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162話 な……なんだってー!!

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 大事件が発生してしまった。

 別にクラーケンが直接、ダンジョン攻略を始めたワケではない。それなら多少は覚悟していた。

 だが、そうではない。


「さ、さすがに泊まりじゃないよな? むこうだって自分のダンジョンがあるんだし、あまり離れていちゃまずいよな?」


「留守中の防衛はバハムートに頼んだようだから、心配はしていないと思うわ」


 乙姫がうちのダンジョンを来訪したいというのだ!

 妻がお世話になっている友人の来訪。これは緊張する。

 バハムートも似たようなものではあるが、向こうはリヴァイアサンの部下。たいして乙姫は〈小人化〉スキルをマスターしたレヴィアに家事を仕込んだ人物である。ある意味母親といってもいいだろう。

 しかもダンジョンマスターとしては海洋ダンジョンでのトップランナーであり、つまり大先輩。緊張するなというのが無理だというものだ。

 今まではいきなりアポなしでくるような女神みたいのしか来てないので、正式に準備してお客さんを迎えるのは初めてなのさ。


「緊張することないわ。あの子が弱小ダンジョンマスターだった頃、面倒を見てあげたのが私なのだから」


 ドヤ顔の奥さん。乙姫は私が育てた。らしい。

 んーなこと言われても、レヴィアだって世話になっている話は色々と聞いている。マグロのアドバイスや彼女の黒セーラーだって乙姫が用意したもの。

 どう考えてもレヴィアを可愛がっている。そんな大事な女の子をどこの馬の骨ともしれんような小物ダンマスが娶ってしまったのだ。


「うう、なにを言われるか不安すぎる」


 ああ、さっきの”小物”はおっさんが小人なのにかけてるから。

 ……寒いギャグを考えてる場合じゃない。情報をまとめよう。

 レヴィアから聞いた話やランカー板からの情報によると乙姫のダンジョンは“竜宮城”、深海の海底にあり人類種が訪れることはほとんどないが、他のダンジョンマスターや運営(かみさま)相手に、旅館を経営している。

 乙姫の種族はドラゴン系らしい。〈人化〉スキルで人の姿になっていることが多い。それもあってレヴィアが〈人化〉スキル入手の特訓をしてもらった。まあ、結局マスターできずに〈小人化〉を入手してしまったワケだが。


「ええと、ドラゴンサイズは無理だから人間として、どこでもてなすかだな。迷宮エリアは狭いから無理だし、コアルームはいきなり招き入れるものでもないだろう。そうなると」


「海エリアか妖精居住エリア、かな」


「海はむこうがプロだから、見せるのはちょっと」


 海岸線の松はちょっといい景観ではあると自負しているんだけど、旅館経営者から見たら粗末なものかもしれん。

 見栄を張るワケではないが、レヴィアに恥をかかせたくないのだ。


「果樹園の側に四阿(あずまや)を建てよう。トレントたちに連絡して花を咲かせてもらう」


 きっと綺麗だ。女性ダンマスなら喜んでくいれるはず。

 人間用サイズのを今から急いで建てるのはノームたちでもちょっとキツいのでDPを使用して、と。

 うむ。こんなデザインでいいかな。


「なんかフーマの方が舞い上がっちゃってるよね」


「だ、だってレヴィアの親戚に挨拶するようなもんだろ。娘さんをくださいって。おかしくもなるっての!」


 そりゃ前世でだってあまり友人を家に上がらせることはなかったんだ。フィギュアばっかの部屋になんて通せなかったもんなあ。



「ほう? ワシ相手にそんな態度は取ってもらってないのだが。ああ、リニアの嫁入りの時はやってくれるのじゃな。うむうむ、今から楽しみにしておこう」


「ディアナ様!」


 ディアナはすぐおっさんの尻を触ってくるから緊張のしようがないっつの。リニアのそういう時だって……やばい、すっごい緊張しそう。断られることはないとわかっているのに。


「も、問題は料理だな。アスカはまだ邪神のダンジョン。呼び戻すか?」


「落ち着きなさい。人間サイズの料理ぐらい私が用意するから。リニアも手伝ってくれるでしょう?」


「もちろんです」


 そうだった。レヴィアは人間用サイズの調理器具の使い方にも慣れていたんだっけ。

 ……あと、おっさんも料理はできないこともないんだった。最近は自分で料理しないで済んでいるから、すっかり忘れていたよ。



 ◇ ◇



「お招きいただきありがとうございます。レヴィアの友人、乙姫ですわ」


「これはご丁寧にどうも。レヴィアの夫となったフーマです。テーブルの上からで失礼。この大きさなもので」


 お招きってのは微妙だが間違いではない。乙姫はダンジョン機能で許可して、こっちに彼女を呼んだことでここにいるのだから。

 乙姫は着物に似た衣装を着た美女。まさに前世の絵本で見たような乙姫そのもの。レヴィアに黒セーラーを着せた人物なのだからセーラー服かもと思ってたんだけどさ。

 さらに〈鑑定〉しないでも高レベルであることを感じている。レヴィアの友人であることを抜いても戦いたくはない相手だ。

 彼女の差し出した指を両手で持って握手のかわりにする。

 続いてコルノが握指。ぶんぶんと大きく振っている。嬉しいのかな?


「ボクはコルノ。レヴィアちゃんと同じくフーマのお嫁さんなんだ。よろしくね!」


「あら可愛らしい。こちらこそよろしく」


「バハムートから聞いたかもしれないけど、コルノはポセイドンの娘よ。異世界の」


「ふうん。まさかレヴィアが二号さんで満足するとは思わなかったわ。結婚を焦るあまり妥協しちゃったのね」


 うん?

 レヴィアの他に嫁さんがいるのを責められるのは覚悟していたけど、コルノが名乗った時ではなく、レヴィアが説明した時に乙姫の表情が一瞬変わったような。コルノが前世世界のゲームキャラクターだってばれた?

 今はにこにこしながらレヴィアをからかっている。


「いいの。私が割り込んだんだから。コルノのことも好きだし。大事な家族よ」


「レヴィアちゃん!」


 感激のあまりにまだ幼い姿のレヴィアを抱え上げて抱きしめるコルノ。

 ちなみに二人ともいつも以上に可愛い。お客さんがくるということでハルコちゃんとリオが気合いを入れて着飾らせたのだ。リオはこっちでの仕事が多いので邪神のダンジョンには行かずに残ってもらっているんだけど、向こうに行ったテリーたちのことを気にしているようで、いい気晴らしになったかもしれない。


「あらあら。妬けちゃうわね」


「えへへ」


「レヴィアのその姿も久しぶり。なんだか懐かしいわ」


「ふっふっふ。そう言ってられるのも今のうちよ。いずれ育った時はあなたを抜いてあげるわ。撫でるな」


 抱っこされたままのレヴィアの頭を指で楽しそうに撫で続ける乙姫。うっとりした表情でコルノも楽しそうだから声をかけづらい。レヴィアの方も口では文句を言っているが本当に嫌ならすぐに逃げるだろう。


「あらあらあら」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「やーめーろー」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「えへへへへへ」


 ぎゅぎゅぎゅ。

 さわさわさわさわ。


 楽しそうでいいなあ。

 む。なんか変なの混じっているような。ってよく見たら椅子に座っている乙姫の尻を撫でている不審者がいるじゃないか!


「乙姫と言ったな。やや大きめのみっちりとしたよき尻だ。柔らかさもほどよい。花丸をつけてあげよう」


「あらあら、私が気づかないなんて。あなたが噂の愛人さんかしら?」


「いや、それの父親だ。ワシはディアナ」


 愛人ってバハムートはそんなことも喋っちゃったのか。

 ディアナは乙姫と面識がなかったのね。


「っておい、ダンジョンの防衛任せてたろ」


「まあ報告ついでだ。また新たな種の侵入者が確認されてる。あっちはマブに任せているから問題はあるまい」


「またか。ここんとこ多いな」


 チャットじゃないってことは緊急性の低い、つまり撃退に成功しているってことだな。でなければディアナのことだ、ディーナシーと共に出陣してるかもしれない。

 でもお客さんの来てるときになんてタイミングの悪い。


「乙姫さん、少し外すよ」


「あらあら、その侵入者、私が知っているかも?」


「え?」


 ディアナがこっちを見ている。言っていいかってこと? 特に隠すような情報でもないので彼女に向かって肯くと侵入者の詳細を語り始めた。

 ふむ。平べったくて脚がたくさん生えている。ちょっとフナムシっぽい。大きさは20センチぐらいか。


「それならトリロバイトですわ。クラーケンの手下の」


「トリロバイトって三葉虫?」


「それのモンスターですね」


 むう。アンモナイトの次は三葉虫か。

 なに? 追加情報?

 食べられるとこは少なそう? いや、いきなり食うなって。〈鑑定〉持ちが調べるまでは食べちゃ駄目だってば。毒があったらどうするのさ!

 うちの妖精たちは肉食系すぎて困る。


「イカやタコ系だけじゃなかったのか」


「どちらかというと古代種(ロートル)が多いわね」


 ロートルか。古き、って感じがなんか不吉すぎる。深いとこにいるんでしょ、クラーケンってさ。アレじゃなきゃいいんだけど。


「クラーケンってどんなやつなの?」


「無数の足を持つ頭足類よ」


 頭足類ってことはやっぱりイカやタコみたいなやつか。でも無数って数えられないぐらい足があるってこと?


「しかも超大型の。まあ変なタコね、ようするに。だから私を呼んだのでしょう?」


「うん?」


「バハムートがお土産に持ってきた大根。久しぶりの再会に感動してしまって、すぐにはその意味に気づかなくてごめんなさい」


 え? 意味ってどゆこと?

 大根持たせたのも、「乙姫が喜ぶ」ってレヴィアが言ってたからで深い意味はないんだけど、それでなんで乙姫がうちにくることに?

 この世界クラノガイアスには大根がないから、もっと寄こせってんならわかるけど、意味ってなにさ。


「クラーケンはタコ。そして大根の贈り物。これらが意味することといえば、そう」


 タコと大根……もしかして。


「タコは大根で叩くと柔らかくなる! つまり一緒にクラーケンを倒そうというメッセージだったのね!」


「あ、あのね」


「あと、大根、できれば定期的にいただきたいです。DPは払うので」


 ああ、そっちも目的だったのね。

 つうか、なんかこの乙姫ってダンマス、発想がおっさんに近いかもしんない。レヴィアもそんなこと言ってた気がするけど話が合いそうだ。


「了解した。でも、もうすぐ農狂の連中が販売を始めるはずだよ。うちのより美味しいんじゃないかな?」


「ふふっ、大根は何種類あったっていいのよ。こう言っては怒られるかもしれないけど、竜宮城に来るダンマスの多くが喜ぶのはお刺身。それにはツマが必要なの!」


「ああ、刺身のツマは美味いもんな。あれは不可欠だ」


 大根というとおでんの大根をイメージするやつが多いかもしれないが、おっさん的にはツマだ。刺身の汁が染みたツマに醤油を多めに、そしてオンザライス。ああ、腹減ってきたなあ。お米がまだできていないのが悔しいぜ。


 ほぼ同時にドヤ顔でサムズアップするおっさんと乙姫。なんだろこのシンクロ感。前世の親戚だったりしないよな?



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― 新着の感想 ―
[一言] もしくは前世では年が近かったのかも?w
[一言] 刺身の付け合わせに大根のツマ、そしてワサビと紫蘇 広げた紫蘇に刺身とツマを乗せて食べるのが好きなのだ◝(⁰▿⁰)◜ 大根は漬け物から始まり、おでん、ぶり大根、みぞれ鍋、かぶらずし、大根キム…
[一言]  まあ、実力者なら一目見ればフーマがただ者でないとわかるだろうからこの対応は当然ですね。直接言うわけじゃなくとも既に認めているというわけでしょう。  クラーケンを倒すことのメリットがいまいち…
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