151話 赤帽子
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フェアリー男子たちに任せたゴブリン二匹は予想以上にスムーズに始末された。
離れた場所から指示を受けた彼らのパートナーゴーレムが無防備に眠るゴブリンたちの首筋を切り裂いたのだ。
ゴーレムたちはフェアリーたちと同じくらいに小さいが、剣や斧を装備しており、見た目以上に力も持っていたりする。
同時に首を切り裂かれたゴブリンはさすがに起きたが、のたうち回ってすぐに死んだ。
「野生の獣も喉を狙うけど、よく知ってたね、あの子たち」
「リニアの教え子だからな。狩りの女神の孫弟子みたいなもんだろ」
予想以上にえげつない。おっさんだったら目潰しが先なんだが、確実に命を奪う方を優先するとは。
「けっこう大きな音が出たけど、他のモンスターはこないのかな?」
ダンジョンの廊下を近づいてくる気配はない。〈感知〉にも同様だ。
この階層のほとんどのモンスターはダンジョン外に出て眠ってしまったんだろうか?
でも邪神のダンジョンなら再湧きがあるはず。油断はしないでいこう。
◇
先に進むと起きているゴブリンばかりになってきた。寝ているゴブも目覚めているやつが起こしたのだろう。
巨大化を解除したリニアとディーナシーたちも連携を活かして小さいながら剣だけでゴブリンを倒していく。ディーナシーなんて翅もないのに凄いジャンプ力だ。
「大きな怪物との戦いは何年ぶりかしら?」
「小さな姿になってから初めてですね」
眷属ディーナシーの二人も楽しそう。彼女たちディーナシーは元々アルテミスに付き従ってたニンフだけど、狩りやダンジョンマスターとの戦いにも参加していたとのことだ。戦い慣れているワケね。
だがディアナは不満のようで。
「リニアよ、クマになってくれてもいいのだぞ」
「あれは強敵用ですディアナ様」
変身しなかったリニアにそんなクレームをつけている。やっと騎士として先輩たちと共闘できたと喜んでいるリニアにそれはどうかと思うの。
クマフードだと騎士っぽくないって今は自分のアイテムボックスにしまってるリニアの気持ちも考えなさいっての。家族のコミュニーケーションなのかもしれんけどさ。
「次はアシュラ、行けるか?」
「なーう」
少し大きくなった部屋に待機していたゴブリン3匹はアシュラに任せてみる。〈鑑定〉ではゴブリンのレベルは低いからアシュラならなんとかなるか聞いてみたんだけど、返事と同時にアシュラが最後尾からかなりの速度で駆けだしゴブリンに飛びかかった。
ゴブリンは身構えていたにもかかわらず、アシュラに対応できず次々とその首筋に牙を突き立てられていく。切りつけられた剣をひょいとかわし、その伸ばされた腕を足場にジャンプして首に噛みつくなんて見事な動きだ。
「爪よりも牙で首って、さっきのフェアリーたちに対抗心出さんでも」
「猫の狩りはああなんだ。喉元に噛みついて前肢で抑えこむ」
そういや前世の実家の猫もぬいぐるみに噛みつく時はいつも首元だったっけ。飼い猫でも野生は残っていたのね。
「野生の獣よりは洗練しているようだがの。ゴブリンの注意を一度もこちらに向けなかったぞ、あやつ」
「気遣いのできる猫だからな。迷子を案内したりするから妖精たちからの人望、いや猫望もあるぞ」
「ノャンスィの命の恩猫だと聞いたよ。夢中になるわけだね」
普段はうちの階層ボスを任せているのは伊達ではないのだよ。ペットを褒められた飼い主の気分でおっさんの方がついドヤ顔になってしまうな。
アシュラの種族である【サーベルキャット】は種族ランクR。【ゴブリン】のNより1つ上。それだけでこうも圧倒的とは。もしかして普通のネコから進化した叩き上げの個体だったのかもしれないね。
そうだとすると種族ランクNなフェアリーやノームは進化することでぐっと強くなるのかも。弱い分ランクNはレベルアップが早いからすぐに進化できるはず。
このダンジョンをしばらく経験値稼ぎのために訓練場にするのも悪くないんじゃないかな。幻夢共和国の安全のためにも第1階層は制圧してこっちのダンジョン領域にするけど。
「まだ領域化はできないか。エリアボスはどこにいるのかな」
「ダンジョン同士の戦いは陣取り戦か。十二神の頃よりも戦いやすくなっておるのだな。DPでの買い物といい、当時からこうなっておれば我らとて邪神のダンジョン攻略を少しはやったものを」
「アルテミスの頃はDPがなかったんだ?」
「うむ。今の神が使えるというGPもなかったぞ。クラノスめ、よほど邪神のダンジョンを駆逐したいようだ」
クラノスはこの世界の主神。ミコちゃんに説明したらクロノスかウラノスの間違いじゃないのか確認された。
ディアナいわく時空神なので天空神と時間神の融合しちゃった状態なのかもしれない。でも、ミコちゃんが言うにはウラノスの息子のクロノスは農耕神なんだと。別に同じクロノスって名前の時間神がいるのでややこしいそうだ。
「ダンジョンマスターは元々、アルテミスたちがダンジョン攻略をしなかったから生み出されたんだったな」
「うむ。まさか我らが敗れるとは思わずに戦いを挑んだのは愚かであった。いかに十二神が強くとも、迷宮の奥深くに陣取られ手強いモンスターを配下に揃えられてはな。ダンジョンずるい」
「いや、ダンジョンあってこそのダンジョンマスターだから」
「それだけではないぞ、DPでスキルまで購入できるなんて破格すぎる。婿殿のオンリースキルなんてその最たるもの」
ああ、十二柱はDPが使えなかったからスキル追加できにくくてダンジョンマスターに対策取られたのかも。
「まあ、だからこそ我らのように増長せぬよう、クラノスはカウンターとして勇者を用意したのかもしれぬな」
「運営も嫌な労い方でまいるよ、まったく」
勇者といえばツクシちゃんどうしてるかな?
もう会うこともないだろうけど、元気にがんばってるといいのだが。あ、ダンジョン討伐はがんばらないでね。
「お、この先、かな?」
「うむ。ゴブリンよりはマシな気配があるの。まあ、あくまでマシといった程度だが」
少し大きな、といってもおっさんたちにはかなり大きな扉が通路の先にあった。この先に領域を支配しているボスモンスターがいるのだろう。
「部屋が広かったら全員で戦おう。もちろんおっさんも戦う」
「婿殿が出るほどでもないと思うがの。お手並み拝見もいいか」
ここにくるまでおっさんは一戦もしていない。眷属のレベルアップのためとはいえ、おっさんもそろそろいい加減にレベルアップしてみたかったりするのよ。
フェアリーたちなんてもうレベルアップしてるしさ。
「準備はいいかい? 開けるよ」
「頼む」
人間大に大きくなったリニアが扉を開ける。扉の向こうはやはり大きな部屋でこれなら全員戦えそうだ。そして、待ち構えていたモンスターはゴブリンぐらいの大きさだがあきらかに違った。背の低い爺さんモンスターだ。それが4匹。
「レッドキャップだね。見てわかるとおり、あの赤い帽子が名前の由来さ。あの帽子は獲物の血で染められてるんだ」
ミーアが識別したようにそのモンスターは真っ赤な帽子を被り、メイスや斧を手に持っている。
でもその名前の赤い帽子だけどさ。
「ベレー帽じゃん!」
真っ赤なベレー帽。どっかの特殊部隊の制帽みたいじゃないか。
レッドキャップも爺さんだけど背中は曲がってなく、むしろゴブリンよりも姿勢がいい。元軍人の爺さんといっても通用しそう。
「アンコがいなくてよかったんじゃないか? 変に対抗心見せるよ、きっと」
リニアの意見に賛成だ。アンコもベレー帽を愛用しているもんなあ。メイド服は迷彩だし。
そんなことを言いながらも、扉を開けてすぐに襲いかかってきたレッドキャップに応戦する。
「アぁぁイスぅぅぅぅぅぅ、ミっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
おっさんの必殺技絶叫に驚いた表情でディアナがこっちを見ているがかまわずに気合い追加のアイスミサイルを発射する。
ミサイル系の魔法は「ミっサーイル!」や「ミサイルぅ!」等、どう言えば気合いを入れやすいか悩んだが、こんな発音に落ち着いた。
CPはちゃんと魔法に乗っている。その証拠に一発でレッドキャップの頭を粉砕し、それだけではなく残った身体も肩の辺りまで凍り付いている。
うん、気合い入れすぎたね!
悩んだ結果、ミサイルの必殺技発音はこうしてみました




