156話 再登場
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妖精島、幻夢共和国上空に出現した巨大な魚はあの有名な幻獣、バハムートだという。
サイズだけは10キロ超えだが、その外見はどう見ても金魚なんだよなぁ。
レヴィアと知合いらしく、リヴァイアサン姿の写しを作って場所を変えてくれと言いにいってもらった。
「だけどなんかモヤモヤするんだよなぁ」
ウィンドウ越しに上空を覗っていたら、その呟きが聞こえたのかリアンシリーズの一人が反応した。
「モヤモヤ? あ、DPが急上昇しています!」
「なんだって!?」
「そりゃバハムートはあのサイズだよ。その身に蓄えた瘴気も半端ないだろうね」
ミーアはのんきに解説してくれるがそれどころではない。
DPが急上昇している原因はわかった。ダンジョンレベルが上がってしまうかもしれないが、一時期ほどそれを避けてないのでそれはいい。
問題は瘴気の方だ。
「妖精たちをダンジョンに緊急避難させてくれ。おっさんは瘴気を抑えるように言ってくる」
非常事態におっさんは眷属たちの返事も待たずに〈転移〉した。
◇
空の上で巨大金魚とリヴァイアサンの写しが見合っていた。
大きなヒレを棚引かせる龍といったリヴァイアサンの姿はとても写しとは思えないほどに存在感がある。
そして近くによれば余計に感じてしまうバハムートの瘴気。俺の身体にどんどんと吸収されていく。
「いったいなんの用なのかしら? バハムート。あなたが深海から出てくるだけで大騒ぎになるのはわかっているわよね?」
「深刻なリヴァイアサニウムの欠乏なのです」
「なんのことかしら?」
「バハムートの必須栄養素です! リヴァイアサンお姉さま!」
そう言って鼻の穴を大きく膨らませるバハムート。リヴァイアサンの香りを堪能するとばかりに大きく息を吸い込む。その風で〈転移〉したばかりのおっさんも引っ張られた。
なんとか空中で姿勢を整え、大きな鼻の穴に吸い込まれないように踏ん張っていたら、ぽんっと変わってしまった。
俺の姿が!
「あら、フーマも来たの? ……なんでシャドウが出ているのかしら?」
「ああ。そいつに言うことがあるんでな。俺が出てきたのは濃い瘴気に身体が反応してしまった。こないだので変な癖がついちまったのかもな」
「癖で変身するものなの?」
今度はリヴァイアサンから気流が発生する。
大きなため息だけどな。出てきただけでため息つかれるなんてちょっと傷つくぜ、俺。
まあいい。変身したおかげでその程度の風では俺はびくともしない。まずは用事を済ませるのが先決。
「おい、バハムート!」
「なに、お前? 人間ではなさそうだけど」
「夫よ。今はこんなだけど、普段はもっといい男なのよ!」
こんなで悪かったな。レヴィアの台詞で俺の出現でショックを受けて黙っている俺が喜んでいるのがわかる。今はそれどころじゃねえっつーの!
前回よりも瘴気が濃密なせいで俺よりも俺の方が表に出やすいようだな。
「お、夫ぉっ!?」
「そうだ。なんの用でここに来たのかは知らねえがバハムート、とにかく瘴気を抑えろ。じゃなきゃテメエのせいでチビどもが泣く」
「……チビどもってまさか……リヴァイアサンお姉さまの子供!?」
なんでそうなるかな。魚に睨まれるなんて初めてだけど、はっきりとわかる。バハムートが殺気の籠った目を俺に向けていた。
だが瘴気を抑えさせないといけない。ダンジョンが瘴気を吸収してDPに変換するとはいえ、うちのダンジョンは入り口が小さいので外の瘴気を吸収するのが遅いのだ。
「残念ながら違うわバハムート。でもシャドウの言うことももっともね。急いで瘴気を抑えなさい」
「は、はい!」
おお、バハムートが無遠慮に撒き散らしていた瘴気が一気に消滅した。
ふう。これで妖精どもが瘴気で進化することは防げる。さっきまでので瘴気進化してるやつがいなきゃいーが。
「よし! もうお漏らしすんなよ」
「なっ! ほ、本当にこの下品なやつが夫なのですか?」
「え、ええ。でも今は瘴気に酔ってるようなものだから。普段はもっともっといい男だから!」
酷い。俺だっていい男じゃん。俺より大きいし!
もう瘴気も消えたし、俺に変わっちまうかな。あでも、もう一つ確認しておかなきゃ俺は引っ込めねーか。
「こんなのがですかぁ? ハムちゃん認めたくないんですけどぉ」
「んだ? 喧嘩売ってんのかテメエ!」
だから金魚の癖にそんな胡散臭そうな目で俺を見んじゃねえっての。あと俺も喧嘩売るなってビビってんじゃねえ!
「早くフーマに戻って。シャドウ、いくらあなたでもバハムートにセクハラしたら怒るわよ?」
「こんなやつにしねーっての!」
「な、なんですって!」
いくら前回アスカの胸を揉んだからってそりゃねーだろ。だいたい金魚にセクハラってどーやんだ?
むしろそれを狙ってんのがこいつなんだがよ。
「ハム子、テメエまさか、俺の嫁を狙ってきたんじゃねえだろーな?」
「はあ? なに言ってるんですか? ハムちゃんはむしろ護りに来たんですぅ。この感じ、リヴァイアサンお姉さまにアレが来たんでしょう?」
「……あなたに気づかれるなんて私もまだまだね」
こいつやっぱり、レヴィアが生まれ変わって小さくなったことを知っている。
だから護りに来た?
ふん、違うね。さっきからの会話でこいつがリヴァイアサンにどんな感情を持っているのかなんとなくわかる。
「不要だ。俺がいる。テメエのような嫁に色目を使うやつはいらん」
「あら、妻と同性の後輩に嫉妬ですか? 身体だけじゃなくて度量も小さいんですねぇ」
「ふん。知ってるぜ、魚には群れで一番大きなやつがオスになる種類もいる。テメエはそれを狙ってんじゃねーのか?」
俺は油断なんかしねーぜ。それまではメスでも隙を見てオスになってレヴィアに襲いかかってくるかもしんねーからな。
図星を指されたのか、目を見開いて動きを止めるバハムート。だから表情豊富すぎるっつの。
「そ、その手がございましたかぁっ!! お前、天才ですか!」
「バハムート?」
「い、いえ、違いますリヴァイアサンお姉さま! ハムちゃんは汚いオスなんかにはなりません! ずっとずっとリヴァイアサンお姉さまの可愛い妹分ですぅ!」
本当だろうか?
念のために打っ倒しておいた方がよくねーか?
んだからビビんじゃーねえ、俺。
「聞き捨てなりませんわ!」
話に乱入してきたのは一羽のカラス。俺の眷属の温泉カラス、クロスケではない。あいつは喋れないし。
となるとこいつは。
「お姉さまの妹の座はワタクシのものですわ!」
ああ、やっぱりモルガンだったか。
もうメンドイから……ってやっとおっさんに戻ったか。
あーあ、服破けちゃってるよ。
シャドウの対策も考えなきゃマズイかな?
「鳥がリヴァイアサンお姉さまの妹ぉ?」
「アポなしでいきなりやってきて瘴気をバラ撒く礼儀知らずにはお姉さまの妹は名乗らせません」
おお、種族ランクも違うし、明らかに向こうの方が強いのがわかっているのにモルガンが退いてない。
さすがのレヴィア好きだ。だからってこんな場所で戦ってほしくはないが。
二人、いや一匹と一羽? どちらともおっさんの裸には興味もないようで挑発しあっているので今のうちにアイテムボックスから服を出して着ておいて、と。
「もう二人ともレヴィアの妹でいいんじゃないか? 姉妹ってことで」
争われるよりはいい。シャドウの方は不満そうだけど。
「なんですかお前は? あれ、あの下品な男は?」
「やっとフーマに戻ったのね。バハムート、この人こそ私の夫の本当の姿よ」
「言われてみればさっきのやつと似ている?」
似ていないと思うけど。そもそも大きさが違うでしょ。巨大金魚から見れば人間も小人も誤差の範囲なのかもしれないけどさ。
「つまらないことで喧嘩なんてしたら妹とは認めないわ。バハムートもせっかく来たのだから夫や家族を紹介してあげましょう。小さくおなりなさい」
「は、はいリヴァイアサンお姉さま!」
「モルガンもわかってるわね?」
「もちろんですお姉さま!」
結局、両方が妹、ってことでいいのかな?
二人の間には面識がなかっただけでレヴィアはそのつもりだったみたいだし、おっさんが気にすることでもないか。
あ、嫁の友人が来客したんだから、おもてなしせねば。
瘴気がウィルスっぽく感じないよう気を使ったつもりですが
気分を害した人がいたらごめんなさい




