163話 前世の親戚?
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「大根の皮は厚めに剥いて、キンピラにしてたわ」
「おっさんは皮はポン酢に漬けてた。楽にできて、箸休めによかったよ」
「やっぱり皮も葉っぱも捨てないわよね」
「それを捨てるなんてとんでもない、だよな」
うむうむ。話が合うな乙姫は。ダンマスになったのも若い頃じゃないのかも。
いや、切り干し大根の戻し汁をお茶として飲んだことは、さすがのおっさんもなかったけどさ。
ああ、太めの切り干し大根にもチャレンジしてたんだっけ。あれもあとで試してもらおうか。
っと、大根もいいけど、クラーケンのことを聞かなくてはいけない。別におっさんたちが直接戦うつもりはないんだが、でもタコ系っぽいから用心しなくてはいけない。
タコは軟体動物。足の付け根すら通れそうにない細い隙間をスルッと抜ける動画を前世で見たことがある。クラーケンは上位種族だから変なスキルとか持っていて、うちの狭い通路を通れても不思議ではなさそう。
なのでクラーケンのことを詳しく聞き直す。
クラーケンは足が無数にあるタコ寄りの大型の上位モンスター。強いがリヴァイアサンには勝てないようで、結婚相手の候補に上がった時に震えて逃げ出した。
知能も高く、配下のモンスターも数多くいる、と。
「あれは“万脚の王”を自称していて配下にも多脚のモンスターが多いの。でもね最近、その自慢のあんよを数本、人間に斬られちゃったのよね。ぷぷっ」
「それは初耳ね、乙姫。あれの足を斬るなんて相手の方が気になるわ」
「勇者よ。久しぶりの海勇者」
海勇者っていうと、海をメインの活動場所にしている勇者の通称だったはず。そういや勇者対策会議板でそんな話がちらっとあったような。海ダンジョンのマスターが少なかったらあまり情報はなかったけど。
「海勇者ね、何百年ぶりかしら」
「それでね、海の連中が言うにはその勇者、ポセイドンの生まれ変わりらしいの」
はい? ポセイドンってあのポセイドン?
ダンジョンマスターの先任者で十二柱って呼ばれてた神様の?
それでさっき、コルノの話の時にあんな顔してたのか。
「転生勇者? ダンマスじゃなくて勇者に転生ってあるのか? しかも十二柱が」
「その勇者の聖剣が三叉戟なのよ。まだ地震を起こすほどに使いこなせていないけど、水中での呼吸付与、海系のモンスターに特効があるみたいで、ちょっかいをかけたクラーケンの足をあっさりと持っていったわ」
「三叉戟か。トライデントのことだよな? つうか、剣じゃないのに聖剣ってありなのかね」
トライデントっていえばポセイドンの武器として有名なあれだろ。それなら確かにクラーケンの足でも「とったどー!」ができるというのは納得だ。
う、いかん。おっさん内部の海勇者予想図が髭面のマッチョではなく、前世の芸人の姿に上書きされてしまった。
「ありみたいね。でも私は生まれ変わりなのは眉唾だと思っている。聖剣に選ばれたか、ポセイドンの関係神が聖剣を授けただけじゃないかしら? だって、ポセイドンにしては女癖が悪くない」
そういう判断基準なんだ。こっちの十二柱のことはディアナやヘスティアから聞くしかなかったけど、やっぱり女好きが真っ先にくるのね。
「あら、それなら違うわね」
「うん。たぶん違うんじゃないかな? こっちのポセイドンのことはあまり詳しくないけど」
「レヴィアとコルノもそんな意見なんだ」
レヴィアはこっちのポセイドンを倒したリヴァイアサン。コルノはゲームとはいえポセイドンの娘。ポセイドンのことには詳しそうだから、間違いないのかな?
ポセイドンの関係神って言うと、トリトン? ポセイドンの息子の。こっちにもいるんだろうか。あとでヘスティアに聞いてみるか。ポセイドンの生まれ変わりかどうかも含めて。
「なあ、もし、もしも本当にポセイドンの生まれ変わりだったら、コルノは会いたいか?」
「え?」
「お嬢さんをくださいって頭を下げなきゃいけないのかな? ……異世界の自分の娘だって言われても困惑するか」
「いえ、ポセイドンだったらすぐに納得したはずよ。脳筋だったから。妙にノリもよかったし」
レヴィアのポセイドン評ってそうなんだ。ノリのいい脳筋か。苦手なタイプかもしれん。ポセイドンの転生でないことを祈ろう。
あ、でもヨウセイの穴の連中に近いって思えばそうでもないのかな?
「女好きのポセイドンだったらどんなによかったか! あの野郎、私のダーリンに馴れ馴れしすぎるのよ!」
「ダーリン?」
「この前言っていた、結婚を考えている海賊船長ね?」
「そうよ! 大臀筋と下腿三頭筋が素敵な彼よ!」
あー、レヴィアと初めて会った頃、乙姫のことを「裏切り者」って愚痴ってたっけ。自分と一緒で婚期を逃した仲間だと思っていたのに、って。
その相手が海賊船長? で海勇者が馴れ馴れしい、と。
「そりゃクラーケンが彼の船を襲った時にたまたま海勇者がいて、彼を失わずにすんだことは褒めてもいいわよ! でもだからって海賊船に居着くことはないと思うの!」
「男同士ならそんなに気にすることはないんじゃないか?」
「ポセイドンの生まれ変わりだったらそうね。でも、もしも、アポロンの生まれ変わりだったら彼の貞操がピンチでしょ! ああ、彼の筋肉を穢さないで!!」
「アポロンって」
チラリとディアナを見る。同性の尻を撫で回し、手も出している元女神。
そう、ディアナは元はアルテミス。アポロンの双子の姉。性癖が似ていてもおかしくはない、けどさ。
「ふむ。アポロンであれば男だけというのはあるまい。それに海賊というならば逞しいのだろう? あやつはそれよりも線の細い美少年を好んだはずだが」
「え?」
「ああ、ディアナの正体は元アルテミスなんだ。十二柱としては倒されたけど、再生してこんなちっこくなったらしい」
「ほ、本当? 彼のお尻は無事なの!?」
「ふふ、本人に会わねばわからんよ。尻を見れば一発じゃがのう」
いや、尻見てわかるのかよ!
乙姫にがっちりと両腕で捕獲されながらもドヤ顔のディアナにそうツッコミたかったが、余計に話がこじれる気がしたので黙っている賢明なおっさん。
けれどそれも無駄だったようで。
「彼のお尻を変な目で見ないで! あの尻エクボは私のものよ!」
「ほうほう、尻エクボとな。乙姫もわかっておるな」
なにが嬉しいのか、うんうんと肯いている元女神。
そういや、尻エクボとは別に、ヴィーナスのエクボってのもあったな。お尻の上にできるやつ。前世でもフィギュアのレヴューで「ヴィーナスのエクボを再現!」とか妙なコダワリを持ったのがあって、なんか覚えている。
「あれ? それじゃクラーケンの手下がこの島に上陸してきてるのって、レヴィアちゃんを探してじゃなくて、海勇者を探して?」
「ちょっと違うわね。クラーケンは頭がいい分、臆病なところがあるの。海勇者には自分では勝てないか、もし勝ててもダメージが大きすぎると判断し、海勇者をなんとかしろってリヴァイアサンを焚きつけようとしている」
コルノの質問に乙姫はディアナをテーブルに置いてから答えた。
リヴァイアサンを焚きつけて、ね。なんでレヴィアがそんな危険なことしなきゃいけないのさ。
「うまくいけば共倒れを狙うつもりね。悪くても私か海勇者、どちらかは消える。……水の管理者である私が勇者と戦うはずがないでしょうに」
「そうなの?」
「勇者は神の選んだ戦士。私が倒すといろいろと面倒なの。もちろん、このダンジョンが危険ならば話は別よ」
その辺は新神講習会に行けば教えてくれるらしい。いい加減行かなきゃいけなかもだけど、こっちも忙しくてちょっとね。ミコちゃんに案内が来てれば行ってもらうんだけどさ。
「そうね。海勇者がこの島にくる可能性もあるのよね」
「嘘っ!?」
「この妖精島の周囲はそこそこ強いモンスターが棲んでいるからこれまで人類種がやってこれなかった。けれど、海勇者のいる海賊船ならこの島にば到達できるかもしれない」
レヴィアの説明で理解した。小さな妖精たちはリヴァイアサンのおかげで無事にこの島にたどり着けたけど、海路では強モンスターのおかげでたどり着くことが不可能だった。だがそのモンスターを倒せる海勇者がいるなら話は別だ。
勇者もそうだし、海賊なんて野蛮な連中にこの島に近づいてほしくない。
そりゃ小さい妖精と海賊はセットみたいなもんだけど!
「海賊ってバイキングみたいなやつら?」
「ならず者が多いのはたしかね。でもこの世界の海は過酷よ。危険を冒す商船なんてほとんどいないから、船を狙う賊や、船で移動して陸地で略奪を行うのも割に合わないの。だから海賊っていっても漁船の護衛や海モンスターの退治を生業とする冒険者みたいなのが多いわ。ダーリンもその口よ」
「なるほど」
「海が危険なのは乙姫も関係してるでしょ。よく船を沈没させてるじゃない」
「それは人魚たちの婚活のためだから。漁師にはいい男が多いの」
乙姫はたまに漁船を沈没させ、漁師を人魚に助けさせるという出会いをよく演出しているそうだ。なんというマッチポンプ。瘴気を吸収してくれることもあって竜宮城は人魚たちに人気の就職スポットで、たまに客としてやってきたダンマスに見初められて嫁入りや眷属化する人魚もいるとか。
マーメイド好きのマグロウも知っているのかな? もし知ってたらとっくに稼ぎまくって竜宮城の常連になっているか。今度会ったら教えてやろう。それともヨウセイの穴の連中がもう少し稼げるようになったらみんなで行ってみるか、竜宮城。
上位ランカーのダンジョンを見学できるし、話によればトレーニングジムもあるらしい。主に乙姫が気に入った男を筋肉増量するのに使っていて、客にも開放しているとのこと。……うちのリアンファイブも喜びそうだ。トレーニングマシンのサイズが合わないから使えはしないけどさ。
「クラーケンはそれをわかってて嫌がらせに船を沈没させてさらに皆殺しにしている。人魚たちは自分の妻になるのだから人間なぞにはやらんって。ダーリンたちもそんなつもりで狙った。でも勇者がいて返り討ちにあった」
「人魚目当てで船が沈没させられるとか、たしかに海は危険すぎるな」
「うちの子はみんな美人だからねえ。クラーケンは人魚と結婚するから、ってリヴァイアサンの配下に結婚を持ち出された時に逃げた。あんなだからモテないのに」
「あんなの、こっちからお断りよ」
コルノから解放されていたレヴィアをそっと膝の上にのせて頬ずり。髪が乱れるが嫌がりもせずにいてくれる。うんうん。いくら結婚に焦っていても相手を選んでいてくれたか。……ん、その前に逃げられた?
「レヴィアがクラーケンの嫁さんになってなくてよかったよ」
「ねえ。で、怖い海勇者をなんとかしたくてクラーケンは、リヴァイアサンを探すだけじゃなく私にも言ってきたわ。海勇者討伐の拠点にするから竜宮城を明け渡せ、と。もちろん断ったから、ここのところ配下がダンジョンを奪取しようと襲撃してきて鬱陶しいったらありゃしない」
「クラーケンは生粋の野良モンスターよ。だからダンジョンのシステムなんて知りもしないのよね」
ああ、だから乙姫は大根見てあんなメッセージだと早合点しちゃったワケか。
クラーケンがもしいなくなったら妖精島の守りが減ることになるかもしれんけど、迷惑そうなやつだからなんとかした方がいいかも。
海の幸、いや、配下のモンスターも増えてきているし。
おっさんたちになにができるかは不明だが。
アスカの乗り物だったドラゴンが生きてればなあ。
今話サブタイトル、正確には
前世が(コルノの異世界の)親戚?
かな




