタ役やってたな、そういえば。その時はフライングライスバッグ、つまり米俵をソリに偽装してたっけ。
ちなみに、とミコちゃんに欲しいプレゼントを聞いたら「妹」との答えをもらってしまった。ううむ、それは難しい? フィギュアを用意すれば〈ガラテア〉できるけど、持ってないから作らなきゃいけない。
それとも、本当の妹じゃなくて妹分、ってことなんだろうか。レヴィアを慕うバハムートやモルガンを見ていて羨ましくなった?
◇
ミコちゃんと別れて、他の眷属たちにも意見を聞く。
ちょうど、トレントたちをクリスマスツリーとして飾り付けている男子フェアリーと、バイカンの枝で眠るミーアとクロスケがいた。
トレントたちも別に嫌がってはいない。むしろ喜んでいるように見える。
「この星、いい」
「ベルも、いい」
「樅トレントに、進化したい」
いや、喜びすぎだからね。あと、クリスマス限定の進化は待ちなさい。
桜や梅の花が咲いているのにクリスマスの飾り付けって、季節感が微妙だなあ。だけど、この島の妖精たちはクリスマスを知らなかったようで、とても盛り上がっているようだ。
「妖精たちがこの島に渡ってから広まった祭りのようだね。興味深いよ」
丸くなっているミーアが欠伸混じりで言った。雷獣姿でいるのも久しぶりかな。
「そうか。妖精たちのクリスマス観を知りたかったんだが、それじゃ無理だな」
「そうだね。今度のクリスマスでそれが決まるんじゃないかな」
「そう、なのか?」
意外と責任重大?
そんなつもりじゃなかったのに。変なイベントになんなきゃいいんだが。フェアリー男子も妙にソワソワしてるし。
「あ、あの、クリスマスは恋人と二人で過ごすって本当ですか?」
「樅の木の下で告白したら成功するってのは?」
「プレゼントのお返しって三倍なんですか?」
待て。なんか混じってる。
こいつら、どこでそんなことを聞いた?
って眷属契約の時のおっさんの知識からか。むう、余計なことを知りおって。
クリスマスが恋人たちのイベントなんて誤解は広めたくなかったのに!
「いやいや、クリスマスは家族で祝うものだぞ。HAHAHA」
「そうなんですか?」
「うむ。シングルベルで悲しむ者なんていないのだ」
そう。前世のおっさんのような者を生んではいけない。
ジト目でこっちを見ているミーアを視界に入れないようにしながら話を続ける。
「お前ら、そんなに気になる子がいるのか?」
「は、はい」
「クリスマス、予定があるなら早めに申請しておけ。ニャンシーが張り切っているからな。普段もあれぐらい気合い入れてくれりゃいいのに」
いつもはサボりたがるニャンシーだが、今回に限ってはテキパキと進めている。やはり妖精らしく祭り好きだったようだ。
妖精たちにクリスマスの基礎知識を教えて、その日は大きなパーティをすることになっている。……あいつら、いつも宴会してるようなもんだけどな。
そのせいか、適当にアレンジされたクリスマスソングをそこら中でフェアリーたちが歌っていて、クリスマスムードになってたり。
「うう、二人っきりを目指して玉砕するよりは、みんなでお祝いした方が無難かも?」
「ハルコちゃん、家族と眷属、どっちでお祝いするんだろう?」
「テリーくん、プレゼント喜んでくれるかな?」
「え?」
カルコの意外な発言に驚くおっさんとフェアリー男子二人。
あれ、お前ってハルコちゃん狙いじゃなかったのか、って。あとテリーって、フェアリー女子の誰かじゃないのか?
その視線にカルコが真っ赤になって慌てだした。
「い、いやそんな意味じゃないぞ! ただの友達として、だな……」
「友達、ねえ」
「たしかに、最近のテリーくん、ちょっとドキッとさせられることあるけど、さあ」
「だよな、だよな! なんかこう、いいニオイしたり柔らかかったりするのが気になるよな! 時々なんか妙に色気があるし!」
むう。ムリアンたちの勧めでテリーたち一部の妖精用に男湯、女湯の他にもう一つ、性別がないタイプの妖精用のを共同浴場に追加したけど、それが正解だったようだな。それとも、別にしたからこそ逆に意識するようになってしまった?
テリーも一緒の訓練の時は少し考えるようにリニアにも言っておこう。
なんか変な盛り上がり方を始めたフェアリー男子たちをその場に残して、次の相談相手を探す。
向かったのはフツヌシの社だ。同じく神のあいつはクリスマスをどう思っているのかな。
フェアリーたちも離れて見学している。
社ではノームやコレドたちが数名でフツヌシを鞘から抜いていた。小さな妖精たちだから一人では無理だもんな。
「手入れの時間だったか」
「いや、こやつらがクリスマスプレゼントをしたいと言っておってな。新しい鞘を用意するから俺を測らせてくれと」
「フツヌシ様に今の鞘は不釣り合いです! 実用的ではありますが、お社に飾るのであればもっと豪華な見た目の方が相応しいかと」
「そ、そうか。たしかに着替えがあってもいいかもな」
ここのところ、まめにメンテナンスされているので輝きの増した刀身を、キラキラを通り越してギラギラした目で見ながら熱弁するコレドに若干引きながら返事した。
そのうちに鞘の色をどうするかで、揉め始めたのを眺めながらフツヌシに聞く。
「このまま行くと、トレントのツリーみたいに飾り立てられそうだな」
「クリスマス仕様か。妖精たちが喜んでくれるならそれも悪くない。羨ましいだろう」
「おっさんは嫁が祝ってくれるもん、だ。楽しんでるようでよかったよ」
「感謝している。力が必要になったらまた言ってくれ。今のアスカならそう悪い影響も出ないからな」
おっさんの眷属となったアスカはこっちで暮らすうちに悪魔要素がだいぶ薄れてきて振るわれても問題なくなってきたそうだ。強くはなってきてるんだけどな、アスカ。毒っぽいのが抜けてきたと見ればいいのか。
「貴様が振ってくれてもいいぞ。俺がサイズを変えないでも振るうことができよう」
「あんたでかすぎて変移抜刀できそうにないから、なあ」
そもそもおっさんのサイズでやっても意味のなさそうな技ではあるが。
いっそのことシャドウが使った方がむいているかもな。もっとも、あいつには武器よりもまず服を着ろ、という状況になりがちだ。
「ううむ。シャドウがフツヌシ使ったら、女性モンスターの服だけ斬りそうで怖い」
「うむ。つまらぬ物を斬ったと一度は言ったみたい」
「あ、アリなのね」
妖精たちがフツヌシに鞘の意見を聞き始めたので、邪魔にならないようにその場を去った。
せっかくだから話題に出てきたアスカのとこに行ってみるか。
出張ダンジョンのアスカの部屋に〈転移〉したら、こっちはフェアリー女子たちといっしょに編み物をしている最中だった。
この手の作業はハルコちゃんやリオがいそうなもんだが、あっちは今、クリスマス向けの注文を受けてしまって大忙しなんだよ。代わりにテリーがいて、アスカが使っている毛糸の塊が転がらないように抱っこしている。
むう、テリーは元々アスカと仲が良かったからここにいるのはおかしくはないのだけど、さっきのフェアリー男子の後だけに、フェアリー女子と過ごしているのを見ると女の子っぽく見えなくもない。
「どうした?」
「いや、クリスマスプレゼントのことで相談をな」
「べ、別にこれはシャドウにプレゼントしようと編んでいるわけではないぞ! ハイパのための練習に、たまたま編んでいただけなのだからな!」
「へ?」
真っ赤になってそう否定したアスカだが、彼女が隠すように抱きしめた編みかけの物体はたぶんセーター。しかも、肩口というか、腕の出るとこが四つもある代物だった。
アシュタロトの婚約者だというハイパが四本腕だという話はなかった。ということはつまり。
「そうか、アスカも気になっていたんだな、あいつの露出癖」
邪神のダンジョンにいた頃に不本意な服しか着れなかったせいか、アスカはファッションに気を使っている。それに純情だ。きっと半裸の男が許せないのだろう。
「ええ? シャドウ兄ちゃんの身体、カッコイイのだ。もっと見せててもいいのだ」
「かんべんしてくれ。あれでもおっさんの一部なんだから」
テリーはなぜか、シャドウのことを気に入っているもんなあ。だからといって半裸を望まないでほしいものだ。
アスカは微妙な表情になったが、編み物を再開する。器用に編み棒を動かし、どんどんと変形セーターを編んでいく。家事はホントに得意なんだよな、こいつ。
「上手いもんだ」
「当然だ。テリーも手伝ってくれているしな」
「テリーの得意分野なのだ!」
ふむ。邪魔になりそうだから、さっさと用事を済ませるとしよう。悪魔でもクリスマスは気にしてないようだから、そっちはいいか。
ジングルベルっぽい鼻歌を中断させるのは気が引けたが、聞いてみる。
「いやな、ゴータローがサンタになって妖精たちにプレゼントを配りたいというから、おっさんがそのプレゼントを用意することになったから、なにがいいか相談したくて」
「なんだ、そんなことか」
「テリーやフェアリーたちもなにかないか? あ、これは眷属以外には内緒な」
ここには眷属以外いない。一応、仕事部屋ということで眷属以外は立ち入り禁止区域だからな。
「テリーはおいしい物がうれしいのだ!」
「すまない。お前たちには苦労をかけた」
「そんなことないのだ! アスカがいなかったらテリーたちは死んでいたのだ」
邪神のダンジョンで自分の目が届かないところで虐待されていたテリーたちに負い目があるのか、食事関係になるとすぐアスカは謝る。
「アスカ、もうあまり気にするな。テリーが困る。それにしても食べ物か。でもうちの妖精たち、けっこういいもの食べてるし、クリスマスにはご馳走つくるんじゃないか? だとするとプレゼントに出すのはハードルが高いんだが」
「そうか、そうだな。ありがとうマスター」
「うん。アスカもあまり気にしないでほしいのだ。ごちそう、楽しみなのだ!」
「トレント農場の作物、おいしいもんねー」
「体重がちょっと心配です……」
眷属たちはみんなスマートなんだけどな。だけどそんなことを言って「油断させないでください」と怒られたこともあるので、おっさんは体重や体型のことに関してはノーコメントが無難だと知っている。
「プレゼントはなんでもいいと思いますよ」
「そうね。ゴタちゃん、みんなに好かれてるから」
「うん。ゴタちゃんから貰ったらそれだけでみんな喜ぶと思う」
「そうか」
フェアリー女子にはゴータロー、高評価だな。実際、妖精たちにもゴータローは人気なのだけど。
性格は幼いが、いつも一生懸命。おっさんの眷属としても古株ということもあり、戦闘力は低いながらも他の眷属たちから一目置かれていたりする。
「嬉しそうだな、マスター」
「そりゃな。あいつはおっさんとコルノの子供みたいなもんでもあるし、褒められりゃ喜ぶさ」
うむ。そうだな、ゴータローの良さをもっとみんなに広めるのも悪くないかもしれん。
よし、決まった。
「ありがとう、おかげでプレゼントが決まったよ」
「それは良かった」
「うん。さっそく作業に入らねば。それじゃ」
◇ ◇ ◇
「これならみんな喜ぶね!」
「ゴ! ゴ!」
「ドリ!」
なんとか間に合ったプレゼントにサンタ衣装のゴータローは大はしゃぎだ。
それもそうだろう、おっさんの用意したのは人形。小妖精よりも小さな人形。つまり。
「ゴータロー、1/10スケールモデル、ね。よく出来ているわ」
「ゴゴゴ!」
「おっさんの得意分野だからな」
久しぶりに趣味である模型工作に走ったから気合いが入っちゃったよ。
おっさんがプレゼントとして作ったのはゴータローの人形。材質は木製。関節も可動するぞ。体育座りも再現可能だ!
今までほとんど使わなかった〈木工〉と〈彫刻〉のスキルが上がるぐらいにがんばったよ。
「昔のゴータローなんだね」
「うん。進化前のゴータローを知らない妖精たちにも見せてやりたいからな。おっさんとコルノの初作品だし」
「えへへ」
人形の形は進化前の旧型のゴータロー。これならば妖精たちも満足できるはずだ。
これを大量に〈複製〉した。それだけではなにか物足りなかったので、足裏に製造番号を刻んだんだけど、そのせいで時間がかかったのは秘密だ。
サンタ帽子を装備したゴーレムたちがプレゼントを持って配りに行くのを見送って、おっさんもクリスマスプレゼントを受け取る。
といっても一番嬉しかったのは、コルノ、レヴィア、リニアのミニスカサンタだったのは当然すぎるよね。
なんとか間に合いました




