146話 苦手かも
ブックマーク登録、評価、レビュー、感想、ありがとうございます
幻夢共和国で保護した妖精と捕獲したモンスターを〈転移〉でわがダンジョンへと運ぶ。
もちろん別々の場所だ。
妖精の中にもモンスターが紛れ込んでいるかもしれないから村のある階層でもない。第1層である。
松トレントたちが見張っているのでなにか不審な動きをしてもすぐにわかるだろう。
起きたらニャンシーのところで入国審査だ。
別に常世の国の住人になってくれなくても構わない。いる間は瘴気を吸収させてもらってDPを稼ぐけどさ。
モンスターの方は取りあえず牢のような部屋を創って押し込んだ。マブの夢の女王の子守歌は奥義というだけあって強力なようでまだ目覚めないから、ゴーレムたちもあまり苦労しないで運べている。
「む、そのゴブリンはメスだな。別の部屋に入れよう」
まさか最近未熟者のダンジョンでは全く見かけなくなってしまったメスゴブリンが出てくるとは。
DPはかかるが間違って殺すことのないよう、分けて捕獲しておくべきだろう。
「ドリドリドリ」
「ん? まだ他にもいるのか」
「ドリ」
むこうに置いてきたゴータローのかわりにレッドがゴーレムたちを指揮している。こいつもあの歌で寝るのかね?
レッドの指摘によってメスゴブリンが他にも数匹いることがわかってしまった。新設した部屋が役に立つのはいいが……。
むう、これは非常にまずい事態かもしれない。
未熟者のダンジョン以外のダンジョンでもメスゴブリンの出現率が低下しているという。ゴブリナ、そしてゴブリニャ出現でメスゴブリンの需要が高まっているというのに、である。
掲示板では邪神のダンジョン側で調整しているんじゃないかという意見すらある。今いるメスゴブリンはその調整前に出現していたやつだけで、新たに出現するメスゴブリンはいないんじゃないかと。
このメスゴブリン、オークションに出せばかなり高値で売れたりするのではないだろうか?
だが、それもまずい。
おっさんが未熟者のダンジョンを周回していたのはヨウセイの穴の連中を中心に多少のダンジョンマスターに知られているから、メスゴブリンが出ないのはおっさんがガッチリ確保しているからなんて誤解されるかもしれない。
そしてそれも嫌だが、このメスゴブリンの産地がバレてしまうのはもっとまずい。
メスゴブリンを求める他のダンジョンマスターたちが大挙してやってくるかもしれないからだ。
大げさな話ではなく、未熟者のダンジョンは現在、そんなダンマスたちによって混雑しているのである。
労せずして近所の危険なダンジョンがなくなるのはいいかもしれないが、この妖精島にはあまり他のダンジョンマスターたちにはきてほしくはない。
ドリームランドも荒らされるだろう。
なにより、レヴィアがまだ本調子ではないのだ。リヴァイアサンを眷属にほしがるダンマスがこの島にくる可能性は少しでも減らさなければならない。
「あっちのダンジョンは早めに攻略する必要がありそうだな」
「ふむ。婿殿がそんなやる気を見せるとは珍しいのう」
「そう? ディアナがくる前はよくこんな顔してたけど……フーマ、けっこうヤバいの?」
コルノが心配そうな顔で覗きこんでいる。
ゴーレムたちの動きが活発になって気になって起きてきたか。
他の眷属も集まってきたな。
「ヤバいと言えばヤバいな。あのダンジョンが、ではなくて間接的な理由で」
そもそもドリームランドにあるダンジョン自体、まだ見てない。
大型の――妖精たちにとってはで、普通サイズな――モンスターも出てきているのだからこの島の住人たちにはかなりの驚異であるのは確かだろうけどさ。
「やっと戦いか。腕がなるのう」
「戦えるのか? それができないから常若の国を封印したんだろう?」
ディアナたちはティル・ナ・ノーグに出現したダンジョンをなんとかするために自ら要石になってまで封印したはずだ。
戦って勝てるのであれば、そんなことをする必要はなかっただろう。
「あの時はあれが最善の方法だった。ダンジョンの出現場所が悪すぎたのでのう。それにダンジョンから強き気配も感じておった。たぶんアスカとフっつんじゃろ。二柱そろってとの戦いになったら、勝ち目はないわい」
「おかげさまで苦労した。元上司は他の出口作るのが面倒だと、封印をこじ開けることに固執していたから余計にな」
大きなため息をつくアスカ。フっつ……フツヌシも当時闇堕ちしてたせいで力も落ちていたのか、封印を斬ることができなかったようだ。
「今はその強敵が仲間じゃ。他にも強き仲間が多い。婿殿もおるしの。慢心は禁物じゃが負ける気はせん」
両手で弓を構えるポーズを見せるディアナ。元狩猟神だけあって血の気は多いか。死亡フラグ、というか、かませ犬フラグっぽい台詞はちょっと気になるけど。
「むこうのダンジョン次第だけど、眷属のレベル上げにはいいんじゃないかな?」
「逃げてきたとはいえ、故郷です。取り戻せるならがんばります!」
眷属のフェアリーたちもやる気を見せている。うちのフェアリー女子は戦闘よりも救助活動の方を好んでいるみたいなんだけど、彼女たちも戦うつもりのようだ。
「それと、眠っている妖精たちの救助にはあたしたちも連れてって。フェアリーたちが少ない。たぶん飛びながら寝ちゃっているからゴーレムたちだと運べないんだと思う」
「スケさんも必要。エサソンは透明なので寝てしまっては発見しにくい」
フェアリー女子の進言にオカッパのリアンエイトが続いた。
ふむ。確かにゴーレムだけでは救助ができない場合がありそうだな。エサソンのこともすっかり忘れていた。それに他にもまだ会ったことのない妖精もドリームランドにはいそうだ。そいつらだってとんでもないところで寝ているかもしれない。
「わかった。リニアがマブの奥義を止めることができていたら連れていく」
「大丈夫だ。マブはリニアを可愛がっておったでの」
意味ありげにニヤニヤするディアナ。その片手はリアンイレブンの尻をなでているのでただのスケベオヤジにも見えてしまうが。
眷属チャットで連絡を取ったところ、マブの説得に成功したというので眷属フェアリーとスケさんを連れてドリームランドへ〈転移〉する。
◇
「フーマ、この方がマブだよ。ママ、この人がフーマ。あたしのマスター」
「ママ!?」
「ご主人様!?」
リニアの紹介におっさんだけでなく、マブも変な声を上げていた。
マブは蝶のような大きな綺麗な翅を持つ妖精でもちろん美女。なのはいいのだが、その美女妖精がリニアの背後に浮かびながら彼女の頭に抱きついていた。
「あ、ああ。マブには小さい頃から面倒見て貰っているもう一人のあたしのお母さんなんだよ」
「そ、そうか」
ディアナの恋人だから、ってことなのだろうか?
でもディーナシーの中にもリニアがそう呼ぶ妖精はいなかったよな。実の母親であるカリストを除いて。
「リニアに眷属になってもらったダンジョンマスターのフーマだ。リニアには世話になっている」
「そう。私はマブ。ドリームランドの妖精大統領。妖精たちの保護が本当なら感謝させてもらうわ」
まあ、すぐに信じろってのも無理があるからこの態度は当然かな。
握手のために手を出したところでアンコの追加説明、というか追い打ちのような発言があった。
「司令殿はリニア殿の愛人でもあるのでアリますよ!」
「あ、い、じ、ん?」
うわ、リニアの頭を放して、マブがすすっとそのまま浮いた状態でおっさんの前に移動、目が据わった顔でじっと睨んできた。
「私の可愛い可愛いリニアちゃんを愛人? 本当なの、リニアちゃん?」
「……うん」
耳まで真っ赤になったリニアが小さな声で返事をして肯く。
可愛い。今度はおっさんが抱きしめたい。
なのに、いつの間にかまたマブがリニアの頭に抱きついていた。まさか〈転移〉持ち!?
「やぁん、リニアちゃんかーわいいー」
「ま、ママ!」
「うむ。たしかに可愛い」
「フーマまで!」
マブのせいでよく見えないが、リニアはさらに赤くなってしまった。
リニアのパワーなら簡単にマブを振りほどけそうな気もするけど、そうならないのはマブも強いってことかもしれない。
真っ赤な頭を抱いたままマブの視線がおっさんを射貫く。
「そこはわかっているのね? でも、リニアちゃんを愛人なんて許せないわ!」
「だよな。リニア、やっぱり考え直してくれないか?」
「あ、あたしは愛人でいいんだって!」
駄目か。
今回のマブ説得はかなりのお手柄だと思うんだけどなあ。
うちのダンジョンの四天王みたいな役職でも与えないとその気になってはくれないのだろうか。
「そーじゃないでしょ! リニアちゃん、本当にこんな男がいいの?」
「お言葉ですがママ殿、司令殿はスゴイのでアリますよ! 多くの妖精たちに妖精神として崇められているのでアリます!」
だからなんでアンコが割り込んできた上にドヤ顔するかな。
もし四天王決めても、アンコは据え置きにしておこう。
「わ、ホントに妖精神……様?」
おっさんを〈鑑定〉したのだろうか、マブが浮くのを止めて着地してリニアから離れた。
こころなしか翅が下がっているようにも見える。もしかしてちょっとビビってる?
だいじょうぶ、おっさん怖くないよ。
「モルガン様も認めているんだ」
「モルガンちゃんまで!? じゃあ本物なのね。さすがリニアちゃん、神様まで魅了したのね!」
うん、やりにくいこの妖精。
どこまでもマイペースっぽい。苦手なタイプだ。
……誰かに似ているような。
「リニアちゃん、愛人なんて言わずにお嫁さんになるべきよ!」
前言撤回。いい妖精だ。
ここは味方にするべきだろう。
「そうだよリニア。コルノだって、レヴィアだって嫌がっていない。むしろ喜んでいるんだからさ」
「あ、コルノ殿とレヴィア殿は司令殿の奥方なのでアリます」
なんで今回アンコが解説ポジションなんだろう。眠りに落ちた時に頭でも打ったか?
「奥さんがいるから優しいリニアちゃんは身を引いているのね。わかったわ、ママに任せなさい。別れるように説得してあげるから!」
「やめて! あの二人にそんなことしないで!」
「だいじょーぶ、いざとなったらママがね」
やっぱりマブは危険かも。
釘をさしておくか。
「一応言っておくが、おっさんは絶対に別れるつもりはないぞ。あと、レヴィアはリヴァイアサンだ」
「リヴァイアサン!?」
「マジでアリます。コルノ殿も強いのでアリますよ」
あ、泣きそう。
というか泣き出してしまった。しかも大声で。
大粒の涙を落としながら泣きじゃくるマブに困ってしまう。
やっぱ苦手だ。




