149話 ダンジョン出張所
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「さあ、今日は幻夢共和国のみんなが無事に避難できたことのお祝いね!」
「まだ回収……保護中だ。それに、ドリームランドから脱出したはいいが、日光で石化してしまったノームたちの報告も受けている。なにより、邪神のダンジョン対策が先だろ」
のんきなマブは現状がわかっているのだろうか?
妖精は本当に宴会好きだな。おっさんも嫌いではないが毎晩続ける気力はない。身体は若くなっても中身はおっさんだから。
保護した妖精たちはマブの奥義が止まっても目覚める気配がないので、状態異常の回復薬で目覚めさせ、まだ残っている妖精がいないかを聞き出す。
飛んだまま空中で寝てしまったフェアリー、透明なエサソン、屋根の上で丸くなっているケットシー等、全保護は簡単にいかない。
「マブはドリームランドの妖精たちに現状を説明して落ち着かせてくれ。おっさんはドリームランドをダンジョン化してくる。ミーア、どの辺りが一番守りが固い?」
「それはもちろん城だろうね。コア中継器を設置するならば城の地下がいいと思う」
「えっ、お城に地下なんてあったの?」
いやマブ、なんで知らないのさ。
マブではなくミーアに聞いたのは間違いではなかったようだ。
「わかった。ミーア、案内してくれ」
「了解。城の地下も久しぶりだよ。こっそり侵入した時に全部調べられなかったから楽しみだね」
「ほどほどにな。ダンジョン化が優先だ。邪神のダンジョンのモンスターや瘴気が妖精島に拡がるのを防ぐためにも。アスカとタマもきてくれ。モンスターたちが起きてきたら妖精たちではキツいだろう」
今のところ、モンスターはインプやゴブリンばかりでそれも眠ったままだが、邪神のダンジョン側も異変を感じて動きがあるかもしれない。
「それなら壁ゴーレムたちも連れてってよ。たぶん役に立つよ」
「コルノ、完成したのか?」
「まだちょっとだけどね。ダンジョンの出入り口ぐらいにしか使えないかな」
疲れた顔で微笑むコルノにMP譲渡し、栄養ドリンク代わりの回復薬を渡しておく。
ゴーレムの動作確認をしたいとついてきたがったけど、ダンジョン防衛のために残ってくれと説得して休ませた。
◇
「コア中継器設置の前に邪神のダンジョンの入り口を確認、細工しておくか」
コア中継器を設置してドリームランドがうちのダンジョンの出張所になったと気づかれてもすぐに対処できないようにしておかないとね。
ダンジョン出入り口の場所はミーアがマブから聞いていたのですぐにわかった。
「ここだよ。本当に街のすぐそばに出来ていたんだね」
本来の姿である雷獣形態に戻って臨戦態勢のまま、猫の顔で大きなため息をつくミーア。
付近にはダンジョンから出てきてそのままマブの奥義で眠ってしまったのだろうゴブリンやインプが折り重なっていた。
瘴気の噴出も大きいのでマブ情報がなくてもすぐに見つけられたかも。
「マブの話によると第4層まで潜ったけどそこまでは普通の迷宮型のダンジョンみたいだな」
「うんうん。興味深いがまずは入り口を小さくするのが先なんだね? 早く準備を整えてくれマスター。すぐにでも調査に行きたいのを我慢してるんだ」
「はいはい。ゴーレムたち、モンスターをどかしたらダンジョンの入り口でフォーメーション!」
「ゴ! ゴゴ! ゴゴ!」
おっさんの指示をゴータローが復唱してゴーレムたちが行動を開始する。
うわ、そんなにモンスターが詰まっていたのか。入り口のモンスターをどけるごとに周囲の瘴気が濃くなっていく。おっさんや眷属たちが吸収しているから今はいいけど、これはコア中継器の設置も急がなければマズイな。
モンスターたちをどかしたところでダンジョンの名前を確認。情報どおり“激痛の盲腸”だった。
痛そうで入る気が萎えるなと顔を引きつらせていると、壁ゴーレムたちがその前に並んでいく。
「ふむ。壁ゴーレムってこんな動きをするのかい?」
「よく見ておいてコルノに報告してくれ」
「了解でアリます!」
壁ゴーレムは縦横1メートルのぶ厚い石板に細い手足がついたもの。デザイン的なイメージは妖怪のぬり壁に近いかもしれない。
きっちりギッチリ整列した壁ゴーレムたちは手足を収納して本当の壁と化した。あっという間にダンジョンの入り口は塞がれて、縦横30センチにまで小さくなってしまう。
「天井担当のやつ、無理してないか?」
「ゴ、ゴゴゴ」
「そうか。あとは強度だが、こればっかりはアチラさんが攻撃してくれないとわからないな」
大丈夫そうだというゴータローの報告。これでむこうから出てくるのは小型のモンスターだけに制限できるだろう。
このまま〈温泉作製〉で熱湯攻めも考えたが、文字どおり寝た子を起こすことになりそうなので止めておいた。
◇
捕獲したモンスターを〈転移〉で輸送した後、壁ゴーレムと見張りを残して、城の地下へと移動する。
城は常若の国にあったものよりも大きく、元々は妖精用ではなかったのではないかと思うサイズだ。
再び小人形態に戻ったミーアが得意気な顔もせずに淡々と説明する。
「この城は妖精島の先史文明の遺跡を改築したものなんだ。その文明の住人たちがどうなったかも謎なんだね」
「へえ。そんなやつらもいたのか」
大陸から妖精たちが避難してくる前は無人島だったと聞いていたけど、人が住んだことがなかったわけじゃないのね。
ミーアの案内で隠し扉を抜けて地下に潜ると、たしかに古代文明っぽい通路へとなっていく。
むう、うちのダンジョンよりダンジョンっぽい。これは冒険心を刺激されるな。おっさんになって失ったはずの気持ちが目覚めてきそうだ。
「罠はなさそうだな」
「調査済みの道しか通ってないからね。ここをやつらに奪われてなくてよかったよ」
たしかにここを邪神のダンジョンの連中に奪われて根城にされてたら面倒だったかもしれない。
照明魔法を使いながら奥に進んで一際大きな部屋に出ると、ミーアがこちらを振り向く。
「小生の研究によればなにかの儀式を行った部屋だ。ここがコア中継器を設置するにはいいんじゃないかな?」
「儀式ね」
部屋の中央に台座のように石が組まれている。おっさんのイメージだと生け贄を捧げてそうでちょっと嫌なんだが、たしかに大きさはピッタリかもしれない。
台座の強度を確認し、仕方ないかと小さくため息をついてアイテムボックスからコア中継器を取り出す。
「設置を開始する。全員、周囲を警戒してくれ」
コア中継器はダンジョンコアと同じくらいの大きさだが球形ではなく立方体だ。それを台座の上に載せて起動させる。
ガラスのように無色で透き通っていたキューブを起動させると光を放った後、鮮やかな赤へと変わった。おっさんのダンジョンコアと同じ色である。うちのダンジョンの力を中継しているということなのだろう。
「ダンジョンの力を感じる」
「うん。起動に成功したようだ。これよりダンジョン化するから警戒を続けてくれ」
この高価なコア中継器を破壊されるのは困る。眷属たちの返事を聞きながら作業を続ける。
まずは城の地下、そして城全体のダンジョン領域化だ。当初の予想より大きかったために予定よりもDPを使ってしまったが先ほど瘴気を吸収しDP化できたので問題はない。
続いて、激痛の盲腸入り口まで一直線に領域化していく。
「今のところ、ダンジョン領域化したエリアに異常はありませんです。邪神のダンジョン入り口との連結によりDPも上昇中です」
椅子モードに変形したパートナーゴーレムに腰掛けて監視ウィンドウをチェック中のリアン7が報告する。
うむ。DPが増えてきたので、ドリームランドの街も領域化を拡大していく。それによって彼女の報告も増えていく。
「睡眠中のエサソンを発見したです」
「ゴーレムを向かわせる。ゴータローに位置情報を送ってくれ」
「了解しましたです。あ、木の上で寝ているケットシーも発見したです」
篭の中で寝ているブラウニーや、箒にもたれるようにして寝ているシルキー等、報告が相次いだ。
忙しそうだな、もう一人か二人ムリアンをつれてくるべきだったか。
「激痛の盲腸の動きは?」
「まだないでアリます」
「そうか。それなら妖精たちを完全に保護した後、こちらから出向くことにする!」
DPはオイシイけど安全のためだ。
第1層ぐらいは制圧してうちの領域に書き換えたいけどできるだろうかね。




