143話 リニア出発(コルノ視点)
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今回はコルノ視点です
「騎士リニア、これよりアンコとともに幻夢共和国偵察の任務につきます!」
騎士妖精形式だという敬礼をビシッと決めるリニアちゃん。
出立直前ということで既に馬上であり、新調された兜もつけたまま。ベルセルクでもあるリニアちゃんはクマフードの方が本来の力を発揮できるんだけど、今回は常世の国の騎士としての出陣なので兜なんだって。
鎧もいつもの黒いのじゃなくて白銀に輝くディーナシーの鎧だよ。
「うむうむ。ディーナシーでこそなくなったが、こうして見るとやはりリニアも騎士だの」
「リニアちゃん立派になって。あの日のことを思い出しちゃいますぅ」
腕組みしながら何度も頷き自分のことのように誇らしげなディアナに、ぐすんと鼻を鳴らすカリスト。
彼女は娘の晴れ姿だけではなく、リニアちゃんのはじめてのおつかいのことを思い浮かべたって後で聞いたよ。
リニアちゃんははじめての単独任務で妖精教国と幻夢共和国に伝言を届けに行った。
内容は常若の国にダンジョンが発生したという急報だったんだけど、これはまだ若いリニアちゃんをダンジョン封印の儀式から遠ざけるためのものだったんだ。
リニアちゃんが出発したティル・ナ・ノーグでは、ディアナとディーナシーたちが要石となって邪神のダンジョンを封印して……。
「安心せい。今回はあの時とは違う。婿殿もおるしの」
そう言いながらフーマのおしりをなでているディアナ。
あれ、いつの間にそこに移動したの?
動きが見えなかったのはさすがアルテミスだね。ボクもあのおしりタッチは回避できないもん。ボクもあの動きをマスターしてみんなのおっぱいチェックしたいなあ。
ディアナはボクの知ってるアルテミスとはちょっと違うけど、今はボクと同じフーマの眷属なんだよ。
家族と言ってもいいよね。世界は違うけど一応イトコでもあるんだし。
リニアちゃんが戻ってきてお嫁さんになったら、この前みたいに「お母さん」って呼んじゃおうかな?
「うむ。この尻なら皆を護れるだろうて」
「なにその評価? 尻でそんなことがわかるのか?」
フーマもついツッコミ入れちゃったけど、これは緊張しているリニアちゃんを和ませようという親心なんだろう。
たぶん。
「このダンジョンへの敵の侵入も減っている。心配はいらないわ」
レヴィアちゃんの言うように移民候補の避難民に紛れていたインプやボギーは最近はほとんどこないよ。避難民自体も減っているし。
だからこそドリームランドを偵察したいんだよね、たぶんそっちに邪神のダンジョンが発生したっぽいから。
「あまり無理をするなよ。安全第一、命を大事に、だ」
「任せるでアリます司令。リニア殿はこのアンコが命に替えても必ず無事に連れて帰るでアリますよ」
いつもの迷彩メイド服にベレー帽のままのアンコちゃん。ハルコちゃんも頼まれて軍服を用意したんだけど、偵察任務だからということで却下された。「仕方アリません。今回はリニア殿が主役でアリますからな」とすぐに従ってくれたけど、顔はすっごく残念そうだったなあ。
「馬鹿者、アンコも命を懸けるなっての。二人とも死ぬな。これが一番優先される命令だから!」
「そういうことだ。婿殿はダンジョンマスターとしては甘いと言わざるをえんが、今回の任務はそこまでの重要度ではあるまい」
「なにかあったらすぐに眷属チャットで連絡するのにゃ。偵察なのにゃ、戦う必要はないのにゃ」
ニャンシーがそう言うのは、自分も偵察に出されそうになっていたんだけど連絡要員がいないと困るとダンジョンに残ることになったことへの引け目からかも。
フーマは他にも眷属を何人か出そうとしたんだけど二人が断ったんだ。
あまり人数が多いとリニアちゃんの功績がかすむってのもあるからしょーがないよね。
リニアちゃん、フーマのプロポーズを「自分は愛人でいいから」って断っちゃったんだって。
ボクは愛人よりも奥さんの方がいいけどなあ。もったいないよね。
お母さんはお父さんの愛人だったから、お堅いアテナが余計に怒ったのかもしれないんだよね。
サカった場所も悪かったんだけど、お父さんじゃなくてお母さんだけに呪いをかけたのは奥さんじゃなかったからだと思う。ポセイドンの妻だったらそんなことしなかったんじゃないかな?
まったくもう、自分がフーマに釣り合わないなんて、考えすぎだよね。リニアちゃんがそんなだと他にもお嫁さん増やす時に困るってば。
あ、他にもお嫁さんがもっといればそんなことを考えないですむかな? ええと、ハードルが下がるってやつ?
ボク、家族はたくさんほしいんだ。むこうじゃ姉妹がたくさんいたからね。
今回はリニアちゃんに功績を与えるための任務なんだよね。これが成功したらお手柄ってことでご褒美にお嫁さんになってもらうんだ。
妻妾同衾よりもそっちがいいよね。
◇ ◇
「やっぱり、おっさんも一緒に行くべきだった」
「それだとリニアちゃんの功績にならないからって、自分で言ってたよねフーマ」
フーマは不安そうな顔で落ち着きがない。
リニアちゃんたちが旅立ってから今日はずっとこんな感じ。
「そんなこと言ったけどさ、心配なんだ。先に派遣したディーナシーたちだってまだ連絡が取れないんだ」
「だからリニアちゃんたちが行くってことになったんでしょ。だいじょーぶだよ、リニアちゃん強いし。ボクの妖精馬ゴーレムだってついているんだから!」
フーマがフォーチュンブラックを〈ガラテア〉した時の余剰の力でできたゴーレムコア、ゴーレムハートと名付けたあれは使ってないから心はないけど、リニアちゃんの義手義足だった子たちを使っているから、彼女の身体の一部のような感じで動きがいいんだよ。
リニアちゃんといっしょに幻夢共和国へむかったアンコちゃんのアントゴーレムはリアンたちのよりも大型で見た目は【メディアレギオンアント】とほぼ同じ。
大きな顎で完全に戦闘特化な分、リアンたちのゴーレムみたいに椅子に変形したりはしないんだ。
「リニアは無事に戻ってくるから安心なさい。それほど危険な気配は感じないもの」
「本当に? アシュタロトの時みたいなことはない?」
レヴィアちゃんの励ましにもまだ納得しないフーマ。
アスカの時は本当に大変だったけど、そのアスカが出てきたのと同じような邪神のダンジョンが幻夢共和国にあるんだもんねえ。
ボクだって心配になってくるよ。リニアちゃん、早く戻ってきてボクたちのお嫁さんになってほしい。
「アシュタロトクラスの者が出てくるなら、それこそ水精たちが騒ぐわ」
「ああ、レヴィアはあっちの精霊の話も聞いているんだっけ」
「あれ? それじゃレヴィアちゃんはむこうでなにが起きているか、わかっているんじゃ?」
リヴァイアサンは水の管理者。水妖、水精たちからの情報も集まっているはず。
あ、でも今はレヴィアちゃんは生まれ変わったばかりで小さくなってるから、それを隠すためにあまりその子たちとはあっていないのかな?
「憶測だけなら、ね。あの地の子たちで知能の高い者ほど連絡ができなくなっているわ。気配は感じられるのに」
「え?」
「それって捕まっているってこと? それともディアナみたいに石化しちゃった?」
「知能の高い上位の精霊たちを石化させるのは難しいから違うでしょうね」
上位の精霊とまで連絡がつかないってどうなっているんだろう。
……この島にもそんな精霊がいたんだね。ニンフみたいなのかな?
「それじゃいったい?」
「ディアナもモルガンも予想していたことよ。リニアもよくわかっているはず」
ディアナだけじゃなくてモルガンもなんだ。
地元の妖精にはなにが起こっているかわかるんだね。
「手柄のためを抜いても、リニアが適任なのよ。ゴーレムを従えて、その状況を作り出した者とも顔見知り」
「ゴーレムが必要なの?」
「ええ。コルノのゴーレムならきっと役に立ってくれるはず。ことによったらもっと多くのゴーレムを送り出すことになるかもしれないわね」
ゴーレムがたくさんいるってどんな状況なんだろ?
戦闘になるんだったら市街戦仕様のゴーレムを用意したいな。
相手はどんなやつかな。
「リニアの知り合いって邪神のダンジョンのやつじゃないよな。そうなると妖精か」
「ええ。妖精大統領のマブよ。会ったことはないけれどモルガンから話をよく聞かされているわ」
マブ。ディアナとモルガンと並ぶ妖精島のトップだったよね。ドリームランドで一番偉い妖精なんだっけ。
大統領ってことは選挙とかするのかな?
「マブはエサソンの女王だったり、妖精の女王だったりするってミコちゃんも言ってたな。クィーン・マブだとかなんだとか」
「ふーん。女王だけあって強いんだ? マブがなにかしてドリームランドのみんなと連絡が取れなくなっちゃっているんだね?」
ディアナが女の子とお尻大好きで、モルガンがレヴィアちゃん大好き。
マブっていったいどんな妖精なんだろう。
女王様ってことは、ドSのフーマと張り合うのかも!
「マブもリニアを可愛がっていたそうだから悪いようにはしないでしょう。さあフーマ、いつまでもそんな顔してないでちゃんと私たちの相手をなさい!」
「いやいや、いくらリニアがいないからってさすがにまだ今のレヴィアとはできないから!」
そうだよねえ。いくらなんでも今のレヴィアちゃんとしちゃうのはちょっとマズイよねえ。
やれやれ、今夜はボクががんばるしかないか。
嫌いじゃないんだけど、フーマの相手は一人だと大変なんだ。GRってあっちも強くてね……。
リニアちゃん、早く帰ってきてお嫁さんになってよ!




