14話 牧場
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聖剣という高額商品の慰謝料としては少ない額のDPを貰い、俺たちはエージンのダンジョンを案内してもらうことにした。
「本当に狭いっすよ」
「俺のとこよりはでかい。このダンジョンはどんなとこに創ったんだ?」
「町のそばに創ったっす。けっこう大きな町なんで、DPも稼げるだろうと思いきや、とんでもないとこだったっす」
「強えやつでも住んでいるのか?」
なんでそう嬉しそうかな、アキラ。戦いたいの?
俺が自分のダンジョンに人里離れた場所を選んだのは、そんな強いやつに会いたくないからなんだけど。
「違うっす。実は町は生きてるやつが誰もいないアンデッドタウンだったっす」
「うわー」
「アンデッドからでもDPは稼げますが、アンデッドは増えません。狩りつくしたらおしまいです」
アンデッドすらいなくなったらただの廃墟、か。
ひっそりと暮らすにはいいかもしれないな。
DPを確保さえできれば。
「アンデッドを狩らずにダンジョン内に誘き寄せてDPを地道に稼ぐようにサッキィに言われて、その通りにしてるっす」
エージンが考えたんじゃなかったか。
サキュバスがいなけりゃ、このダンジョン詰んでいたんじゃない?
「ふむ。もっとDPを稼ぐとしたら邪神ダンジョンを攻略するしかないのか。それでアキラの聖剣を狙ったと」
「“未熟者のダンジョン”で戦ってるのなんてオイラしかいなかったから、救援依頼を見て嬉しかったっす。最初は普通に救援するだけのつもりだったっす。でも聖剣を自慢されまくって羨ましくなったっす」
アキラはなんか知らんが聖剣に拘ってる。自慢もしただろうな。
「それだけ魅力的だったってことだな。さすがオレの聖剣!」
こんな感じでさ。
「それでついカッとなって、か」
「反省してるっす」
反省してないパターンだけど、本当に反省してるかなんてどうでもいい。
俺とアキラに迷惑をかけさえしなければそれで。
エージンのダンジョンは3層になっていて、コアルームは奥の3層にある。
2層は罠が仕掛けられていて眷属のゴブリンが警戒し、だだっ広い1層にアンデッドたちがうろついていた。
眷属からはDPが入手できない。DP獲得のためにほとんどのアンデッドは眷属化していないらしい。
「奥に入ってきたり、ダンジョンから逃げ出したりはしないのか?」
「柵があるっす。あと眷属化したアンデッドに見張らせているっす」
なるほど。アンデッド牧場なわけか。
モンスターでもDPが稼げるならそれも有りだな。
やってるダンジョンマスターも多そうだから、帰ったらネットで調べてみよう。
1層は広く、そして臭かった。
これが死臭? 臭すぎる。
「2層で換気扇ががんばってるっす」
あの謎換気扇はこんなとこでも活躍するわけか。
うろついているアンデッドはゾンビとスケルトンがほとんど。俺たちに戦いを仕掛けようと寄ってくると、帽子を被ったアンデッドに誘導されて離れていく。
あれが眷属アンデッドなんだろう。それと、あの帽子は見覚えがある。
「キャプテンキャップにはちょっとだけっすけど同系統のモンスターが命令を聞きやすくなる効果があるっす。攻略サイトにのってたっす」
「そのページ教えてくれ」
「わかったっす。あとでメールするっす」
チェックしないとな。
小人サイズのアイテムはほとんどないだろうけど。
出口に向かって歩いていくと、たまにゴーストが寄ってきて話しかけてくるが言葉がわからない。なにを言ってるか不明だ。
特に害はないらしい。
「ここが出口っす。今は昼間なのでオイラはこれ以上は案内できないっす」
吸血鬼化したエージンは日光耐性スキルがマイナスになっていて、ダメージを受けるもんな。
「わかった。ちょっと町を見てすぐに戻ってくる」
「了解っす。姐御たちなら大丈夫と思うっすけど、町の教会にはやたら強いアンデッドがいるっす。オイラがアンデッドを集めるのを邪魔するんで、何度か戦ってるけど勝てないっす。そいつを倒したいというのも聖剣がほしかった理由の1つっす」
教会にアンデッドか。町がアンデッドだらけなのもそいつが理由かもしれないな。
「そうか」
「いや、戦わないからね。もしそいつが町をアンデッドだらけにした原因だったらさ、そいつを倒したらアンデッドたちが成仏するかもしれないだろ」
「それは考えてなかったっす」
まあ、仮定だけどな。
一番の理由は俺が強いやつと戦いたくないだけだ。
君子危うきに近寄らず。キミコちゃんも安全第一なわけですよ。
「チッ、他にモンスターはいねえのか?」
「アンデッドだけっす」
「つまんねえ」
アキラはやっと戻ってきた聖剣を使いたかったのかもしれないな。
さっき今後のことを聞いてきたけど、聖剣が戻った以上、それを俺が考える必要はなさそうだ。
エージンのダンジョンの入り口は岩山の中にあった。
「鉱山っぽいな、これ」
「そうなのか?」
「町も鉱山で働いていた人間か、関係者が多かったんじゃないのか?」
道具があれば採掘してみたいな。
……いや、鉱山が枯れて町が寂れてアンデッドが住みつきだしたってのもありえるか。
「町はあっちか。行くぞフーマ!」
「はいはい」
前を行くアキラの黒ブルマを眺めながらついていく。
とてもいいお尻には思えるのに、なんかこう、興奮しない。
やはり巨大すぎるからだろうか?
「ついたぜ、入るのか?」
山から町はすぐだった。
だって、途中で歩くのに飽きたアキラがキャップを脱いで俺を頭に乗せて駆け出したからさ。
レア上位種族はレベルアップは遅いけど、その分レベルアップした時の能力値の伸びがいいようでアキラのスピードはとんでもなく速かった。
振り落とされないようにしがみ付くので精一杯。
まったく、とんだじゃじゃ馬だぜ。
「疲れたからもういい」
「なんだよ、オレの上に乗ってただけじゃねーか」
「だから疲れたんだっつの! 女の子の乗り心地は意外と強烈。おっさん覚えた」
「ちょっ! それ他の意味に聞こえんじゃねーか!」
ん?
言われてみればそうかもしれん。
頭上からだと表情はわからないが、先がちょっと尖った耳が真っ赤になっているのは見えた。ガラが悪いわりに初心なのね。
エージンの計画が上手くいってサキュバスにイロイロエロエロされてたら、あっさり堕ちてたかもしれんなあ。
「はいはい。馬鹿言ってないで戻るぞ。今度はゆっくりでな」
どんな意味? なんて聞いてからかえる程、対人スキルも持っていない俺はそれ以上聞かずに、Uターンを促す。
「……もう遠慮しない。落ちんなよ」
「え?」
なにかスイッチを入れてしまったようで、アキラはまた走り出す。
しかもさっきより速く。
どうやら、くる時は手加減してくれてたらしい。
「……きゅう」
「はははは。だらしねーぞフーマ!」
目を回す俺をアキラが笑う。言い返す気力は俺にはない。
チクショウ、AGI値にもっとつぎ込んでおくべきだった……。
「早いっすね。もう行ってきたんすか?」
「フーマが早く帰りたがってな」
「……そんなとこだ」
いいわけはしない。早く帰りたいのは本当だし。
DPも入ったし、やらなければいけないことは多い。
「もう帰っちゃうんすか? 歌おうっすよ!」
「悪い、俺はやることが多い」
それに音痴だしな。
いつかDPが余るようになったら歌関係のスキルでもとろうか。
「そうっすか。たいしたおもてなしもできず、すんませんっす」
「いや、参考になったよ」
牧場とか狩りつくしとか、頼りになる眷属とかね。
エージンダンジョンはサキュでもつ。
「また救援頼むぜ!」
「余裕があったらな。俺も自分のダンジョンがあるから忙しい」
「……そっか」
「邪神ダンジョン攻略にはエージンに手伝ってもらえ。血族にしたんだから、今度は裏切らないだろ?」
できれば邪神ダンジョン攻略は後回しにしたい。
自分のダンジョンに引き篭もって、それが立ち行かなくなってからでいい。
アキラやエージンに偉そうにDPの使い道だの、貯蓄だの語った俺は棚の上で爆睡中です。
「もちろんっす! 盾として使ってくださいっす!」
「……聖剣が戻ったんだ。盾なんていらねえ」
「そんなあ」
盾はいらないけど、エージンがいらないとは言われてないんだから、そんなに落ち込むなよ。
「それじゃ、なにかあったらチャットかメールで連絡をくれ」
「ああ。またな」
「またっすね、アニキ!」
きた時と同じく、ポータル魔法陣で自分のダンジョンへと戻る。
一瞬で帰ってきた我が家のコアルームは相変わらず殺風景で「おかえりなさい」を言ってくれる者もいない。
それが寂しいのと同時に、妙に安心した。
疲れた。
精神的に疲れまくった。
あんなに他人と会話したのっていつ以来だろう。
今生では間違いなく初めてだし。
もう風呂入って寝たいなあ。
クイズは引き続き回答募集中です
3章から登場するヒロインを当ててください
1 フィギュア
2 獣人
3 ドラゴン
4 勇者
5 女神
6 その他
7 ヒロインなんていない
正解者には特に何もありません
ヒント
ヒロインが登場する回は3/5に投稿予定です




