160話 羊角貝
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「天然ものはカリストだけじゃぞ」
「は? なんの話?」
「じゃから、カリストとマブとバハムートのキャラ被りの話じゃろ?」
そうそう、あの三人って似てるよね、って話をしていたらディアナがそう言い出したんだ。腕組みして「ふふん」とでも言いたげにドヤ顔のオヤジ処女神になんて返せばいいのかね。
「カリストだけってことは他の二人は違うの?」
「うむ。だいたいあの手の娘は計算尽くの者が多い。ほれ、腹黒マブがいい例じゃろ」
「んん? 性格の話だったの? おっさんはてっきりディアナが大好きなヒップラインの話とばかり」
「うん。ボクもそう思ったよ」
だよな。おっさんとコルノ以外もそう思ったようでうんうんって肯いている者多数。
「じゃからバハムートにはヒップラインもなにもないというに」
「いやそれ、涙目になりながら言うこと?」
「あやつも小人化でもいいからワシが楽しめる下半身を早く手に入れてもらいたいものよのう」
物憂げにため息をつくディアナ。もしバハムートが小人になれてもそれはレヴィアのためで、ディアナのためじゃないんだけどね。
彼女は自分の住処に戻ったあと、レヴィアと釣り合うように〈小人化〉のスキルを習得しようとしている。そうレヴィアが教えてくれた。連絡は信頼する水精経由とのこと。レヴィアと違ってダンジョンマスターの眷属になったことのないバハムートはチャットやメールその他が使えないらしい。
まあそれはいいか。話を戻そう。
「で、性格がってのは? マブってそんなに腹黒って思えないんだけど」
「かぁあっ、婿殿ともあろう者が情けないのう。マブは腹黒じゃぞ」
「本人の前でよく言えるよね、ディアナちゃんてば」
そう返すのはマブ。さっきからこの場にちゃんといる。
にこにこしているのであまり気にしてはいない様だな。これのどこが腹黒なんだか。
「ふん。腹黒じゃなければあんな悪夢なぞ見せられん」
「そう? そんなに嫌な夢は見せてないよぅ。ねえ、モルガンちゃん」
「ノーコメントですわ」
マブは夢の女王でもあるから悪夢も見せられるってこと?
そしてまさかモルガンも腹黒だと思ってるのかな。
ううむ、おっさんにはそういうのはあんまりわからんなあ。むしろ、表面的なとこだけ見て、内面のドロドロした関係なんて知らない方がいいって思ってるクチだし。
「でも、マブとカリストが似ているのは当然とも言えるのですわ。元々少し似ていたのですけれど、リニアに母と呼ばれるようにマブはカリストに寄せていったのですわ」
「ああ、なるほど」
「え? そうなの?」
「元々はもっとクールぶってたのですわ」
「だってぇ、リニアちゃんにママって呼ばれたかったんだもん!」
ううむ。ンな理由でこんなノリになってしまったのか。クールなマブも見てみたい気もするけど「クールぶっていた」だもんな。地は違ったのかもね。
そんなマブの頭をリニアはよしよしと撫でている。どっちが母親役なんだか。
「それに今のマブの方が妖精の男どもにはウケがよかったのもあるじゃろ?」
「そうなんだ? まあ、クールでシリアスなノリは妖精には合わないか」
「そうですわね。特に幻夢共和国の妖精はそうなのですわ」
他の国は違うの?
あ、常若の国は女妖精ばかりだったから、今のマブみたいな性格は微妙? 女同士だとどうなんだろ。
でもそうなるとカリストは浮いていたのかも。おっさんの知っている他の【ディーナシー】にはカリストみたいなのいないし。
チラリとカリストを見ると、ディアナにベッタリひっついている。他のディアナハーレムのメンバーには「贔屓されてる」とか裏で言われてたりするのだろうか?
「ん? ああ、そんな変な顔をせんでもよいぞ婿殿。カリストはこんな性格じゃが、ワシの乙女たちの中でも一番の武闘派。実力を認められておるのじゃ」
「さすがディアナ様、よくわかっていますぅ」
「頭はちょっと残念じゃがの」
言いつつこっちはカリストの頭ではなく尻を撫でまわす。オヤジではあるがおっさんの表情一つで考えを見抜くなんて侮れん。ここで油断してるとおっさんの尻まで危険だしさ。
後でカリストのいない時に聞いた話だと、彼女の武力は本物で、だからこそゼウスもアルテミスに化けなければ手を出せなかったほどとのこと。
「リニアがベルセルクになったのもカリストの血があったからじゃろうな」
「えっへん」
それ、褒めてるの? ああ、ディアナの評価ならなんでもいいのね。
得意気に胸を張ったカリストだが、以前よりも胸の揺れが少ない。新しい下着のおかげだ。
アスカは「この下着をダンマスたちに販売すればDPを稼げる」って言うんだけど、既に妖精たちに人気で生産が追い付かない。
クラーケンに備えるために妖精島のダンジョン領域化を進めるにはDPがもっともっと必要ではあるんだけど、リオとハルコちゃんだけでは人手が足りないんだよなあ。
いい加減、暴食の十二指腸に行って、人手を増やすしかないか。
リオやテリーのようにそっちの方での戦力になってくれるはず。
おっさんの〈複製〉スキルで増やすことができないワケではないかもしれんけど、女性用の下着を作るってのはなあ。〈鑑定〉されたら〈複製〉したアイテムってのもばれちゃうから販売するのには向かないのだし。
◇ ◇ ◇
アスカ、テリー、アンコといった暴食の十二指腸出身者を連れて、その入り口へと〈転移〉する。うちのダンジョンの海エリアの底にある入り口だが、全員にエアーコートを使用しているので息はできるし水圧で潰れることもない。
「それじゃ、行ってくるのだ」
「気をつけろよ、こまめに連絡するように」
おっさんはついて行かない。行こうとしたら眷属たちに止められる。クラーケンを警戒しなきゃいけないんで仕方なく納得した。
三人とも強くなったのでそこまで心配する必要はないかもしれないが、やはり不安はある。
「なに、偵察だけでアリます。我らに任せるでアリますよ」
「チャンスがあればテリーやアンコの仲間の救出は認めるが、その前に連絡は寄越せ。増援を送るから」
「止めないのだ?」
「暴走されるよりマシだ。それに人手が欲しいのもある。だが、無理はするな」
こう言っておけば先走ることもあるまい。この三人には止めるのは逆効果だ。
下手に突っついて暴食側が大攻勢をかけてくるかもしれないが、この際それも望むところだったりする。
邪神のダンジョンを二つも抱えてクラーケンに怯えるよりもDP収入源を減らしてでも安全確保がしたい。現状、うちのダンジョンに対する一番の脅威はクラーケンよりも暴食の方なのだから。
入口付近にワープポイントを設置。これはダンジョンの機能の一つで設置と維持にはDPを消費するが、ワープポイント同士間で瞬間移動できる便利な代物。おっさんが〈転移〉を持っているからあまり設置していないが、ダンジョンも大きくなったしもっと増やしてもいいだろう。
ちなみにうちのダンジョンのワープポイントはフェアリーリングに偽装した仕様。フェアリーリングっていうのは輪になってキノコが生えている場所、現象のことだってミコちゃんが教えてくれた。科学的にも説明はできるそうだ。
三人を見送りコアルームに戻ると、ある意味待っていた報告を受ける。
「クラーケンの配下を確認したか」
「はい。妖精たちが発見、対処しました」
「え? 対処?」
「なんかねー、ノームたちが狩りの最中に見つけて、捕獲して食べちゃったんだって」
「はいぃ?」
コルノの報告には驚くしかない。食っちゃったって……。
いったいどんな奴がやってきたんだよ。骨ぐらいは残ってる?
「骨はないけど、殻はあるわ」
「殻?」
「ええ。偵察にきたのは羊角貝よ。クラーケンの手下で間違いないわ」
現地に〈転移〉しておっさんも殻を確認する。それはノームたちの居住区にあった。
10から15センチサイズの貝殻が数個。カタツムリのように平べったい巻き貝だ。もっと大きい妖精島マイマイを食するノームにとっては敵ではなかったか。
ノームたちは妖精島マイマイの変種と思って狩ってしまったらしい。食べたあとでハルコちゃんに言ったらクラーケンの手下なんじゃないかって話になったんだと。
てかさ!
これってさ!
「アンモナイトじゃないか!」
なに、アンモナイトってクラーケンの配下なの?
やっぱり中身タコっぽいの?
うわ、見たかったぁ!
「アンモのナイト……アンモってアンモーンですよね。つまりアモン?」
「アモンナイトは羊角貝が進化するとなる場合があるモンスターね」
レヴィアがミコちゃんの疑問に答える。
アモンっていうと、あの人間と合体する超有名な悪魔の勇者さんじゃなかったっけ?
クラーケンとは無関係でいてほしい。




